皆で街歩き
「とりあえず、候補になる場所を一通り案内しよう。見るべき場所は少ないが、その後でどこに拠点を置くのか決めて欲しい」
そう言って私は二人の住民が走っていった方へと歩き始めた。彼らに紹介しつつ、私自身も街の様子を再確認してみようと思う。
まず街の中央から少し北寄りにあるのが、我々の拠点である宮殿だ。最初に訪れた時にはボロボロで崩れかけていたが、今では完全に建て直している。アイリスが宮殿の元々の姿を取り戻すように取り計らったこともあり、壮麗な白亜の城となっていた。
普通の物語ならばイケメンの王子様やら美しいお姫様やらが住んでいそうな外見だが、残念なことに城主は黒い骨の魔王である。何も知らずに訪れた者はきっとガッカリすることだろう。
宮殿の正門から街を縦断する大通りに出ると、我々はそこを真っ直ぐに南下する。しばらく歩くと街の中心地にある広場へと出た。広場の中央には獄獣との戦いの犠牲者を弔う慰霊碑があった。
その前には常にお供え物がある。それは故人を喪った悲しみからよりも、あの戦いを乗り越えたお陰で今の平穏があるという感謝の気持ちが強いらしい。この街の住人は前向きな者が多いのだ。
その慰霊碑の付近はカルが寝床として使っている。常に厚い雲に覆われているティンブリカ大陸だが、ここは比較的日当たりが良い場所なので気に入っているのだ。広場はこの街で最も龍に遭遇する確率が高い場所と言っても良いだろう。
「グオオン」
「クオォン」
寝床に帰還したカルは早速自分の寝床へと歩いていき、地面の上で丸まって瞼を閉じる。そんなカルの隣にリンも丸くなり、大きな欠伸をしてから眠り始めた。二頭の仲が良い様子を見るとほっこりとするなぁ…ある意味、ここは街で最大の癒しスポットかもしれない。
広場からは東西に横断する大通りもあるので、この街は大まかに分けて四つのブロックで構成されている。その内、水路は南東の区画にのみ通るようにしてあった。
これは物資の集積所兼職人などが集まる区画として用いるための設計である。それ故に今日来た戦友達に拠点を置くのは控えてもらわねばならなかった。
逆に言えば、残りの三つの区画は選び放題である。住人の数に対して建物が多すぎるせいで人口密度が低いのだ。街を整備した者からしても、街が賑やかになるのはとても嬉しい。本当に彼らが来てくれて良かった。
「…と、こんなところだな。何か聞いておきたいことはあるか?ないなら北東の区画から回っていこう」
広場から移動する前に概要を説明してから、一応質問があるかどうか聞いておくことにした。すると、すぐに手が挙げられる。私は最も挙手が素早かったマックを指名した。
「しれっと流されたけどよ、今のがここの住人なのかよ?」
「そう言えば住人の外見に言及していなかったか?身体に紋様が入っていた人間っぽいのが疵人で獣の下半身を持つ獣人っぽいのが四脚人だ」
「やっぱりか。ケンタウロスっつうからてっきり下半身は馬だって思い込んでたからビックリしたぜ」
言われてみれば、一般的に『ケンタウロス』と聞けば半人半馬だと思うだろう。我々からすると彼らこそが『ケンタウロス』なので気にしていなかった。
他の者達もそのことが気になっていたようで、疑問が氷解したような顔付きになっている。そしてそれ以外に質問はないのか、次に挙手されることはなかった。疑問も解けたところで案内を開始した。
「何か不思議な感じがしますね…何が原因なのかな?」
「きっと建物の大きさは同じなのに、入り口の扉の大きさが違うからだと思うよ!」
「ここには色々な種族が来ることを考えて様々な大きさの扉を用意している。もちろん、付け替えることは可能だ。そうだよな、アイリス?」
「はい。そのくらいならパパッと出来ますよ」
私の隣にいたアイリスは自信満々に答えてくれる。やはり頼りになるのは腕の良い生産職プレイヤーだ。ポップも感心したように建ち並ぶ建物を眺めていた。
宮殿の前とは違ってここは居住地ということもあって多くの住民が暮らしていた。彼らは私達を見て挨拶するが、すぐに後ろにいる戦友達を興味深そうに眺めていた。
「王様だ!」
「知らない人がいる!誰誰!?」
その時、我々に駆け寄ってきたのは疵人と闇森人の少年達である。闇森人は城壁の外に彼らが作った森で生活しているのだが、頻繁に城壁の内側に遊びに来ていた。
すると、子供同士が遊ぶので仲良くなり、自然と親同士も仲が良くなっている。そしてお互いの家に遊びに行くこともあった。この二人もそのような経緯で共にいるのだろう。
二人の少年はマックやポップにキラキラとした視線を向けている。そんな彼らに私は視線を合わせてやると、頭をポンポンと撫でながら言った。気になるなら遊んでくれと言ってみなさい、と。
