リンの戦い
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種族:羽海猫 Lv23~27
職業:漁師 Lv3~7
能力:【牙】
【爪】
【格闘術】
【捕獲】
【射出】
【連係】
【水魔術】
【水属性耐性】
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羽海猫…鳥ではなく、猫の仲間なのか?いや、でも翼は生えているし…ええい、今はどうでも良い!重要なのは一羽でも多く羽海猫を逃がさず、リンの経験値にすることだ。考えるのは後にしよう!
私は群れの真ん中ではなく、むしろ群れの外側へと降りていく。その意図を汲んだカルは群れを挟んで私の反対側へと向かう。群れと同じくらいの高度にまで降りた私達は、群れを囲むようにして空中で円を描くように飛び始めた。
「カル!このまま囲み続けるぞ!」
「グオオン!」
圧倒的な強者である私達に囲まれた羽海猫達はパニックになって飛び回る。だが逃げようにも私達がいるのでその内側をグルグルと回ることしか出来なくなっていた。
中には無理矢理突破しようとする個体もいたのだが、カルが威嚇すると怯えて内側に戻ってしまう。ならばとばかりに私の方を目指す個体もいたが、私は私で尻尾と大鎌を振り回したり【浮遊する頭骨】から牽制の弱い魔術を乱射したりして押し留めた。
エキシビジョンイベントの時、アイリスは私よりも遥かに上手く【浮遊する頭骨】を使いこなしていた。その姿に刺激を受けた私は、この能力をただの命のストックではなく攻撃手段として活用すべく練習することを誓った。それを早速始めたのである。
ううむ、他のことをしながらコントロールするのは難しいな。いや、私の事情はどうでも良い。とにかく、これでお膳立ては完了した。後はリンの力次第である。どのような戦いぶりを見せてくれるのだろうか?
「キュイイイイッ!」
「ニギャー!?」
楽しみにしていると、上空からリンがやって来た。高い鳴き声を出しながら迫る彼女は、その勢いのままに一羽の羽海猫の喉笛に噛み付く。羽海猫は苦しそうに鳴くが、リンは遠慮も容赦もなく頭を何度も振り回してその首をへし折った。
羽海猫は断末魔の絶叫を上げながら力尽きる。何だか可哀想なのだが、リンの辞書に慈悲という言葉はなかったらしい。周囲にいる羽海猫を次々と爪牙で仕留めていった。
ただ、カルの戦い方とは大きく違うという印象を私は受けた。カルの戦い方はそのパワーとタフネスにものを言わせての肉弾戦重視のスタイルだ。ジゴロウと源十郎から戦い方について仕込まれており、特に攻撃に関しては凄まじい才能があると二人は言っている。
だが戦いにおいて魔術をあまり使おうとしない。私という魔術師が基本的に背中に乗っていることもあり、自分で使うことに意義を見出だせていないようなのだ。それにカル自身も肉弾戦を好む性格なので、余計に魔術を使わなくなっていた。
一方でリンはと言うと、爪牙を駆使して戦いながらも魔術を多用している。今も一羽の羽海猫が光球によって貫かれた。【水魔術】も使えるが、最初に一発撃ってから耐性があると理解したのか使っていない。本当に賢い子だ。
身体能力と魔術を併用する戦い方はカルよりも上手である。では、幼かった時のカルよりも強いのかと問われれば決してそんなことはないだろう。この戦いぶりから察するに、リンはカルよりも筋力や防御力の面では及ばないようなのだ。
実際に羽海猫が苦し紛れに後ろ足で引っ掻いた時、リンの鱗にはハッキリと傷が付いていた。ダメージ自体は大したことはないが、カルならば傷すらつかなかったと思う。
それに噛み付く力もカルよりも弱い。リンは噛み付いてから頭を振って首を折ったが、カルならば噛み付いた力だけで折っていたに違いない。カルはパワー型でリンはバランス型といったところか。
「ニ゛ャー!ニ゛ャー!」
「「「ニャー!」」」
「キュウウ!」
仲間がやられてパニックに陥っていた羽海猫だったが、海の中から一際大きな個体が現れると同時に大声で鳴くとパニックは収まった。どうやらあれが群れのリーダーであるらしい。一応、【鑑定】はしておこうか。
