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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
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素晴らしき秋の一面・動 その二十九

「はぁ~…ハラハラさせてくれるよ、全く」


 私は目の前でようやく決着がついた戦いを見終わって、ため息を吐きながらソファーに体重を掛けた。私がこんなにも疲れているのは、ジゴロウと『怒鬼ヶ夢涅夢涅(ドキがムネムネ)』の戦いは熾烈なものとなっていたからだ。


 『怒鬼ヶ夢涅夢涅(ドキがムネムネ)』の全員が鬼系魔物特有のタフさを誇っていた。顔面を蹴られようが腹を貫手で貫かれようが、ピンピンしていたのである。人類ならば死んでいるような打撃を何度受けても、死なずに何度も立ち上がってみせた。


 そんな頑丈な者達を相手にしたのだから、ジゴロウも苦戦を強いられた。戦斧によって胸を斬り裂かれ、釘バットによって頭を殴られ、鉈によって腹部を抉られ、棘付き鉄球を失った鎖によって何度も打ち据えられた。どの攻撃も、私が直撃すれば少なくとも瀕死は免れなかっただろう。


 しかし、それでも勝ったのはジゴロウだった。素手で全身の殴り倒し、爪で急所を抉り、武器を破壊し、角で身体を貫き、牙で身体を噛み千切った。鍛練を重ねたのだろう武術と、荒々しい暴力が融合したいつも通りの暴れぶりである。


 ただ、今回の戦いでジゴロウが最も多用していたのが投げ技だった。攻撃を回避しながら打撃を叩き込み、それと同時に関節を極めつつ投げて地面に落とすか他の敵にぶつけるのだ。時には敵の攻撃に対する盾にする外道ぶりまで見せていた。


「ジゴロウさんって殴ったり蹴ったりが得意だと思ってたんすけど、投げ技とかも使えるんすねぇ…素手だと無敵じゃないっすか」

「ハハハ、ジゴロウ君は寝技と絞め技も得意だよ。格闘術を模擬戦形式で教えてもらった時にやられたからね」


 おいおい、何でもありかよ。しかもその技って武技の使い方が上手とかじゃなくて、純粋な本人の技能である。どんな訓練を積んだらあそこまで強くなれるのだろうか?


「寝技かぁ…何や、玄人っぽいやんけ!モッさんも教わったらどうや?」

「いやぁ、無駄でしょう。そもそも寝技が習得可能な武技として出ていませんし…何よりジゴロウ君が言ってたんですよ。このゲームじゃ寝技はあまり役に立たないと」

「え?そうなんか?」

「うむ。敵が一人かつ人型に近く、一対一の状況ならば寝技は有効じゃ。特に返し技を知らぬ相手ならば決して逃がすことなく一方的に締め上げられるじゃろうな。しかし、このゲームは多数と戦うことも多く、人型でない相手ばかり。人型の者もおるが…のう?」


 源十郎は解説をしながらチラリと私の方を見る。その意味は私を含めた全員が理解していた。私が徐に第三、第四の腕と尻尾を見せると、源十郎は大きく頷いた。


 私のように一見すると人型だが、そうではない者もいる。もしも私が寝技を掛けられたら尻尾で背中を突き刺すだろう。このように、このゲームでは寝技の強みを活かす場面が少ないのだ。


 それは絞め技も同じこと。格闘技の試合とは異なるのだから、仕方がないのだろう。


「それに武技や魔術の存在もある。寝技に持ち込んでも不自然な姿勢からでも強引に使える攻撃で反撃されれば、むしろ回避出来ずに受けてしまうからのぅ」

「どんな方法だろうと勝ちは勝ちでしょ。それで、どこまで勝ち上がれそう?」

「ふむ…これまでの試合を見るに、ジゴロウならば決勝には行けるじゃろう。遊び過ぎて討ち取られる可能性はあるが…まあ、大丈夫じゃよ」

「決勝まで行けるんですね…一人なのに…」

「しかし、決勝戦で勝てるかどうかはわからん。相手はあのパーティーじゃろうからな」


 源十郎の予想を裏付けるように、我々の目の前でルーク君のパーティーは対戦相手を終始圧倒しながら倒して見せた。ジゴロウが敗北する姿は想像がつかないが、あれに勝てるのかは疑問である。


