移動中に画像閲覧
「シラツキ、こちらに向かってくる敵はいるか?」
『レーダーノ圏内ニハ存在シマセン』
「ありがとう。だが、『誘惑の闇森』の上空を通る時は特に注意しろ。大昔から存在する怪物と戦うのはまだ早すぎる」
『了解シマシタ』
飛行し始めてすぐに、私はシラツキに警戒を促す。空中の敵は未知数であるし、何よりも『誘惑の闇森』には天樹殻皇帝百足という化物の上を通過することになるのだ。警戒し過ぎるくらいでちょうど良いのである。
シラツキに命令した後、私は艦長の椅子にもたれかかった状態でシラツキのモニターを眺める。現在、我々はティンブリカ大陸を被う巨大な黒雲と大陸の中間の高度を維持していた。
ここまで離れていれば地上から何かをされることは早々ないだろうし、万が一にも黒雲の上から何かが来たとしても対応出来る。自分でも臆病なほど警戒しているとは思うが、これも性分なので仕方があるまい。
「あのさ、『誘惑の闇森』にいる天樹殻皇帝百足だっけ?それってそんなに強いの?」
「戦っていないから、正確な強さはわからん。だが、あの巨体で弱い訳がないし…何よりも闇森人が森の神と呼び、職業が土地神となっていた正真正銘の化物だ。少なくとも我々のクランだけで勝てるとは思えんよ。あの時も、そして今も」
今はシラツキのAIによる自動操縦状態なので暇になったしいたけは、私にあの化物について尋ねる。それに対して私は正直な感想を述べた。
あの時よりも我々は確実に強くなっている。だが、それを考慮してもあの化物…天樹殻皇帝百足と我々の差はほぼ変わらないだろう。仮に埋まっているとしても誤差の範囲である。全滅するまでの時間が一分から二分になる程度だ。
あくまでも私の予想でしかないが、決して的外れな予想ではないと思っている。それに無闇に喧嘩を売れば我々だけでなく闇森人の里も滅びかねない。倒す算段がつくまでは決して会いたくない相手である。
遠目でも本物を見ればしいたけも納得すると…いや、しいたけの性格からして遠目にでも発見してしまえば突撃するかもしれない。頼むから姿を見せないでくれよ?そのために高高度を飛んでいるのだから。
「そっかー、残念。どんなアイテムがドロップするのか楽しみだったんだけどなー」
「土地神なんて職業に就いている魔物のドロップアイテム…確かに気になりますね」
「その気持ちはわからんでもないが、絶対に手を出すなよ?フリでも何でもないからな?」
へーい、としいたけはわかっているのかわかっていないのかわからない返事をする。本当に頼むから勝手に手出しをしないでいて欲しい。これまでの活動で築き上げた闇森人との信頼関係が一気に崩れるかもしれないのだから。
「あっ!イザームはそう言えばご存じですか?リンちゃんの画像が総合ランキングに載ってるんですよ!」
「何?」
リンの画像に総合ランキングと言うと、今開催されているイベントのことだろう。画像を投稿してから完全に放置していたのだが、驚いたことにランキングに載っていたらしい。
「そうそう!その話しようと思ってたんだよ!あの寝起き表情…うへへへへ」
「しいたけ、リンが成長するまで近付くなよ」
「普通に声が気持ち悪いです」
私だけでなく、アイリスもしいたけに辛辣なことを言う。しかし本人の耳には届いていないようだった。馬耳東風とはこう言うことか。
やれやれ、と思いながら私はイベントのランキングを開いてみる。すると総合ランキングでは十九位、『生物』のジャンルでは三位と健闘していた。おお、やはりリンの愛らしさは全人類に通じると見える。ふふふ、誇らしい気分だ!
