素晴らしき秋の一面・動 その二十八
闘技大会のラストを飾るパーティーの部。その高レベル帯の決勝トーナメントの第一試合は多くの人々にとって注目の一戦と言えた。何故なら、トーナメントを勝ち上がったたった三組しかいない魔物プレイヤーのパーティーと、優勝候補筆頭である通称『勇者パーティー』による直接対決であるからだ。
「何や、人が多いなぁ!緊張するわ~」
「嘘はダメでしょう。全く緊張していないでしょうに。緊張とはセイ君のような状態を言うんですよ」
「きっ!緊張なんかしてねぇよ!」
「クゥン…」
「キキィ…」
暢気な七甲と冷静なモツ有るよはともかく、セイはガチガチに緊張していた。彼の率いる三匹の従魔は心配そうに鳴いている。テスは励ますように彼の目の前を飛び回り、フィルは頭をグリグリと顔に押し付け、モモは頬を毛繕いする。
しかし、その効果はほとんどなく、彼の動きはぎこちないままであった。彼はイザームやジゴロウのように図々しくないし、邯那と羅雅亜のように注目されることに慣れてもいない。ある意味、クランでも数少ない常識人なのだ。
「妖精…大きい狼…小さい猿…どれもかわいい」
「それは否定しないけどね、だからって手を抜くんじゃないよ?」
「あれ、妖精じゃなくてその上位種だよ。ちゃんと育成するなんて根気があるわ」
「あの、みんな?この会話も生放送されてるんですけど…」
緊張しているセイとは対照的に、対戦相手側に緊張している者はいない。一人は敵の従魔に熱い視線を送り、一人はそれを窘め、一人は従魔の正体を見破ってその育成、そして一人は好き勝手に話している仲間達を恥ずかしそうに小声で注意しようとしていた。
六人いる彼らの内、残りの二人は苦笑するばかりである。ただ、彼ら全員に共通していることがあった。
「おーおー、余裕綽々って感じやなぁ。眼中にもないって感じやんけ」
「実際、眼中にないんでしょう。向こうは優勝経験者で、こっちは無名の魔物プレイヤー…侮られるのも仕方がないでしょう」
「舐められてる、ってことか?俺達だってトーナメント勝ち上がったってのに…何かムカつくな」
勇者パーティーの六人に共通していること。それは七甲達のことを完全に侮っていることだった。彼らがプレイヤーでトップクラスに強いことは事実である。だからこそ、自分達が警戒するべきだと知っている相手以外は戦闘においては無意識に一段下に見てしまうのだ。
実際、パーティーとしての総合力では七甲達の方が劣っているだろう。しかし、だからと言って見下されているのが伝われば気分が良い訳がない。これまで緊張していたセイも不愉快そうに顔を顰めた。
「まあ、格上なんは間違いないからなぁ。でも、勝ちに行くで?出し惜しみはなしや。ええな、モッさん」
「もちろんです。出し惜しみして勝てる相手ではありませんからね」
「いつも通り指揮は任せるぜ、モッさん」
七甲達が完全に本気になったところで、試合開始のゴングが鳴る。それと同時に出したモツ有るよの指示は、二人をして驚くものであった。
「七甲、分身の奥義を。その後、いつもの攻撃をお願いします」
「いきなりかい!?いや、出し惜しみはなしっちゅうたのはワイやったな!」
モツ有るよが選んだ戦術は、初手から七甲の秘術を使うことだった。自分と同じ性能の分身を作り出し、二人で大量の烏を召喚する。それに混ざってモツ有るよは突撃し、フィルに乗ったセイは跳躍して上から飛び掛かった。
◆◇◆◇◆◇
最強のパーティーとも呼ばれている勇者ことルーク君が率いるパーティー。それと戦った七甲達は善戦した。初手に行った召喚した烏による飽和攻撃により、前衛の盾職を釘付けにしつつ回復を担当していたプレイヤーを取り囲んだ烏を自爆させて討ち取った。
烏に紛れて突撃したモッさんが勇者君を蹴り飛ばしてから一対一で対峙して抑え込み、その間にセイと従魔達が暴れつつ七甲の魔術で残りを仕留めようとした。しかし…
「惜しかったなぁ」
「全くです。最強のパーティーという評判は伊達ではないようですね」
初手で一人屠り、モッさんが一対一で勇者君を釘付けにしたところまでは良かったと思う。だが、そこまでが限界だった。残った四人を相手にセイと七甲も奮戦したのだが、トッププレイヤーと従魔では力に差があった。
徐々に追い込まれていき、一騎討ちを制した勇者君が加わったせいで勝負はついた。セイ達と七甲は二人ほど道連れにしたし、モッさんも勇者君に手傷を負わせたり吸血して状態異常にしたりと善戦はした。だが、最終的には敗れてしまったのである。
「うおっ!?何やここ!?」
「豪華な部屋ですが…?」
「どこだここ?あれっ!?皆、どうして…?」
「クウゥゥン…?」
「キキッ!ウキキィ!」
やっぱり似たような反応になるのだが、人数が多いからどうしても騒がしい。私は苦笑しながらこの場所について説明しつつ、彼らの敢闘を称えた。
「それで、どうだった?最強のパーティーと戦ってみた感想は?」
「いやぁ、強いわ!攻撃は鋭いし、防御は固いし、魔術は強力や。どれも一級品やったな」
「一人一人が強いし、連係が上手いんだよ。俺達もヘタクソってほどじゃないと思うけど、これに関しては足元にも及ばないって感じだった」
「リーダーだったモッさんがいれば違ったのだろうが、モッさんはモッさんで勇者君を一人で押さえていたからな…。モッさんはどうだった?」
私の質問に対して、モッさんは少し何かを考えているようだった。そして頭の中で考えを整理してから、慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「強い、のは当たり前ですよね。闘技大会の個人の部でも優勝経験があるようですし。ただ、気になったのは…最初に激突した際、思ったほど力が強くなかったのです」
「力が…と言うと筋力のステータスが低かったと?」
「ええ。まさか蹴り一発で壁際まで吹き飛ぶとは思っていませんでした。虚を突かれていたので、自分で跳んだ訳でもなかったようですね」
ふむ。確かにモッさんの打撃は強いが、蹴り一発で壁際にまで吹き飛ばされるとなると貧弱な印象を受ける。自分から後ろに跳躍した訳ではないと言うし、本当に筋力が低かったのだろう。そんなに低い筋力でモッさんに勝つとは、よほど他のステータスが高かったと考えるべきだろうか?