 源十郎の言う通り両者が決勝で激突したらどうなるのか…私には予想もつかない。私はただ、ジゴロウの勝利をただ信じるだけだ。



◆◇◆◇◆◇



 闘技大会の最後を締め括る、パーティーの部の決勝戦。闘技場の中央で相対するのは一つのパーティーと一人の人物であった。


 パーティーの方は知らないプレイヤーはいないほどに有名な者達である。勇者とも呼ばれるルーク、剣と槍を巧みに操るローズ、火力に優れた魔術師の藍菜、斥候としても短剣使いとしてもトップクラスのメグ、鉄壁の防御を誇るキクノ、そして的確に回復してみせる蓮華。名実ともに最強のパーティーなのである。


 個人の方はこの決勝トーナメントをたった一人で勝ち上がった男、ジゴロウである。鬼神の如き強さによって数の不利をひっくり返してここまでやって来た。観戦しているプレイヤー達の注目は、むしろ彼の方にこそ集まっていると言えた。


「パーティーの部なのに一人でここまで来るなんて…凄いなんてもんじゃないね」

「でもこれまでの戦いを分析したでしょ?私達なら勝てる相手だって。一回戦の時みたいな油断さえしなければ、苦戦もしないわ」


 闘技場の中央で、ルーク達はジゴロウがここまで勝ち上がったことを心から称賛していた。しかし、それまでの戦いを見ていたからこそ、自分達ならば勝てると確信している。だからこそ、彼らの顔には余裕があった。


 そんな挑発を兼ねた会話が聞こえていながら、ジゴロウは腕を組んだままじっと彼らを観察していた。もうすぐ戦いが始まるという段になって、ようやく開いた口から出たのはこんな言葉であった。


「よォ、色男。モッさんは強かったかァ?」

「モッ…?えっと、誰のこと?」


 思いもよらない質問に、ルークは戸惑ってしまう。それに『モッさん』という渾名では一回戦で戦った相手だとはわからなかった。ジゴロウもそこには思い至ったのか、言い方を変えることにした。


「一回戦でテメェが戦った悪魔だァ。一対一(サシ)でやり合ってたじゃねェか」

「あ、ああ。強かったけど…それがどうかしたの?」

「あいつらァ、同じクランの身内なんだよなァ。仇討ちはキッチリさせてもらうぜェ」


 そう言ったジゴロウがニヤリと笑った瞬間、ルーク達は背中に冷たい氷の槍を刺されたかのような寒気を覚えた。ジゴロウは武技や能力(スキル)は一切用いていない。にもかかわらず、全員が彼から放たれる一種の威圧感だけで怯えてしまったのである。


 彼らの反応を見るでもなく、ジゴロウは踵を返して所定の位置に行く。その背中に得体の知れない化物を見るような目を向けながら、ルーク達も後ろに下がった。


「皆、ボス戦に臨むくらいの気持ちで行くよ!」

「わかってる!何かあの人、怖いからね!」


 試合開始のゴングが鳴ると同時に仕掛けたのはルーク達の方だった。彼らは先程の感覚から余裕など吹き飛んでおり、最大限に警戒していたのである。ジゴロウが兄弟と呼ぶイザームは『わざわざ警戒させる必要などないのに』と呆れていたが、警戒されている本人はただ好戦的な笑みを深くするばかりだった。


 全身に鎧を着込んだキクノが大盾を掲げて構え、その背後から藍菜が【雷撃魔術】を、メグが背負っていた弓から矢を放つ。飛来する魔術と矢を前にして、ジゴロウはその場から動こうとはしなかった。


「嘘っ!?」

「…化物」


 ジゴロウは矢を片手で掴み取りつつ、【雷撃魔術】を蹴りの風圧だけでかき消してしまう。魔術も矢も様子見の攻撃であり、能力(スキル)で強化もしていなければ武技も使ってはいない。それ故に不可能なことではないのだが、可能だからと言って本当にやって見せることには大きな差がある。二人の驚きは無理もないことと言えた。


