さらなる住人の予感
新たな街の名前。普段の我々であれば即座に考えていたかもしれない。実際、街の名前を考えようと誰かが提案していた気もする。
だが、それは今日に至るまで決められてはいない。その理由はただ一つ。名前があろうとなかろうと、地上の街と言えばここくらいしかなかったからだ。
鉱人には『メペの街』があるが、あそこは地下にある。地上ならば闇森人の集落はあるものの、ここからは遠い森の中だ。その結果、自然と街と言うだけでここを示すことになっていたのである。
それでも名無しの街というのは悲しいからこそ、名前を考えようという提案が出たのだ。それはとても理解出来るのだが…この街を掌握した後、大陸では怒濤のごとく様々な事件が起きた。特に建設ラッシュ中はそれ以外に何も考えられないほどに忙しかったのである。
「…おい、どうした?」
「すまん。本当に名前を付けていないんだ」
「えぇ?マジかよ。お前らのことだから、そう言うのって真っ先に決めてると思ったのに」
「はいはーい!なら、今からみんなで決めれば良いと思いまーす!」
「思いまーす!」
少し呆れているマックを尻目にそんな提案をしたのは、彼の妹であるサーラだった。彼女が抱えている四脚人の少女は何の話をしていたのかわかっていないようだが、手を上げながら真似をしている。微笑ましい光景であった。
だが、言っていることは実にごもっともな内容だった。単純な話で、今名前がないのならばこれから名前を考えれば良いのである。ちょうどここにはたくさんのプレイヤーがいるのだ。素晴らしい名前を思い付く者もいることだろう。
そんなことを考えている間に、我々は三つの区画を見終わって再び広場へと戻ってきた。すると、広場には各種族の代表者達が集まっていた。
「これはこれは…いきなり沢山連れて来たんだねぇ、王様。ヒッヒッヒ!」
愉快そうに笑っているのは疵人のナデウス氏族のムーノ殿だった。本人はただの薬師だと言い張っているが、実質的な疵人のまとめ役は彼女である。だからこそここに呼ばれたのであろう。
「ほほう。また剛の者ばかりであるな、王よ」
マック達の強さを見抜き、腕を組ながら白銀の鬣をしごいているのは四脚人のまとめ役であるレグドゥス殿だ。獅子の四脚人であるレグドゥス殿は相変わらず迫力のある外見であり、マック達も気圧されているようだった。
腹の底に響くような低音の声も恐ろしげであるが、とても常識人である上に気配りも出来る礼儀正しい武人である。そんなに警戒しないでやって欲しい。
「そんなことよりも君の友人を紹介するのが先だろう、友よ」
私と肩を組ながらマック達を紹介しろと言っているのは闇森人のキリルズだ。初めて会った時から私を友と呼ぶ彼もまた、闇森人のまとめ役である。
元々いた集落の長の血縁者ということもあって、彼は上手に闇森人をまとめあげていた。長の一族に産まれるとどうやって人々をまとめれば良いのか自然と学べるのかもしれない。
何はともあれ、お互いのことが気になっているようだし、ここで交流を深めていこう。私はマック達がこれからこの街に住むようになること、そしてなるべく良くしてやって欲しいと彼らに告げた。
「王様の友人なら無碍には出来ないさね。それに子供達が懐いているし、悪い奴等じゃあないんだろう」
「うむ。ムーノ殿に同意するのである。王の友ならば安心出来るだろう。これからは新たな隣人としてよろしく頼む」
ムーノ殿とレグドゥス殿は彼らを受け入れてくれるようだ。あっさりと受け入れたのは、我々の友人という点が大きいらしい。これまで彼らとの友好関係を大切にしてきた甲斐があったようだ。
ただ、キリルズだけは顎に手を当てて何か考えているようだった。何か問題があるのだろうか?
「新しい住人、歓迎すべきことだけど…うーむ」
「どうした?」
「歓迎会は何時開くべきかな?今すぐというのは難しいぞ、友よ」
キリルズが悩んでいる内容を聞いて、私は思わずガクッとなってしまった。悩む場所はそこかい!受け入れる気なのは嬉しいが、説得しなければならないと思っていたんだぞ!力が抜けてしまうではないか!
ただ、彼の言うように歓迎会をするのも悪くはない。新たな住人となる戦友達が、この街に馴染むのも早くなることだろう。
しかしながら、それを行うのは今日ではない。それはキリルズが言うように準備しなければならないというのも理由の一つである。まだタマ達も合流する予定なので、彼らが来た後にやるべきという事情もある。だが、最大の理由は…もうログアウトしたい時間であるからだ。
「気持ちは嬉しいが、後に来る者達もいるんだ。歓迎会をするのなら、彼らも含めてやらなければ」
「おお、そうだったのか!なら、何時でも宴を開けるように準備しておこう!」
そう言ってキリルズは機嫌良さそうに笑っていた。楽しそうで何よりであるが、一体どれだけ準備に力を入れるつもりなのか。楽しみであると同時に何故か不安になってしまった。
歓迎会を開くのなら、コンラートにも連絡して彼の『コントラ商会』の力を借りるべきだろう。『蒼鱗海賊団』や『仮面戦団』も呼んで盛大に行うのも一興だ。私は三人にメッセージを送ってから、この場を収集してログアウトするのだった。
◆◇◆◇◆◇
ログインしました。それと同時に私の頭に通知音が鳴り響く。どうやらメッセージが来ているらしい。送り主はもちろん、ログアウトする前にメッセージを送っていた三人だった。
「ふむ、全員が参加する気満々だな」
まずコンラートであるが、彼は歓迎会を開くことに全面的に強力するらしい。それに必要なアイテムを発注するのなら見積り額の計算がしたいので、なるべく早く決めて欲しいとのこと。商売の話じゃないか!
