進化と転職(リン編一回目)
カルの進化と転職が終わったからには、リンの進化と転職を行わねばならない。リンにとっては最初の進化と転職と言うこともあり、私はとても楽しみにしている。
どんな種族と職業になるのかはもうわかっている。十中八九、劣龍になるのだろう。それはわかっているのだで、楽しみにしているのはそこではない。私が楽しみにしているのは、リンがどんな姿になるのかであった。
「カルはこの大きさから馬ほどにまでなった。リンも競龍の時くらいになるのか?」
「キュー?」
私は足元にいたリンを抱き上げながら、進化後の姿について思いを馳せる。きっと私が乗っても大丈夫なくらい大きくなることだろう。ううむ、そうしたら頭や肩に乗せられるのは今日で最後になるのか。残念だが、私のわがままでリンの成長を止める訳にも行かない。名残惜しいが、進化させるとしようか。
「リン、お前は何か欲しい能力はあるか?二つも枠があるから、あったら心置きなく言ってくれ」
「キュッ!」
「ほう、あるのか。それは魔術系か?それとも…」
「キューッ!」
「…魔術系なんだな」
私の質問に対してリンは食い気味に答えた。カルとは違って積極的に魔術を使うリンは、やはり魔術系の能力をご所望らしい。これはもう魔術中心に育てるのは確定だ。
魔術系と言うと新たな属性魔術か、それとも【魔力回復速度上昇】などの魔術を用いるのを補助する能力か。リンはどっちを選ぶのだろう?
「使える魔術を増やしたいか?」
「キュキュゥ」
「ふむ、そっちは要らないのか。じゃあ補助系となると【魔力回復速度上昇】や【魔力制御】くらいだ。それでもいいか?」
「キュー!キュゥ!」
「んん?違うのか?【魔力回復速度上昇】は…欲しいんだな?【魔力制御】は要らないとなると、何が要るんだ…?」
「キュッ!キュキュ!」
頭を悩ませる私に向かって、リンは全身で何かをアピールしている。首を大きく回して円を描いているので、それに何か意味があるのだろう。
魔術関連で円に関係する能力…リンが知っていることから、見たことがあると仮定すると私達の誰かが使える能力だと思われる。一度私の能力を確認して…ひょっとして、これか?
「もしかして【魔法陣】が使いたいのか?」
「キュッ!」
リンはその通りだと言わんばかりに大きく頷いた。円の動きは【魔法陣】を使った時のエフェクトを表現していたのである。分かりにくいようで分かりやすいジェスチャーだった。
よし。それじゃあ追加する能力も決まったことだし、早速進化と行こう。さあ、成長した姿を見せてくれ!
――――――――――
従魔、ヒュリンギアが【魔力回復速度上昇】を獲得しました。
従魔、ヒュリンギアが【魔法陣】を獲得しました。
従魔、ヒュリンギアが進化を開始します。
――――――――――
「キュゥゥ…クルルルルルルッ!」
リンは頭を上に上げた状態で進化を開始した。カルの時と同じように、鱗をパラパラと落としながら身体が急激に大きくなっていく。これを見るのは二度目なので、あの時のように驚くことはなかった。
進化しながらリンは可愛らしい雄叫びを上げていたのだが、進化してもその声は高いままだ。そこはカルと大きく違う。こう言うところに個体差があって面白いな。
大きくなったリンはやはり美しかった。白銀の鱗と細身で引き締まった身体は優美であり、蒼玉を思わせる切れ長の瞳はクールな雰囲気を醸し出している。背中にある五つの突起は太さと長さを増していて、その間に張っている透明な翼膜はプリズムのように光を屈折させているのかキラキラと七色に輝いていた。
翼の有無など異なる部分も多々あるが、成長したリンはやはり疾駆封龍だった時に近い見た目になっている。やはりリンは美しい龍になった。私は無言で感動していた。
この感動を残しておきたくなった私は、余計なものが写っていないことを確認してから翼を大きく広げるリンの姿をスクリーンショットで撮影する。
よしよし、これを後でアイリス達にも見せてやろう。イベント用に投稿もしておくか?今はそれよりも次は転職だ。
――――――――――
従魔、ヒュリンギアが劣龍に進化しました。
従魔、ヒュリンギアが劣龍に転職しました。
転職に伴い、ヒュリンギアが【龍眼】を獲得しました。
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転職も行った時、流れたアナウンスを聞いて驚いた。何故なら、【龍眼】などと言う聞いたことのない能力を得たからである。
確かカルの時は【咆哮】の能力を覚えたんだったか。勝手に同じ能力を覚えると決めつけていたので、流石にこれは予想外である。どんな効果の能力なのだろうか?