 しかし、それとは関係なくルークとローズは飛び出していた。二人は左右から挟撃するように襲い掛かる。ルークは剣で腹部を、ローズは槍で首を狙って突く。矢を掴んで蹴ったジゴロウの姿勢は悪く、誰もが少なくとも片方の刃は当たるだろうと思っていた。


「フン!」

「うわっ!?」

「ハッハァ!」

「かはっ…!」


 ここでもジゴロウは常軌を逸した動きを見せる。彼は手首のスナップを利かせて掴んだ矢をダーツのようにルークの顔面を狙って投擲しつつ、空いている手でローズの槍を掴み取りって引き寄せながら彼女の腹部へと横薙ぎに蹴りを叩き込んだ。


 インパクトの瞬間にジゴロウが手を離したことで、ローズは砲弾のように飛んでいく。ジゴロウの膂力と技術が組み合わさった蹴りは、武技を使っておらずとも恐ろしい威力を発揮するのだ。


「よくも…!?」


 ルークは怒りと共に剣を一閃したのだが、何とジゴロウはその白刃を膝と肘で挟んで止めてしまった。挟む力は異常なほど強く、引き抜くことも押し込むことも出来ない。まるで剣がその場に固定されているかのようだった。


 受け止めたジゴロウだったが、彼の顔に浮かんでいたのは愉悦ではなく不快感だった。彼はこのまま剣をへし折ろうとしたのだが、剣は折れるどころか歪む気配すらない。きっと破壊不可の武具なのだろうと予想した彼は、折ることをあっさりと諦めた。


「シャアッ!」

「があっ…!」


 ジゴロウは挟んでいるのとは逆の手を貫手の形にすると、鎧の隙間から喉を目掛けて突き刺した。流石と言うべきかルークが咄嗟に身を捩ったのだが、ジゴロウの鋭い爪は鎧の肩の隙間から肉を抉った。


「どりゃあああっ!」

「チッ」


 回避された貫手を引き戻して今度こそ喉を貫こうとしたが、横から猛然と迫ってくるキクノの盾を見てそれを諦めた。武技を使った盾による打撃は自動車に轢かれるほどの威力があるのだが、事前に察していたジゴロウは自ら大きく飛び退いてその打撃を回避する。


 それだけで終わらないのがジゴロウだ。彼は着地と同時に前へ突撃し、盾での打撃を空振った姿勢で硬直しているキクノに飛び掛かり、片手で盾を押し退けつつもう片方の手で頭を横に傾けさせてから首筋に噛み付いた。


「アガ?」


 しかし、彼の牙がキクノの柔肌を傷付けることはなかった。彼女は鎧の下に金属繊維で織られた全身タイツのような特注の服を装備している。それは首をも守っており、それが牙による致命傷を防いだのだ。


 意外そうに驚くジゴロウだったが、盾を持っていない方の腕が振り上げられたことを察してすぐに後ろに下がった。直前まで彼がいた場所を空振った彼女の斧が闘技場の地面にめり込んだ。


「おっとォ…ヘッヘヘ!腐っても決勝戦、お手軽に即死はさせちゃァくんねェわなァ」

「当たり前だろ?盾職がそう簡単にくたばってたまるかってんだ」

「ハッハァ!違ェねェ!」


 ジゴロウは不敵に笑いながら口元を拭う。その間に神官の蓮華によってダメージを負った者達の傷はもう治っている。まだまだ、決勝戦は始まったばかりだった。

 次回は9月1日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の闘いを分析した……その言葉が慢心そのものである 慢心、ダメ、ゼッタイ
[一言] 【北の山の悪夢】の異名で、勇者パをガクブルにさせて欲しいです✌️
[気になる点] 「嘘」「化物」と言ってる時点で、分析できてないと思ったけど、楽しむために人外の動きを見せてなかった? [一言] さすがに決勝戦では、強化系のスキル(神獣化とか)使うのかな。仇うつっ…
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