素晴らしき秋の一面・動 その二十七
邯那と羅雅亜の優勝賞品である一領の鎧と優美な金輪。じっくりとそれを見て満足したとでも言いたげなしいたけが返却すると、二人はそれらを机の上に置いた。
「皆も自由に見ていいからね。遠慮なんていらないわ」
「我ながら子供っぽいけど、せっかくだから自慢したいんだよ」
二人はコロコロと笑いながらそう言った。もう少し決勝戦の話や他に苦戦した相手の話を聞かせてもらいたかったのだが、そう言われては固辞する方が失礼と言うものだろう。ならば遠慮なく、とばかりに私は邯那の鎧を丁寧に持ち上げた。
持ち上げた瞬間の感想は、思っていたよりもかなり軽いということだ。明らかに金属の光沢を放っているのに、私の持っている大鎌よりも軽い気がする。胴体と腰から太腿の辺りまで垂れ下がる部分まであるのだが、それでも大鎌よりも軽いとは…【鑑定】させてもらおうか。
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栄光の比翼宝鎧 品質:神 レア度:G
闘技大会の優勝者に贈られる特別な防具。破壊不可。所有者固定。
黒く頑丈な鎧は軽く、他の部位の防具を同じ防御力に変質させる。
対となる装備を持つ者とパーティーを組んでいる場合、性能が大きく上昇する。
装備効果:【防御力増大】 Lv5
【筋力増大】 Lv5
【武技威力増強】 Lv3
【宝鎧憑依】
【栄光の比翼】
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ほほう、これはまた面白い。ステータス上昇系の効果は、中身が変わっただけで源十郎の賞品と同じである。それに名前も類似しているな。恐らくはどの部門でも優勝賞品には『栄光の〇〇宝〇』という名前になり、同等のステータス上昇系の効果が付与されているのだろう。
見るべきは残りの二つである。【宝鎧憑依】は説明文にある通り、兜や籠手などをこの鎧と同等の防御力にまで引き上げるのだろう。ひょっとしたら初期装備でも同じ防御力になるのかもしれない。
ただ、上昇するのは防御力だけだと思われる。安物ではなく、ちゃんとした装備効果を持つ防具を用意しておくべきだ。邯那がその辺りを疎かにするとは思えないので、心配は無用だと思うが。
そして【栄光の比翼】とはなんなのだろうな?察するにこれは説明文にある『対になる装備』云々の効果なのだと思われる。きっと羅雅亜の方にも同じ装備効果があるに違いない。私は鎧を机に慎重に置き、次は羅雅亜の賞品を【鑑定】させてもらった。
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栄光の連理宝角輪 品質:神 レア度:G
闘技大会の優勝者に贈られる特別な装飾品。破壊不可。所有者固定。装備箇所固定。
角にのみ装備可能で、装備後は角そのものがこの効果を得る。着脱は可能。
対となる装備を持つ者とパーティーを組んでいる場合、性能が大きく上昇する。
装備効果:【防御力増大】 Lv5
【知力増大】 Lv5
【魔術威力増強】 Lv3
【装着融合】
【栄光の連理】
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あれ?思っていたのと名前が異なるぞ?てっきりこちらも『比翼』という名前のアイテムになると思っていたのだが、『連理』というこれまたよくわからない言葉になっている。どんな意味があるのだろうか?
名前はともかくとして、装備としてはかなり優秀だと思う。防御力を上昇させつつ、魔術の威力を上げることが可能なのだ。それに装備すると角と融合すると言うことは…もしかして、装備の破壊不能という特徴も受け継ぐのか!?そうだとしたら決勝戦のように角が折られる心配はなくなるな。
「二人ともが同時に装備していると真価を発揮する装備…興味深いですね。プレイヤーでも作ることが可能なんでしょうか?」
皆が二つの装備の性能を把握したところで、アイリスがそう呟いた。確かに一人のプレイヤーがセットとなる装備を用いることで効果を高めることはあっても、二人以上のプレイヤーが同時に装備して相乗効果をもたらすというのは中々聞いたことがない。
ペア装備とでも言うべきアイテムを自分が作ることも可能なのかどうか、職人として気になるのだろう。私としてもそれは気になるところだ。それを大人数に適応することが可能なら、我々全員を強化したり拠点にいる住民達を一斉に強化したり出来るようになるからである。
「さあね。作れても不思議じゃない思うけど」
「作れたら作ってもらおうっと!ね、ウール?」
「いいねー」
「それも良いが…実際に装備したらどうなるのか気になるのぅ。見せてくれんか?」
ペア装備の挙動が気になるのか、珍しく源十郎が催促した。気になっているのは源十郎だけではなく、私を含めた全員である。全員の視線が集中したのがわかったからか、二人は顔を見合わせてからニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、まずは僕が着けてみようか」
