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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十九章 魔王の侵攻
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翌日の戦友達

 私が宮殿から広場に出た時、広場が何やら騒がしくなっていた。だが、揉め事が起きている雰囲気ではない。むしろ楽しそうな笑い声や驚きの声、そして拍手などが繰り返されていたのである。


「ああ、『モノマネ一座』の公演だったのか」


 広場で行われていたのは、昨日の戦いで最初に様々な仕込みを行ってくれた『モノマネ一座』の者達による公演だった。彼らは実際にフォティンで戦ってはいないものの、その働きがなければもっと苦戦を強いられていたのは疑う余地すらない影の功労者である。


 ある意味、彼らこそがMVPと言っても過言ではないだろう。特に彼らが用意した仕込みのお陰で侵入することが出来たウロコスキー達『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』のメンバーは、パントマイム達に礼を言いたいようだった。


 それをパントマイム達が知っているかどうかはわからない。ただ彼らは広場において様々な芸を見せ、集まっていた街の住民を楽しませていた。それこそが彼らの本懐なのである。せっかくであるし、私も彼らの芸を見せてもらうとしよう。


「おお…思っていた以上に凄いな、これは」


 広場で披露していた『モノマネ一座』の芸は想像以上に凄いものだった。今行われているのは座長であるパントマイムによるジャグリングである。カラフルな二つの球体を上下に積み重ね、その上に立ってポンポンと投げていたのだ…彼のクランメンバーを。


 彼を含め、『モノマネ一座』は投影魔獣(ドッペルゲンガー)ばかりである。彼らは空中で様々な姿に変身しつつ、コミカルなポーズをとってみせたのだ。


 一度として同じ姿にはならず、時には動植物に、時には無機物に、そして時には見物客の姿になりながらジャグリングされている。変身する度に見物客は歓声を上げ、楽しそうに拍手をしていた。


「グオオ!グオオオン!」

「クオォ…」


 特に楽しんでいるのはカルだった。鼻息を荒くしながらパントマイム達の一挙手一投足に反応して吼えている。そんな子供のようなカルに、リンは呆れたようにため息を吐いていた。


 ただし、リンも楽しんでいるのは間違いない。進化して長くなった尻尾の先が左右に動いているからだ。何にせよ、どちらが歳上かわからなくなる光景であった。


 公演はまだ続くようなので、声を掛けるのは後にしようか。私はその足で先ずは北東の区画に足を伸ばすことにした。


「おっ!よう、イザーム!」

「お疲れ様です」

「散歩ですか?」


 北東の区画を歩いていると、一つの建物の前でマックが『不死野郎』のクランメンバー二人と共に座っていた。この建物はマック達が自分達の拠点として選んだ物件であり、彼らがここにいるのは何もおかしいことではなかった。


 しかし、中から音がするのにどうして外にいるのだろう?何か理由があるのだろうか?深刻な話でもなさそうだし、聞いてみよう。


「やあ、マック。そっちは何を?」

「模様替えだよ。サーラ達が自分達好みにするってんで、邪魔な野郎共は外で待ってろとさ」


 ははぁ、なるほど?『不死野郎』の女性陣に内装や家具の配置についての決定権を握られ、それを決めるまでは入ってくるなと言われたのか。マック達は内装に関してこだわりがないようだし、こだわりがある彼女達のやりたいようにさせて問題はないのだろう。


「どこに何を置くか決めたら、次は労働力として働かされそうだな」

「だろうなぁ…でも、断れねぇんだよなぁ…」

「相変わらず尻に敷かれてんな!」

「付き合わされる俺達の気持ちにもなれ~」

「うるせぇ!ならお前らが反論しやがれ!」

「「いや、それは無理」」


 三人のコントに苦笑していると、建物の中から呼ぶ声が聞こえてきた。どうやらここからは忙しく働くことになるのだろう。そして私は知っている。きっと家具を設置した後、『やっぱりこっち』とか『やっぱりあっち』とか言って微調整がしばらく続くのだ。


 これからマック達が体験するのは、賽の河原の積み石がごとき苦行である。心の中で頑張れと応援した後、私は彼らと別れて再び街を歩き始めた。


 プラプラとゆっくり歩き、今度は街の北西区画にたどり着く。すると、ある建物の前に複数の戦術殻が集まっているではないか。あそこは確か…


「これはこれは、イザームの旦那。見回りでござんすか?」


 その建物は『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』が選んだ物件だったのだ。どうやら彼らは鉱人(メタリカ)に依頼して、建物を大きく改造するつもりらしい。現に今、戦術殻によって両開きの大きな扉が外されつつあった。


 代わりに運ばれているのは『メペの街』でも見た移動用の金属の管であった。太さは三種類ほどあって、最も太い管ならウロコスキーでも入ることが可能だろう。この中を通って建物の内部を移動するようにリフォームするようだ。


「ウロコスキーか。早速リフォームしているんだな」

「ええ。昨日ログアウトする前、鉱人(メタリカ)の兄さんとちょいと話す機会がござんしてね。大枚叩いてリフォームをお願いしたんでござんすよ。お陰で略奪した金が吹っ飛んで素寒貧でござんす」


 こう言うとき、貨幣を導入しておいて良かったと思う。物々交換で工事を依頼するとなれば、やり取りが非常に面倒臭いことになっていただろう。コンラートの財力のお陰と言える。


