オリジナル技を試そう その一
「浮かれていても日課を忘れることはないようだな」
アイリスにオリジナル技を使うべくフィールドへ出ると告げた私だったが、自然とその足は外への最短経路ではなく、宮殿の中庭へと向いていた。このルートを歩くことがもう完全に習慣化しているようだ。
しかし、そのお陰で賢樹への水やりを忘れずに行うことが出来た。独り言を言いながら、私は急成長した賢樹を見上げていた。
「一気に立派になったものだなぁ。もう植木鉢にいた時よりも遥かに大きいじゃないか」
私は感心しながら嬉しそうに枝を揺らす賢樹の幹を優しく撫でてやる。昨日まで賢樹はリアルの樹木よりは遥かに早いが、それでも少しずつ成長していた。しかし、今日中庭に行くと樹高が五メートルほどにまで成長していたのだ。
中庭を訪れた瞬間、驚愕によってオリジナル技云々で舞い上がっていた気持ちが吹き飛んでしまった。何でこんなことになったんだ?昨日何か…あっ!
「そう言えば昨日はカルとリンの鱗をあげたんだったな。そのお陰か?」
私が尋ねると、賢樹はその通りだとでも言うように枝を前後に揺らす。元々カルの糞を肥料として与えていたし、その鱗が肥料として最適であっても不思議ではない。集めていた鱗を取り上げていたらこうはならなかったのだろう。何が何に繋がるか、わからないものだ。
賢樹が大きくなったことを鑑みて、私は一度に行う水やりの量を増やしておく。バシャバシャと危険物である血液を飲み込んで、賢樹は心地よさそうにゆっくりと幹を揺らした。
「こんなもので…良さそうだな。この調子だともうすぐ実を付けられそうにも見えるが、どうだ?」
私が賢樹に尋ねると、否定するように枝を横に振り回す。実が出来るのにはまだまだ時間が必要そうだ。色々と使い道がある実なので、一刻も早く安定的に収穫させてもらいたい。しいたけも思い出したかのように実はまだかと言い出すからな…。
それよりも私が気になってしまうのは、賢樹の剪定についてだった。急成長によって枝も太くなると同時に増えてしまい、密集し過ぎているのである。剪定しなければならないのだが、今は皆が待っている。後回しにさせてもらおうか。
「では、そろそろ私は行く。今度剪定してやるからな」
いってらっしゃいと言うように賢樹は枝を振って見送ってくれる。後ろから聞こえるバサバサと言う音を背に、私は中庭から宮殿の外を目指した。
アイリスから届いた待ち合わせ場所はシラツキの内部である。私はカルとリンを連れてシラツキの格納庫へと向かう。甲板に二頭を乗せた後、私は艦橋へと上がった。
「遅いぜ~、艦長」
「すまんな。賢樹が急成長していたせいで少し遅くなった」
「え、何それ気になる」
艦橋にいたのはいつも通りアイリスとしいたけだった。二人はとっくに出発の準備を整えており、後は艦長として登録されている私の命令一つで飛び立てる状況だ。
今、シラツキの中にはクランの全員が集まっている。そう、全員なのだ。全員が同じ時間帯にログインしていたのは完璧に偶然だが、新システムであるオリジナル技を試したいからと集まる辺り似た者同士なのだと思う。
「道中で説明するさ。それよりも、目的地は『餓魂の錆砂海』でいいんだな?」
「はい!必要な素材を収集しつつ、強い敵が出てくる場所と言ったらあそこだけですから」
なるほど。我々はどこかにいる100レベルのプレイヤーには及ばないものの、90レベルに到達している。オリジナル技は基本的に既存の武技や魔術よりも強いので、弱い敵では効果のほどが分かりにくい。試し撃ちの相手はそこそこ強くあって欲しいのだ。
上記の事情に街の改修に必要な素材を収集することを合わせると、やはり『餓魂の錆砂海』が最も相応しい。ガンガン掘りながら、色々と試させてもらおう。
目的地を確認したところで、私は艦内放送で出発することを告げてからシラツキに命令する。以前と同じように高高度を飛行すれば『餓魂の錆砂海』までは快適な空の旅になるだろう。しかし、油断は禁物。シラツキのレーダーはチェックしておかねばなるまいよ。
ただ、やはり移動中は暇を持て余してしまう。レーダーを見ながら自然と私達は雑談に興じ始めていた。
「イザームはやっぱり魔術を作ったんですか?」
「ああ。取りあえず二つの魔術を組み合わせてみた。三つ以上はまだやっていないよ」
「王様は組み合わせられる魔術が多いからねぇ~」
