素晴らしき秋の一面・動 その三十七
シュネルゲの『魂魄流転』によって強制的にアバターを入れ換えられてしまった。これがどんな状態であるのかはすぐに把握している。元々のアバターで使えていた能力は使えず、代わりに今入っているアバターの能力の使用に制限はない。つまり今の私は私に出来たことは一切出来ず、逆にジゴロウに出来ることは全て可能と言うことだ。
「ウハハハハァ!こうすりゃァいいんだなァ!」
「適応早すぎだろ、お前…」
ジゴロウは楽しそうに笑いながらニグルと一人で戦っている。戦いが始まってまだ一分も経っていないと言うのに、既にネナーシのアバターを使いこなしているようだった。
擬態を得意とするネナーシのアバターを、ジゴロウは人型に変えて格闘術で応戦している。筋力や防御力など諸々のステータスでは劣っているが、ネナーシのアバターにはそれを補って余りある特徴があった。
「シィッ!」
「う~ん、厄介だな…」
それは蔓で象られている手足を伸ばすことが出来ることである。ジゴロウの手足が某海賊漫画の主人公のように伸びて離れた場所からニグルを襲う。流石は英霊と言うべきか、ニグルは伸びる打撃を回避したり持っている武器で切り払ったりしていた。
しかし、反撃するのも難しい状況であるらしい。近付こうとすれば、ジゴロウは擬態を解いて全身の蔓で捕らえようとするからだ。ネナーシの蔓には鋭い棘がビッシリと生えているので、捕まれば締め上げられながら棘でズタズタにされる。ニグルはそれを嫌がっているようだった。
「ガンガン行くぜェ!アンタが本気を出したくなるくらいよォ!」
「えぇ?好戦的過ぎるだろ、マジで…風来者ってみんなお前みたいなのか?」
「どわあああっ!だっ、断じて違うぅぅ!」
ニグルがため息と共に吐いた呟きを、ディヴァルトに殴り飛ばされながら私は否定した。ジゴロウが真っ先に攻撃した直後、ディヴァルトは私を含めた残りの四人に襲い掛かった。
それに対して、我々は素早く構える。ジゴロウのアバターを持つ私とミケロのアバターを持つネナーシが前衛に、アイリスのアバターを持つネナーシと私のアバターを持つアイリスが後衛についた。
ただ、私にはジゴロウのアバターを最大限に活かす才能はなかったらしい。兄弟のように華麗に避けることなど不可能であり、両腕を交差させて防御するのが精一杯だった。
しかも純粋な重さの違いからか、ディヴァルトの拳を受けると今のように吹き飛ばされてしまう。その度に地面を無様に転がり、急いで起き上がってから前衛に戻るのを繰り返していた。
「俺の身体でダセェことしてんじゃねェぞ、兄弟ィ!」
「無茶を言うな!私は殴り合いの経験なんて小学生以来なんだぞ!?それに視点が高過ぎて動き辛いんだ!」
「うん、普通こうなるよな?」
バシャバシャと水飛沫を上げながら地面を転がる私を見てジゴロウは叱咤する。ダサいと言われても自分でも言った通り、殴り合いなんて子供の頃以来で腰が引けてしまう。それにジゴロウは私のアバターよりも背が高く、手足も長いので動きに違和感があるのだ。実は立ち上がるのにも若干苦労している感覚があった。
そんな私を見てニグルは確認するように何度も頷いていた。そうだぞ、ジゴロウ!全くタイプの異なるアバターをすぐに動かせるお前の方が異常なんだ!同じ人型でも普通はこんなに動き難くなるんだぞ!
「ぬおおっ!フワフワ浮いているのも難しいものですな!?」
「ううん、触手が多すぎて十全に動かせませんね」
「はわわ…どの魔術を使えばいいんです?」
私以外の三人もそれぞれ苦戦しているようだった。ミケロのアバターを持つネナーシは常に浮遊している状態に慣れておらず、盾で防御する度に空中でグルグルと回ってしまう。アイリスのアバターを持つネナーシは多すぎる触手を持て余しているのか、動きがぎこちなかったりユラユラ揺れるばかりで動かせていない触手があったりした。
そして私のアバターを持つアイリスは、どの魔術をどう使えば良いのか即座に判断を下せずに迷っているようだ。我ながら習得している魔術が多いことは自覚しているし、魔術を使えるものの積極的に使わないアイリスからすれば混乱するのも仕方がなかった。
「ふははははっ!対応力っ!対応力を身に付けるのだっ!常に万全の状態で戦えると思ってはならぬっ!」
「おっしゃることは正しいのでしょうが、このような状況にまで対応することは現実的とは言えないのではないでしょうか?」
「然り!拙者ならば即座に逃げますぞ!」
ディヴァルトは長い両腕を振り回しながら対応力を磨けとご高説を垂れているが、ミケロは触手でその腕を捕らえながら丁寧な口調で反論する。ネナーシも盾で鞭のようにしなる腕を何とか防ぎながら便乗した。正直、私も同じ意見である。
しかし、二人の反論を聞いたディヴァルトは幾つもある目を吊り上げながらより強く腕を振り回す。ミケロの触手はブチブチと引きちぎられ、ネナーシは盾で防いだのに吹き飛ばされて戦線に戻ろうとしていた私に直撃した。
「何を言うかっ!逃げることなど考えるなっ!神域を守護する英霊にあってはならぬことだっ!」
「いや、我々は英霊ではないんだが…」
