穏やかに建築
ログインしました。私は日課である水やりをしてから、一度部屋に戻った後に数種類の魔術を組み合わせておく。昨日試したオリジナル技の感触から、色々と思い付いていた組み合わせが幾つかあるのだ。
機嫌良く私がオリジナル技を作っていると、通知音と共にメッセージが送られて来た。誰からだろうかと思ってメニュー画面を操作してメッセージを開くと、送り主はコンラートであった。
「『ちょっと儲かったから街の整備に使えそうなアイテムを送るね(*´ω`*)』だと…?やっぱり戦争で儲けたんじゃないか」
私は金の出所は聞かずに感謝の言葉だけを返信しておく。何かあっても私は知らなかった。そう言うことにしておきたいのだ。
それにしても…あいつは他人の不幸や揉め事で儲けるようなえげつないことを平気でやるのに可愛らしい顔文字が好きである。やることも可愛らしければ良いのに。それだとああも稼げないのだろうがね。
気を取り直してオリジナル技を設定してから、私は街に出る。今日は探索には向かわず、一人の建設作業員として汗を流すつもりだ。私は銀色の仮面を外すと、頭には黄色い作業用ヘルメットを被る。うん、この方が雰囲気が出るな!
「王様だ!」
「おお、今日はこちらですか」
ヘルメットを被った私が作業現場へと向かうと、住人達が笑顔で手を振っている。作業に従事している最中だった彼らは私と同じ一様に黄色いヘルメットを被っていた。うむ、統一感があってよろしい!
私は彼らに手を振り返すと、カルとリンを迎えに行く。二頭はいつもの場所で眠っているものの、リンが子供の時のようにくっついてはいない。やはり女の子なのである。
「カル、リン。起きてくれ」
「グオオ…」
「クルゥ…」
声を掛けつつ身体を揺すると二頭は欠伸と共に目を覚ます。翼を広げてから二頭は今日はどうするの、と言わんばかりに私をじっと見つめていた。
「今日は皆と街作りだ。戦いではないが、文句はないな?」
「グオン!」
「クルル!」
「良い返事だ…と言う訳だ。指示は任せるから、存分にこきつかってくれ」
「あっはっは!では、キリキリと働いていただきましょう」
私は最も近くにいた疵人や四脚人と共に作業に入る。彼らと雑談をしながらの作業は楽しい。と言うのも私達が見えない部分が見えてくるからだ。
例えば私の横で地面を掘っている四脚人は娘に怒られて最近落ち込んでいることや、それを笑った疵人は娘に男の影がちらついて気が気でないらしい。本当にリアルの人と変わらない生活の悩みを抱えているようだ。
「おーい!イザームさーん!」
彼らの適当な相槌を打ちながら愚痴を聞いていると、我々に近付いてくる大きな影が見えてきた。その肩や頭には数人の子供達が乗っていて、逞しい両腕にも買い物の紙袋めいて子供達がぶら下がっている。
その大柄な人物はエイジであった。今日は彼も作業に従事するのか、甲冑は身に付けてはいない。そして私と同じく黄色いヘルメットを被っていた。
「エイジも今日はこっちか」
「ええ、頑張りますよ。ってことだから、皆は向こうで遊ぼうね」
「「「はーい!」」」
エイジは子供の扱いが上手だからか、カルに並ぶほどの子供達に人気である。親の言うことには逆らってもエイジの説得には応じる子供が多く、子供を持つ大人達に感謝されていた。
そんな彼は私と肩を並べて共に作業を開始する。彼とも雑談に興じる訳だが、やはりその内容はオリジナル技についてであった。
「ふん!ほう、エイジはやはり大盾を主体に組み合わせたのか」
「ええ。便利ですよ…っと!」
前衛として味方を守るエイジは、片手に大きな盾を持っているのが前提である。それを活かすのならば盾を主軸に据えるのは当然だ。昨日実戦で試したところ、感触は悪くなかったらしい。後は微調整をするだけと言う話だった。
そんな話をしながらせっせと作業を続けていると、七甲やセイなど他のメンバーも次々とやって来た。彼らもまた、今日はこっちで作業に加わるようだ。
「ボス、こっちでええんか?」
「ああ。そうだ」
「あらよっと!」
「キキッ!」
「よいしょっと!身軽ですねぇ」
人数が集まって来たので、我々はそれぞれの特徴を活かす作業に分かれていく。空を飛べる私やカル達、それに七甲は屋根の上など高所の作業を、セイとモモのような身軽な者はまだ骨組みだけの建物や壁に張り付く作業を、そして力が強いエイジは重量のある柱などを立てたり穴を掘ったりと力仕事を担当するのだ。
そうして新たな仲間を加えて作業を再開すると、やはり雑談が始まった。二人もオリジナル技の使用感に満足していない点があるようで、二人の相談に我々が乗る形になる。そうして話が尽きたところで、話題はオリジナル技からイベントのことへと移っていった。
「イザームさんはええよなぁ、被写体が近くにおって。ワイは『これや!』ってモンに出会えてないわ」
「街の住人をパシャパシャ撮る訳にも行かないしな」
「セイは自分の従魔がいるでしょうに。それとも従魔自慢はしないのかい?」
「あー…フィルとテスは良いんだけど、モモがじっとしてられないんだよ。ポーズもとってくれないし」
