隠れて勧誘 その六
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「これで、完成だ!」
「「「「「うおおおおおおっ!」」」」」
海賊の一人が叫ぶと、他の者達も雄叫びを上げた。彼は建設中だった建物の最後のパーツである屋根の瓦を取り付け、自分達の本拠地となる建物を完成させたのだ。
彼らの要望を取り入れて完成させた建物であるが、そのコンセプトは『カリブ海の海賊の根城』であった。カリブ海で海賊が暴れていた時期と言えば17世紀から18世紀辺りのイメージなのだが、アイリスがその時代の建築物を色々と調べてデザインを決定した。
この建物を一言で表せば『当時の富豪の邸宅』であった。建物の全体はコの字型であり、中央の建物は三階建てで左右の建物は二階建てだ。一階分低くなっている場所はバルコニーになっており、パーティーを開くことも可能であった。
しかし、今はそのバルコニーには投石器などの物々しい兵器が設置されている。現状で我々が提供可能な最も射程距離が長い兵器であり、戦いになればここからも攻撃することになるだろう。
中央の建物の一階は入り口が豪華なロビーになっていて、宴会場や会議室など広めの部屋が幾つもある。二階は吹き抜けになっていて、三階にはリーダーであるアンの部屋があった。
アンの部屋は広くて豪華なのだが、本人曰くここは応接室として使う予定らしい。では彼女はどこでログアウトするのかと言えば、左右にある二階建ての右側だそうだ。この左右の建物は両方とも団員の寝室になっていて、一人に一室が与えられている。
部屋数にはまだまだ余裕もあるので、人数が増えても増築する必要はないだろう。事実、アンは団員を増やすべく動いているようだった。
「ようやく完成したか。皆、お疲れ様」
「「「「「お疲れ様っす、王様!」」」」」
海賊達はならず者とは思えぬ礼儀正しさで私に頭を下げる。ここでは海賊であるものの、中身は私達と同じ一般人だ。最低限の礼儀をわきまえていない者の方が少ないだろう。
そんな時、城壁の門を通ってアンが外から帰ってきた。彼女は海賊達の頭をペシッと叩きながらこちらに来ると、完成した建物を満足げに眺めていた。
「へぇ?いいじゃないか。感謝するよ、王様」
「構わんさ。こっちも良い経験になった。それに皆を運んでもらっているし、持ちつ持たれつだ」
「いや、流石に釣り合ってないよ。この借りは必ず返すからね」
アンはそう言って私の胸を軽く叩く。ふむ、だがその借りを返してもらう時はすぐそこに迫っているような気もする。何故なら、官軍との戦いにちょっかいを掛ける作戦の際、彼女の力を借りるのは確定しているからだ。
「ああ、そうだ。コンラートからもらった情報はどうだった?ガッポリ儲けたのか?」
「そう、それ!コンラートは楽な仕事だって言ってたけど、大間違いだったよ!」
アン達はジゴロウ達を海路で色々な場所に送り届けてくれているが、それと平行して海賊稼業にも精を出している。コンラートから仕入れた情報を上手に利用して船を襲い、物資を略奪しているはずなのだ。
そのことを思い出して尋ねたのだが、それまで完成した建物を見て上機嫌だったアンが怒りを露にし始めた。どうやら腹立たしい思いをさせられたらしい。何があったのだろうか?
「落ち着け。どうしたと言うんだ?」
「どうしたもこうしたもないよ!一回目と二回目は楽だったさ!けどね、三回目に襲撃した時には船に用心棒が乗ってたんだよ!」
「ほう、腕利きのプレイヤーでも乗っていたか」
「腕利きも腕利き、最上級さ!何せ、勇者の野郎がいたんだからね!」
おっと、ここでもその呼称を聞くことになるとは思わなかった。アンが言うには襲撃する度に護衛の戦艦の数は確かに増えていたらしい。官軍もやられっぱなしでいる訳がないのだ。
だが、彼女達は海中から襲撃する海賊である。護衛の戦艦の下を潜り抜け、内側にいる輸送船だけを沈めて海中で物資を回収することも容易であった。
「あの野郎、どうやってかは知らないけど海中で自由に動き回るアイテムを持ってやがった。こちとら海中を駆けずり回って素材を探したり、農業イベントで色々試したりしてようやく水中で呼吸出来るようになったってのにさぁ…」
「主に地上で活動しているはずの彼が、自分達よりも水中に適応していて腹が立ったか」
「あいつらな!パーティー全員分用意してやがったよ、畜生め!」
よほど腹立たしかったのか、アンは地面を何度も蹴っている。こらこら、せっかく綺麗に敷き詰めた煉瓦が砕けたらどうする?修理代は別に貰うぞ。
十秒ほどで怒りを鎮めた彼女は、疲れたように大きく息を吐いた。どうやら勇者君によって受けた被害はそれなりのものだったようだ。
「災難だったな。それで被害状況は?」
「五人殺られて死に戻り。どいつもこいつも大切に育てた相棒を庇ったせいさ。逃げられはしたけど、略奪に使ってた船はボロボロにされちまってね…また修理行きだよ」
「あぁ…船大工は大変だろうな」
ついこの間回遊島海獣を従魔としに行った時に負った修理が終わったばかりだと言うのに、また傷物にされてしまったらしい。最終的な収支はプラスになったようだが、修理が終わるまではひとまず略奪は控えるようだ。
