隠れて勧誘 その五
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
従魔カルナグトゥールの種族レベルが上昇しました。
従魔カルナグトゥールの職業レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの種族レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの職業レベルが上昇しました。
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「グルルルル!」
「クルルルゥ!」
ログインしました。ここのところずっと建築ばかりしていたが、カルとリンは退屈だったらしい。昨日は私にどこかへ行こうと二頭でせがんで来たので、久々にフェルフェニール様の下へと赴いて地獄へと連れていってもらった。
そこで私はレベルが上昇している【指揮】の能力を用いて二頭に指示を出したりフォローしたりすることに集中した。その甲斐もあってか、二頭共伸び伸びと暴れられてご満悦だった。
よほど機嫌が良いのか、今日は私が作業をしている回遊島海獣の殻の上にまで着いてきている。あれだけ嫌がっていたのに、今では二頭で城壁の上を走って遊んでいた。元気でよろしい!
「おお、もう基礎が出来てるぞ!」
「ここに俺達の家が…ううっ!何か感動する…!」
防壁の工事は既に終わって、私は現在『蒼鱗海賊団』の本拠地となる建物の建築に取り掛かっていた。海中に沈むので基本的には防壁と同じコンクリートで作られるのだが、外観はなるべくこだわることになっていた。
そのためにアイリスは防壁の設計図にあえて建物については手を付けていなかったのは記憶に新しい。あの後、アン達の要望を取り入れた新たな建物の設計図を引いており、それを受け取って建築を開始していたのだ。
「そっちは良いのか?トーチカを作っていたはずだが…」
「こっちはもう終わったんでさ。だから手伝いますぜ、王様」
そんな時、数人の海賊団の団員がやって来た。彼らは防壁よりも海に近い場所に迎撃用のトーチカを築いていたはずなのだが、その作業を終えたことでこっちの手伝いに来てくれたようだ。ここの建築作業もいよいよ大詰めである。襲撃計画には間に合いそうで何よりだ。
私は設計図を頼りに下僕達と海賊達に指示をする。私の【指揮】の能力が向上したことで下僕達の作業効率は上昇しているのだが、海賊達もそれに勝るとも劣らないペースで作業を進めていた。
「随分と手際が良いな?」
「そりゃあ俺達もそれなりに建築やってますから」
「プレイヤーでもねぇ骨にゃ負けませんぜ!」
「てか、これって骨なんすか?鉄なんすか?」
彼らは自分達の拠点を完成させるために建築作業に従事していた者達だ。手慣れた手つきなのも頷けるというもの。個人的には黄色いヘルメットを被ってくれているのが非常に嬉しかった。
そんな彼らと作業を進めていると、またもやジゴロウ達からメッセージが届いた。ここまでは順調だったようだが、どうやら最後の交渉が難航しているとのこと。源十郎達も合流し、全員で交渉に当たるようだ。
「ハードな交渉か…相応に強い者達なのだろうな」
マック達は裏切らず、それでいて基本的に断らないだろうという者達だけを紹介すると言っていた。私は彼らを信頼しているので任せたし、今まではその通りに事が運んでいた。
だが、最後に交渉へ向かった者達はその例外であるらしい。話が纏まらないかもしれないのにあえて声を掛ける辺り、戦力としては頼りになる者達なのだと思う。作業の指示を出しながら、私は上手くやってくれよと願うのだった。
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ジゴロウ達から交渉が難航しているという連絡を受け、源十郎達はマック17が最後に紹介する予定にしていたクランのアジトへと足を運ぶ。その場所はポップコーン達が知っているので迷うことはなかった。
「今回は森の中なんだね」
「結構普通…って言ったら失礼っすかね?」
「そうでもないんじゃない?少なくとも、これまでの人達に比べたらかなり良い環境だし」
五人が歩いていたのは『百獣の大森林』というなんの変哲もない森の中だった。ただし、ここもまたエリアとしては不人気である。その理由は二つ。出現する魔物が弱く、得られるアイテムに旨味がないからだ。
初心者にとってはちょうど良い稼ぎ場のように思えるのだが、ここは初期のリスポーン地点であるファースから随分と離れている。ここまで来られるプレイヤーならば、わざわざ通うほどの価値はないのだ。
一つだけ擁護可能な点があるとするのなら、『大森林』と号されるようにこの森は非常に広い。それ故に森の最深部にまで入ると、現れる魔物のレベルが急に引き上げられるのだ。そこまで行くことが出来れば、様々な優れたアイテムが得られるだろう。
ただし、最深部に行くまでにかなり時間がかかる上に、レベルの上がり幅が異常だった。それまでの最高レベルが20代であるのに、最深部になると最低でも80レベルとなるのだ。