七甲は納得の行くスクリーンショットを撮影出来ていないらしい。私と同じく従魔を抱えているセイだが、モモはいたずらっ子な性格も相まって黙って言う通りのポーズを決めてはくれないようだ。私のように寝起きをパシャリ…と言う構図も二番煎じで嫌なのかもしれない。
「エイジはんは逆の意味で大変やろ」
「え?何の話ですか?」
「とぼけたらあかんでぇ?兎路はんのことや」
「なっ!?」
七甲はカラスの頭でありながら口角を上げてニヤリと笑って見せる。二人は最初期からの付き合いであるし、防御を固めるエイジと攻撃に特化した兎路はバランスの良いコンビだ。
だが、それとイベントのことがどう関わってくるのか?私の知らないことを七甲は知っているようだ。
「いやぁ、献身的やと思うで。兎路はんのカメラマンをやるんは」
「な、何で知ってるんです!?」
「空を飛んでブラブラしとったら、偶然見てしもうたんや。魔物と戦う兎路はんを近くで撮影するために、他の魔物にボコボコにされるエイジはんをな!」
ああ、なるほど。兎路が戦っているシーンを撮影するため、エイジは身体を張ったと言うことか。言われてみれば、誰かが戦っているシーンを近くで撮影しようと思えば、その戦いの最中に身を置く必要があるだろう。その役目をエイジが請け負ったということらしい。
七甲の言い方だと、エイジは他の魔物に殴られながら撮影していたようだ。献身的と言うのも納得である。
「ランキングに乗っとったし、苦労の甲斐はありましたなぁ?」
「へぇ、そんなことがあったのか。何だかんだ言ってエイジさんって兎路さんには特に優しいよな」
「そっ、そんなことよりも!イベントが発端になった事件のこと、知ってます!?」
露骨に話を逸らしたな。照れ隠しか、それとも別の感情からのものなのか。確かめてみたい気持ちはあるものの、私はエイジに助け船を出すことにした。
「昨日しいたけから聞いたよ。平和なイベントだったはずなのに、どうしてあんなことになったのか…」
「おん?何の話や?」
「七甲さんは知らないのか。色々あってイベントが原因でプレイヤー同士の戦争が起きそうなんだよ」
「えぇ…?どういうことやねん…」
セイの全てをすっ飛ばした説明に、事情を詳しくは知らない七甲は困惑を隠せずにいた。私も同じ説明をされたら同じような反応を返していたことだろう。そこで私はもう少し詳しく状況を説明した。
「オンラインゲームあるあるやなぁ。ほんで、ぶつかり合いはいつ起きそうなん?」
「さあ?私はしいたけから聞いた話以上のことは知らないよ。二人はどうだ?」
「ぼくもそれ以上はわからないですね」
「俺は知ってるぜ。何か話が大きくなってて、住人がしゃしゃり出てきたんだってさ」
「「「はぁ?」」」
セイの話によると、ペンダントを巡った揉め事から端を発したプレイヤー同士の抗争は更に話が大きくなったらしい。その原因はお互いの拠点を襲撃したことだった。
プレイヤーが拠点を構える場合、三つの方法がある。それは土地と建物を購入すること、それらを賃貸すること、そして未開の土地を開墾して所有権を認めさせることだ。
一つ目の方法は金が掛かるものの、一度購入すれば土地の使い方は自由であるし建物も改造し放題だ。二つ目の方法はそこまで自由ではないが、代わりに購入するよりは大分安い。三つ目の方法は他人に払う金はあまり掛からないし土地の使い方も自由自在だが…開墾そのものが非常に金も労力も必要だった。
我々のように街の所有者を討伐して奪取することも可能だが、それはかなりのレアケースなので今回は考慮しない。
二つのクランは両方とも本拠地は土地ごと購入しているようだが、襲撃し合った拠点は賃貸契約を結んで借りていた場所だった。その拠点を破壊されて怒り狂ったのはプレイヤーだけではない。その持ち主も同じことだった。
最初に攻撃された全ての元凶となった画像を投稿したクランの拠点は住人の商人から借りていたのだが、実はその商人の背後にはマフィアのような者達がいた。知らなかったとは言え、自分達の所有物を傷つけられて黙っていては面子に関わる。そうして彼らはプレイヤー同士の抗争に参戦すると決断した。
先に仕掛けた後に報復されたクランの拠点は、その地方を領土としている貴族の持ち物だった。こちらはこちらで面子を気にする生き物である。その貴族もまた、戦いに介入することを決断した。
「関わる者が増えれば増えるほど、戦いの規模が大きくなって戦いが始まるまでの時間も延びるだろう。私達は精々高みの見物をしながら、自分達の拠点を誰にも負けないくらい立派なものにしようじゃないか」
「せやな!」
「それこそ今揉めている全員に襲われても跳ね返すくらいの勢いで行こうぜ!」
私達は設計図にない荒唐無稽なことを語り合いながら作業を続ける。その日はログアウトするまでずっと作業を行い、別の日は素材を集め、また作業を行う。そんな日々がしばらく続き…二週間後、ついに我々の拠点が完成するのだった。
次回は1月23日に投稿予定です。




