オリジナル技を試そう その三
明けましておめでとうございます。
今年も拙作をよろしくお願いいたします。
――――――――――
戦闘が終了しました。
従魔ヒュリンギアの種族レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの職業レベルが上昇しました。
――――――――――
戦闘を終えると同時にリンのレベルが上昇した。『槍岩の福鉱山』と違って、こっちの魔物はリンからすると威圧で動けなくなるくらいには強敵だ。得られる経験値も膨大なものになるのだろう。
レベルアップも嬉しいが、それと同じくらいに初見の魔物の素材を剥ぎ取るのはウキウキする。いつものようにアイリスに剥ぎ取りを任せ、彼女が自分で【鑑定】するのを待っていた。
「どうだ?」
「良いアイテムですよ、これ。見てください」
そう言って渡されたのは、一本の牙と鋼の球体だった。命鋼毒蛇のものだろうその牙は、少しだけ沿っていて表面にはノコギリのような波形の突起が幾つもついている。鉄パイプめいて中空になっており、少し色が濃い牙の根元部分はメタリックでありながらも内臓のようにビクンビクンと脈動していた。
もう一つの球体はずっしりと重く、学生時代に陸上部の友人に見せてもらった競技用の砲丸と同じくらいの大きさだ。受け取った時に掌の中でコロンと転がった時、縦に割れた瞳孔が私を見詰めている。おい!これ、眼球かよ!びっくりしたわ!
それはともかくアイリスが真剣な声音だったことから、相当に良いアイテムだったらしい。さて、どんなものか見せてもらおうか。
――――――――――
命鋼毒蛇の鉱毒刃牙 品質:優 レア度:S
毒蛇を模して成長した命鋼。その長い牙。
反りの浅い曲剣のような形状で、無数の細かい突起によってノコギリのようになっている。
内側は中空になっており、先端からは歯の根にある毒腺から猛毒を分泌することが出来る。
命鋼毒蛇の鋼眼球 品質:優 レア度:S
毒蛇を模して成長した命鋼。その眼球。
眼球のような模様をもつ金属の球体のように見えるが、歴とした眼球である。
魔力を通すことで生前の力を取り戻し、その眼光を浴びた弱者は威圧によって動けなくなるだろう。
――――――――――
牙と眼球、両方ともアイリスが唸るのがわかるくらいに優れたアイテムだった。牙は毒を滴らせる剣になるだろうし、眼球もまた魔眼の能力を持っていない者にアイテムを経由してだが使えるようにするらしい。プレイヤーによっては大枚叩いてでも欲しいだろう。
私は試しに両方のアイテムに魔力を通してみる。すると牙の先端からは水銀のようなドロリとした液体が流れ、眼球は大きく開いた瞳孔から妖しい光を放ち始めた。おお!面白いな、これ!
「あの、ガッツリ光を浴びてますけど…大丈夫ですか?」
「ん?ああ、問題ない。自分で自分を威圧したところで意味はないのだろう…いや、そもそも私は状態異常にならないから参考にならんか」
眼球からの光を浴び続けていた私をアイリスは心配してくれたようだが、私に問題は全くなかった。ただしそれは誰でも同じなのか、それとも状態異常が通じない私だけなのかわからない。我ながら被験者には向かないアバターだ。
そこで私はアイリスに二つのアイテムを返却した。その後、彼女は触手の一本で魔眼を握ると魔力を送り込んでいる。それにしても鉄球にしか見えない物体からピカピカと眼光が出ているのは傍目に見るとシュールだなぁ。
「十回しかやっていないので断言は出来ませんが、自分には効かないっぽいですね」
「そうか。まあ、普通は自分に使うことはないと思うか必死に検証するほどのことではないか」
「ふふっ、そうですね」
アイリスは可愛らしく笑ってからアイテムをインベントリに仕舞いこんだ。そうこうしている内に、カルが一匹の命鋼毒蛇を持ってきた。それには傷と言えるものは全くない。紛れもなく、私が即死させた個体だった。
魔術によって即死させると、やはり死体の状態は完璧と言える。剥製……ではないが、そんな感じで使えそうなほどだ。保存するつもりなどないので、そのままアイリスに剥ぎ取ってもらう。すると今度はアイテムとしてはたった一つだが、とてつもなく大きなモノが現れた。
「これは…全身骨格か?」
「みたい、ですね。牙はありませんが…【鑑定】してみます」
