カルとリン、空中にて
――――――――――
戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
種族レベルが規定値に達しました。進化が可能です。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが規定値に達しました。転職が可能です。
――――――――――
あっ、私のレベルが上がったのか。ほぼ何もしていなかった上に倒している敵は圧倒的に格下で入ってくる経験値は皆無に等しいはずなのだが、そんな微々たる経験値でも塵も積もれば山となって上限にまで達するらしい。嬉しい誤算であった。
「グルル?」
「いや、気にするな。何かやるとしたら一度拠点に戻ってからだよ」
カルが口に大きな魚を咥えながら心配そうにこちらを窺うので、安心させるように頭を撫でてやる。アナウンスが聞こえたことで不意に動きを止めた私に何か問題が生じたのかと勘違いしたようだ。可愛い奴め、もっとワシワシ撫でてやろう。
気持ち良さそうに目を細めつつバリバリと音を立てて魚を食らうカルを構っていると、逆側から音を立てずに近寄ってきたリンが無言で頭を押し付けてくる。初めて会った時にはクールだったが、今では随分と甘えるようになった。心を開いてくれたようでとても嬉しい。私もまた無言でその頭を撫でた。
「幾つか群れを潰したが、進化して得た力は大体把握したな?これで帰る…のは不服か」
カルとリンは帰るという言葉を聞いた瞬間に嫌そうな唸り声を出す。まだまだ暴れ足りないらしい。私もレベルが上がったので進化と転職をしたかったのだが、そうも行かなくなったようだ。
では、どうしようか?このまま他の岩場を巡って雑魚狩りに励むべきか。それとも別の場所に狩場を移すべきか。カルとリンのためを思えばこそ、悩ましいところである。
「む?アイリスから連絡か」
私が一人で悩んでいると、アイリスからメッセージが届いた。悩んでいたこともあって気晴らしを兼ねてメッセージを開くと、どうやら採取のお誘いであるらしい。
だが、目的地は『餓魂の錆砂海』ではない。それとは別に必要となるアイテムがある『槍岩の福鉱山』へと向かうようだ。同行する者はジゴロウと邯那と羅雅亜の三人らしい。
ふむ、『槍岩の福鉱山』か…カルとリンにちょうど良い場所かもしれんな。生産職のアイリスはともかく、残りの三人はプレイヤーの間でも最強クラスだと証明された猛者達だ。私が相当の謎采配をしない限り危うくなる場面はないだろう。
「よし!同行させてもらうとしようか。我々は少し遠い場所にいるが、飛べるからな。現地で集合させてもらおう」
私はアイリスに同行させてもらいたいと言う旨と集合場所についてメッセージを送る。その後、カルが魚を食べ終わると同時に早速移動を開始した。
アイリス達は宮殿の近くから鉱人の住む『メペの街』に繋がる地下道から『槍岩の福鉱山』に真っ直ぐ向かうので、かなりスムーズに到着するはず。飛ぶことで色々と無視して進めるとは言え急いだ方が良いのだ。
「クルルゥ…」
「む?私に乗って欲しいのか?」
「クルッ!」
私はいつも通りカルに乗ろうとした時、リンが自分の背中を私に押し付けて来た。どうやら自分に乗れと主張しているらしい。
リンに乗るのはイベントの競龍の本戦以来である。幼龍になって小さくなってしまったのでこれまでは乗ることが出来なかったものの、劣龍に進化して再び私を乗せられる大きさに戻った。それもあって久々に乗って欲しいようだ。
「ふむ…さっきはカルに乗ったし、次はリンに乗せてもらおうか。これからは交互に乗せてくれると助かるよ」
「グオォン…」
「クルルゥ!」
交互に乗ると宣言するとカルは残念そうに唸り、リンは嬉しそうに鳴いた。どちらか一方を優遇したり逆に冷遇したりするつもりはないので、ここは公平に乗せてもらうのだ。
私はリンの背中に跨がった。リンは筋肉質なカルよりもスマートなので、彼女の方が跨がるのは簡単である。うんうん、こうして跨がっているとイベントの時を思い出すなぁ。
今行われているイベントでアマハの画像が映っていた。それ故に彼女とその相棒が元気なのは知っているが、今はどこで何をしているのだろうか?進化したリンと再会させてやりたいし、先達であるカルの姿も見せてやりたいものだ。
「クルルルル!」
私がしみじみとアマハ達のことを思い出していると、リンは早速飛び始める。ただし、ただ飛んだだけではない。急加速によって一瞬でトップスピードになると、アクロバティック飛行を開始したのである。
カルも私を背中に乗せたまま複雑な軌道で飛べるが、速度と小回りにおいてはリンの方が上だ。リンは私を乗せている状態でもその飛行能力を遺憾なく発揮していた…いや、し過ぎていた。
「うごごごご!?」
「グオオン!?」
やばい。いや、カルに乗っている時とは比べ物にならないほどに視界が動きまくっている!酔う!本気で酔うぞ!?絶叫マシンなんて目じゃないくらいに上下左右に凄まじい勢いで揺さぶられる!
