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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
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素晴らしき秋の一面・動 その三十八

 魔眼の使用を解禁したディヴァルトの猛攻は凄まじいの一言に尽きた。相変わらず腕による一撃は重く鋭いのに、油断すると魔眼によってダメージを負ったり状態異常にさせられたりするからだ。


 ディヴァルトの指先にある魔眼は、それぞれに異なる力を有していた。親指の魔眼は毒の魔眼。魔眼に見つめられている時に瞳が紫色に光ると毒の状態異常になる。強敵を前にしてジワジワと体力を削られるのは、思っていた以上に焦ってしまうものだな。


 人指し指の魔眼は火炎の魔眼。火炎放射器のように炎が迸る、最も派手な魔眼である。ネナーシが直撃して転げ回ったのはこの魔眼のせいだった。


 直接的な攻撃力は最も高いものの、派手であるからこそ回避も容易い。ジゴロウのアバターなら食らっても問題はないのだが。


 中指の魔眼は麻痺の魔眼。毒の魔眼と同じシステムらしく、黄土色の光を放つと同時に見つめられていた者の動きがピタリと止まってしまうのだ。


 火炎の魔眼とは逆に直接的な攻撃力はないものの、ディヴァルトの打撃に対して無防備になるので非常に危険である。私達が一番注意を払っている魔眼であった。


 薬指の魔眼は水氷の魔眼。冷気によって水属性のダメージを与えることが出来るらしい。アイリスを凍らせた魔眼であり、私の背中がヒヤリとした原因であった。


 本来なら水属性のダメージはジゴロウの弱点だったのだが、我が兄弟は【符術】で作った低威力のお札を使って克服している。私にとっては火炎の魔眼の次に無視しても良い魔眼であった。


 そして小指の魔眼は睡眠の魔眼。瞳が青み掛かった白色に輝くと、急激な眠気が襲ってくるのだ。これも危険は危険なのだが、麻痺に比べるとゆっくりと利くので急いで自分の顔を叩けば効果は切れる。ただし、油断して眠ってしまうと次に受けるダメージが数倍に跳ね上がるので絶対に寝てはならなかった。


 ディヴァルトはこの五種類の魔眼を両手の指に持っており、眼球を器用に動かして我々を見つめながら殴り掛かってくる。あんな速度で視界が動いたら気分が悪くなりそうだが…まあ、英霊だし関係ないのだろう。


解呪(ディスペル)解呪(ディスペル)!」

「助かったでござる!」

「がははははっ!良い!良いぞっ!我が魔眼を無効化するとはっ!」

「ゴポゴポ…同じ使徒であった者として誇らしい!」


 これまでの戦いもギリギリのところで戦っていたのに、魔眼という要素が加われば苦戦は必至だった。だが、我々が一瞬で瓦解せずに戦えているのはアイリスのお陰である。魔眼による攻撃は【呪術】の解呪(ディスペル)によって解除出来るので、彼女は誰かが魔眼の影響下に置かれたら即座に解除していたのだ。


 彼女が特に気を配っているのは、もちろん麻痺の魔眼だった。棒立ちになってディヴァルトの拳が直撃すれば間違いなく大ダメージを負うだろうし、場合によっては即死しかねない。彼女自身は私のアバターなので状態異常が効かず、火炎の魔眼と水氷の魔眼にさえ気を付ければ良いからこそ解呪(ディスペル)に集中出来ていた。


 そんなアイリスを、と言うよりも私のアバターを見ながらシュネルゲは心底嬉しそうだった。しれっと言っていたけども、今の発言からシュネルゲも生前は『死と混沌の使徒』の職業(ジョブ)に就いていたようだ。だったらもう少し楽な試練にしてくれませんか、先輩?


 魔眼を使い始めても食い下がる我々に対して、ディヴァルトもまた嬉しそうに大声を張り上げていた。戦いが始まってからここまで、ずっと戦いの主導権はディヴァルトに握られっぱなしだ。それでもまだ負けていない。そのことが嬉しいように見える。


 ふむ…英霊達の反応から察するに彼らはクリアさせたくない訳ではなさそうだ。いや、それどころか自分達の課す試練を乗り越えて欲しいと思っている節がある。我々のデータを持っているのも、クリア出来るギリギリのところを知るためかもしれない。何にせよ、このまま耐え続けるしかないだろう。


「ならばっ!もう一つ、我輩の力を解放してやろうではないかっ!見事越えてみせよっ!ふんがぁっ!」

「ぬおおおっ!?」

「きゃああっ!?」

「はっ、鼻息だと!?」


 そんなことを考察していると、上機嫌なディヴァルトは更に新たな力を解放した。何と彼は全身にある無数の鼻から、同時に鼻息を噴射したのである。


 たかが鼻息、と馬鹿にすることは出来ない。戦闘力で神に選ばれた英霊が攻撃として用いる鼻息だ。その勢いはまるで強い台風のようである。私は必至に踏ん張ってその場に留まることしか出来なかった。


 強靭な足腰を持つジゴロウのアバターに入っている私と、本人に聞かれたら怒られそうだが重量のあるアイリスのアバターに入っているミケロは何とか耐えられた。しかし宙に浮いているアイリスとネナーシからすればたまったものではない。二人は少し離れた場所に吹き飛ばされてしまった。


 ダメージがなかったのは唯一の救いだが、とんでもなく厄介な攻撃であるのは間違いない。共に戦う四人の内、二人が一時的にであるが強制的に戦線離脱させられたのだから。しかもその二人は回復の魔術を使える者達。これって、かなりヤバいのでは?


