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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十九章 魔王の侵攻
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魔王軍、襲来 その四

「ふむ、プレイヤーの数は徐々に増えているようだ。面倒だな、これは」


 侵攻を開始してからしばらくすると、プレイヤーと遭遇したという報告が明らかに増えている。まだ有名人と言えるプレイヤーと遭遇したという報告こそないものの、数人が討ち取られて集合場所の入り江に飛ばされているらしかった。保険としてベッドやテントを持ってきておいて良かった。


 プレイヤーは個人、またはパーティー単位で現れるので今のところ大きな脅威とはなっていない。ミケロが神殿を乗っ取るまでの間、宿屋を見付けたら積極的に破壊するようにと皆に連絡しておくか。


「あのさ、今さらなんだけど神殿を乗っ取るとどうなるの?」

「む?言ってなかったか?簡単に言うとここら一帯にいる人類全体が弱体化するのと、リスポーンまでの時間が増加するんだ」

「女神ごとにその神殿の付近に与える影響が異なるんでしたよね」


 エイジの確認に対し私は首肯して返した。女神の神殿には、その周辺に何らかの効果を与えている。アールルの神殿では人類全体のステータスがごく微量に上昇するというものだ。それを消すだけでも十分に意味があることと言えるだろう。


 それに加えて上書きして乗っ取る女神をイーファ様に選んだのは我々と知らぬ仲ではない上に、その効果が我々にちょうど良かったからだ。彼女の神殿の付近に与えられる効果は二つ。全てのプレイヤーがリスポーンまでにかかる時間の増加と、状態異常に()()()()なることである。


 前者は分かりやすい全体へのデメリット効果だ。いわゆるゾンビ戦法が禁じられ、『やられても良いや』などと甘っちょろいことを考えて戦っていると酷い目を見ることになるだろう。


 後者は少しトリッキーな効果である。少し分かりにくいのだが、『なりやすくなる』のではなく『しやすくなる』のだ。つまり耐性を下げるのではなく、成功率を上昇させるのである。


 状態異常を引き起こす攻撃手段を有していない者達や耐性を高める装備を持たない者達からすれば、これは完全なるデメリット効果だ。しかしながら、魔物は元から状態異常を引き起こす攻撃手段を持つ者も耐性を持つ者も多い。こちらにとってはほぼメリットしかないのである。


 ちなみに、建築ラッシュは終わったものの、現在は新たなプロジェクトとして神殿の建立が計画されている。作るのは我々に加護を下さっている女神様方と龍神アルマーデルクス様の神殿だ。


 この戦争が終わったら、どこに見せても恥ずかしくない神殿を建てる予定である。既にアイリスは図面を引いて…いやいや、今は建築のことなど考えるな。この混沌とした祭りを楽しまなければ損であろう。


「そう言うことだから…おっと!」

「へぇ?派手にやってるじゃない」


 私が話を纏めようとした時、少し離れた場所で轟音と共に火山が噴火したかのように溶岩の柱が立った。その後、ドロドロとした溶岩がその付近に飛び散って一帯を真紅に染め上げた。


 大火事が起きているのを見て兎路はニヤリと笑っている。炎によって照らされた好戦的な笑みを見て、私の背中にはゾクリと悪寒が走った。


 彼処ではきっと『溶岩遊泳部』の者達が何かをやっているのだろう。どんなことをしているのやら…後で源十郎から話を聞かせてもらおうかね。



◆◇◆◇◆◇



 時は少しだけ遡る。『溶岩遊泳部』の五人と共に行動していた源十郎は、肩にルビーを乗せたままとある建物の入り口で仁王立ちをしていた。その理由はその中に入ったトロロン達を守るためであった。


「ねぇ、お祖父ちゃん。あの人達って何するつもりなのかな?」

「皆目見当もつかん。しかし、あれだけ自信ありげだったのじゃ。きっとやり遂げるであろうよ」


 呑気に会話している二人だが、彼らの前には無数の衛兵の亡骸が転がっている。実はこの建物は街のランドマークとも言える大きな塔だった。昔から街の住民に親しまれている場所で、とある高名な魔術師の工房だったという歴史があった。


 しかし、今は老朽化していて誰かの所有物という訳ではない。一応街が管理しているが、何かのために使うことはなく、重要ではないモノを入れる倉庫として利用されていた。


 それ故に決して街にとって重要な場所であるとは言えない。だが、そんな場所へと魔物がわざわざ入っていったとなれば話は別だ。何かを仕出かす前に倒そうとするのは衛兵として当然と言えよう。


 そんな彼らの前に立ち塞がったのが源十郎だった。彼は『魔王軍』の中だけにとどまらず、プレイヤー全体の中でも最強の一角として君臨する者だ。いくら数が揃っていようと衛兵だけで勝てるはずもなかった。


「おい、あれって…!」

「大会の優勝者じゃねぇか!?何でこんなところに!?」


 衛兵が全く歯が立たない強敵がいる。しばらく源十郎が一人で衛兵を薙ぎ倒していると、そんな話を聞き付けたプレイヤー達が彼の前に集まってきた。


 街が戦場になっていることに混乱しつつも、プレイヤー達には戦うという選択肢しか存在しない。何故なら、この街が灰塵に帰してしまえば色々と面倒なことになるのは明白であるからだ。


 無論、中には義憤に駆られた者もいるだろう。しかし、それ以上にまだ賊軍と戦っている同じ官軍のプレイヤーや何よりも自分達がどうなるのかわからない。その混乱を少しでも抑えるべく、彼らは戦う以外の選択肢を失っていたのだ。


