素晴らしき秋の一面・動 その三十三
闘技場の中央で最後の攻防を行っていた二人。その姿は同時に光の粒子となってしまった。そのタイミングは本当に同時であり、闘技場は完全なる無人となっている。つまりは相討ちである。
え?これ、どうなるの?困惑しているのは私だけではない。観覧席にいる仲間達もそうだし、観客席にいるプレイヤー達も同じ反応だった。いや、マジでどうなるのさ?
「あ、相討ち?ってことは…どうなるんです?」
「引き分けになるのかしら?そこんとこ、ルールには記載されてるの?」
「しばし待たれよ…おっ!ありましたぞ!」
困惑していた我々だったが、ネナーシが素早くメニューを操作してルールを確認する。すると、そこには相討ちとなった際の処理について書かれているようだった。
「相討ちの場合は基本的に再試合ですな。ですが、決勝戦と三位決定戦に限っては同率一位か三位となるようですぞ。つまり…」
「ジゴロウの優勝か」
私は安心したようにソファーに身体を沈めた。もしも再試合となった場合、流石に勝てないと思うからだ。ジゴロウは驚異的な戦闘力の持ち主だが、一人での参加という致命的な欠点がある。単純に数の上で不利なのは今更言うまでもないが、ここで問題としているのは戦術面についてだった。
お互いに一度戦っているのだから、再試合をするのであれば対策を練ってくるはず。少なくとも私は絶対にそうする。お互いに対策をすることで全く別の試合展開になるかもしれない。普通のパーティー同士であれば、再試合でも見応えはあっただろう。
しかし、ジゴロウは一人である。拳での攻めや蹴りでの攻め、打撃重視や投げ重視など多彩な技を使い分けて戦うことは出来るだろう。しかし、どこまで行っても接近しなければ話にならない。要は相手比べて戦術の幅がかなり狭くなっているのだ。
近付いてくるのがわかっていて、そして近付かれれば鬼神のような戦いぶりで殴り倒されてしまう。再試合になれば、私ならば遠距離からの攻撃を徹底する。大地砦で守りを固め、その内側から魔術や武技を撃ちまくるのだ。そうされるだけでジゴロウとしてはかなり辛いだろう。
私のように飛行出来るアイテムを持っているのなら、拳が届かない場所に逃げるのも良い。それなら完全に詰んでしまう。何にせよ、再試合にならなくて本当に良かった。
「あっ、みんな復活した!」
「じゃあ表彰式だねー」
相討ちという中々お目にかかれない状況に未だ観客席がざわつく中、闘技場にジゴロウとルーク君御一行が復活した。ジゴロウは意外にもブスッとした表情で腕を組んでいる。同率とは言え優勝したと言うのに、何が不服なんだ?
同じく優勝したはずのルーク君達も浮かない顔をしている。何だよ、お互いに納得が行っていないとでも言いたいのだろうか?もう一戦始めるとかないよね?
私が成り行きを見守っていると、勝者を称えるべくいつものように天使が舞い降りてきた。優勝者が出る度に登場するのでもう見慣れたはずの天使だが、闘技大会も終わりであるからかこれまでよりも気合いが入っている気がする。
天使は相討ちだった時のルールについて言及し、それに則って両者を同率一位とすると宣言した。観客はそんなルールがあったのかとメニュー画面を開いて確認する者と既に見ていたのか落ち着いたままの者に分かれている。
同率一位が大会のルールとして認められていること、そしてそれで構わないと言えるほどの壮絶な試合だったこともあって観客は納得している者が多いように見える。だが、その裁定に待ったをかけた者がいた。
『この試合は俺の敗けだァ。天使さんよォ、悪ィがそう言うことにしちゃァくれねェか?』
それは他の誰でもないジゴロウであった。兄弟は組んでいた腕を解いてから、自分の敗北だったと申告したのである。おいおい、どういうつもりだ!?ひょっとしたら『白黒つけさせろ』と言い出すかもしれないとは思っていたが、それはあまりにも想定外過ぎる!