まあ、タダほど怖いものはないという言葉もある。コンラートは友人だが、同時に油断出来ない商売人でもあるのだ。キッチリ払うべきものを払って置かなければ、恐ろしいほどの利息を要求されそうである。キリルズ達の話を聞きつつ、アイリスやしいたけ、それにトワとも相談しておこう。
次にアンも歓迎会には前向きである。むしろこの大陸の住民として、初めて自分達の後輩が生まれたことを喜んでいた。そこで今回は彼女達がホストとして歓迎する側に回りたいとのことだった。
具体的には自分達の拠点となっている回遊島海獣の殻の上へ招待したいとのこと。ただ、招待するのはプレイヤーに限るようにしたいらしい。広さ的に住民を全員乗せるスペースはないから当然か。せっかくの申し出であるし、二次会的な場所に使わせてもらうか!
最後にウスバ達だが、乗り気どころの話ではなかった。何とこれを機にこっちに移住させてもらいたいと言い出したのである。
ウスバ達は先の戦いで敗軍となった賊軍に所属していた。その時、彼らの尋常ではない戦闘力によって無数の敵を倒している。その中にはリヒテスブルク王国の要人が多数含まれていたせいで、かの国から本気で命を狙われているらしいのだ。
元々、暗殺などを請け負っていたこともあって指名手配はされていたが、今回はいささか以上にやらかしたと言う。何をしたかと言うと…一軍を率いていた将軍とその護衛を皆殺しにしたのだ。
これがただの将軍なら大問題にはならなかっただろう。だが、よりにもよってウスバ達が討った将軍はリヒテスブルク王国の王弟、すなわち現国王の弟だったのだ。
貴族を暗殺するのも犯罪だが、王弟を討ったというのは比べ物にならないほどの重犯罪だった。しかも今回は戦場で討ったので、目撃者は何人もいる。言い逃れをすることは出来なかった。
本格的に国家を敵に回したことで、常に逃げ回る必要に駆られているらしい。このままでは気ままにプレイヤーを襲うのも難しいので、避難する場所が欲しいようだ。
土地がないのなら開拓する資金すら払うとメッセージに記されているので、よっぽど困っているらしい。彼らのような手練に恩を売るのは悪くないし、何よりもウスバは友人だ。喜んで迎え入れると返答しておこう。
「それにしても、プレイヤーの中でもトップクラスの武闘派が揃いつつあるな。これは娯楽という意味でも本当に…うおっ!もう返事が来たのか!」
この大陸に強者が集まりつつあることで新たな娯楽の形を考えていると、ウスバから一瞬で返事が来たではないか!この早さからして、本格的に追い詰められているのかもしれない。
急いでメッセージを開いてみれば、そこには短い感謝の言葉と早急に合流する日時を決めて欲しいとのこと。ウスバらしからぬ焦りを感じる文章が、彼の現状を物語っていた。
「日時か。タマ達を迎えに行くのと同じ日にまとめて連れ帰れば楽だろうが…タマにも現在の進捗状況を聞いてみるか」
私は次にタマへとメッセージを送る。内容は当然、何時迎えに行くべきかを尋ねるものだ。即座に返信が返ってくるとは思っていないので、とりあえず日課の水やりをしに行こう。
中庭に向かった私は、早速無限に湧く血液を賢樹へと与える。すくすくと成長して立派な樹木となった賢樹は、血を与えられて嬉しそうに枝をバサバサと揺らした。
「ふむ、少し茂って来たか?数日後には剪定するべきかもしれんな」
私が剪定について仄めかすと、賢樹は再び嬉しそうに枝を揺らす。最初こそ怖がっていたが、賢樹にとって剪定は人で言う散髪のようなものらしい。今では自分からここを切ってくれと主張するようになっていた。
まあ、まだ剪定するには早いだろう。私は賢樹に別れを告げ、宮殿の外へと出る。そのタイミングで再び頭の中で鳴り響いた通知音が、メッセージが届いたことを私に知らせた。
「タマからか。ほう、もう荷物はまとめ終わったようだが…きっとタマ自身は何もしていないんだろうなぁ」
戦闘力と追い掛けっこでは無類の強さを誇るタマだが、とてもマイペースな性格だ。拠点の片付けなどの面倒な作業は『ザ☆動物王国』の他のメンバーに任せきりな姿が目に浮かんでいた。
とりあえず、迎えに行っても良い状態にはなったらしい。日時をなるべく早く決めるようにと返答してから、私はカル達のいる広場へと向かうのだった。
次回は5月31日に投稿予定です。




