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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十八章 建設ラッシュ
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回遊島海獣の従え方

 リンの背中に乗った私は、アン達のいる回遊島海獣(アスピドケロン)の殻の上を目指して海へと向かう。リンは初めて私を乗せた時のような無茶苦茶な飛び方はせず、それでいて私が耐えられるギリギリの速度を出していた。成長が感じられてとても嬉しい。


 回遊島海獣(アスピドケロン)はその巨大さ故に海岸に近付くことが出来ず、海岸からそこそこ遠い沖にいる。だが、リンの速度であれば大して時間はかからない。しばらくすると水平線の向こうに巨大な影が見えてきた。


「おぉ…何度見ても普通の無人島にしか見えんな」

「クルルゥ」


 洋上に浮かんでいるのは、一見すると小さめの無人島であった。大きさは野球場ほどで、中央部が盛り上がってなだらかな山を成している。その表面は地面が見えないほどに木々が密集していて、沿岸部は岩場のようになっていた。


 アンの話によると岩に見えるのは回遊島海獣(アスピドケロン)の殻であり、木々に見えるモノは植物ではなく回遊島海獣(アスピドケロン)の殻の突起のようなものらしい。木かと思って触ったら非常に硬質で戸惑ったとアンは語っていた。


 ちなみに、殻の上には独自の生態系が築かれているらしい。エラ呼吸と肺呼吸の両方が可能な魔物が豊富に住んでいるのだ。


 その魔物達は何の変哲もない島だと思って休みに来た鳥や、海中で暗い場所を求めて寄ってくる魚を捕食していたようだ。回遊島海獣(アスピドケロン)を従魔にした後、上陸したアン達を獲物だと認識して襲い掛かったと聞く。まあそこまで強くはなかったので、使えそうな数匹を従魔にして残りは狩り尽くしたようだが。


 岩場に座って談笑していた『蒼鱗海賊団』の団員達が私に気付いたのか手を振っている。私はリンに降りるように言うと、彼女は露骨に嫌そうな声で鳴いてから降下を開始した。


 リンが嫌そうにしているのは、私が嫌われているからではない。回遊島海獣(アスピドケロン)に近付くのが嫌だからだ。それはカルも同じらしく、最初にカルと訪れた時は見た途端に攻撃しようとしたくらいだった。


 巨大な魔物に接近することを本能的に嫌がっているのだろう。試しにセイにも従魔達を連れてきてもらったが、どの従魔も近付くのを嫌がっていた。


 ただし、同じ群れだと認識している魔物は例外らしい。『蒼鱗海賊団』の団員が騎乗するシャチ達は楽しそうに回遊島海獣(アスピドケロン)の周囲を泳ぎ、時折海面を跳ねている。その中に混ざって見たことのない魚が何匹も泳いでいた。


「あれが例の『余り物』か」


 あの魚達はまぎれもなくアン達の従魔である。しかしながら、あの魚達はアン達が戦力にしたいと思って従魔にした魔物ではない。魔物らしく長く鋭い牙や刃物めいたヒレはあるものの、レベルそのものも低めだった。


 では何故そんな魚を従魔として従えているのか?それは回遊島海獣(アスピドケロン)を従魔とするための生贄であったからだ。


 アン達は回遊島海獣(アスピドケロン)を発見した後、様々な方法で従魔とする方法を試した。好物を調べてそれを与えたり、死なない程度に痛め付けて屈服させようとしたりと考えられる方法はいくつも倒したようだ。


 しかし、そのどれも上手くいかなかった。それどころか痛め付ける方法に到っては返り討ちにされて死に戻りする者達が何人も出たとか。回遊島海獣(アスピドケロン)はアン達よりも遥かに強かったのだ。


 だが、その失敗がヒントになった。死者が騎乗していた騎獣は敗北と同時に食べられてしまったのだが、その直後に回遊島海獣(アスピドケロン)は静まったのである。


 それを見た団員の一人が『従魔を食べさせる必要があるのではないか』と言い出した。言った本人も自信はなかったようだが、どうせ行き詰まっているのだからと試すことにしたという。


 これまでの観察で回遊島海獣(アスピドケロン)は海藻ではなく魚やアザラシなど海に棲む獣を主食とすることは知っている。そこで付近にいる海の魔物を片っ端から従魔にして、小出しにして突撃させたのだ。


 そしてこの予想は的中していた。回遊島海獣(アスピドケロン)は従魔を食べれば食べるほどアン達に対して新密度が上昇していったのだ。つまり、自分の従魔を餌として大量に用意することが従魔として懐かせる方法だったのだ。


 従魔を使って戦う者として、その条件は中々に選び辛いとは思う。だからこそ、アン達は量を確保することと自分達の愛着がある従魔を犠牲にしないために大量の魔物を現地調達していたのだ。


 ただ、回遊島海獣(アスピドケロン)を手懐けるには長い時間と多大な数の魔物が必要だったらしい。我々がフェルフェニール様の巣を作り始める前には発見していたのに、テイムが完了したのは三日前のこと。それまで我々のようにせっせと弱い魚を従魔にしては突撃させ続けたようだ。


 しかも質が悪いことに回遊島海獣(アスピドケロン)はゆっくりと『回遊』するので、従魔にするまでは一ヶ所に留まってはくれなかった。外洋に出た後のアン達は自分達の海賊船を拠点にしていたそうだが、ログアウトする度にもう一度探す手間があったようだ。四六時中張り付いていられる訳ではないから仕方がないだろう。


 その苦労の甲斐あって、アン達は回遊島海獣(アスピドケロン)を従えることに成功した。ただ、その所有権は誰か個人にはない。『蒼鱗海賊団』というクランの持ち物となっている。この形式の場合、クランが解散すると野良の魔物に戻ってしまうようだ。


