侵攻準備 チーム名
「ねぇねぇ、このチームに何か名前ってないの?」
海賊船で待機しておく『蒼鱗海賊団』を残し、我々は入り江からの移動を開始した。その直後、タマが私にそんなことを私に尋ねた。
チーム名など考えてすらいなかったので、そんな質問をされても困ってしまった。何故なら、そんなものは存在しないからだ。私が正直にそう教えるとタマは言った。なら、今から考えようと。
「やっぱりチームには名前がないと!その方がやる気が出るし!」
「…そんなものか?」
「俺はどうでも良いけど、皆はどうだ?」
私は隣にいたマックを見ると、彼はどうでも良いと言いつつ他の者達にも意見を求める。すると意外なことにチーム名を要らないと言う者と決めようと言う者は半々くらいの割合となっていた。
結局、到着するまでの間に決めることになった。決めようと言う者達は積極的な賛成であり、逆に私達のような要らないと言う者達は消極的な反対だったからだ。あってもなくても良いのなら、決めてしまった方が全体のためであろう。
「なら決めてしまおうか。何か意見はあるか?」
「ないよ!ネーミングセンスないって言われるし!」
おいおい、提案した本人に腹案がないのかよ。さて、困ったぞ。私にもネーミングセンスはない。ならば他の者達に決めてもらうことになるが…今はその『他の者達』が非常に多い。議論をしようにもグダグダになるのは目に見えていた。
それを防ぐために何かをするのは手遅れである。何故なら…既に各々が思うがままに思ったことを口にし初めていたからだ。
「やはりこうなったか。決まるまでこの調子が続くとしたら、流石に緊張感がなさすぎるが…」
「ずっと緊張しっぱなしよりゃ良いじゃあござんせんか」
「ふむ、それも一理あるか」
「あ、ちなみにあっしなんかは『百鬼夜行』なんかどうかと思う次第でござんす」
ウロコスキーの言う通り、現地に到着するまでずっと緊張し続けるのも馬鹿馬鹿しい。だが、それに乗じて自分の意見を伝える辺りはちゃっかりしている。コンラートと仲良くやれそうな気がする。
他にも色々な意見が飛び交っている。しばらくすると、その中で幾つかの候補のようなものが定まってきた。ウロコスキーの『百鬼夜行』やサーラ28の『ワイルドハント』などが特に人気らしい。
「ずっと黙ってるけど、ジゴロウはなんかないの?」
「あァ?別に何でも良いじゃ…そうだなァ。俺たちにピッタリの名前があるじゃねェか」
「え?そんなのがあるんすか、アニキ?」
「おう。なァ、兄弟よォ」
「イザーム?イザームが関係して…って!ああ、そう言うこと!」
「…ふむ、良いのではないか?」
源十郎の肩の上にいるルビーに尋ねられたジゴロウは、最初は面倒くさそうな顔をしていた。しかし、何か妙案を思い付いたらしい。舎弟ぶりが板に付き始めたチンピラは興味を引かれたのか教えて欲しそうな顔をしていた。
短く肯定しつつ、ジゴロウは私の方を見てニヤリと笑った。私に同意を求められても、私にはお前の考えがさっぱりわからん。私は首を捻ることしか出来なかった。
しかし、ルビーには思い当たる節があったらしい。源十郎もまた察したのか、納得するように何度も頷いている。見回せば他の仲間達も似たような反応だ。え?何?私だけ鈍い人みたいじゃないか!
「ジゴロウのアニキ、そのピッタリの名前ってのは何なんですかい?」
「そりゃァ『魔王軍』だろォ。何たって、兄弟は種族も職業も魔王だもんなァ」
あ…あー、はいはい。そう言うことか。確かに私は魔王と名のつく種族と職業を持っている。拠点としている街も領土と言えるし、住人の国民までいる。そんな私が音頭を取って率いる武装集団ならば『魔王軍』と言っても間違ってはいないだろう。
ただし、間違っていないだけで名前負けも甚だしい。私の独断と偏見になるが、『魔王軍』と言われて最初にイメージするのは禍々しい装備に身を包んだ地を埋め尽くすばかりの大軍である。対して今の我々は百人にも満たない小集団だ。『魔王軍』を名乗るにはまだ早いのではなかろうか?
「え?職業ならわかりますけど、魔王って種族なんですか?」
「いやいや、そっちじゃないでしょポップ!イザームさんって魔王ってことの方が驚くところだって!」
「スゲー!イザームのオジキ、パネェっす!流石はアニキの兄弟分だぜ!」
「いやいや、魔王様たぁ存じあげませんでした。いざ知らず、これまでの無礼千万をばお許しくださいますよう、お願いする次第でござんす…ヒヒヒ!」
「へぇ、そうなのか」
「魔王?魔王なの?ハハハハハ!」
ポップやサーラは純粋に驚き、チンピラ達は妙に称賛している。トロロンは大して興味がないようだが、ウロコスキーは茶化しながら含み笑いをしているし、タマに至っては爆笑しやがった。その選択肢が一番強かったし、何よりもカッコいいから良いだろう!?
各自の反応は置いておくとして、個人的には『魔王軍』は相応しくないと思うのだが…周囲の反応は違うらしい。有力候補の二つの発案者であるウロコスキーとサーラまで『魔王軍』が良いと言い出す始末であった。
「じゃあ『魔王軍』で決定ね!『魔王軍』の侵略じゃーい!」
「「「おおおおおっ!」」」
「えぇ…?まあ、私のこだわりよりも全体の士気が上がったのなら良しとするべきか」
こうして我々は『魔王軍』として進軍することが決まった。フォティンの街までは三十分もかからずに到着するだろう。さてさて、暴れさせてもらおうじゃないか!
