これからの予定
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【浮遊する頭骨】レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの種族レベルが上昇しました。
従魔ヒュリンギアの職業レベルが上昇しました。
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不意のトラブルこそあったものの、私達はログアウトにちょうど良い時間まで複数存在する岩場に行ってはそこを縄張りとしている魔物の群れを襲撃していった。岩場にいたのは羽海猫だけではなく、様々な魔物が存在していた。
鳥のような翼に見える大きなヒレを使って岩場の上を竜巻のようになって群れで飛ぶ飛鰯と、その上位種でうっすらと体表が赤銅色になっている飛銅鰯。フワフワと漂っているが迂闊に近付くと触手で麻痺させて来る浮新月と、その上位種で一回り大きい浮三日月。我々が近付くと海中に逃げてしまう潜水船虫など、弱いが多種多様な魔物が存在していた。
ただし、何よりも危うかったのは捕食海藻という狂暴な海藻だった。海面近くを飛ぶ生物を海中に引きずり込んで栄養にしようとする植物系の魔物であり、その引っ張る力は相当なものだった。信じられないことにカルが海中に引きずり込まれたのだから。
急いで私が海中に飛び込んで大鎌を振って切断したから良かったものの、海を甘く見てはならないことを実感した。アン達はそんな海をメインのフィールドとしているのだと考えると今さらながら凄いと思う。
「アイテムは微妙だったが、経験値を稼ぐにはちょうど良い相手だったな。それよりも、旨いか?」
「バリバリ…キュー!」
「ゴリゴリ…グオォ!」
空を飛びながら帰還している最中、カルとリンは今回の狩りで倒した魔物の肉を食べていた。カルは捕食海藻に引きずり込まれた時にちゃっかり捕まえていたマグロっぽい魚を、リンはカルの頭の上で羽海猫を骨ごと噛み砕いて食べている。うん、流石は龍。食べ方も豪快だ。
カルもリンも食べることに夢中なので手持ち無沙汰になった私は、ふとこの空の景色をスクリーンショットで撮影することにした。ティンブリカ大陸は常に雲に覆われているし、現状ではプレイヤーが我々しかいない秘密の場所だ。写真映えしないし、公表したいと思っていない。大陸の方を撮影するわけにはいかないだろう。
しかし、大陸の反対側ならば雲も少ないし海が広がっているだけなので撮影場所がどこかわかるヒントなどない。これなら問題はあるまい。私は何となく良いなと思ったタイミングでパシャリと撮影した。
「題名は…『空の景色』とでもしておくか」
白い雲が幾つか浮かぶ青い空と、陽光を受けてキラキラと輝く水平線にまで続く海。空を飛べる者だけが見ることが許される景色である。捻りのないタイトルだが、それで十分だ。私は良い画像が撮れたと満足しつつ、イベントのために投稿した。
楽しい空の旅はすぐに終わりを告げ、我々は再び街へと帰還する。カルは広場にうずくまると頭を地面に着けて眠り始め、その頭から降りたリンは疲れたのか既に眠っている。私は仕方がないなと苦笑しつつ、リンを抱き上げて自室に帰ろうとした。
「あっ!イザーム、戻って来られたんですね!」
そんな私に声を掛けたのはトワを連れたアイリスだった。二人の周囲には多くの疵人と四脚人に数人の闇森人が集まっている。どうやらアイリスが製作した武具を受け取ったり修理の依頼をしたりしているようだった。
せっかくだから世間話でもしてからログアウトしよう。私は二人の周囲にいる者達がいなくなるまで、リンを抱いたままカルの背中に座って待っていた。
「待っててくれたんですね。ありがとうございます」
「何、ログアウトする前に世間話でもと思っただけだから気にするな。それにしても大人気じゃないか」
「あはは。お陰さまで生産系の経験値をたっぷり稼がせてもらっています」
クランメンバーは当然のことだが、この街に住む多くの住人達が彼女に武具の面倒を見てもらっている。無論全員というわけではないが、それでも相当な人数になるだろう。その分、得られる経験値も膨大になるということだ。
「キュゥゥ…?」
「む、起きたか」
「こんばんは、ヒュリンギアちゃん」
「キュゥ…」
私達が話し始めると、私の腕の中で寝ていたリンが少しだけ目を開けてから周囲を眺める。そこにいるのが私とアイリスだと確認すると、もう一度目を閉じて再び寝息を立て始めた。可愛い奴だ。
その様子を間近で見ていたアイリスは羨ましそうに私を見ている。そんな彼女に対して優越感を覚えるような悪趣味な真似をするつもりはない。私は揺らさないように注意しながらリンをアイリスに抱くように促すと、彼女は素早く触手を編んで揺り篭のようにしてそこに入れた。
「わわっ…ふふっ。やっぱり可愛いですね。卵から孵った時のカルちゃんを思い出します」