「ところで、一位と二位は…おや?」
そうなると愛らしいリンを押さえて一位と二位に君臨する画像が何なのか気になってしまう。ランキングにて『生物』のジャンルを選択し、その頂点に立つ画像は…群青色の髪を持つ森人が跨がる、同じく群青色の鱗を持つ一頭の龍の画像であった。
この組み合わせには見覚えが有りすぎる。そう、イベントの『競龍』において首位争いで私に勝利したアマハと彼女が勝ち取った相棒の龍だ。結局、名前はどうなったのだろうか?非常に気になる。
画像の構図は空を飛ぶ龍に乗ったアマハが、地上で武器を振り上げる小鬼や大鬼の群れと戦っている場面だった。龍が群れを威嚇するように大きな口を開け、その上に跨がるアマハが矢を放つ瞬間を捉えた画像は躍動感に溢れていてとても凛々しい。一位なのも頷ける画像である。
アマハ本人が映っていることからもわかるように、これは彼女が撮影した画像ではない。恐らくは彼女のクランメンバーなどが撮影したのだろう。素晴らしい一枚だ。
「二位は…何だこれは?」
二位の画像もまた、一位と三位と同じ龍が映っている画像だった。映っているのは一頭の幼龍を抱く女性である。
幼龍を抱いていることからも明らかだが、彼女は競龍で三位に入賞した配信者だ。そんな彼女と幼龍が上目遣いでこちらを見ている、と言うのが画像の全容なのだが…これは『生物』と言うジャンルで投稿して良いものなのか?半分は『人物』だと思うのだが…?
「それね~、投稿された順番が面白いんだぜ?」
「と言うと?」
「イザームはイベントが始まってすぐのタイミングで撮影して、そのまま投稿したんですよね?問題はその後なんです」
まず、イベントのランキングを賑わせたのは私の画像だったらしい。リンの画像は瞬く間にポイントを稼ぎ、一時は総合ランキングの八位にまで到達していたのだとか。
それに注目したのが二位の配信者である。彼女は自分と相棒の幼龍の画像を投稿した。私とは違って数多のファンがいる彼女の画像は、リンの画像で『生物』のジャンルが注目されていたこともあってランキングでリンの画像を抜き去った。
しかし、その最も盛り上がったタイミングでアマハの画像が投稿された。可愛い系だったこれまでの二枚とは異なり、カッコいい系だったアマハの画像はプレイヤー達の目に鮮烈な印象を与えたらしい。配信者の画像を一瞬で抜き、『生物』のジャンルも総合ランキングでも一位に君臨する画像となったのだ。
「総合ランキングだと圧倒的なポイントって感じじゃありませんけど、『生物』のジャンルだとまた話題になる程の何かがない限り一位は揺るがないでしょう」
「掲示板は盛り上がってたよ。一位になった時にはファンがイキってたけど、抜かれた瞬間にアンチがこれでもかって具合に煽ったのが悪かったね」
「…聞きたくないような気もするが、最終的にどうなったんだ?」
「激しいレスバになってから、終いにゃお互いに特定してPK宣言し始めたのさ。挙げ句、両方とも頭を冷やせってんで掲示板からBANされたんだよね」
アイリスは冷静に分析した意見を述べ、しいたけは当時の様子を思い出したのかケラケラと笑っていた。どうやら公式の掲示板であるのにヒートアップした者達がいたようだ。確かに書き込んだ者を特定して排除しに行くと言うのはやり過ぎだろう。運営側の対応は間違っていないと私は思う。
その件に関して騒ぎの中心にいる配信者本人はコメントを控えているらしい。今の状況で何を言ったところで火に油を注ぐことになりかねない。何もコメントしなかったとしても批判的な意見が出るだろう。人気者は大変だな。
「ファンとアンチの諍いはどうでも良い。それよりも総合ランキングに載っている画像はどれも見応えがあるな」
私はランキングの画像を眺めて思わず唸ってしまう。どの画像も本物の写真家が撮影したかのように迫力があるものばかりだったからだ。
魔物の群れに立ち向かうプレイヤー達、迫力のある大瀑布、誰もが楽しそうに飲んでいる賑やかな酒場。どれもこれもそれぞれに良さがあって、ランキングに載るのも納得な素晴らしい画像が並んでいた。
それぞれの画像に私の評価をポイントとして加点していく。その後、アイリスとしいたけのオススメの画像を見てそれも評価していく。移動の時間一杯を使って、我々はイベントの画像を見て楽しむのだった。
次回は11月8日に投稿予定です。




