次のイベントとリンの特訓
今回から新章です!
「おや?これは…」
『素晴らしき秋の一面・動』というイベントが終了した翌日。私がログインすると新たな通知が届いていた。それは今日から始まる『素晴らしき秋の一面・美』というイベントについてだった。
これはかなり長期に渡るイベントであるらしく、期間は今日から二ヶ月間。イベントの内容はスクリーンショットによって撮影したゲーム内の画像を投稿することだ。食欲、運動と来て今度は芸術の秋を意識したイベントらしい。
投稿の手順は至ってシンプルである。画像にタイトルを付けてから、十数種類に分けられたジャンルを選んでそこに投稿するだけ。投稿された画像は誰でも閲覧可能であり、イベント終了後も画像は残るらしいので今しか見られないというわけでもないそうだ。
画像を見たプレイヤーはその画像について五点満点で点数を付けられる。その閲覧数一回につき一点が与えられ、他プレイヤーの付けた点数、それに十二柱の女神が百点満点で付けた得点の合計で競うようだ。
得点のランキングは常に公開され、最終的な順位に応じて様々な報酬が得られるらしい。絶景ポイントを知っているプレイヤーや人々の感性に訴えかける何かを見付けることの出来た幸運なプレイヤーが上の順位に行けるのだろう。
一人のプレイヤーが何枚でも画像を投稿可能であるが、得点は一枚ごとに独立している。何枚も投稿したからと言ってその合計が投稿者の得点になるわけではない。大したことのない画像を何枚投稿しようと無駄なのである。
しかし、それは同時に同じプレイヤーが撮影した複数の画像がランキングに載る可能性もある。その際は順位に応じてもらえる報酬は最も高い順位のものだけになるらしい。流石に報酬は重複しないようだ。
他のプレイヤーの画像に高い得点を付けると自分のランキングが下がることに繋がるが、そこはプレイヤーの良心に任せる形になるらしい。一応、一定の得点を入れるとレア度の低い消耗品アイテムがもらえるようだが…本気で優勝を狙う者はどれだけ良いと思える画像があっても点数を入れないかもしれないな。
私は優勝など全く狙っていないので、気に入った画像があればポンポン得点をあげようと思う。案外、私と同じような考えでいるプレイヤーの方が多いのではなかろうか?
「キュ?」
「ん?ああ、気にするな。大したことではないぞ、リンよ」
私がイベントについて書かれた仮想ディスプレイとにらめっこをしていると、私の部屋に置かれた謎ガチャで当てた椅子の上に横たわって眠っていたヒュリンギアが目を覚ました。リンという愛称で呼ぶことにした幼龍は、とても眠たそうに何度も瞬きしている。その仕草は何とも愛らしかった。
そうだ、今のリンをスクリーンショットで撮影して投稿するのはどうだろう?椅子の上で横になっている幼龍…良いじゃないか。私が競龍で準優勝したことは調べればわかることだし、この部屋にはこの場所についてヒントになるものは一つもない。うん、一枚目の画像はリンにしよう。
「キュゥゥ~」
「おっ!」
そんなことを考えていると、リンは翼を拡げながら頭を上げて大きく口を開けて欠伸をしている。これは間違いなくシャッターチャンスだ!私は反射的にリンの姿を画像に収める。よし、良い画像になったじゃないか。
早速私は画像を投稿するべく操作し始める。タイトルは…そうさな、『寝起き』にしよう。ジャンルは『生物』が相応しいだろう。私は意気揚々と画像を投稿しておいた。
「キュー!」
「おお、すまんな。外に行こう」
目が覚めたリンは私の足元まで来ると催促するようにローブの裾を咥えて引っ張る。一刻も早く外に行きたいらしい。私は苦笑しながら立ち上がると、部屋のドアを開けて外へ出た。
私とリンは日課の水やりをしてから、宮殿を抜けてカルが寝る広場を目指す。そこでは何時ものように子供達が遊んでいて、カルはその面倒を見てあげていた。私には甘えたがるカルだが、自分より幼い者達に対しては面倒見が良い。優しい子に育って私は嬉しいよ。
「あっ、王さまだ!」
「ちっちゃい子もいる!」
私に気付いた子供達が駆け寄ると、私の手を握ってカルの方へと引っ張っていく。私は引っ張られるままにカルの方に進むが、リンは子供達にもみくちゃにされるのを嫌ってか私の頭の上によじ登った。
カルは私達の接近に気が付くと、嬉しそうに鼻を鳴らしながら頭を近付ける。私がその大きな頭を抱えるようにして撫でていると、リンは私の上からカルの上へと移動した。ふむ、随分と仲良くなったものだ。
「みんな、聞いてくれ。今日はカルを連れていこうと思っている。だからカルと遊ぶのはここまでにしてくれ」
