隠れて勧誘 その一
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【指揮】レベルが上昇しました。
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アイリスの設計図はとても性能が良いので、作業は順調に進んだ。ものの数日で工程の半分以上を終えることが出来ている。防衛兵器も既に設置されているので、角度にさえ気を付ければ堅牢な城壁に守られつつ海から一方的に砲撃することが可能となっていた。
その間、私は全然戦っていないのでレベルは上がっていないのだが…下僕を使役している関係で【指揮】の能力だけはグングン上昇している。これはやはり、大人数で何か行動を起こせという啓示に違いない。
戦争に介入して暴れるという私の提案であるが、提案してすぐに満場一致で賛同された。どうやら皆もお祭り騒ぎに加わりたいと思っていたらしい。それに久々に別の大陸に赴くのも良いとのことだった。
官軍と賊軍の争いに首を突っ込むとして、次に考えるべきは具体的に何をするかである。それに関してはしいたけに提案があった。それは近々行われる決戦に乗じて、官軍の後方にある街を襲撃するという内容だった。
官軍と賊軍の戦いは情報戦になっていたが、ここで活躍したのが風来者である。彼らは本当にどこにでもいる上に、死亡したとしても復活する。その不死性を活かして怪しい場所へと手当たり次第に突撃し、人海戦術によって賊軍の隠れ家を暴いていったのだ。
もちろん、囮の隠れ家に騙されただけで骨折り損になることも多くあったらしい。だが、彼らの犠牲…とは言えない犠牲により囮の隠れ家は力業で無力化されてしまったのだ。
そうして賊軍は追い詰められ、今では山の上に築かれた古城に立て籠っているらしい。初戦のこともあったので官軍は徹底的に周辺の調査を行ったのだが、今回は本当に中に人がいるようだ。
現在は官軍によってその山の周囲は完全に包囲され、鼠一匹すらも脱出出来ない状況になっているらしい。官軍側の戦力が集結し次第、総攻撃を仕掛けることになっていた。
「官軍の勝利はもう揺るがないか。まあ、官軍の勝利に賭けているから問題ないがね」
工事の指揮をしながら私は独り言を呟いた。コンラート達が主催している勝敗のトトカルチョだが、私は官軍の勝利に賭けていた。局地的な戦いならば賊軍が勝つことはあっても、最終的には官軍が勝利するのは明白だったからだ。
私と同じ考えだった者が大半だったようで、官軍の勝利時の倍率は驚愕の1.02倍である。逆に賊軍の勝利の倍率は100倍を超えていた。大穴なんてレベルではないぞ、これは。
官軍は確実にして圧倒的な勝利を飾るべく、動員可能な戦力を全て投入するつもりだ。そのため、最前線に最も近いフォティンという街に戦力を集めている。各地にいる残党を処理しつつ、兵士や風来者が集まるのを待っているそうな。
「狙いは出陣してから少し経った後だ。留守番もいるだろうが、確実に油断はしているだろうし…C班、作業を中止してA班と共に輸送しろ」
そうやって人が集まる場所には、当然ながら大量の物資も集まる。しいたけはそれを根こそぎ奪ってやろうと提案したのである。
当たり前だが、前線に出る兵士や風来者を全て相手にすることなど不可能である。そこで連中が出陣した後の街を狙うのだ。空き巣に入るような形になるが、そうでもしないと我々には勝ち目はない。その戦略を基本に据え、我々は作戦を練ることにした。
私やアイリス、しいたけなどは生産のために残っているが一部の仲間達は作戦の第一段階のために大陸の外へ出ている。その目的は、一緒に攻めてくれる仲間を揃えることだった。
「我々だけでは流石に無理だし、得られる利益よりも失うモノの方が多そうだ。ここは同志を集め、早い者勝ちで略奪し、速やかに撤退する。これでいく」
数は力である。それはアイテムの収集でも戦いでも同じこと。仲間達はそのための勧誘に向かっているのだ。
勧誘に向かっているのはジゴロウ、源十郎、ルビー、シオ、七甲、そしてモッさんの六名だった。例のイベントでその実力を見せ付けたジゴロウと源十郎。この二人を見れば勝てるに違いないと思うだろう。スカウトとしてはうってつけなので、この二人は固定とした。
他の四名は着いて行きたいと言った中で、ジャンケンをして勝った四人が選ばれている。どうして全員ではないのかと言えば、大陸まで秘かに運んでくれることになったアン達の船の船室に余裕がなかったからだ。
シラツキを発進させるという話もあったが、誰かに目撃されては元も子もないので私が禁じた。浮遊戦艦の存在が明るみに出れば、戦争そっちのけで探し始める連中が絶対に出てくるからだ。
「現地にいる友人達に渡りをつけているとは言え、はてさて何人くらい集まるものやら…B班、溜まった粉末を移動させろ」
勧誘に向かった者達が上手く人数を集めることを期待しつつ、私は建築作業を続けるのだった。
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イザームが建築作業に従事している頃、ジゴロウと七甲、そしてモツ有るよの三人はとある森の中を歩いていた。三人の中には誰一人としてこの森を訪れたことがある者はいないのだが、その歩みには迷いは一切ない。何故なら、彼らには先導する者達がいたからだ。
「それにしても驚いたぜ。久々にイザームから連絡が来たかと思えば、知り合いに声を掛けてくれだもんよ」
「悪ィな、マック」