◆◇◆◇◆◇
「討伐隊も出撃したし、この戦いもやっと終わりか。意外と長かったなぁ」
「この街が空前の賑わいに沸いた日々も終わりってことだ…衛兵としては助かるぜ。横柄な軍の連中は解散するし、身勝手な風来者も数が減るだろうからよ」
官軍が拠点としていたフォティンの街、それを囲む城壁の上で二人の衛兵が言葉を交わしていた。彼らは戦いが始まってからのことを思い出し、安堵のため息を漏らしている。それは悪党が駆逐されることに安心したからではなく、やっと気苦労から解放されることが原因だった。
官軍を構成する二つの要素は王国軍とプレイヤー達である。その両方にはそれぞれ別の問題があり、この街の衛兵は頻発する問題解決のために奔走させられたのだ。
王国軍は国王が任命した将軍の下、指揮系統が一本化しているので一見すると統率を保っているように見える。しかしながら、その内情は一枚岩とは言い難かった。
思わぬ痛手を被った初戦からしばらくの間は団結していたのだが、戦況が明らかに官軍の優勢となったところでその団結は脆くも崩れていくことになる。それは戦後のことを見据えて手柄を欲する者が多かったからだ。
精鋭部隊のように国王直属の部隊も存在するものの、王国の各地から集結した戦力はその地方を治める諸侯の私兵である。それ故に各々が他の諸侯よりも大きな手柄を立てようと目論んでいるのだ。
他に抜きん出るために情報を共有しないことなど当たり前、場合によっては意図的に偽情報を流して足の引っ張り合いをすることも頻繁にある。味方でありながらも、お互いに決して全幅の信頼をおいてはならない相手だと認識していた。
その結果、仲の悪い諸侯の私兵同士が揉め事を起こすこともしばしばあった。最終的には他の私兵や精鋭部隊によって仲裁されるのだが、最初に現地へ駆り出されるのはフォティンの衛兵達である。無駄に仕事が増えるせいで彼らが疲れる原因となっていた。
それよりも質が悪いのが風来者こと、プレイヤー達だった。もちろん、マナーを守るプレイヤーの方が大多数なのだが、無理な値下げ交渉をしたり馬鹿騒ぎをして住民に迷惑をかける者が出たりと起こす問題が厄介だったのだ。
しかもマナーの悪いプレイヤーに限って話を聞かない者が多く、衛兵達の仕事をどんどん増やしていた。その多忙な日々から解放されると思えば、ため息の一つも出てしまうというものだ。
「まあ物資もまだまだ残ってるし、討伐隊が今日すぐに解散するってこともない。でも何時もの街に戻るのはもうすぐだ」
「そうだなぁ。なあ、落ち着いたら飲みに行こうぜ。非番の連中も誘って、パーッと楽しむのさ」
「そいつはいいな。隊長とか嫁さんも呼んで…おい、何だあれは?」
討伐隊が解散した後の楽しみについて話していた二人だったが、塀の上から数十人の集団が近付いていることに気が付いた。最初、彼らは何らかの理由で討伐隊の一部が帰還したのだと思った。討伐隊の拠点として使われている街なのだから自然なことと言える。
しかし、すぐにそれが誤りであることを嫌でも理解させられた。何故なら…その一団には一人として人類がいなかったからである。
「まっ、魔物の群れ!?何で急に…!」
「落ち着け!見たことのない魔物もいるし、種族がバラバラなのは不思議だが…狼狽えるほどの数じゃないだろ?」
魔物の群れが接近していることに動揺した衛兵だったが、もう一人の衛兵は冷静にその群れは大した脅威ではないと判断していた。その根拠は敵の数だ。大小様々な魔物がいるようだが、全てを数えても百を超えることはない。この街を襲うには致命的に足りない数だったのだ。
基本的に同族としか群れない魔物が別種と共に行動している理由はわからないが、どちらにせよあの程度の数ではどうやっても城壁どころか城門を破ることすら難しいはず。しっかりと守りを固めれば何の問題もないのだ。
「とにかく、俺は衛兵長とかに報告しに行く。お前は変なことをされないように見張ってろ」
「わかっ…おい、一匹だけ前に出てきたぞ」
魔物の群れは前進するのを止めると、その中から一体が前に歩き出した。それはフード付きのローブをまとった人型のシルエットだが、あの集団に混ざっている時点で人類だとは思えない。仮に人類だとしてもまともな人物とは言えないのは明白だった。
その一体は一人だけでしばらく歩いたかと思えば、持っている杖を地面に突き立てる。すると、遠目に見ても逸品だとわかる黄金の杖を中心に巨大で真っ黒な魔法陣が展開された。
衛兵達は魔術に詳しくないので、何をしているのかはわからない。しかし、やはりこれだけ離れているのならば何をしようが無駄だろう。彼らはそう高を括っていた。
「何だ、ありゃあ…!?」
「どっ、龍か…!?」
しばらくすると、魔法陣からゆらりを巨大な幻影が現れた。それはずんぐりむっくりとした蛙のような外見であり、しかし蛙にはあり得ない角と翼を持っている。これは衛兵の言う通り龍の特徴であった。
巨大な龍の幻影はゆっくりとその大きな口を開く。その直後、目にも止まらぬ速さで舌が伸び…城門を一撃で粉砕してしまうのだった。
次回は3月24日に投稿予定です。




