侵攻準備 全員集合
「ジゴロウの兄貴、お疲れ様っす!」
「「「「お疲れ様っす!」」」」
「おう、良く来たなァ」
「それと…お初にお目にかかりやす、イザームのオジキ!」
「「「「お控えなすって!」」」」
「お、オジキ!?」
マックと共にここに来た『怒鬼ヶ夢涅夢涅』のメンバーは私の前で一斉に頭を下げた。いや、オジキって何だよ!お前らはジゴロウの舎弟だろうが!
それにお控えなすってって、渡世人が使う言葉じゃなかったか?侠客やら旅の博徒やらが何やかんややっているシーンを時代劇で見たことがある。チンピラという名前の癖に、やっていることはそっちの世界的には丁寧なのか…。
「ああ、ボスはジゴロウはんの兄弟分やからな。オジキになるんやろ、知らんけど」
「兄貴分の兄弟分はオジキになるのか…?よくわからんが、まあ良い。何はともあれ呼び掛けに応えてくれてありがとう、チンピラ君」
「へへっ!水臭いですぜ、オジキ!俺達ゃ、ジゴロウの兄貴の舎弟っすよ?そんな他人行儀はなしにして下せぇ」
「あ、ああ。わかった」
世紀末風パンクファッションに身を固めた鬼なのだが、『怒鬼ヶ夢涅夢涅』の者達は随分と人懐っこいらしい。見た目の厳つさに対して意外過ぎて困惑せずにはいられなかった。
ジゴロウはもう慣れたのか全く気にせずに平然としていた。私はきっとその境地に至るまでまだ時間が必要になりそうだ。
「おやおや?色々な方々がおりますなぁ。ヒヒヒ、こいつぁ面白いことになりそうでございますねぇ」
そんな時、森から現れたのは巨大な蛇だった。それに続くように、無数の蛇が森から現れる。彼らはジゴロウが交渉に向かった『八岐大蛇』のメンバーだろう。そしてその先頭にいるこの蛇こそ、リーダーのウロコスキーに違いなかった。
思えば我々のクランには爬虫類系の仲間はいない。一応、カルとリンは爬虫類といっても良いのだが、彼らはプレイヤーではない。爬虫類系のプレイヤーに会ったのは初めてだと思うと何故か感慨深いものがあった。
「『夜行衆』のイザームだ。『八岐大蛇』のメンバーだな?来てくれて感謝する」
「いえいえ、大したことじゃあござんせん。むしろこんなに面白そうなことに呼んで下すって感謝の言葉もないくらいでござんす。それに…凄いモノが見られただけでも重畳ってなもんでござんすよ」
ウロコスキーは早口で一度も舌を噛まずに言い切った。ジゴロウからもよく口が回る奴だと聞いていたが、本当に捲し立てるように話すようだ。独特な喋り方も相まって強烈な印象を受けた。
ただ、ウロコスキーもまたカルとリンが気になるらしい。彼は『凄いモノ』と言いながらチラリとカル達を見たからだ。カル達を見ているのはウロコスキーだけでなく、『八岐大蛇』のメンバー全員であった。
「お恥ずかしい話でござんすが、我らの多くが蛇を選んだなぁ東洋風の龍に憧れたから。西洋風とは言え、龍を見れば興奮せずにはいられやしないのでござんす」
「ああ、気持ちはわかる。西洋風にせよ東洋風にせよ、龍とはカッコいいものだからな」
彼らの憧れを否定するつもりはない。それどころか、個人的には共感すら覚える。そんな心の持ち主であるならば、紹介しても良さそうだ。
私は少し周囲を見渡してこちらに注目している者達がいないことを確かめてから、ウロコスキーに囁いた。龍になれる可能性があるとしたらどうする、と。
「…からかってるので?もしそうなら質が悪いし、付き合い方を変えさせてもらいたいんでござんすが?」
「いや、本気だ。可能性はあるぞ。実はな、かく言う私は【龍の因子】という能力を持っている。本物の龍になれるかはわからんが、少なくともその因子を取り込むことは可能だ。その点では誇張してしまったかもしれんな」
【龍の因子】という能力は傍流の龍の骨を取り込んだ時に得た。彼らは生きているので同じことが可能かどうかは不明だが、可能性は十分にあると言って良いだろう。
その機会を掴めるかどうかは彼らの運と努力にかかっているので確実とは言えない。だが、私が嘘を言っていないことはわかったのか、ウロコスキーは何かを考えるように舌をチロチロと出し入れしていた。
「その情報の対価に何を求めるので?」
「別に何かを要求するつもりはなかったのだが…どうしてもと言うならこれからの作戦で奮戦してくれれば良い。あと、これからも我々が何かをやるときに付き合ってくれたら嬉しい」
「…ヒヒヒヒヒ!これからも、と来ましたか!なら、精々大暴れさせてもらいやしょうか」
何かが笑いのツボに刺さったようで、ウロコスキーは高笑いし始めた。私の身体を丸呑みに出来そうな大きさの蛇が大口を開けて笑う姿は普通に怖い。まあ、士気が上がったのなら良かった。
そんな時、入り江から見える水平線の向こう側から船の帆が見えてきた。メインマストには交差するカトラスを背にした骸骨を咥える鯱のマークが描かれており、あれが『蒼鱗海賊団』の船だということを物語っていた。
あのロゴマークを考えたのはアン達ではなく、実は紫舟である。彼女は絵を描くのが好きらしく、何となくアン達をイメージしてデザインしたようだ。それをアン達に見せたところ、彼女らも気に入ってそのまま採用したのだ。
船は入り江に入らず、少し遠い位置に停泊した。何故入り江の内側にまで来ないのかと言えば、この入り江の海岸線は遠浅になっているからだ。
喫水の深い海賊船で無理やり入れば、乗り上げてしまって大変なことになるだろう。実際、燃え残りの中に船はあるものの、どれもボートくらいの大きさしかなかった。
現に今も海賊船から降ろされた一艘の上陸用ボートが入り江に入ってくる。そこに乗っている者達こそ、我々が待っていた最後の一団だった。
ボートに乗っていたのはアンと源十郎、ルビーに加えて『溶岩遊泳部』の一団…だと思う。どうして断言出来ないのかと言えば、彼らの姿は事前に聞いていたものとは大きく異なっているからだ。
三人の他の者達は、一言で言えば真っ黒な石像だった。黒い岩を削り出して作られた石像にしか見えないのである。人型になった溶岩のような外見だと聞いていたのに…どうなっているんだ?