しいたけの指摘通り、私は使える魔術の数が多すぎて組み合わせが無数に存在する。二つの組み合わせでも相性などから考えることが多かったのに、三つ以上となると…考えるだけで一日が過ぎてしまうかもしれない。
それ故にオリジナル技の有用性を確かめた後からゆっくりと考えるつもりである。今はとにかく、先ほど思い付いたオリジナル技を試すのみだ。
「話は戻すけどさ、賢樹って中庭のアレだよね?急成長ってどう言うことよ?」
「言葉通りの意味だぞ。今日ログインしたら立派な木になっていたんだ」
「そんなことがあったんですか」
理由は当たりがついているものの、説明するとしいたけが実験のために鱗を寄越せと言い出しそうだ。そうなると断るのが面倒なので言及することはなかった。
「成長したってことは実は?実はついたのかい!?」
「いや、まだらしい。賢樹が自己申告していた」
「まだなのぉ?実験したかったのに…はっ!成長促進剤を作れば良いのでは…?」
しいたけは小声で何かをブツブツと呟いている。何かを思い付いた後に言った内容は聞き取れなかったが、またろくでもないことを仕出かしそうな気がする。賢樹の嫌がることはしないように注意しておくべきかもしれない。
しかし、私が何かを言う前にシラツキは目的地の上空へとたどり着いてしまった。今回は珍しくしいたけも戦いに出ることに積極的なので、彼女は嬉々として艦橋から飛び出して行く。私とアイリスは一度顔を見合せてから、苦笑と共に外へ出た。
人数の関係で前回よりも時間を掛けながら降下した我々は、幾つかのパーティーに分かれて行動することにした。全員で一ヶ所に集まって行動するのも悪くないのだが、今回の目的は各自のオリジナルを試すこと。人数が多すぎると検証が難しくなると判断したのである。
「さて、私達も行くか」
「はい!」
「グオオン!」
「クルルッ!」
全員に砂集め用のスコップと保存用の樽が行き渡ったのを確認した後、私達のパーティーも移動を開始した。メンバーはカルとリンにアイリスを加えた四人組である。
人数は少な目かつ一人は戦闘が苦手なのだが、彼女には何か秘策があるらしい。それを信じて四人という少人数で行動することにしたのだ。
それに人数が少ないことは私にも利点がある。それはリンに経験を積ませることが出来るからだ。私とカルでいつでもフォロー出来るように準備しつつ、リンには基本的に思うまま戦ってもらう。それで傷を負うこともあるだろうが、心を鬼にして経験を積むことを優先する予定だった。
私がリンに跨がり、アイリスがカルに抱えられた状態で空中を移動する。相変わらずフィールドの中央部は砂嵐が吹き荒れているせいで近付けないので、自然と外縁部を飛ぶことになった。
「それにしても、仕事が早いな。流石だ」
「えへへ、ありがとうございます」
私は心の底から感心しつつ、手首に着けたブレスレットを触る。これはアイリスが作ったアイテムで、アイテム名は『抗魂の腕輪』と言う。効果は『餓魂の錆砂海』で魔力を吸い取られるのを防ぐことだった。
『餓魂の錆砂海』でしか使えない、非常に限定的な状況でしか活躍しないものの、今の我々にとって大変ありがたい装備だ。特にオリジナル技はどれも魔力を消費するので、一回でも多くオリジナル技を試すための魔力の無駄な消費を抑えられるのはとても嬉しい。そんな装備を人数分用意していたのだから、称賛されてしかるべきだろう。
その立役者であるアイリスは照れるように触手をくねらせた。そんなアイリスが揺らす触手をカルは目で追っている。目の前で動くものが気になるのはわかるが、余所見をして墜落するようなことのないようにしろよ?
「ふむ…大分離れたし、この辺りで降りようか」
「そうですね」
「グオン」
「クルッ」
しばらく飛んだ後、我々は地上へと着陸した。他の仲間達の姿は肉眼では豆粒のようにしか見えず、『槍岩の福鉱山』の時のようにアイリスから双眼鏡を借りてようやく顔の判別がつく状態だ。リンには見えているのだろうが、それよりもリンには見てもらわねばならないものがあった。
「さあ、リン。最も近い位置にいる敵はどこだ?」
「クルゥ…クルルッ!」
リンには【龍眼】という優れた探知系の能力がある。これを使えば敵の位置はほぼ確実に掴むことが可能だ。過信は禁物だが、今日は迅速な敵の発見のため頼らせてもらうつもりだった。
私がリンに尋ねると、リンは首を上げて周囲を見回す。その直後、彼女はある方向を見ながら鋭く鳴いた。早速発見したらしい。私達は頷き合うと、その方向へと歩き出すのだった。
次回は12月30日に投稿予定です。