「がははっ!行くぞっ!」

「くっ!ミケロ、私が前に出る!サポートは任せた!」

「かしこまりました」


 襲い掛かるディヴァルトに向かって私は一人で突撃する。鋭い爪が生えた腕が凄まじい速度で迫ってくるが、目を閉じずに勇気を出して攻撃で迎え撃った。


 これまで防御を重視してきた私が思いきった行動に出ると思っていなかったのか、ディヴァルトは無数にある目に驚きを浮かべている。私もこれがリスクのある行動だと理解はしているが、ここはジゴロウを見習ってみようと思ったのだ。


「ぬあああっ!」

「がははははっ!良いっ!良いぞっ」


 私は連続攻撃ではなく、単発で威力の高い武技を使ってディヴァルトの腕を迎撃する。ジゴロウよりもディヴァルトの方が筋力の値が上なのか、軌道を反らすのがやっとだ。


 武技を使うことでジゴロウを模倣した動きをやったのだ。ただし、本物に比べれば遥かにぎこちなく、お粗末なものだと言うことは自分でも痛感している。今も胸を浅く引っ掻かれたのだが、ジゴロウなら避けていただろう。


 それどころかミケロが触手を巻き付けてディヴァルトの動きを阻害していなければ、致命傷を負っていたかもしれない。私ではこれで精一杯だった。所詮は付け焼き刃の猿真似に過ぎないと言うことだ。


「がははっ!ならば、これはどうだっ!?」

「うおぉ!?」


 攻撃を中断したディヴァルトは、鼻の穴を大きく膨らませながら今度は息を大きく吸い込み始める。すぐ近くで発生した信じられない吸引力に耐えられず、私は両足が浮いてしまって引き寄せられてしまった。


 私の視線の先ではディヴァルトが腕を大きく振りかぶっている。あ、これは終わったのでは?だが、諦める訳にはいかない。私は空中で両腕を交差させつつ、防御力を瞬間的に上げる武技を用いた。


「させません」

「おおっ!?」


 受け止めて体力が残ることを祈るしかないと思っていた私だったが、それを救ったのはミケロだった。彼は触手を伸ばして私の四肢に巻き付けると、全力で引き寄せる。そのお陰で爪は鼻先ギリギリ当たらないように空振らせることに成功していた。


「助かった!ありがとう!」

「恐縮です」

「戻りましたぞ!」

「わっ、私もです!」


 ミケロによって救われた私が地面に転がったのと同時に、吹き飛ばされていた二人が戻ってくる。二人の様子から相当急いだのだろうが、そんな短い時間で討たれそうになった私の何と情けないことか。


「おおおお?お前、本当に何なの?強すぎじゃね?」

「ハッハァ!今のも通じねェたァなァ!流石は英霊様だぜェ!」


 その横では人型になったジゴロウが蔓で十本ほどの腕を作り出してニグルを攻め立てていた。四本の腕は拳にして殴り掛かり、残りの六本は手を大きく開いて捕まえようと伸ばされている。


 一瞬で五本は切り裂かれたものの、残りの一本がニグルの右足首を掴むと掬い上げるようにして彼を転ばせる。しかし、彼が背中を地面に付けることはなかった。右腕の一本が持つ武器によって蔓を切断すると、長い左手で地面を叩いてから空中で一回転して着地した。


「向こうも白熱しておるっ!かくなる上はっ!更なる力を見せてやろうっ!」

「ゴポゴポ…待て、それはやり過ぎ…!」


 ディヴァルトは二人の戦いに感化されたのか、更に何かをやろうとしているようだった。シュネルゲは制止しようとしていたが、彼の耳には届いていない。ニグルすらも何かを察したのか、急いでディヴァルトから距離を取っている。それほどに危ない何かをするつもりなのか!?


 私達も距離を取るべきかと思った瞬間、ディヴァルトの全身にある口が一斉に大きく開けられた。そして全ての口からこの世のものとは思えない絶叫が放たれた。


「「「「「■■■■■■■■!!!」」」」」

「うがっ…!」


 精神を引っ掻き回すかのようなディヴァルトの絶叫が放たれた瞬間に、私の身体は急激に重たくなってしまう。【付与術】による強化が全て散らされており、更に各種ステータスが大きく下げられていたのだ。


 それだけではない。視界の端には無数の状態異常になっていることが表示されている。それは状態異常が効かないはずのアイリスですら同じ状態に陥っていた。


 まさか【状態異常無効】を持っているはずの私のアバターを状態異常にする能力(スキル)があるとは…!知識としてはありがたいが、出来れば実戦ではなく掲示板などで知りたい情報だった。


「うぐぐ…負けるか!」


 ミケロとネナーシはピクリとも動かなくなっているものの、私は運良く麻痺を始めとする行動を阻害される状態異常にはなっていない。まだ戦える。私は両足に力を入れて立ち上がるのだった。

 次回は10月7日に投稿予定です。

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[一言] ジゴロウがローパーに入ったらどうするんだろ?
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