「今のカルは可愛い言うよりはカッコいいからな。ああ、それとヒュリンギアはリンという愛称で呼ぶことにした。今日はもう起きないだろうが、明日からはそう呼んでやってくれ」
「はい、わかりました。よしよし、いい子ですね~」
触手の揺り篭を優しく揺らしながら、アイリスはリンをあやしている。その様子を見て私はほっこりしていた。きっとアイリスは良い母親になるだろう。口に出したらセクハラになるかもしれないから言わないが。
「アイリス様、イザーム様に例の件のことをお話になられてはいかがでしょう?」
「例の件?」
「あっ!そうでした!えっと、前からこの街の城壁のためのセメントを作るために砂漠に行こうって話があったじゃないですか?それを取ってきていないから街の整備が滞っている部分があって、住人の皆さんがまだかって聞いてくるんです」
それからアイリスは彼らの話を要約して教えてくれた。住人として暮らしている者達、特に疵人と四脚人は頑丈な黒い壁に囲まれたこの街に住むことで安全で安定した生活を享受出来るようになった。常にギリギリだった生活にゆとりが出てきたのである。
生活にゆとりが出てくると、今の環境をより良いものにしたいと願うようになる。その一環として彼らは積極的に街の工事をやりたがっているのだ。
我々は陰謀を張り巡らせたりイベントで遊んだりしている間も黒壁の内側の整備は続けていたが、セメントに混ぜる砂として最適な『蝕魂の錆砂海』の砂を集めていなかったのでそれ以上工事が進んでいない部分がある。それ以外にも工事すべき場所はまだまだあるのだが、彼らはその続きがいつでも出来るようにして欲しいと訴えているのだ。
元々その時が来たら取りに行く予定だったのだが、まさか労働者の側から仕事をしたいからさっさと材料を用意しろと言われるのは想定外の事態である。ふむ…どうせ、今はこれと言った目標はないのだ。明日からは街の工事に注力するか。
「この話はクランチャットで共有しておこう。これを機に街そのものを拡張するのも良さそうだ」
「黒壁を完全に取り払って、完全に新築するってことですか?大工事になりますよ?」
「イベントも終わったことだし、次のイベントは写真撮影だかそれに集中するようなものでもないから平気だろう。無論、皆の意見は聞かせてもらうがな」
「そうですね…あっ、イベントと言えば!見ましたよ、リンちゃんの画像!可愛かったです」
「そうか?ありがとう」
リンを起こさないように小声で、しかし興奮しているのがわかる口調でアイリスが私の撮影した画像を褒めてくれる。私の撮影技術ではなく、リンが可愛さの力だ。そこを勘違いしてはならない。
先ほど撮影した二枚目の画像は見ていないようだが、大した画像でもないので自分から宣伝するつもりはない。気付いた時に見てくれたら良いのだ。
「アイリスは何か画像を投稿したのか?」
「いえ、私はまだです。撮りたいと思えるものをまだ見付けていないんですよね」
「自分の作品ではダメなのか?」
「うーん、そう言う人もいるんですけど…私は自分の作品は見せびらかすものではなくて、使ってもらいたいんですよね」
「そうなのか」
リンをゆっくりと揺らしつつ、アイリスはそう言った。会心の出来の作品であればあるほど使って欲しい、という思いがあるようだ。職人としてのこだわりなのだろう。
そこでふと私は思い付いた。それならば最初から見せつけるための作品を作ってはどうか、と。よし、提案してみよう。
「それなら…そうだ、こう言うのはどうだろう?あくまでも人に見てもらうための作品を作るんだ」
「見てもらうため、ですか?」
「そうだ。例えば街の歩道沿いに銅像なんかが飾られていることがあるだろう?あんな感じの装備として使うアイテムじゃなくて、純粋に飾るための彫刻とか絵画とかの芸術作品だ。前に噴水を作っていたし、不可能じゃないと思うのだが」
「なるほど…」
ふと思い付いただけだったのだが、アイリスは押し黙って真剣に考え始める。その間もリンを揺らすのを止めることはない。もう無意識に行っているのかもしれない。
「街の装飾にもなりますし、そのつもりで作るのも良いかもしれません。気が向いたら撮影して投稿しましょう。ありがとうございます、イザーム」
「いや、ただの思い付きだから気にしないでくれ。感謝されても困ってしまう。じゃあそろそろ…」
「あっ…そうですね…」
そろそろ良い時間なので、私はログアウトする前にリンを受け取ろうとする。するとアイリスはとても名残惜しそうな声でリンを差し出した。
ううむ、そんな別れを惜しむ雰囲気を出されると困るのだが…ここで彼女に任せてしまうと流石に目が覚めた時にビックリするだろう。リンのためにもここはアイリスに涙を飲んでもらおう。
私は悪いなと言いながらリンを受け取ると、アイリスとトワの二人と別れて自分の部屋へ向かう。そしてリンの寝床である椅子の上にゆっくり置いてからログアウトするのだった。
次回は10月23日に投稿予定です。