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種族:大羽海猫 Lv35
職業:漁師頭 Lv5
能力:【牙】
【爪】
【格闘術】
【捕獲】
【射出】
【連係】
【指揮】
【海中適応】
【水魔術】
【水属性耐性】
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見た目の通り大きくなったから大羽海猫らしい。能力は【指揮】と【海中適応】の二つ増えていて、指揮官として配下をまとめることと水中での行動がより得意になっているのだろう。海で暮らす群れのリーダーとして相応しい能力と言える。
これまでとは一転して統率の取れた動きを始めた羽海猫達だったが、その攻撃はほとんど当たらない。何故ならリンは羽海猫よりも空中での機動力で勝っていたからだ。
カルとは違って【敏捷強化】の能力を持っているリンの空中での機敏さは相当なものだった。踊るように空中を飛びながら戦う姿は、洗練された演舞のようですらある。羽海猫達は翻弄されるままに一羽、また一羽と数を減らして行った。
「ニ゛ャー!」
「キュゥー!」
しびれを切らしたのか、これまでは後方で指揮していた大羽海猫が数羽の配下を連れて直々に襲い掛かった。羽海猫どころかリンよりも一回り大きく、レベルによって素のステータスも高い自分も加われば勝てる。大羽海猫はそんなことを考えたのだろう。
しかし、それは浅知恵でしかなかった。リンは最強の魔物、龍の子供である。まだ幼いと言っても大羽海猫程度では全く歯が立たないのだ。
リンは四方八方から飛び掛かる羽海猫をスルリと回避しつつ、鋭い爪で斬り裂き、尻尾で殴打する。大羽海猫と共に突っ込んだ羽海猫はあっという間に全滅し、結局は大羽海猫との一騎討ちへともつれこんだ。
「ニ゛ャオオオオッー!」
「キュキュゥー!」
リンと大羽海猫は空中で取っ組み合いになった。体格では大羽海猫の方が勝っているものの、龍としてのステータスと翼とは別に前脚がある分格闘戦ではリンの方が優勢だ。
大羽海猫の爪が鱗に食い込んで痛そうだが、それ以上にリンの爪牙が敵をズタズタにしている。大羽海猫は今さら敵わない相手と戦っていることに気付いたのか、逃げようとしていた。だが、リンの前脚に捕まれて逃げられないようだ。
ザバッ!
もうすぐ決着がつく。そう思った時のことだった。鼻先に長細く、ノコギリのようなギザギザの刃がついた突起を鼻先に持つカジキマグロのような魚が海中から突然現れたではないか!何の前触れもなく奇襲されたのは大羽海猫とリンであり、鼻先の突起がまとめて貫いてしまう。リ、リンは無事か!?
「ニギャァー!?」
「キュウウッ!?」
その突起は大羽海猫の腹部とリンの翼膜を串刺しにしている。幸いにもリンは無事だったものの、大羽海猫のトドメは奪われてしまった。
だが、そんなことよりもこのままではあの魚が海に潜るとリンも海中に引きずり込まれることになるそれではリンが死んでしまうじゃないか!今すぐに取り戻さなければ…!?
「グルルルオオオオオオオッ!!!」
私が杖を構えて魔術を放とうとした時、海上にカルの咆哮が響き渡った。海面に波が起こり、空気がビリビリと震える。【咆哮】と【威圧】の能力を使ったのだろうが、それにしたってこれまで聞いたことのないほどの大声だった。私の骨の身体の芯にまで振動が伝わるほどである。
これほどまでにブチギレているカルを見るのは初めてかもしれない。カルは全速力で空を飛び、その速度を乗せて空中で一回転して尻尾をカジキマグロっぽい魚に叩き付ける。刃のようになっている部分が魚の頭の付け根に直撃し、一撃でもってその頭を斬り落とした。
「グオオオン!」
「キュゥゥ…」
カルは頭部を失った魚を無視してリンが落水する前に前脚で抱え込むようにして救出する。おお、これが龍同士でなければ古き良き映画のワンシーンのようだ。
私が緊張感のないことを考えている内に、この騒ぎに乗じて生き残っていた羽海猫は散り散りになって逃げてしまった。ここではもう経験値を稼ぐために戦うことは出来ないだろう。私はため息を吐きながら、頭上を飛ぶカルとリンをそのままにして一人海面に浮かぶ羽海猫と魚の死体を剥ぎ取るのだった。
次回は10月19日に投稿予定です。