「ふむ、今度はプレイヤーかの。それは重畳。衛兵を斬るのにも飽いておったところよ」

「お祖父ちゃんが何かヤバい人みたいなこと言ってる…!?」


 戦慄するルビーを気にしないようにしつつ、源十郎は腰に差していた大太刀をゆっくりと引き抜く。それに加えて、二本の刀も抜いて三刀流の構えをとった。


 闘技大会の時とは異なるスタイルに対峙するプレイヤーは困惑している。だが、四本ある腕を活かした多刀流こそが彼の本領だ。むしろ闘技大会の戦い方が彼にとってはイレギュラーだったのである。


 では闘技大会で源十郎が手を抜いていたのかと問われればそうではない。多刀流を使っていなかったのはその方が効率が良いと思っていたからだ。


 彼が出場したのは個人の部であり、対戦相手は七甲のように【召喚術】に長けている者でなければ基本的に一人である。しかも相手もその多くが人類となれば、何本も同時に武器を使うよりも一本の方が戦いやすい。そのような考えの元に、刀一本で戦うことこそ闘技大会における最適解だと判断したのだ。


 しかしながら、そんなことを知らないプレイヤー達は踏み込むことを躊躇ってしまった。だが、源十郎を前にして様子見などという生温い対応は自殺行為としか言えない愚行であった。


「行くぞ」

「はっ、速っ…ぐえぇ!?」


 源十郎は大太刀を上段に構えた状態で背中の前翅を開くと、踏み込むと同時に後翅を羽ばたかせて急接近しつつその刃を振り下ろした。その太刀筋はこれ以上ないほどに鋭く、迷いも淀みも一切なかった。


 一瞬にして踏み込まれたプレイヤーはそのまま袈裟斬りに斬られてしまう。流石に即死こそしなかったものの、大きなダメージを受けてその場で転がった。


 突然のことに最初は反応出来なかったプレイヤー達だったが、仲間を攻撃されたことで迷いが完全に吹き飛んだ。そして官軍として最前線で戦っていただけのことはあるのか、プレイヤー達は目配せさえせずに源十郎を挟み込む位置へと移動していた。


「挟撃は王道の戦法よな。じゃが、だからこそそうさせぬ立ち回りを心得ておるわ」


 挟撃されそうになっている源十郎だが、彼は全く動じていない。それどころか自分の右側にいる二人のプレイヤーに向かって飛び掛かった。


 迎え撃つプレイヤー達だったが、源十郎はその場で足を止めて斬り合うことはない。彼は斬り結びながら常に動き続け、挟まれないように立ち回っていた。


 まだ当てられてこそいないが、彼はギリギリで回避している。一対一は得意でも数で押せば必ず勝てるだろう。源十郎に挑んだ者達にはそんな考えがあったのかもしれない。


 だが、源十郎はパーティーの部で優勝したジゴロウと肩を並べる実力者である。彼らの思惑とは裏腹に彼らの攻撃は当たらず、逆に正確な反撃によって彼らの方だけが軽傷ではあれどダメージを負っていた。


「クソッ!やっぱメチャクチャ強ぇ!」

「全然当たらねぇぞ!どうなってんだ!?」

「どっちにしても一人なんだ!畳み掛けりゃ、いつか必ず…!?」


 倒せる、と言いたかったプレイヤーだったが、急にその身体が痺れてしまう。膝から崩れ落ちたそのプレイヤーは、その首を源十郎に斬り落とされて即死して光の粒子へと変わっていった。


 倒れたプレイヤーいた場所にはルビーがいた。源十郎ばかりに目が行ってしまい、彼女が肩から跳躍したことに気付いていなかったようだ。


「従魔までいるのかよ!」

「従魔じゃなくて、れっきとしたプレイヤーだよ!失礼だね、全く…」


 プレイヤーは従魔だと思ったようだが、ルビーは即座に抗議しながら短剣をブンブンと振る。その刀身はうっすらと謎の液体で濡れていた。


 プレイヤーが急に動かなくなったのは、彼女が持つ短剣から滴る毒のせいだった。ダメージではなく動けなくすることに特化した毒を使って動きを止めて祖父の援護をしたのである。


「危ない場面ではなかったのじゃが…そう見えてしもうたか。不甲斐なし」


 実は二人は事前に約束をしていた。それはルビーの主観で源十郎が危なくなったと判断した場合、彼女が戦いに加わるというものである。


 源十郎の主観ではまだまだ余裕があったのだが、ルビーの目には危険に映ったらしい。余裕があったからこそ、あえてギリギリで回避しつつ反撃していたのだが、彼の孫にはそれが伝わっていなかったようだ。


「お、おい…何だあれ?」


 そんな時、源十郎と戦っていたプレイヤーの一人が小さく呟いた。彼の視線が向かう先は源十郎ではなく、彼の背後に聳える塔である。何だと思ってそちらを向けば、その塔の隙間から真っ赤でドロリとした溶岩が流れ出していた。


 ルビーと源十郎も詳しくは聞いていなかったので、ここから何が起きるのかは知らない。プレイヤー達への警戒は緩めず、二人もまた塔に注目していた。


「ほう?」

「うわっ!?噴火した!?」


 固唾を飲んで塔を見ていると、塔の天井部分が吹き飛ぶと同時に溶岩弾が発射される。その様子はまさに火山そのものであった。

 次回は4月9日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 溶岩スプラッシュ!有利な地形に変更したのか。効果時間で消えれば良いが、そのままだと復興も大変になる技だなぁ。 [一言] 状態異常にしやすくなることである やはりアールルは魔物側の女神ですね…
[一言] 溶岩遊泳部は何処から溶岩引っ張ってきたのかね?
[良い点] 別視点が分かりやすく書かれているため情報を整理しやすい [気になる点] 時間軸がもしかしたら分かりにくいかも知れないとちょっとだけ思った [一言] 面白いのでどんどん続きが見たい…
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