「彼らは私の友人でね、断られることはないと思うぞ」
「そうなの?」
「兄ちゃん、遊んで!」
「お、俺か?まあ、いいけどよ」
二人の子供が遊んでくれと言った相手はマックだった。彼は少し困惑しつつも、その大きな肩に二人の少年を乗せてやる。視界が高くなったからか、子供達は嬉しそうに笑っていた。
遊んでくれる人が増えたと理解したからか、行く先々で遭遇した子供達は積極的に戦友達へと駆け寄っていく。中には子供の相手などが苦手な者もいたようだが、こちらにも子供達と積極的に関わろうとする者達がいるので問題はなかった。
「ほら、お姉さんは飛べるんだぞ~?」
「骨のお姉ちゃん、すごーい!」
「カチカチだ!」
「アニキの舎弟なら当然だぜ!」
「「「「ヒャッハー!!!」」」」
「こっちはスベスベ!」
「ヒヒヒ!蛇に動じねぇたぁ、将来大物になりそうでござんすね」
サーラは猫の四脚人の女の子を抱き上げて頭上を飛んでいるし、チンピラは腕に子供をぶら下げてグルグル回ってみせる。どうやらチンピラ達は子供にも優しい不良のようだ。
最も同時に多くの子供達を相手しているのはウロコスキー達だった。彼ら大型の蛇達は数人の子供達を長い胴体に跨がらせている。楽しそうな子供達を見てその親御さん達も笑っていたが、流石に目を離す訳にはいかないので彼らも共に歩くようになっていた。
人数が増えたことで祭りか何かかと勘違いした者達が寄ってきて、そのまま列に加わってしまう。その結果、本来は戦友達に街を見せるつもりで歩いていたのに住人達が加わって行列の人数が随分と増えていた。
「王様、何してる?」
「見たことない奴、いる」
「ろ、ロボット!?」
「おおお!スゲェ!」
それ故に近くで別の作業をしている者達を引き寄せることになった。それは作業用の戦術殻に乗った鉱人である。彼らの正体を知らない戦友達は、唐突に現れた宇宙SFの世界から飛び出して来たような存在の登場に驚かずにはいられないようだ。
ロボットのような戦術殻を見て、一部の男性プレイヤーはむしろ興奮気味である。ただ、偶然にも飛んでいたせいで戦術殻に最も近い位置にいたサーラは目の前に鋼鉄の塊が現れたことで驚きのあまり硬直してしまっていた。
「あわわわわ…!」
「骨のお姉ちゃん、大丈夫だよ。鉄のお兄ちゃんは優しいもん」
慌てるサーラは腕の中にいた四脚人の少女に宥められていた。少女のお陰で冷静さを取り戻したサーラだったが、驚かされたことが軽くトラウマになったのかスッと後ろに飛んで戦術殻から距離をとった。
私は戦術殻に近付くと、操縦している鉱人達に事情を説明する。すると戦術殻の一部が開き、中から鉱人の本体が現れた。
「よろしく」
「友達、なろう」
「皆、呼んでくる」
無邪気で好奇心が強い鉱人達は、当然ながら戦友達にも強い興味を抱いた。彼らが戦術殻から出るという無防備な状態をさらしているのは、私達と一緒にいる者達ならば妙なことはしないと信じているからだろう。信頼されているようで悪い気はしなかった。
ただ、一人の鉱人は戦術殻に乗り込んでどこかへ行ってしまった。本人も言っていた通り、他の鉱人を呼びに行ったのだと思われる。行列がさらに長くなることが決まったな、これは。
しかし、それも良いだろう。楽しく街を練り歩く。それが出来るような街になったことも誇らしい。このまま大勢を引き連れて歩くとしよう。
「住宅用の区画が分かれてるって聞いてたから、てっきり種族や貧富の差とかで住んでる人達が違うのかと思ってたけど違うんだな」
「ああ。実は色々あって我々とここにいる四つの種族全ての力を結集して大陸の危機に立ち向かったことがあってな、そこで生まれた連帯感を大切にするべく種族毎に住む地域を固定しないようにしたんだ」
各種族間の生態の違いから問題が起きることもあるだろうが、それよりも種族によって街が分断されることを恐れたことでそのようにしたのである。種族単位でいがみ合いが起きて内戦でも起きれば目も当てられないからだ。
今のところ種族間での問題は起きていない。それは最初に共に暮らすようになった段階で各種族間のタブーなどを共有していたのが功を奏したようだ。これからも問題が起きないように気を配らねばならないだろう。
「へぇ…その戦いの話も聞かせてもらいたいけどよ、ずっと気になってたことを聞いて良いか?」
「何だ?」
「この街の名前って何だ?ずっと街ってばっか言ってるだろ?」
「む?『霧泣姫の秘都』だが…」
「いや、それってお前らがこの街をぶん取る前の話だろ?お前達のもんになった街の名前を聞いてんだよ」
マックの質問を聞いた私は思わず硬直してしまった。その理由はただ一つ。そう、そんなものはないからである!
次回は5月27日に投稿予定です。