驚いたのは私だけではない。ようやくどよめきが収まった観客席は再び騒がしくなったし、観覧席にいる仲間達もほぼ全員が硬直している。ただ一人、源十郎だけが言いたいことを理解しているようにゆっくりと頷いていた。
『己の敗北を自ら主張するとは…理由を聞かせてもらっても良いだろうか?』
『あくまでも俺個人の価値観だがよォ、体力が尽きた時点で敗けなんだよなァ。同時に敵を仕留めてたとしても、自分が死んでちゃァ話にならねェ。だから俺は敗けてんだよなァ』
なるほど、ジゴロウの主観では相討ちは敗けなのか。そして我が兄弟は戦闘狂ではあるからこそ戦いそのものにこだわりを持っているタイプだ。この試合は自分の敗北だったことを決して譲らないだろう。一位にされるくらいなら、称号どころか賞品まで受け取らないとか言い出しそうだ。
天使のAIは優秀であり、ジゴロウに翻意を促すのは難しいと判断したらしい。その端正な顔を少しだけしかめたものの、彼の意志を尊重するべく大きく頷いた。
『待ってくれ!それなら僕たちも優勝を辞退する!』
『ちょっ、ルーク!?』
『急にどうしたんですか!?』
今まさにジゴロウの敗北を認めようとした時、ルーク君は慌てて手を挙げて自分達の敗けだと言い出した。パーティーメンバーは驚きながら撤回させようとするが、それよりも天使がその真意を問いただす方が早かった。
『その理由は?ジゴロウ殿のような信念があるのか?』
『そういう訳じゃないです。ルール上、同率一位だって言うのなら受け入れました。けど、あの内容で…六対一で戦って相討ちになったのに勝ちを譲られるのを良しとするほど、僕は卑怯者じゃありません』
あー…それは分かる気がする。自分の方が数が多かったのに互角の戦いを演じ、最終的に相討ちになったジゴロウ。そんな彼が自分の敗北だと主張して、それを素直に自分は勝利したのだと喜ぶのは難しいだろう。
少しでもプライドがある者なら、きっと受け入れるのは難しいに違いない。基本的に実益を重視する私であっても反発する気がする。何故なら、あまりにもカッコ悪いじゃないか。
大体、ジゴロウの理屈で言えばルーク君も敗者になってしまう。ジゴロウはあくまでも自分の価値観だがと前置きしていたが、あれを先に言われて自分は勝ったと言い張るのは難しい。ジゴロウ本人にそんな意図はなかったと断言出来るが…周囲はそう思わないだろう。勝者となろうものなら心ない言葉を浴びせる者も出てくる可能性は高いと思う。
ルーク君の感情を納得させるためにも無用な批判を避けるためにも、彼の判断は正しかったと言える。思わず止めようとしていた彼のパーティーメンバーも、そのことに思い至ったからか発言を撤回させようとすることはなかった。
『ジゴロウ殿が優勝を辞退したとて、貴殿等の優勝は規則の通り過ぎぬ。卑怯者と謗られたとて、それは見当違いの暴言であろう。それでも敗北を認めるか?』
『認めます。少なくとも、僕たちは勝っていません』
『それはパーティーの総意か?貴殿等はどう思っておる?』
『私もそれで良いわ。みんなも…良さそうね』
天使による意思確認に対して、ルーク君は迷う素振りをみせずに即答した。パーティーメンバーも同意しているらしい。少し不満に思っている者もいそうだが…それをフォローするのはルーク君の仕事だろう。頑張ってくれ。
意思を確認した天使は鷹揚に頷くと、その両手を天に掲げる。するとその手に輝く白銀の球体が二つ現れた。
『それでは、この決勝戦は両者敗北。よって準優勝パーティーへの賞品授与に移る!まずはジゴロウ殿、貴殿は賞品として何をお求めか?』
『賞品ねェ…』
ジゴロウは賞品を授与される段になってから両腕を組んでウンウン悩んでいる。おいおい、せっかく報酬が選べるというのに何も考えていなかったのか?幾らでも考える時間はあっただろうに…きっと戦いのことしか頭になかったんだろうなぁ。
ひとしきり悩んだ後、ジゴロウは何かを思い付いたように拳で掌をポンと叩いた。そして満面の笑みと共に要望を口にした。
『瓢箪だなァ』
『…は?』
『前から欲しかったんだよなァ、いい感じの瓢箪がよォ。それじゃァダメかい?』
『ふむ…良かろう。では、受けとるが良い』
そう言ってジゴロウに光る球体の片方を差し出す。するとそれは飴色の瓢箪になっていた。くびれの部分には赤い布が巻き付いていて、何か刺繍されているようだ。離れているので細かい意匠はわからなかった。
ジゴロウは嬉しそうに瓢箪を受け取ると、中身はないのに栓を空けてから飲む素振りを見せる。どうやら気に入ったのか、栓をしてから大事そうにインベントリへとしまった。
『次は貴殿等に問う。各々、求める賞品を言うが良い』
ルーク君達は天使に自分が求める賞品を告げていく。その度に天使の掲げる球体からそのアイテムが実体化していく。そして最後の一人が賞品を受け取った後、天使はフワリと浮かびあがった。
『これにて、闘技大会の全試合は終了した!予選を含めてこの大会で雄々しく闘った戦士達よ!素晴らしい闘いであった!しかし、まだ終わりではない!これよりエキシビジョンイベントを開始する!』
え、エキシビジョンイベントだと?何を始めるつもりだ?私が呆気にとられていると、天使はパチンと指を鳴らす。すると、闘技場の上空から何かが凄まじい速度で落ちてきて…天使の前で急停止した。
天使の前に止まったのは、豪華な鎧を装備した半透明な戦士だった。何だ、あれは?天使ではなさそうだし、幽霊系の魔物でもなさそうだ。
『これより二十四時間の間、エキシビジョンイベントとして戦士としての先達…英霊と戦えるイベントの開始する!』
英霊と戦えるイベント。その開始を天使は闘技場の上空で高らかに宣言するのだった。
次回は9月17日に投稿予定です。