「ですが、問題はここからです。そこから追撃した時、私は彼の剣と私の爪の威力はほぼ同等でした。そこから筋力が拮抗していたんですよ」
「え?ええっと、どういうこと?ステータスが急に強くなったってこと?」
蹴り飛ばした時は弱かった者が、その直後に強くなっている。本気を出しただけとも考えられるが、モッさんはそうではないと確信しているようだった。
「そうなんですよ。それから私の爪牙で彼が傷付く度、そして彼の仲間がダメージを負う度に露骨に全てのステータスが上昇していったのです」
「自分と仲間が傷付く度に、自分のステータスが強化されていく能力を所有している。モッさんはそう予測しているんだな?」
私が尋ねるとモッさんは大きく頷いた。本来の力を発揮するのに傷付く必要があると言えば不便にも思えるが、戦いが長引けば長引くほどに有利になっていく能力だ。
この予測が正しい場合、あのパーティーと戦う際には初手で勇者君を倒さなければならないのかもしれない。仲間の死や自分の痛みを力に変えるとは、確かに勇者っぽい能力と言えるかもしれない。
「あー…最初の一人を爆殺したんは、モッさんがあの兄ちゃんに蹴りを入れた直後やったか」
「ほぼ同時でしたが、その通りです。私も全力を尽くしたのですが、徐々に強くなる彼に対抗出来なくなって斬られてしまいました」
「アイツが合流した後はもう一方的だったもんなぁ。むしろあそこまで粘ってくれたのが凄ぇよ」
モッさんが敗北した後のことを思い出しながら、セイはしみじみと何度も頷いている。確かに端から見ていても最後の方の勇者君の力は圧倒的だった。あれを抑えていたのだから、モッさんは良くやった方だと私も思う。少なくとも、魔術師の私では数秒も保たないだろう。
「我々の決勝トーナメントはここまでです。勝てなかったのは残念ですが、ここからはゆっくり観戦させてもらいましょう。何、ジゴロウさんが仇を取ってくれますよ」
「ハハッ!確かに負けたんは悔しいけど、ジゴロウはんなら一人でこのまま決勝まで行くかもしれんわな!」
「てか、兄貴ってマジでヤバいだろ。どうやったらパーティーの部を一人で決勝トーナメントまで進めるんだよ?」
三人は敗北を喫したことは悔しいようだが、そのせいで落ち込んではいないようだ。慰める必要はないらしい。何はともあれ…三人とも、お疲れ様。
それにしても、セイの言う通りたった一人で決勝トーナメントにまで勝ち上がったジゴロウの戦闘力の凄まじさが際立つな。もし本当にトーナメント決勝にまで勝ち進んだら、勇者パーティーと激突するかもしれない。もしそうなったら兄弟はどんな戦いぶりを見せてくれるのだろう?まだ兄弟の試合すら始まっていないのに、期待に胸が膨らんでいた。
「ねーねー、三人は何か賞品とかあるの?敢闘賞的なヤツ」
「え?はい、ありましたよ。まだ中身を確認していませんけど」
話が一段落したところで、しいたけが賞品について聞き始める。このやり取りも三度目か。もう恒例になりつつあるな。
大袈裟な授受は決勝でしか行われず、一回戦の敗退者は移動するときにインベントリへ勝手に放り込まれるだけのようだ。一応通知はあったらしいが、観覧席に驚いてそれどころじゃなかったとモッさんは語ってくれた。
「ええっと、ソートで新しい順にして…おっ、あったで!ポーションの詰め合わせと…何やこれ?出してみよ」
そう言って七甲がインベントリから取り出したのは、一足の一本下駄と虹色に輝く謎の球体であった。下駄はともかく、何だこれは?我々は首を捻りながら球体を見詰めるのだった。
次回は8月16日に投稿予定です。