それにしても、勇者君のパーティーが乗っていたとは運がない。コンラートがわざと教えなかったとは思えないし…突発的な依頼でも受けたのかもしれない。
「あれ、コンラートからメッセージが来たね」
「あいつは何だって?」
「ふん。護衛船の増援を官軍が募ってたって情報は握ってたけど、報酬が安過ぎて誰も受けないと思ってたんだとさ。知ってたなら教えといて欲しかったね!」
「むしろ物好きは勇者君だった訳か」
陸上での戦いが優勢な今、海上の護衛よりも陸上の戦いが優先されている。そのため、護衛船の増援という依頼はあっても陸上での依頼に比べて報酬が安かったのだ。
また、船は一度乗ったら港に到着するまで途中下船することが出来ない。時間的な拘束もある依頼は敬遠されがちである。必要なことかもしれないが、そんな依頼を率先して受ける勇者君は随分とお人好しなようだ…そのせいでアンがブチギレている訳だが。
「ってな訳で、悪いけどまた造船所を使わせてもらうよ」
「好きにしてくれ。おや?こっちも源十郎からメッセージが届いたぞ」
「そっちは何の用だい?」
「最後の交渉を終えたから、一時的にようやく帰還するらしい」
「最後の交渉ねぇ?あの勇者殺しが苦戦したらしいじゃないか。何をさせられたんだい?」
「ああ。鬼ごっこだ」
「…………は?鬼ごっこ?」
「うむ。鬼ごっこだ」
アンはしばし言葉を失っていたが、私は嘘を吐いた訳でもからかった訳でもない。それこそが事実だったのだ。
最後に交渉へ向かったのは『ザ☆動物王国』と言う獣系で統一されたクランなのだが、そのリーダーであるタマは独特な価値観の持ち主らしい。鬼ごっこで勝利することが交渉の席へ着く条件であり、同時に勝利すれば無条件で全ての条件を飲むと言ったのだ。
森の中を追い掛けて特定の人物を捕まえるだけ。言葉にすれば簡単そうに聞こえるが、実際はそうではなかった。少なくともジゴロウ達三人だけでは捕まえられず、源十郎達を援軍に呼ばなければどうにもならないほど苦戦したのである。
翼の生えた虎という見た目のタマは、窮奇という種族らしい。窮奇とは中国の伝説上の生き物で、四凶と呼ばれる危険な存在だ。何故それを知っているのかというと、我がクランの雑学王であるネナーシが教えてくれたからである。
ちなみに、ウチのクランにいる羅雅亜の種族である麒麟は瑞獣という縁起の良い幻獣だ。四凶とは正反対の存在なのだが、中身は同じプレイヤーである。きっと仲良くやれるはずだ。
閑話休題。タマはしなやかな動きと翼による空中での機動力、それに加えてホームグラウンドの森という有利な環境を活かして逃げ回ったらしい。ジゴロウ達に同行していたマック達、ジゴロウの舎弟を自称してついてくるようになった『怒鬼ヶ夢涅夢涅』の一行の全員で追い掛けても捕まえられなかったのだ。
しかし、源十郎達が加わってからは事情が変わった。攻略の鍵を握っていたのはルビーである。斥候職である彼女は能力を駆使して着実にタマを追い詰め、最終的には地上と空中から挟み撃ちにする形で捕まえたのだ。
苦労の末にタマを捕まえた訳だが、疲労困憊のジゴロウ達とは逆に本人は激しい鬼ごっこを堪能してご満悦だったらしい。色々と理由を付けていたが、結局は鬼ごっこが好きでたまらない人物だったようだ。
ちなみに、彼らが鬼ごっこに興じていた間、他の『ザ☆動物王国』のメンバーは拠点としている岩山を襲撃してきた魔物の群れを撃退するべく戦っていたらしい。鬼ごっこを終えた後、ジゴロウ達も成り行きで助太刀することになったそうな。大冒険じゃないか。
この勧誘で大量のアイテムを確保したようだし、お土産には期待してくれと締め括られている。アイリスとしいたけの二人に連絡しておこう。
「う、ウチの連中が勇者の野郎相手に苦労してた時に鬼ごっこって…」
「そう言うな。あっちはあっちで、かなり苦戦させられたようだぞ。全てが終わった後にブチギレたようだからな」
源十郎のメッセージによると、ルビーが活躍したことで源十郎達はそこまで苦労しなかったらしい。だが、ジゴロウ達は違った。彼らが来る前に、散々虚仮にされていたのだ。
助太刀した時までは良かったのだが、話が纏まった後でタマが言った余計な一言が大問題だったらしい。言うに事欠いてジゴロウに向かって「鬼なのに鬼ごっこは雑魚なんだね」と言い放ったらしいのだ。
「追い掛けている最中にも散々煽られた後、トドメにそれだからな…一発殴らせろと言いながら確実に仕留めようとする兄弟を止めるため、源十郎が本気になったらしい」
「うはっ!そいつは近くで見たかったねぇ!頂上決戦って感じじゃないか!」
アンは楽しそうだが、現地は大変だったらしい。タマを本気で仕留めようとするジゴロウと、それを止めようとする源十郎のぶつかり合いによって『ザ☆動物王国』の拠点はグチャグチャになったそうな。
ただ、これに関してはタマが調子に乗りすぎていたのが原因だとして向こうの副リーダーが不問にしてくれた。タマも平謝りしたことで、ジゴロウも矛を収めたようだ。
何はともあれ、これで十分な戦力が揃ったと言える。後は官軍の動きに合わせて街を襲撃するだけだ。フフフ、久々に暴れるのが今から楽しみで仕方がないな!
次回は3月12日に投稿予定です。