「「「えー?」」」
カルを連れていくと言うと、子供達は不満そうな声を出す。子供達の希望を叶えてやりたいと言う気持ちがない訳ではないが、カルは愛玩動物ではなく我々と肩を並べて戦う従魔だ。街の外で戦うことこそが本来の有り様なのである。
厳しい口調ではなかったものの、私を翻意させることは難しいと察した子供達はカルを名残惜しそうにチラチラと見返しながら散っていく。戻ってきたら改めて遊んでもらうと良い。疲れて寝てしまうかもしれないが。
「さて、カルよ。今日はリンのレベリングに向かう。海の上を飛んでくれ」
「グオン」
「キュゥ?」
背中に飛び乗ってからそう言うと、カルはわかったとばかりに小さく唸ってから翼を力強く羽ばたかせて飛翔する。一方で自分の名前が出された理由がよくわかっていないリンはカルの上で首を捻っていた。
イベントの競技で準優勝したことで、リンは私の元へ来てくれることになった。しかしながら、リンはまだ幼龍でしかない。つまり、このティンブリカ大陸においてリンは下から数えた方が早い弱者でしかないのだ。
カルは生まれた直後にレベル30だか40だかの敵と戦えていたので、リンにも同程度の力はあるのだろう。生まれたばかりの魔物としては別格の戦闘力を誇っていると言っても過言ではない。
だが、この大陸の周辺ではレベル40以下の敵は非常に少ない。少なくとも我々が拠点にしている街がある『灰降りの丘陵』における最低レベルは70だ。逃げ足に特化している魔物ですらそうなのだから、リンが一対一で倒せる魔物はこの近くに存在しないのである。
しかし、そんな敵が全くいない訳でもない。その場所とは大陸から少し離れた海上だ。アン達から聞いた話によると彼女達がいる海岸から進んだところには大きめの岩場が幾つかあって、そこにはレベル20~30くらいの魔物の群れがいるのだとか。今回の狙いはそこだった。
得られるアイテムはレベル相応で大したことはないらしいが、今の私にとってはちょうど良い相手であろう。ただし、一つだけ気になることがある。この話を聞いた時、私はアンにどんな魔物なのか尋ねた。その時はあまり向かう必要性を感じなかったものの、一応聞いておこうと思ったからだ。
すると彼女はニヤリと笑ってから『教えないよ。百聞は一見にしかずってヤツさ』とはぐらかされた。意味深に言っただけなのか、隠す必要があるほど奇妙な外見をしているのか。それはわからない。だが、図らずもアンがはぐらかした真実を確かめに行くことになった。
「キューッ!キュキューッ!」
「騒ぎ過ぎると危ないぞ。おっ、そろそろ見えて来たな。あれが目的地の岩場だ」
初めて見る海に大興奮しているリンを宥めている間に、我々は目的地である岩場が見えてくる。フィールドの名前すら与えられていない岩場の上には、無数の白い何かがいた。
翼を羽ばたかせて周囲を飛んでいることから、海鳥か何かだろう。何だ、思ったよりも普通ではないか。アンに担がれたのか?まあ、良いだろう。我々は目的を果たすだけだ。
「リン、今日はお前の特訓だ。なるべくあそこにいる鳥を倒せ。出来るな?」
「キュッ!」
「カルは私と共にあれが逃げないように追い込むぞ。やれるな?」
「グオオッ!」
私の確認に、カルとリンは任せろとでも言いたげな鳴き声で応える。頼もしい限りだよ。そうと決まれば早速行動に移るとしよう。私はカルの背中から降りると、岩場を目掛けて急降下を開始した。
それと同時にカルもまた降下し、その頭から離れたリンは少し遅れて降下している。我々が逃げられないようにするからゆっくり来ても大丈夫だぞ。
「ニャー!」
「ニャー!ニャー!」
上空から迫る我々に気付いたのか、岩場にたむろしていた海鳥は騒がしく鳴き始める。この声からして海猫か何かだろう。鳴き声は可愛らしいが、今回はリンの経験値になってく…ん?
「ニャー!ニャー!」
「…ね、猫?」
近付くに従って私は海鳥の姿が鮮明に見えてくる。その全貌が明らかになった時、私は驚愕した。私の眼下にいるのは尋常の海鳥ではなかったからだ。
二本の足に一対の翼という全体的なシルエットは鳥に酷似している。しかしながら、その頭部は正しく猫のそれだった。そしてよく見れば岩場に置いている二本の足は猫の後ろ足で、尾羽の代わりに長細い尻尾が生えている。な、何だあの魔物は!?
「キュキュキュー!」
困惑している私の背後からはやる気に満ちたリンの鳴き声が聞こえてくる。あの魔物が気になるからと言って、今さら狩りを中止することは出来ない。くっ、ここは私の好奇心を殺して戦うぞ!
次回は10月15日に投稿予定です。