剥ぎ取りによってアイテムとなったのは、牙だけ抜けた命鋼毒蛇の全身骨格だった。それも牙以外は頭部から尻尾の先端まで何一つ欠けていない完璧なモノである。
ただし、骨とは言ってもこちらも金属製なので骨格標本を見た時のような一種の生々しさはない。むしろ、蛇のことが大好きな芸術家の作品だと言われても納得してしまいそうだ。
「どうだった?」
「名前は『命鋼毒蛇の鋼骨格』。金属でありながら、魔物の骨でもあるって書いてあります」
「骨でもある…?まさか、これを使って不死を作ることが出来るのか?」
魔物の骨と聞いて、私が真っ先に思い浮かべたのが不死の素材になるかどうかであった。不死の素材となるのはかつて生きていたものだけとされている。鉱石を骨のように整形したとしても素材にはならないのだ。
だが、命鋼毒蛇は生きた魔物である。その骨は金属製であっても、紛れもなく魔物の骨と言える。ならば不死の素材となる条件は十分に満たしているはずだ。
「あ、不死ですか!?さあ…鞭とかに使えそうだとは思いましたけど、そっちは全くわかりません」
「私もここで試そうとは思っていないさ。試すなら一度戻ってからだ」
「それはそうですよね。じゃあしまっちゃいます」
アイリスは安心したように全身骨格をインベントリに収納した。しいたけではあるまいし、危険なフィールドの中で実験を始めようとすることなどないのだ。
「それにしても、全身の骨格が丸ごとドロップしたのは初めてです。レアドロップでしょうか?」
「そうかもしれん。毎回こうなら不死の量産も楽なんだが」
不死の製作は楽しいのだが、同じことを繰り返すのは結構手間がかかる。必要なアイテムが幾つもあるし、骨を揃えて身体の形に整えなければならないからだ。最初はプラモデル感覚で行けるものの、繰り返していると流石に飽きてしまうのである。
だが、最初から全身骨格があればその手間が省ける。煩雑な手間から解放されれば量産も捗るというものだ。
「このまま探索を再開する前に、砂の収集を行おう。リン、監視は任せる。カルは万が一に備えておいて欲しい」
「クルルッ!」
「グオオッ!」
それから私とアイリスは砂を掘っては樽へと放り込む作業を再開した。その間、周囲の監視はリンに任せておけば問題はない。彼女の【龍眼】は視界に映しておけば離れた位置にいる敵も発見するからだ。
もしも余所見をしていて見逃したとしてもカルがいる。カルはその豊富な体力と頑丈な鱗によって守ってくれるはず。ダメージを負うかもしれないが、フィールドに出る以上は無傷でいられることの方が難しい。耐えてもらうしかないだろう。
「そうだ。私は進化したのだが、アイリスはまだか?」
「えっと、今89レベルなのでもう少しです」
「そうだったのか。それなら今日中に上げきってしまいたいな」
「そうですね!」
アイリスもまた90レベルにもうすぐ届くようだ。それなら今日中に上げてしまいたいと思ってしまうのは人の性というものだろう。砂の回収も重要だが、一刻も早く終わらせて魔物を狩って経験値を稼ぐのだ。
私達二人が砂を集めている間、幸運にも魔物に襲撃されることはなかった。そうして樽の中身が限界にまで達した後、インベントリに収納してから探索を再開する。その際、魔力はやはり減少していない。アイリスが作ったアイテムのお陰であった。
「さて、リンよ。最も近い魔物はどこだ?」
「クルル」
リンは一点を見つめつつ鼻先で指し示す。リンの【龍眼】は本当に役に立ってくれる。龍は普通の意味での強さだけでなく、能力まで強力な種族だとつくづく実感した。
リンが見つけた方向に向かってしばらく歩いた後、私も魔力探知を使ってみる。すると先程の命鋼毒蛇ほどではない反応が砂の中に十個も固まっていた。遮蔽物が少ない分、砂の中に隠れるのは基本なのかもしれない。
「今回も先手を取るぞ。星魔陣起動、黒雷」
五条の黒い雷が敵へと向かい、それが一体ずつを捉えた。全てが当たった手応えがあり、向こうからやって来たのは八体の獣であった。
おいおい、また即死が成功したのか?ううむ、やはり私の持つ様々な能力のお陰で成功率が上昇していると思うべきだ。そんなことを考えながら、我々は新たな敵に備えて構えるのだった。
次回は1月7日に投稿予定です。




