歓迎会 出迎え
水平線の向こう側から現れたコンラートの船は、トラブルに見舞われることなく無事に港町にまでたどり着いた。桟橋の横につけ錨を下ろし、待っていた商会の従業員がタラップを立て掛けた。
「やあやあ、久し振り!元気だった?」
「実際に会うのは確かに久し振りか。そっちは儲かっているようだな、コンラート。セバスチャンも元気そうで何よりだ」
真っ先に降りてきたのは、セバスチャンを伴ったコンラートだった。明らかにテンションが高くなっているのは、きっと歓迎会が楽しみだからだろう。彼は歓迎会のために色々と準備しており、設営に関しても迎えに行く直前までこだわっていたと聞く。商売だけでなく、お祭り騒ぎも大好きなのだ。
背後にいるセバスチャンは無言で一礼するだけだった。主人とその友人のやり取りに使用人が口を挟むような差し出がましい真似はしないらしい。リアルでも使用人だと聞くし、あれが彼にとっての当たり前なんだろうなぁ。
「おぉ~!見たことない人が沢山いる!こうしちゃいられない!とぉう!」
そんなことを言いながら甲板から飛び降りたのは、『ザ☆動物王国』のタマだった。相変わらず落ち着きがないらしく、タラップを降りる手間すら惜しんでいる。そして着地するやいなや、疵人の一人に顔を思い切り寄せていた。
本人は忘れているようだが、タマの種族は窮奇……翼の生えた大型の虎である。そんな魔物に迫られて恐怖するなという方が難しい。疵人は恐怖に顔をひきつらせていた。
ただ、彼にとって幸いだったのはタマが好奇心の塊であることだった。他にも彼の好奇心を擽る四脚人に闇森人、鉱人という見たことのない種族がいる。彼はそちらにも顔を近付けていた。
そんなタマを無言で睨んでいる者がいる。それは私の背後で丸くなっているカルだった。同じ群れの一員である住民に何かしようものなら、以前のように躊躇なく襲い掛かることだろう。
そのことに慌てたのは『ザ☆動物王国』の仲間たちである。彼らは即座にタマを取り押さえ、謝罪して回っていた。彼らも大変だなぁと思いつつ、私もカルの鼻先を撫でて彼を宥めておいた。
「ウフフフフ。これからお世話になりますよ、イザーム」
「ああ。ただ、理由もなく住民と他のプレイヤーを襲うなよ?」
「もちろん、こちらでは自粛しますよ。こちらでは、ね」
いつの間にか私の隣にいたのは、『仮面戦団』のウスバだった。彼らはここを初めて訪れる訳ではないので、タマ達よりも反応が薄いのも当然と言える。
一応、ここでのPK行為は禁止だと言ってあるし、本人達もそれを了承していた。流石に受け入れた我々を不意討ちするような外道過ぎる行為は自粛してくれるようだ。
ただし、それはこの大陸に限っての話だ。『蒼鱗海賊団』と共に商船を襲うことはあるだろうし、コンラートの商船で密かに他の大陸へ渡ってPK行為に及ぶこともあるだろう。そこで戦うのは私の責任の外である。好きにやってくれ。
「呆れた。本当に港町があるなんてね」
「うわぁ…あれって闘技大会の?本物じゃん」
「早まったんじゃない?今更言っても意味ないんだけど…」
そして最後に降りてきた集団が、アマハも属しているクランの『Amazonas』だろう。クランの名前の由来となったのが女性だけの部族であるアマゾネスであるように、このクランの加入条件は心が女性であることらしい。それ故に声が女性の男性アバターもちらほらと存在していた。
官軍に参加していたことからもわかるように、実力は折り紙つきである。闘技大会などでは上位に食い込んでいないものの、それは早い段階で入賞者と当たってしまったのが原因だとウスバから聞いていた。
「あんた達、今更何を言ってるの!ビビってないでシャンと背筋伸ばして歩きなさい!」
「「「は、はい!ママ!」」」
「………あの人が?」
「そう!彼女が『Amazonas』のクランマスター、アルテミス。通称ママだよ!」
港町をキョロキョロと少し怯えたように見回していた『Amazonas』のメンバーを叱咤したのは、とても野太い声だった。声の主は女性用の、ビキニアーマーと呼ばれる水着のようなそれを装備している…スキンヘッドで筋骨隆々な大男だったのである。
そう。『Amazonas』のリーダーは、いわゆるニューハーフだったのである!心が女性なのだから、女性だけのクランを率いていてもおかしくない。ただ…心は女性なのにアバターの性別を男性のままにしているというパターンが珍しいのは間違いないだろう。