「「「おぉ~!」」」
言うが早いか、羅雅亜は角で器用に持ち上げた『栄光の連理宝角輪』を装着した。その瞬間に金色の輪はドロリと溶けると、一本の樹木に形を変えて彼の角に巻き付いていく。埋まっていた宝石は角の根元に埋まり、美しい光を放っていた。
変化を見届けた私達は感嘆の声を挙げる。それ以外に言葉が出なかった。角と融合すると説明文で知っていたが、このような状態になるのか。良いものを見せてもらった。
「次は私ね。貴方、一度外してくれるかしら?」
「うん?ああ、そうか。ペアの効果がある時とない時を見た方が良いよね」
羅雅亜は邯那の提案に従って角から一度装備を外す。巻き戻し映像のように金色の枝は退いて行き、まるで最初から何もなかったかのように消えてしまった。
それを確認してから邯那が『栄光の比翼宝鎧』を装備する。彼女が装備していた鎧がそれまで机の上にあったものに一瞬で切り替わった。すると彼女の兜と両腕を守る籠手、そして両足の脛当が鎧に合った形状と色彩に変わっていく。これが【宝鎧憑依】の効果なのか。
私達は羅雅亜の時と同じく感嘆したものの、その声はさっきよりも小さい。羅雅亜の時と似た光景だったので、どうしても驚きが半減してしまったらしい。邯那もそれがわかっていたようで、困ったように苦笑していた。
「私の方は地味ねぇ…じゃあ、貴方ももう一回装備してね」
「わかったよ…おお?」
「「「おおおおお!?」」」
羅雅亜が再び角に装備すると、同じように金色の枝が伸びる…ことはなかった。彼の角に巻き付いた金色の枝は二本に増えており、その輝きは先ほどよりも明らかに増していた。
同時に邯那の鎧にも変化が起きる。胸の中央にあった右の翼を持たない鳥の絵が変化して、左の翼しか持たない鳥と寄り添うようになっていた。しかも、その鳥の絵は黒い鎧を飛ぶように動き始めたではないか。まるで夜空を優雅に飛ぶかのように動く鳥に、私達の目は釘付けになっていた。
「ああ!そうか!比翼連理!比翼の鳥と連理の枝でござる!」
「知っているのか、ネナーシ?」
「はい、上様!どうして今までわからなかったのか…情けない話でござるよ」
それからネナーシは二人の装備の名前の由来となったらしい比翼連理という言葉について教えてくれた。比翼の鳥と連理の枝という二つの伝説を合わせたもので、どちらも夫婦仲が良いことを象徴する言葉だと言う。二人にピッタリの装備であった。
それにしてもネナーシは様々な雑学に通じているようだ。植物系魔物のアバターで時代劇のような話し方をする変わり者だが、実はかなり高い教養を持つのかもしれない。
「あらあら、かわいいわね」
「枝が二本に増えたけど、重さは変わらないね。助かるよ」
邯那は鎧を自由に飛び回る比翼の鳥を指で可愛がっていた。比翼の鳥は持ち主に懐いているようで、翳された手の甲に移動すると楽しそうに籠手の上を泳ぐように飛んでいた。
一方で羅雅亜は頭を振って重量を確かめている。確かに重さの感覚は重要だろう。気が済むまで調整して欲しいとは思うものの、部屋の調度品を傷付けないか心配になってしまう。
「闘技場だと最後のパーティーの部ね。今は低レベルだけど…ウチからも二組出てるのよね?」
「ああ、その通りだ。と言うか、ここにいないのは全員がパーティーの部に出場する者だけだぞ」
闘技大会の最終部であるパーティーの部には、二つのパーティーが…いや、一つのパーティーと一人が勝ち上がっている。ここまで来たら優勝して欲しいものだ。
「途中で当たるのー?」
「直接対決が叶うとすれば決勝でござるな。ブロックが異なるの…でぇっ!?」
ウールの質問に答えていたネナーシだったが、途中で声が裏返った。何事かと思って全員の視線が彼に集中する。そんなことに気付いていないかのように、ネナーシは端末を凝視していた。
「おい、どうした?何があった?」
「あー、その、残念なお知らせがありますぞ」
「残念?ひょっとして強い相手と当たるとか?」
「…その通りでござる。一回戦でモッさん殿達と戦う相手が不味いのですぞ。百聞は一見に如かずですな。これをご覧あれ」
ルビーの予想を肯定しつつ、ネナーシは端末を操作してモッさん達の対戦相手の情報を開示する。全員が人類であり、男性が一人に女性が五人と女性多めのパーティーだ。武装から考えて戦士が二人に魔術師、盗賊、重戦士、神官が一人ずつとバランスの良いパーティーだ。
ただ、その顔ぶれに私は見覚えがあった。と言うか本人達と戦ったことがある。それも二回も。そしてその両方、いや、少なくとも二回目の戦いでは向こうは私と戦ったと思っていない相手だった。
「勇者君じゃないか」
そう。モッさん達の対戦相手は私とジゴロウとアイリスで倒し、私がボスを勤めた迷宮で撃退した…第一回の闘技大会の個人の部で優勝したルーク君が率いる、第一回の闘技大会のパーティーの部の優勝パーティーだった。
次回は8月16日に投稿予定です。