最深部に通用するほどにレベルを上げられる経験値稼ぎに向いた場所も近場に存在せず、同程度の性能のアイテムならば別の場所でも得られると既に知れ渡っている。やはり、人気が出る要因にはならなかった。
そんな不人気なフィールドであっても、特に特徴のない森というだけでこれまで訪れたどの場所よりも穏やかな環境である。それだけでも良物件と言って過言ではなかった。
「今度はどんな人達なの?ジゴロウが困ってるみたいだけど…」
「ええっと、悪い人じゃないんだよ?ただ、ちょっとだけ変なこだわりがあるんだよね」
「こだわりっすか?」
「うん。それが…」
『逃げんじゃねェ!こォの犬っころがァァァァ!』
その『こだわり』についてサーラ28が語ろうとした直前に、ジゴロウの怒鳴り声が大森林全体に響き渡った。明らかに能力を併用した怒鳴り声からは強い苛立ちが感じられる。その怒気から逃げるように木の枝に留まっていたのだろう小鳥が一斉に空を飛んだ。
源十郎達は何事かと驚くものの、サーラ28とポップコーンは遅かったかと言いながら額に手を当てて溜め息を吐いた。何が起きているのかについて、二人には心当たりがある様子だった。
「事情を知っておるようじゃな?」
「はい。ここにいるクランって獣系のプレイヤーだけの集まりなんですけど、そこのリーダーが変わった人なんです」
「変わってるって?」
「『狩りも隠れるのも上手でないと野生では生き残れない。つまり、鬼ごっこが上手い者が最強』って言ってる人なんだよ」
「お、鬼ごっこっすか」
サーラ28から鬼ごっこと聞いて、ルビーとシオは何とも言えない顔になってしまった。鬼ごっこと言えば子供の遊びである。それに並々ならぬこだわりを持つ人物と聞いて、感心する者はそういないだろう。
だが、その数少ない者の一人が源十郎であった。彼は顎に手を当てながら、そのような考え方もあるのかとしきりに頷いていた。野生での生存に焦点を絞ったなら、鬼ごっこという遊びは正にその縮図と言えるからだ。
「前にマックが頼みごとをしに行った時にも言われたんです。『鬼ごっこで俺を捕まえられたら何でも言うことを聞いてやる』って。きっとジゴロウさんも同じことをさせられてるんじゃないかと」
『コラァァァ!待ちやがれぇぇぇ!』
『そっちに行ったぞ!ふん捕まえろ!』
『アニキのためだ!ぶっ殺せぇぇっ!』
森の奥からはジゴロウと共に追い掛け回しているのだろう者達の声が聞こえてくる。だが、その声に聞き覚えがなかったルビーとシオは首をかしげた。
「…あれ?『不死野郎』にあんなガラの悪い人いたっけ?」
「それにアニキって誰っすか?」
「二人とも、忘れた訳ではあるまい。ジゴロウがメッセージで伝えておったろう?『なんか舎弟ができた』とな」
「ああ!あの変な人達!クランの名前は忘れちゃったけど!」
「…忘れちゃったんすか?結構特徴的だと思うんすけど」
『怒鬼ヶ夢涅夢涅』のことを忘れたと言うルビーを見て、シオは信じられないとでも言いたげな視線を送った。しかし、ルビーは親友の視線を全く気にせずにどうして彼らがここにいるのだろうと疑問を抱いていた。
そんな時、上空から彼らに接近する者達がいた。影が差したので上を向くと、そこにいたのは七甲とモツ有るよの二人であった。二人は地上にいる五人に気付いているようで、すぐに地面へと降り立った。
「おお、来てくれたんやな!マジで助かるわ!」
「援軍、助かりますよ。早速ですが、追いかけっこに協力して下さい。このままだと、ジゴロウが森を焼き払いかねません」
「お主ら、何を…むっ!」
「うひゃあっ!?」
二人は降りてくるなりに早く動くように急かした。何が何やらわからない源十郎達だったが、その背後の草むらから派手に音を立てながら現れるモノがいた。
魔物の攻撃かと思った源十郎が反射的に刀を抜きながら、音のした方に向かって斬撃を飛ばす武技を放つ。だが、返ってきたのは魔物の悲鳴ではなく慌てた様子のプレイヤーの声だった。
「あっ、危ぶねぇ~!自己紹介の前にぶった斬られるところだったぜ!」
「ほう、躱しおったか」
ギリギリのところで源十郎の武技を回避したのは、真っ白な毛並みの虎であった。ただし、前足の付け根の辺りからは鳥のような翼が生えている。見たことがない魔物であった。
そんな魔物は源十郎の武技が両断した木を見て冷や汗を流している。その仕草は余りにも人間臭く、彼がプレイヤーであるのは明白であった。
「見付けたで!」
「皆さん、捕まえて下さい!」
そのプレイヤーを見るなり、七甲とモツ有るよは血相を変えて飛び掛かる。だが翼のある虎は二人の両腕をスルリとすり抜け、わざわざ二人の頭を踏んでから跳躍した。
「へっへ~ん!そんな正面からじゃ、千年かかっても捕まえられないよ~ん!」
「こっ、このガキィ…!」
「熱くなってはいけませんよ、七甲」
「あぁ、やっぱり煽ってるのか…あれが最後に紹介する『ザ☆動物王国』のリーダーのタマさんだよ」
「やっほ~!初めまして!タマさんだよ~!話を聞いて欲しかったら、全員で捕まえてみせてね~!」
言いたいことはそれだけだったのか、タマは翼を羽ばたかせて森の奥へと去っていった。残されたのは地団駄踏む七甲と、それを宥めるモツ有るよ、そして状況をほとんど理解出来ていない源十郎達だけだった。
次回は3月8日に投稿予定です。