「グルルルル?」
「クルルルル!」
一気に大きくなったリンの見て、カルは不思議そうに鼻先を寄せる。するとリンは細長くて先端が尖っている尻尾でその鼻先をペシリと叩いた。
驚いたように面食らうカルだったが、これはカルの方が悪い。ついさっきまでは赤ん坊だったリンだが、彼女は歴とした女の子である。成長して一歩大人に近付いたのだから、他の雄に無遠慮に顔を近付けられたらビックリするに決まっている。デリカシーに欠けていてはモテないぞ!まあ、私もモテたためしがないのだが。
私がモテないのはともかく、叩かれたカルは何故叩かれたのかわかっていないらしい。ただ、理由がわからない以上は不用意に接近しても同じことになることはわかっているのだろう。喉をグルグルと鳴らしながら、しきりに首を捻っていた。
そんなカルに苦笑しながら、私は地面に散らばったカルとリンの鱗を回収していく。進化するに連れてカルの落とす鱗は数を増しているので、全て拾うのに時間がかかる。特に翼を勢い良く開いた時に広範囲へと散らばってしまうん…?
「おい、賢樹さんや。一体、何をしておるのかね?」
私が鱗を集めている時にふと賢樹の方を見ると、枝を動かして地面に落ちていたカルの鱗をかき集めているではないか。しかも鱗を自分の根本の土の下に埋めようとしている。
こいつ、どさくさに紛れて鱗を肥料にしようとしていたな?油断も隙もない奴め…私は呆れながらも鱗を掘り返すようなことはせず、むしろ根本を掘ってから何枚かの鱗を埋めてやった。
「鱗の数は多いのだから、少しぐらい分けてやることは可能だ。だから今みたいなコソ泥染みた真似は二度とするんじゃないぞ」
私が説教すると、賢樹は反省しているのか枝を垂れさせながら上下に動かした。反省しているのならばそれで良い。繰り返したら…剪定する時に少し多めに葉っぱを切り落としてハゲにしてやろう。
私が不穏なことを考えていると察したのか、賢樹は枝を垂らしたままプルプルと震えている。そこまで怖がらせるつもりはなかったので、言い過ぎたことを謝る意味を込めて噴水から血を掬うと根本に掛けてやった。
「これで良し、と。何はともあれ、進化と転職は上手く行ったな。次はお前達の新たな力がどんなものか、見せてもらおうか」
「グオン!」
「クルル!」
言うが早いか、私は何時ものようにカルの背中に飛び乗った。カルとリンも新たな力を一刻も早く試したかったのか、嬉々として空高く上っていく。空へと飛び立った我々を見送るように、賢樹は枝を左右に振っていた。
さて、これから進化した二人の力を見せてもらう訳だが…どこに向かえば良いのだろうか?リンは進化したと言っても、この大陸ではまだ弱い方だ。安全面を考慮するのなら、リンの経験値稼ぎにも用いた海側に行くべきだろう。
しかし、カルと私がいることに加えて空中への攻撃手段を持つ魔物を見たことがない川岸も捨て難い。動きの鈍い蟹などは格好の獲物だろう。どちらにするべきか…よし、決めたぞ。
「冷静に考えれば、川岸の魔物はリンの攻撃が通用しない可能性が高い。これまでとの比較も見たいし、ここは海に向かおうか」
「グオオン!」
「クルルッ!」
カルとリンは元気良く返事をすると、海を目指して飛翔する。その時、リンの速度に私は驚いた。カルは小回りこそ苦手だが、パワーがあるからこそ直線を飛ぶのは得意だ。しかも【龍翼】の能力を得たからか、その速度は明らかに上昇している。
にもかかわらず、リンの飛行速度はそれを上回っているのだ。しかも単に同じ速度で飛ぶのではなく、カルの周囲を踊るようにクルクルと回るなどのアクロバティック飛行までしている。軽やかな動きに私もカルも思わず呆けてしまった。
「凄いな…敏捷が高いとあんなに機敏な動きが出来るのか」
「グオゥゥ…」
「落ち込むなよ、カル。その分、お前の方がパワーでもタフネスでも上回っている。大切なのは自分の持ち味を活かすことだ」
「グオン!」
まだ一度進化しただけのリンが既に飛行についてはカルよりも優れているのだ。この分野についてカルがリンに追い付く日は来ないだろう。
それを理解して落ち込んだのだろうが、カルの良さは飛行能力の高さではない。頑丈な鱗による防御力と豊富な体力に任せて突撃し、凄まじい膂力で敵を叩き潰すのがカルの戦いである。空中での機動力など、カルには不要なのだ。
励ました効果だろうか、カルは力強く吼えている。よしよし、やる気になってくれたようだな。これから新たな力を試そうとしているのにモチベーションが下がっていては、何かしら影響があるかもしれない。本調子に戻ってくれて良かった。
「目的地の岩場が見えてきたぞ。雑魚が相手ではオーバーキルになるかもしれないが、遠慮はせずに本気を見せてくれよ?」
「グオオン!」
「クルルル!」
二頭は威勢良く吼えてから岩場に向かって急降下していく。さあ、進化後の最初の戦いだ。存分に力を見せてくれ!
次回は12月2日に投稿予定です。




