素晴らしき秋の一面・動 その二十九
七甲の出した下駄と謎の球体。下駄はともかく、この球体は何なのだ?私達が不思議そうに見つめていると、他の二人も自分の賞品を机に出した。
モッさんは鈍色で何かを耐えるような表情の僧侶のような人物の顔が彫られた指輪で、セイは座禅を組む僧侶が彫られた鉢金付きの鉢巻きだった。そして二人にも共通して謎の球体があった。
特にセイはそれが四つある。恐らくは彼自身と彼の従魔用だろう。どんな効果があるのだろうか?
「インベントリの中にアイテム名は書いてあったで。こっちは『忍苦の鉄下駄』で、こっちは『能力開花の飴』らしいわ」
「『能力開花の飴』は私も同じですね。指輪は『忍苦の鉄指輪』となっています」
「俺もだ!俺のは『忍苦の鉄鉢巻』だってよ」
ふむ。決勝トーナメントの初戦敗退者に与えられるのは『忍苦の鉄〇〇』らしい。三人は取りあえず与えられた装備を装着してみる。すると何かを納得するような顔になった。
「ほぉん…見たことないアイコンが出とるわ」
「オッサンが座禅してるアイコンだろ?俺にも出てるぜ」
「どうやら三人とも同じようですね。なら効果も一緒ですか。この装備には種族と職業のレベルが上がりにくくなる代わりに、能力のレベルが上がりやすくなる装備のようです。それ以外には効果がありません」
ほう?能力を鍛えるための装備か。進化の条件として高い能力レベルが要求されることもあるので、特殊な種族に至るのに便利だと思う。
ただ、それ以上に重要なのは同じレベル帯ならほぼ負けないだけの能力レベルになれることだ。つまり次にこのルールで同じ相手と戦うことになった時、高い確率で勝利出来ると言うこと。リベンジの機会に備えて苦行に耐える…そんな装備なのだろう。
「それで飴の方は?」
「どれどれ…ひょいっと」
興味津々なしいたけの前で、七甲は飴を躊躇なく口に放り込んだ。その直後、彼は動きを止めて虚空を見つめる。何かを見ているのは確実だ。
「どうした?何が見えている?」
「いや、それがな?ワイが習得可能な能力の一覧が出とるんやけど…必要なSPが5も減っとるんや。ただ0にはならへん。最低でも1やわ」
「なるほどの。だから『開花』か。『習得』ではないと言うことよな」
源十郎が納得したようにそう言った。才能を開花させるだけで、それを自分のモノにするには至らないということらしい。無条件に強くさせてはくれないようだ。
どれを習得するべきか悩み始めた七甲を尻目に、モッさんとセイも飴を口に放り込む。そして彼らも同じように悩み始めた。やっぱり能力を選ぶのは慎重になるよな。気持ちはよくわかるぞ。
「キキィ?ウキキッ!」
「あ?ちょっ!?モモ!?」
セイがじっくりと悩んでいると、彼の頭の上にいた従魔のモモが机に飛び降りる。そして飴を三つとも持ち上げると、逃げるように机から降りたのだ。セイは慌てて捕まえようとしたが、彼の手からすり抜けるようにモモは逃げてしまった。
逃げ出したモモは飴の一つを自分の口に含むと、残りの二つを仲間の従魔の下へと届ける。伏して寝ていたフィルの口にねじ込み、その背中に座っていたテスに手渡したのだ。
てっきり独占するつもりかと思ったが、仲間思いの良い従魔じゃないか。カルとヒュリンギアもあんな風に互いのことを思いやる関係になってくれると良いなぁ。
「全く、勝手なことはするなよ?」
「ウキィ?」
「惚けやがって…まあいいや。って!お前ら、自分で能力選んだのか!?色々と考えたかったのに…」
セイはガックリと項垂れている。全体のバランスを考えながら能力を自分で選びたかったようだ。気持ちはわからんでもないが、自分の従魔をもう少し信じてやれ。そう思ったので、一応私の意見を述べておくことにした。
「そう言うな、セイ。私だってカルが進化するときには本龍の意思を優先してきた。それが良い結果に繋がったことも多い。その意思を尊重してあげよう」
「まあ、今更何を言っても仕方ないし…そうするしかないよな」
セイは納得していないようだが、本人も言っているように今更どうしようもない。それで妥協するしかないのである。自分にとって最も必要な力を知っているのは自分自身だと信じてやるしかないのだ。
ちなみに、従魔の場合は飲み込んでからレベルが一つ上昇すると能力が得られるらしい。プレイヤーとは能力関連の仕様が異なるからのようだ。
「あっ、試合が終わったね。次はどんなパーティーなの?」
「次は…おお、親近感の湧く方々ですぞ」
賞品の話を無視して紫舟がネナーシに尋ねる。すると彼は面白そうに端末を操作してその容姿の3DCGを表示した。そこに表示されていたのは、大小様々な大きさの角が生えた魔物プレイヤー達だった。