「ゴポゴポ…我が親友ながら面白い男よな」
どうやら逃走を戦術の候補に含めていることに怒ったらしい。受け止めたネナーシを放しつつ、きっと届かないとわかっていながらも私は小声で呟く。そんなディヴァルトを見たシュネルゲは楽しそうに笑っていた。
これまでシュネルゲは一切手を出して来ない。あくまでも『魂魄流転』を使うためだけに来たのかもしれない。ただ、英霊三人を相手にするのと『魂魄流転』で仲間のアバターと入れ換えられた状態で英霊二人と戦うのはどちらの方が厳しいのだろうか?悩ましいところである。
「その腐った性根っ!叩き潰してから作り直してくれるわっ!」
「潰されるのは勘弁してほしいところだな」
「そっ、そうですよ!潰させたりしません!」
私はジゴロウの持つ防御の武技を発動させながら前線に戻り、アイリスが急いで【付与術】を掛けていく。本来のアバターの持ち主ならば行わないあろう行動や、とっくにやっていたはずの行動が戦闘が始まってから少し経過してから行われるのはやはり慣れていないからだ。
アイリスによって自分にほとんど掛けたことのない筋力や防御力が強化されていく。また、武技を使用していたことで自動的に腕が動いて振り下ろされたディヴァルトの攻撃を弾くことに成功した。
防御系の武技を私はほぼ使えないのだが、これはかなり便利である。何せ防ぎたいと思ったタイミングで使えば身体が良い感じに動いてくれるのだ。これなら心得のない者でも戦える。もしも私が最初のキャラクタークリエイトで前衛職を選んでいたとしても、普通に遊べていたことだろう。
魔力を少しだけ消費するが、それも自然回復で賄える程度だ。エイジのように強力な防御の武技を用いたならばもっと魔力を消費するのだろうが…幸いと言って良いのかわからないが、ジゴロウは防御に使える武技を少ししか持っていなかった。
「なるほど…これが前衛職の戦い方か」
「ふぬっ…この身体で盾の使い方がようやくわかってきたでござる」
「能力を使ってある程度オートで動かせば良いんですね」
「えっと、こうかな?」
私がジゴロウのアバターに慣れ始めたのとほぼ同じタイミングで、仲間達も戦いのために慣れてきたらしい。ネナーシは吹き飛ばされることなく攻撃を弾けるようになったし、ネナーシもアイリスの持つ大量の触手を扱う方法を見付けた。
特にアイリスに至っては私よりも器用に【浮遊する頭骨】を操って、ディヴァルトに多方向から魔術を浴びせている。威力は低い魔術しか放てないが、マシンガンのように連射しているのでディヴァルトは鬱陶しそうにしている。叩き落とそうとするが、ヒラリと回避して逃がしていた。
ううむ、【浮遊する頭骨】ってあれほど自由自在に動かせる能力だったのか。戦いながらあれにも意識を割くのは難しいので、あらかじめこうやって動かそうと思っていた動きしかさせてこなかった。それで十分だと思っていたのだが…練習しよ。
「うむうむっ!ようやく仲間の身体に慣れてきたようだなっ!ならばっ!こちらももう少し力を使うぞっ!」
「まさか…!皆さん、伏せてください!」
我々がそれなりに動けるようになったことで満足そうなディヴァルトは、右腕をスッと伸ばしてから掌をこちらに向ける。彼の大きな掌にはヤツメウナギのような口があり、指先では眼球がギョロギョロと蠢いていた。
こう言う異形を見るのには慣れているとは言え、かなり不気味な姿だ。ただ、そのことに眉を顰める前にミケロが何かに気付いたのか悲鳴を上げるようにして伏せろと叫ぶ。その声色から危機感を抱いた私は、反射的に地面へと伏せていた。
「ぬわあぁぁ!?もっ、燃えるぅぅ!?」
「わわっ!?」
「アイリス!?」
伏せた私の背中を何かが通りすぎて背筋がヒンヤリとしたかと思えば、炎に包まれたネナーシが空中でのたうち回っていた。彼は慌てて地面に突っ込むと、浅く広がっている水…すなわちシュネルゲの身体の一部に押し当てて鎮火させていた。
そしてアイリスは片腕が凍り付いている。【火炎魔術】によって溶かしているが、ダメージを受けているようだった。
「ゴポゴポ…熱いぞ、友よ」
「がっはっはっ!すまんなっ!」
機嫌悪そうに文句を言うシュネルゲに対して、ディヴァルトは豪快に笑いながら謝っている。しかし、その声色からは罪悪感を抱いている様子はなかった。
二人のコミカルなやり取りはともかく、伏せていたので何をしたのかはわからない。ただ一つ確かなことは、我々がディヴァルトに攻撃されたことだった。
「皆さん、気を付けてください。彼は私と同じ魔眼使いです」
「左様っ!これぞ我が力の一端よっ!見事耐えてみせよっ!」
リーチが長い上に関節が多く、動きが読めない腕による打撃に魔眼を用いた予備動作がわかり難い遠距離攻撃。攻撃する隙がないので防御力がどの程度なのかわからないが…流石は英霊。その強さに偽りはないと見える。
相手はついに実力の一端を解放した。それに対して我々はようやく仲間のアバターに慣れ始めたばかり。差が縮まるどころか広がったような気もするが…そんなことはどうでも良い。必ず制限時間まで生き残ってみせる!
次回は10月3日に投稿予定です。