「そうでもねぇさ。声を掛けた奴らはあんた達の名前を出しただけで皆食い付いたからな」
彼らを先導していたのは不死系の魔物プレイヤーだけで統一されたクラン『不死野郎』のリーダー、マック17と数人のクランメンバーだった。彼らはイザームから連絡を受け、彼らの知る他の魔物プレイヤーのクランとの間に交渉の席を設けるように依頼されたのである。
急な頼みであったにもかかわらず、彼らは快諾した。それはイザーム持ちかけた襲撃計画が面白そうだと思っただけでなく、有名人であるジゴロウに再び会ってみたい者達がいたからだ。
同時にマック17が声を掛けた者達もジゴロウや源十郎の名前を聞いた時点ですぐに興味を示した。有名人を起用する作戦は功を奏したと言えるだろう。
ちなみに、ここにいない源十郎とルビーとシオの三人は別行動だ。『不死野郎』のポップコーンやサーラ28と共に別のクランと交渉に向かっていた。二手に別れることで効率化を図ったのである。
「兄弟の計画はまだ漏らしてねェだろうなァ?手を組まねェ連中に知られるなァちっと面倒だからよォ」
「当たり前だ。俺達にだけ目的を教えてくれたのは信頼してくれてるからだろ?それを裏切るような不義理な真似はしねぇさ」
イザームはマック17には襲撃計画を立案していることを伝えたが、これから話し合いの場を設ける者達にはまだ教えてはならないと言い含められていた。イザームは実際に会ったことのあるマック17達は言いふらさないと信頼しているが、彼らの知り合いは信頼していなかったからだ。
自分達の計画が事前に漏れても成功すると思うほど彼は自信過剰ではない。信頼していない相手に余計な情報を与えるような不用意なことは嫌がったのだ。
「まあ、考えすぎだと思うけどな。少なくとも、ベラベラ喋るような奴には声を掛けるつもりはないしさ」
「ウチのボスは妙なところで臆病やからなぁ」
「リーダーが慎重なのは良いことですよ」
マック17も仲介する相手は選んでいるのだが、依頼主の方針に逆らうつもりはない。七甲はケラケラ笑いながら冗談混じりにイザームを揶揄し、モツ有るよはそこが良いところだと庇う。そんな二人を見て、マック17は自分達と同じくらい仲が良いクランなんだなと思っていた。
そうして雑談しつつ時折襲って来る弱い魔物を蹴散らしながら森の奥へと進むと、森の中にポッカリと空いた洞窟の前にたどり着いた。洞窟は明らかに自然に作られたものなのだが、入り口の前には大量の骨が山のように積まれている。何者かが住み着いているのは明白であった。
だが、同時にその穴には奇妙な点がある。それはとても狭いことだった。穴を直径は一メートルもなく、普通の人型アバターが無理に入ろうとすれば確実に詰まってしまうだろう。少なくともジゴロウ達では入ることは不可能なサイズだった。
「ここかァ?」
「ああ、そうだ。ここが最初に紹介したいクラン、蛇系の魔物で統一してる『八岐大蛇』のアジトだよ」
「はい、どうも。『八岐大蛇』でリーダーやらせてもらっております、ウロコスキーでござんすよ」
マック17が紹介すると穴の中から一匹の蛇がズルリと現れた。穴の直径とほぼ同じ胴回りと四メートルはあろうかという巨体、暗い青色の鱗は日光を反射して艶を放っていた。
彼の名はウロコスキー。『八岐大蛇』というクランのリーダーだった。マック17とはそれなりに交流があり、知り合いの中でも最も信頼出来る相手の一人である。
「おお、本物の『勇者殺し』だ……!」
「後ろの二人も本戦に出てたよな?」
「俺達に何の用だろう?」
ウロコスキーの後ろから次々と『八岐大蛇』のメンバーが出てくる。彼らはジゴロウだけでなく七甲とモツ有るよのことにも気付いているらしく、興奮気味な者もいれば困惑する者もいた。
様々な反応を示す『八岐大蛇』のメンバーだったが、七甲とモツ有るよは狭い穴から二十を超える多種多様な蛇が出てくる光景に顔を引き攣らせていた。爬虫類が苦手な訳ではない二人だが、流石に見ていて気持ちの良いものではないかったのだ。
何度も見ているはずのマック17すら、苦笑いせずにはいられない。むしろ一切の動揺を見せずに平然としているジゴロウを称賛するべきかもしれない。
「それで、どんなお話でござんしょう?あっしらみたいな零細クランじゃあ、高名な『勇者殺し』さんのお力になれるとは思えないんでごぜぇますが?」
「兄弟…あっと、ウチのリーダーなんだがよォ。アイツがちょっとした悪戯を思い付いてなァ。それに付き合ってくれる連中を探してんだァ。どうでェ、手ェ組まねェかァ?」
「悪戯…悪戯ですかい!ヒヒヒ、そいつぁ面白そうでござんすねぇ!個人的にはご一緒させてもらいたいもんでござんすが…あっしはこう見えてクランのリーダー。御山の大将ならぬ、蛇穴の主でござんす。本当に着いて行っても良いもんかどうか、ちゃんと考えなけりゃならんのでござんす」
悪戯という言い方が面白かったのか、ウロコスキーは大きな口を開けてひとしきり笑った。だが、その後に捲し立てるようにして即答することを避けている。煙に巻くような言い方であるが、ジゴロウはウロコスキーが何を言いたいのか大体察していた。
「じゃあよォ、着いて行っても良いって思わせてやりゃァいいんだよなァ?」
「ヒヒヒヒヒ!おっしゃる通りでござんす!と言うことで…一丁、胸を貸していただきやしょう!」
言うが早いかウロコスキーはジゴロウに襲い掛かる。そう来るとわかっていたらしいジゴロウは、猛獣のような笑みを浮かべながら拳を構えるのだった。
次回は2月20日に投稿予定です。