ジゴロウと同じ鬼系の魔物やエイジと同じ豚鬼系の魔物、他にも小鬼から進化したと思われるプレイヤーばかりである。明らかに魔術師然としたローブを着た一人を除いた全員が戦士のパーティーだ。
そしてその服装は、某世紀末漫画のやられ役を思わせるパンクファッションである。鋲が打たれたテカテカ光る革のジャケットに金属の棘が生えた肩パッド、髪型はモヒカンかスキンヘッドで統一されていた。顔や身体にも刺青が彫られていて、非常にガラが悪かった。
魔術師はローブのフードを被っているので髪型はわからない。しかし、フードの隙間から覗いている顔には砂塵避けゴーグルと無駄に棘だらけの装飾が施されたマスクを着けていた。
彼らの武器もまたこだわりが見てとれる。戦士達が用いているのは釘バット、肉厚の鉈、武骨で錆びの浮いた戦斧、先端に棘付き鉄球のある鎖など、やはり某漫画を彷彿とさせる装備だった。
ちなみに魔術師の使う杖は節くれ立った木の枝に人類のものと思われる頭骨が引っ掛けられている。これもまた世紀末…なのか?映画とかで悪党のアジトの前にある警告のオブジェっぽい雰囲気は漂っている。それを杖として使うのはどうなのかとは思うがね。
「パーティー名は『怒鬼ヶ夢涅夢涅』。決勝トーナメントに残った三つの魔物プレイヤーパーティーの一つですぞ」
「一つはパーティーじゃないから、実質モッさん達以外だと唯一になるな。それにしても…ネーミングセンスはどうなってるんだ?」
「それに関してはイザームも大概でしょ」
「うぐっ!?」
大昔に流行ったらしい言葉に当て字をしたパーティー名に苦言を呈したものの、ルビーに一刀両断されてしまった。た、確かに私もネーミングはない方だと知っている。だが、それを仲間に指摘されると辛いところだ。
とにかく、その鬼系の魔物プレイヤー達のパーティーに対するは男三人に女三人のパーティーだ。盾職が一人、戦士が二人、弓使いが一人、魔術師が一人に聖職者が一人と良く言えばバランスの良い…悪く言えばありふれた構成である。
『怒鬼ヶ夢涅夢涅』の者達は「ギャハハハハ!」とか「キヒヒヒヒ!」とかわざとらしい下品な笑い声を挙げている。対戦相手は不愉快げに顔を歪めていた。
「何とまあ…落ち着きのない者達よな」
「あれは演技よ。ロールプレイって奴。イザームよりも恥を捨てきれてないから、中途半端な演技になってるけど」
「そうだね。イザームさんに比べれば随分とお粗末なロールプレイだ」
「ふ、二人とも言いたい放題ですね…」
あの、何?私は褒められてるの?それとも貶されてるの?どっちなの?ただ確実なのは『怒鬼ヶ夢涅夢涅』はわざとチンピラのように振る舞っているということだ。
徹底した服装から考えて、その振る舞いもまたロールプレイの一環なのだろう。つまり、彼らは油断していたり傲慢になっていたりする訳ではないということになる。世紀末漫画の雑魚として振る舞うことで、油断を誘っているのかもしれない。もしそうなら、チンピラとは思えない策士ぶりだ。
「「「「「「ヒャッハァァァァァ!!!」」」」」」
試合開始のゴングが鳴ると同時に『怒鬼ヶ夢涅夢涅』の者達はチンピラ特有の歓声を上げた。しかし、これはただの声ではない。闘技場が震えるほどの大音声であり、対戦相手は明らかに動きを止めていた。あれは攻撃なのだ!
彼らは鬼系の魔物である。きっと同じ鬼系の魔物であるジゴロウやエイジも可能な【咆哮】の能力を使ったのだ。歓声すらもロールプレイなのだが、それが完全に相手の虚を突いたのである。
怯んでしまった対戦相手に向かって、棘付き鉄球付きの鎖を投げて盾職の足を捕らえて引き寄せる。倒れてしまった盾職の無防備な背中に向かって釘バットや戦斧を振り下ろした。
「ほう?ふざけた格好の割りに動きは悪くないのぅ」
「ボク、ヒャッハーって本当に言ってるの初めて見たよ」
「ありゃ、もうダメやな。盾職がおらんかったらゴリ押しで潰されるやろ」
七甲の予想は的中した。『怒鬼ヶ夢涅夢涅』の者達は鬼系魔物としてのフィジカルを存分に活かしてダメージを負う前提で突貫する。釘バットが、戦斧が、鉄球が、鉈がプレイヤー達を圧倒していった。
そして最後に魔術師が「汚物は消毒だァー!」と言いながら杖から火炎放射の魔術を使い、残った対戦相手を焼き尽くす。漫画の雑魚敵にしか見えない者達は、終始優勢に戦いを進めて勝利したのである。
「やりおるわ。次の試合が第一試合の最後じゃから、ジゴロウが出るようじゃの」
「ってことは二回戦進めば今の人達と戦うことになるんだね?ちょっと面白そう!」
ルビーは楽しそうに笑っている。もしもそうなったら、ジゴロウは世紀末漫画の主人公になるのか?いやぁ、似合わないなぁ!そんなことを考えながら、私はジゴロウの試合を観るのだった。
次回は8月20日に投稿予定です。