彼らの乗ったボートは入り江の砂浜に到達し、全員がボートから降りていく。源十郎達が降りるとバシャバシャという水の音が鳴り、後ろの黒い石像っぽい者達が降りるとジュウッという音と共に大量の蒸気が吹き出した。おおお!?何か凄いことになっているぞ!?
海上に突如として発生した濃霧のような蒸気を掻き分けて、源十郎達がやって来る。蒸気のせいで源十郎の外骨格には大量の水滴が付着しており、アンは全身がずぶ濡れになっていた。うおぉ、アンの顔がとても険しくなっている。濡れ鼠にされて不機嫌なようだ。
「よう、王様。連れてきてやったよ」
「ありがとう、アン。源十郎とルビーもお疲れ様」
「やれやれ、老骨に漕がせるとは酷いのぅ」
「何言ってんの、お祖父ちゃん。一番筋力のステータスが高いんだからつべこべ言わない!」
「やあ、私がトロロンだ。『溶岩遊泳部』のリーダーだよ」
「イザームだ。来てくれて感謝する」
片手を差し出しながら爽やかに挨拶したのは、黒い石像のような者達の一人だった。私は返答しながら彼女の手を取って握手をする。その手は岩のように固く、同時に火属性ダメージを受けるほど熱かった。
わざとではないにしろ、触れただけでダメージを受ける相手だとは聞いていたのでそこまで驚きはしない。それよりも、事前の話と大きく異なる外見の理由の方が気になる。よし、聞いてみよう。
「ところで、その姿は?普段とは異なるようだが…」
「ああ、これは能力さ。我々のようなレベル50を超えた溶岩魔人系の魔物はみんな使えるんだ」
トロロン達の種族は溶岩魔人といい、文字通りに溶岩の中に棲む魔物だった。溶岩の中という普通は入ることが出来ない場所に適応した魔物で、溶岩の近くという特定の条件下では高い戦闘能力を発揮するようだ。
その代わり、溶岩近くのような熱い環境以外では弱体化してしまうという欠点がある。今の状況は彼女らにとって決して良いとは言えない条件なのだが、その弱体化を防ぐのが今の状態なのだと彼女は語った。
「【岩殻】って能力でね、防御力も上がる上に低温にも耐えられるから重宝するんだ」
「それにドロドロの溶岩のままだったらウチの船が燃えちまう。この能力がなけりゃ、運ぶのは断ったところだよ」
「ははっ、申し訳ないね」
確かに溶岩の塊が木造船に乗れば炎上不可避であろう。トロロンは笑っているが、アンは割りと本気で言っている気がする。彼女はついこの間勇者君に船を半壊させられたばかりだ。船を傷つけられることに対して過敏になっているようだな。
こうして今回の作戦に参加する者達は、既に仕込みを終えている『モノマネ一座』以外は勢揃いした。良し、時間は予定よりもまだ前だがそろそろ行動を開始するか。
「あー…集まってくれた皆、聞いて欲しい。先ずは良く知らない我々の提案を受けてここに来てくれたことに、深く感謝したい。本当にありがとう」
空に浮かんでアタマを下げる私に、全員の視線が集中する。それを感じながらも私は口を開いた。
「小難しいことや、自己正当化するために大義名分を掲げるつもりはない。ただ一つ言えるのは…この祭りを存分に楽しめ!それだけだ!」
「「「ウオオオオオオッ!!!」」」
ボロボロの入り江に魔物達の雄叫びが木霊する。さあ、街一つを潰してやろうじゃないか!
次回は3月20日に投稿予定です。