「それで、あなたがイザームちゃんかしら?コンラートちゃんとウスバちゃん、それにアマハから話を聞いているわ。とっても面白い子なんですってね?」
「どんな話か気になるが…よろしく頼む、アルテミス」
「あら、ダメよ。名前で呼んで良いのは恋人だ・け。ママって呼んでちょうだい?」
「わ、わかった。ママ」
アルテミスことママはウインクをしながら私に注意する。ある意味で凄まじいまでの破壊力を誇るウインクに、私は屈することしか出来なかった。
ママに焚き付けられたからか、『Amazonas』のメンバーは次々と降りてくる。人数は全員で二十名ほどだろうか。その最後尾にいたのはアマハと彼女が駆る龍だった。
「クオオオン!」
「キュオオン!」
「グルルルル…」
アマハの相棒が姿を表したと同時に、リンは飛翔した。そしてアマハの相棒もまた翼を広げて飛翔すると、二頭は空中で楽しそうにじゃれあっていた。久々に触れ合う友人と旧交を温めているようだ。
その一方で、カルの反応は薄かった。今のところ、アマハの相棒が敵ではないことは理解している。それ故に間に割って入ることはしない。しかしながら、まだ守るべき群れの一員だとは見なしてもいなかった。
それがこの塩対応に繋がっているのだろう。今、この場で最も年長かつ最も強い龍は、私の後ろで大欠伸をするばかりである。私は苦笑しつつ、再びその鼻先を撫でてやった。
「あの時も思ったけど、そっちの子は何なのかしら?」
「色々あったとしか言えんよ、アマハ」
カルを撫でていると、ママの隣に来たアマハがそんなことを聞いてくる。カルは以前に女神様からイベントのボスとしてプレイヤーに立ちはだかった報酬で受け取った卵から孵ったのだが、真実を教えるわけにもいかない。もしかしたら彼女達の誰かが私の迷宮に飲み込まれたかも知れないのだから。
それに真実を告げたとして信じてもらえるかどうかは別である。少なくとも、私であれば疑ってしまうだろう。はぐらかしておくのが一番なのだ。
「それにしても、思ったよりも早く再会することになったものだな」
「ええ、そうね。こんなことになるなら、あの時の話に乗っておけば良かったかも」
「アマハちゃん?勝手にそんなことしてたら、流石にお仕置きしてたわよん?」
「冗談に決まってるじゃない。本気にしないでよ、ママ」
「んもう!困った子ねぇ…」
ニコリと笑みを浮かべながらズイッと顔を寄せたママに、アマハは笑いながらヒラヒラと手を振っていた。あの迫力のある顔で迫られなら、私であれば自分に非がなかったとしても平謝りすることしか出来ない気がする。
こうして顔合わせは終えた訳だが、一応聞いておきたいことがある。それは『Amazonas』が我々に抱くイメージだった。
彼女達は官軍に加わって『仮面戦団』も所属していた賊軍と戦い、私のせいで他プレイヤーから謂われなき疑いを掛けられたのだ。我々に対して嫌なイメージを抱いていてしかるべきなのだ。
「ママ。微妙な話かもしれないが、私やウスバに何か思うところはあるか?今回の件、ママ達は完全に被害者なのだが…」
「正直、何もないとは言えないわね。損失もバカにならなかったし」
「それについては本当に申し訳ない。補填出来ることならば補填させてもらう」
「別に良いわ。実際にウスバちゃんとは戦ってないし、勘違いされるようなことをしたこの子も迂闊だったしね」
「ちょっと、止めてよママ」
ママはそう言ってアマハの額をデコピンしている。アマハは不服そうだったが、そんなに怒っていないようで内心でホッとしていた。だが、そんな私の内心を見透かしたようにママは急に私に顔を近付けて囁いた。
「代わりに、歓迎会であたし達を楽しませてちょうだいね?」
「わ、わかった。会場はこっちだ」
これは何がなんでもママ達を楽しませなければならないだろう。ただ、幸運なことにこちらには『モノマネ一座』が…誰かを楽しませるプロフェッショナルが存在している。彼らの手腕に期待しよう。
そう言ってママ達を案内したのは、港町の広場であった。そこには幾つもの屋台が建ち並び、既に集まった者達によって盛り上がっている。それでは歓迎会を始めようか!
次回は6月12日に投稿予定です。