リンに速度を抑えるように指示したいのは山々だが、声を出すことすらも難しい。戦闘機のパイロットでもこれほどの動きでは失神不可避だろう。本当にここがゲームで良かった。
しかし、リンが飛び続ける限り私への責め苦も終わらない。どうやって止めさせようか…話せないのなら手足を使えば良いのだろうが、生憎今は四本の腕も二本の足もリンにしがみつくために使っている。尻尾は空いているが、これではリンを攻撃することになるので嫌われるかもしれない。ううむ、どうしたら…
「ゴアアッ!」
「クルッ!?」
「ぬわあああ!?」
私が思い悩んでいると、後方からカルが大きな声で短く吼える。その声には明確な怒りが込められていて、それがわかったのかリンは驚いて急に止まってしまった。
その瞬間、私はリンの背中から放り出されてしまう。口では悲鳴を上げながらも、慣性の働きという奴かと思いながら頭の中だけはそれなりに冷静さを保っていた。きっとリンの背中にいた時の方が恐ろしかったからだろう。
すぐさま冷静さを取り戻した私は、空中で減速してから停止する。落ち着いたところでリンの方を見ると、驚いたことにカルはリンを威圧するように見下ろしつつ低く唸っていた。
「グルルルル…」
「クルゥゥゥ…」
カルとは逆にリンは項垂れている。どうやらカルに叱られているようだ。普段は優しいカルだからこそ、怒った時はとても恐ろしく映るらしい。怯えているのか小刻みに震えながらか細い鳴き声を出していた。
カルは私のために怒ってくれているし、リンも反省しているようだ。ならばこれ以上何か言う必要はない。そろそろ間に入って仲裁してやるとしようか。
「カル、その辺にしておけ。怒ってくれてありがとう。助かったよ」
「グルル…」
「リンも反省しただろう。次からは私が乗っている時に緊急事態以外であんな無茶な飛行はしないでくれ。わかったな?」
「クゥゥ…」
「じゃあ仲直りしてから再出発だ」
両者の間に入ってそれぞれを撫でてやってから仲直りするように促す。リンは恐る恐る鼻先をカルに近付けると、カルは普段通りに優しく擦っていた。よしよし、これで禍根は残らないだろう。
気を取り直して私はリンの背中に乗る。今度は色々と考えながら飛んでいるようで、それなりに速いがカルが余裕をもって追随出来る速度で真っ直ぐに飛び始めた。これなら私が悶絶することもない。カルも大人しく後ろから着いてきていた。
「『槍岩の福鉱山』が見えてきたな。じゃあリン、そろそろ高度を下げてくれ」
「クル?」
「以前、空からフィールドに入ると危険な魔物に襲われたんだ。我々だけではまだ荷が重い相手だろうし、慎重に行こう」
「グルルルル…」
初めて『槍岩の福鉱山』に入った時のことは鮮烈に覚えている。今のカルよりもずっと大きい飛龍に襲われて墜落したのだ。
墜落したからこそ鉱人と会えたので怪我の功名と言っても良いのだが、それは結果論でしかない。何も出来ずに全滅していた可能性を考えるとやはり空から近付くのは控えるべきなのだ。
あの時のことを思い出したのか、カルは苛立ったように喉を鳴らしている。普段は優しくて大人しいカルであるが、戦いに関しては負けず嫌いで執念深い。自分を墜落させた相手を未だに許していないのだろう。
しかし、同時にまだ勝てないこともわかっているらしい。忌々しげに何もいない上空を睨みながらも、私達と一緒に高度を落としてそのまま着陸した。
「ここからは陸路で…っと。アイリス達がいるぞ」
着陸してから少し進んだところで、アイリス達が待っていた。どうやら『メペの街』の出口から我々を迎えるために降りてきてくれたらしい。四人の方も私に気付いたらしく、こちらの方に手を振ってくれた。
「よォ、兄弟とカル坊…にリンの嬢ちゃんかァ?一気に大きくなってんなァ」
「リンちゃんも進化したんですね!カル君もカッコ良くなってますよ!」
「あらあら、美男と美女が並んでるわねぇ」
「マッシブなカル君に比べると随分とスマートなんだね。個性があって良いじゃないか」
進化したカルとリンの姿を見て、四人はそれぞれの言葉で祝福してくれた。四人に誉められたのが嬉しいのか、カルもリンも嬉しそうに喉を鳴らしている。ふふふ、仲間達に誉められると私も誇らしい気持ちになるな!
しかし、私にはもっと気になることがあった。それはジゴロウの背後に漂う半透明な円盤だった。輪郭が安定せずに揺らぐそれはフワフワと浮かびながらジゴロウの背中に追従している。何だ、それは?気になって仕方がないだろう!
「ジゴロウよ、後ろのそれは何だ?」
「これかァ?実は昨日進化したんだけどよォ、そん時から何か浮かんでんだよなァ」
「進化していたのか。何と言う種族なんだ?」
「金色夜叉だってよォ。ついでに『戦女神の寵鬼』ってェ称号も貰ったぜェ」
レベル90へと一足速くたどり着いたジゴロウは、そう言って背後に浮かぶ円盤を強く発光させるのだった。
次回は12月10日に投稿予定です。