 これはクラン全員で強力して手懐けたのが原因である。誰かに従っているのではなく、クランと言う群れの一員として加わったのだ。まあ、あれだけ苦労してそれが誰か一人のモノになるのには不満を覚える者もいるだろう。


 それにクランのモノになったことにも利点はある。それは誰かが持ち逃げすることが出来ないことだ。非常にコストがかかった回遊島海獣(アスピドケロン)を手に入れた途端にクランを抜けられたら目も当てられない。殻の上に拠点を構えるのだから、その利点は価値を増したことだろう。


 こうして回遊島海獣(アスピドケロン)へ食べさせるために大量の魔物を用意した訳だが、その一部は与える前に従魔とするのに成功したせいで生き残ってしまった。アン達のレベルに対して弱すぎて戦闘にも使えないので回遊島海獣(アスピドケロン)に食べさせようとしたようだが…その魚達も群れの一員だと見なすようになったせいで食べなくなった。


 それ故に仕方がないので回遊島海獣(アスピドケロン)の周囲で放し飼いにしているらしい。一匹一匹はとても弱いのだが、回遊島海獣(アスピドケロン)に守られているので未だに数は減っていない。それどころか経験を積んでレベルを上げ、進化した個体もいるそうだ。


「お疲れ様っす、王様」

「そっちもな。アンはどこにいる?建設予定地の下見に来ると伝えていたはずだが…」

「団長は殻の天辺にいるっす。案内するっすよ」


 着地した私は団員の一人に連れられてアンがいる場所へと案内される。まだこの殻上は整備されていないので、まるで原生林のように殻の突起が生い茂っている。うん、やっぱり木にしか見えないよなぁ。


 私は浮遊することが可能なので、足元の凹凸を気にすることなく進む。ちなみに、私の側にリンはいない。私を回遊島海獣(アスピドケロン)の上に届けた後、殻の上にいるのも嫌なのかさっさと上空に飛んでいってしまった。帰る時は私の方から彼女のもとへ飛ばなければならないか。


「おーい、団長ぉー!王様が来たっすよー!」

「はいよ、よく来たね」


 広い殻の上をしばらく移動すると、数人の海賊達と何かの作業を行っているアンに合流した。彼女達は殻の最も高い場所で、殻の突起に何かをしているらしい。不思議そうにしている私を見て、アンは珍しく困ったような顔で苦笑した。


「あちゃー、情けないところを見られちまったね」

「何をしていたか、聞いても良いか?」

「ここに拠点を作って欲しいんだけどさ、自分達で邪魔な木モドキだけでも切っとこうって話になったんだけど…全く切れなくて困ってたのさ」


 アンが指差した先では、海賊達が何度も剣を殻の突起に向かって武技を使っている。樹皮を思わせる殻の表面が削れ、隠れていた貝殻そのものの内側が見えるようになっているが…本当にそれだけでしかない。切れる様子は微塵もなかった。


 それを見て私はさもありなんと思っていた。リアルでも樹木の伐採に剣を使う者など聞いたことはない。伐採に使う道具と言えば斧と相場は決まっているのだ。


「そっちにはあまりパワーファイターがいないから仕方がないだろう。それに、これは樹木ではなくて貝殻の一部。そう易々と折れないさ」

「気を遣ってくれてるのかい?ありがとね」

「そんなつもりはなかったのだが…まあ良い。とりあえず、ここの様子をスクリーンショットで撮影させてもらうぞ。その上でアイリス達が事業計画を立てる。それで良いな?」

「こっちは頼む側だからね。好きにやってくんな」


 アンは男前なことを言って手をヒラヒラと振っている。アイリスにもそう伝えるつもりだが…暴走してとんでもないモノに仕上がりそうな気がするのは考えすぎだろうか?


「ああ、そうだ。アイリスからの質問なのだが、水に強い素材にアテはあるか?海中へと頻繁に入る関係上、こちらで用意出来る素材では厳しいからな」

「そうだねぇ…うーん、悪いけど思い付かないよ」

「そうか。では、少し余計に時間がかかると思っておいて欲しい」

「ま、仕方ないか。船は修復中だし、しばらくはここでテント暮らしかね」


 回遊島海獣(アスピドケロン)を従えるまで外洋に出続けていたからか、『蒼鱗海賊団』の海賊船はどれも限界まで傷付いていた。今は全てを建設中の港町に停泊させて修復中である。その作業を行っているのは『蒼鱗海賊団』の数少ない生産職である船大工の団員だった。


 なら彼女達も港町で家を借りてログアウトすれば良いのではないかと思ったのだが、彼女達の多くは殻の上に張ったテントでログアウトしているようだ。従魔達を放っておくのは忍びないのだろう。気持ちはわかるぞ。


「…ふむ、こんなところだろう。撮影は終わったし、私はそろそろお暇する。困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。可能な限りは手を貸すぞ」

「なら、甘え過ぎない程度に甘えさせてもらうよ」


 そんな会話をしてから私は殻の上から飛翔する。そして上空で円を描くようにして飛んでいたリンと合流すると、我々の街を目指して帰還するのだった。

 次回は2月8日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] これはクラン全員で強力して手懐けたのが原因である           ↑協力では?
[一言] 自分達の愛着がある従魔を犠牲にしないために大量の魔物を現地調達していたのだ。 最初返り討ちにされた時に喰われた騎獣が愛着ある従魔だった人は可哀想ですねw
[気になる点] もう船を手に入れたわけだし 船長と呼んでもいいのでは?
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