 ああ、そうだ!今こそウロコスキー達にパントマイムのことを教えておこう。公演はまだ続いているだろうし、終わってから話し掛けるようにすれば良い。


「懐事情は察するが、その前に教えておきたいことがある」

「何でござんすか?」

「今、パントマイム達が…『モノマネ一座』が広場で公演を行っている。礼を言いたいのなら、後で向かうと良い」

「おお!そいつぁ良い話でござんすね!後で鉱人(メタリカ)の方々も連れて行かせてもらうでござんすよ」

「そうすると良い。ではな」


 伝えるべきことを伝えた私は、再び街歩きを再開する。こうなったらこの街に来た最後の住人であるチンピラ達の様子も見に行くことにするか。そのために私は街の南西を目指して歩き始めた。


 我々と共に街へとやって来た三つのクランだが、それぞれ異なる場所に拠点を構えることにした。それは彼らの間に隔意があるとか、実は不仲であるとか、そんな不穏な理由からではない。単に初日に仲良くなった住民から、近くに来たら良いと誘われたからである。


 マック達と仲良くなったのは北東区画の者が多く、ウロコスキー達は北西区画の者達と仲良くなった。そしてチンピラ達は南西区画の者達と意気投合したのである。


「いいじゃねぇか!」

「似合ってるぜぇ!」


 私が南西区画に足を踏み入れると、チンピラ達が選んだ物件の前に人集りが出来ていた。またこのパターンかと思いつつ近付いてみると…何故かチンピラが住民の髪型を整えていたのである。


 チンピラは巧みなハサミ使いで髪や鬣を切り、きれいに整えていく。ただ、一部の者達の髪型はかなり攻めたものになっている。片側だけに剃り込み入れていたり、ドレッドヘアーになっていたり、中にはモヒカンになっている者までいた。


「あっ!イザームのオジキ!お疲れ様っす!」

「「「「お疲れ様っす!」」」」


 整髪が一段落したところで私の存在に気付いたのか、五人揃って頭を下げてくる。ジゴロウの舎弟を自負しているのはとっくに理解しているのだが…未だにオジキと呼ばれるのには慣れなかった。


「あ、ああ。お疲れ様。随分と器用だな。能力(スキル)ではなさそうだが…」

「ええ。俺、実はリアルで床屋の倅なんすよ。だから散髪は得意なんす!」

「俺達の髪型もバッチリ決めてくれてるんですぜ」

「まだ店に出る資格は持ってないみたいですがね」

「趣味と実益と練習を兼ねてるんでさぁ」

「俺は何にもしてもらってねぇですけど」

「そりゃテメェがツルッパゲだからだろ!」

「「「「「ウヒャヒャヒャヒャ!」」」」」


 彼らの髪型は全てチンピラが一人で整えていたようだ。ただ、最初から髪の毛がないアバターだった者はどうしようもなかったらしい。どれだけ散髪の技術が優れていたとしても、ない毛を生やすことはできないのである。


 その技術を遺憾なく発揮して、住民の髪の毛も切っていたようだ。しかし、床屋というよりは美容院のような風情である。私が何を考えているのか察したのか、チンピラは笑いながら続けた。


「実家は繁盛してるし、親父のことは尊敬してるんすよ。継ぐ気も満々なんですが…」

「だが?」

「俺好みの派手な髪型ってのは、やっぱ実家でやるのは難しくって。ならゲームの中くらい趣味に全振りしてもいいだろ、って感じっす」


 チンピラよ、お前…メチャクチャ真面目な奴じゃないか!他の連中も言葉遣いこそアレだが礼儀正しいのは知っているし、きっと同じように真面目な男たちなのだろう。ジゴロウにもっと優しくしてやれとさりげなく伝えておこうかな。


 そんなことを考えながら、私は住民達の方に注意を向ける。彼らは今まで知らなかった奇抜な髪型に興味津々らしく、既に散髪し終わった者達を羨ましそうに見ていた。


「なあ!俺もこのドレッドヘアーってのにしてくれよ!」

「はいよ!お代は一律100ゼルだぜ!」

「…金を取ってるのか?」

「へい。技術を安売りは出来ねぇっすから!」


 おお、プロ意識という奴か。私の中でチンピラの株が更に上昇していく。そんな私の肩を『怒鬼ヶ夢涅夢涅(ドキがムネムネ)』の一人が叩き、こっそりと小さな声で囁いた。騙されちゃいけやせん、と。


「あいつ、アニキとかマックとかと博打してたでしょう?負けが込んで大損したんすよ」

「…何?」

「要は借金返すために必死こいてるんす。まあ、暇な時は街で床屋をやりてぇって前から言ってたんですがね?」

「今日から早速やっているのは借金返済のためだ、ということか」


 彼は黙って頷いた。うん。チンピラの株価が暴落したよね。感心していた分、その落差は激しいものになっていた。ジゴロウに稽古をつけるなら厳しめにやるように言っておこう。


 ただ、理由はどうあれどのクランも一瞬で街に馴染みつつあるようだ。そのことに内心喜びながら、私はしばらくチンピラのハサミ捌きを見物するのだった。

 次回は6月4日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒャッハーが飲む打つやるのはむしろ正しいRPなのでしょうがないね!w
[良い点] 皆上手く馴染めてる様で良かったですね。イザームも確り見回るのは流石。
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