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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
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素晴らしき秋の一面・動 その二十六

 邯那と羅雅亜の戦いは我々が想像していたものとは異なる流れになっていた。戦う前に意気投合していたからか、読み合いや騙し合いなどをしない真っ向勝負になったのである。


 そして真っ向勝負では邯那と羅雅亜ではなく、対戦相手の方が圧倒的に有利だった。赤熱する大剣は加速度的にその威力を増しているのだ。互いに武技を駆使して戦っているものの、邯那と羅雅亜は押し負けて防戦一方になっている。しかも二人は大剣が常時放っている熱ダメージを受け続けていた。


 ただし、その熱は対戦相手自身をも傷付けているようだった。大剣を握る両腕の鎧は少しずつ変形しているし、それは互いの体力バーからも明らかだ。ここを耐え切れば、きっと勝機はある。私達は二人をひたすらに応援していた。


「あっ…?」


 その呟きを漏らしたのは誰だったか。ひょっとしたら私だったのかもしれない。だが、そんなことはどうでも良い。ようやく待ち望んでいた時が訪れたのだから。


 大剣の輝きが赤を越えて白くなった直後、大剣は急にその輝きを失ってしまう。刀身はまるで燃え尽きた後の灰のようになっていて、金属の輝きすらも失っていた。そこへボロボロの邯那が方天戟で鋭い突きを放つと、大剣ではなくエストックとメイスで受け止めた。


 しかし、羅雅亜の体重を乗せた邯那の突きを防ぐのは難しかったらしい。対戦相手は大きく仰け反ると、その場で背中から倒れてしまった。


 倒れた対戦相手へと邯那と羅雅亜の二人は追撃する…かと思いきや、二人は立ち上がるのを待っていた。これは相手を舐めているのではなく、あくまでも正々堂々と決着を着けることにこだわっているかららしい。スポーツマンシップ的な考え方だ…勝つためなら卑劣な手段を厭わない私とは大違いである。


 その気持ちに応えるように、対戦相手は立ち上がった。輝きを失った灰色の大剣を構え、エストックとメイスも横に広げて身体を大きく見せている。まだ戦意は折れていないようだった。


 構えるのを見てから羅雅亜は前足で地面を何度も引っ掻く。すると角だけでなく、金色の鬣と全身を包む鱗までもが発光し始めた。力を溜めているのは明らかであった。


ドンッ!


 まるで何かが爆発したかのような音がしたかと思えば、目で追うのも難しいほどの速度で突撃したのである。私は見るのは初めてだが、恐らくは羅雅亜の奥義だろう。


 光の尾を引きながら迫る羅雅亜の角に向かって、対戦相手はエストックとメイスを叩き付ける。その表面には黒い煤のようなエフェクトに包まれていて、激突すると同時に羅雅亜の角と二本の武器は同時に壊れてしまった。


 あちらも奥義を使ったようだ。サポートを行う二人による奥義対決は引き分け…ではない。角が折れたダメージによって羅雅亜は力尽きてしまったのだ。角は羅雅亜の最強の武器でありながら、身体の一部でもある。折られれば当然、ダメージも入ってしまうのだ。


 羅雅亜が光の粒子になる直前、邯那はその鐙を蹴って跳躍する。そして空中で血のような赤黒いオーラを方天戟に纏わせた。そのオーラはとても色が濃く、方天戟が目に見えなくなるほどだった。


 彼女は落下しながら方天戟を振り下ろす。対戦相手は大剣を盾のようにして防ぐが…信じられないことに方天戟は実体がないかのように大剣をすり抜けて鎧とその内側を切り裂いた。


「な、何あれ?」

「多分、邯那さんが前に言ってた奥義ですね。騎兵系か調教師系の職業(ジョブ)に就いている不死(アンデッド)だけが習得出来て、騎獣か従魔が死亡してから三十秒以内にだけ使えるロマン技らしいですよ。確か武器を怨念そのものに変えて、五秒間だけ防御力を完全に無視してダメージを与えるようにするとか。二人と戦う時は邯那さんを優先しなきゃダメってことです」

「あの二人のことだから、羅雅亜の方も似たような奥義を覚えていそうだがな」


 習得可能なプレイヤーも、それを発動させられる状況もあまりにも限定的過ぎる奥義だ。奥義や秘術を習得する方法は、『奥義書』か『秘術書』というアイテムを使用するかレベルが10上がった時かである。まだ我々は『奥義書』も『秘術書』も発見出来ていないので、邯那はレベルが10上がった時にそれを選んだのだろう。思いきりが良すぎないか?


 エイジの解説を聞いている間にも邯那は方天戟で連続攻撃系の武技を使っていた。目にも止まらぬ速さで刃による斬撃と刺突、そして石突による打撃を食らわせる。発動している奥義の効果時間である五秒間で、最大限の密度で攻撃しているのだ。


 向こうも防御が通用しないと理解してか、防御をかなぐり捨てて三本の武器を振り回す。だが、邯那は武技を中断せずに身体を反らせることで迫る刃をギリギリで回避し、メイスは鎧の固い部分で極力ダメージを減らしていた。ここで退けば、羅雅亜がいない彼女に勝機はない。それがわかっているからこそ、不退転の覚悟で方天戟を振るっているのだ。


 方天戟によって鎧が深く傷付き、穴が穿たれる度にその内側からドロリとした黒い液体が飛び散っている。恐らくはあれが鎧のプレイヤーの本体なのだと思う。鎧にもう一人入るスペースはないので、鎧のプレイヤーは魔物だとは思っていた。しかし、まさかルビーと同じ粘体(スライム)だとは思わなかった。


 連続攻撃の最後、大きく踏み込んでの突きが防御を無視して鎧の中央に吸い込まれていく。方天戟の穂先は胴体を完全に貫通し…鎧とその中身のプレイヤーは光の粒子となって消えていった。


 闘技場にたった一人残った邯那は、最後の突きを放ったポーズのまま立ち尽くしている。方天戟を下ろした彼女はゆっくりと天を仰ぐと、降ろしていた方天戟を大きく天へと掲げた。


「「「ワアアアアアアアアアッ!!!」」」


 その瞬間、源十郎の時よりも大きな歓声で闘技場が満たされた。邯那は周囲にヒラヒラと手を振って歓声に応えている。すると毎度お馴染みとなりつつある天使が闘技場に舞い降り、羅雅亜と対戦相手の二人が復活した。


 対戦相手の女性プレイヤーは号泣しながら邯那の胸に飛び込んだ。敗北したことは悔しいはずだ。だが、それ以上にリスペクトしている邯那が本気で戦ってくれたことが嬉しかったらしい。邯那はそんな彼女の頭を苦笑しながら撫でていた。


 彼女が落ち着いたところで、天使によるお褒めの言葉と賞品の授与が行われた。そこで邯那は新しい防具を、羅雅亜は角に装着可能な装飾品を求めた。天使は鷹揚に頷くと邯那には一領の鎧を、羅雅亜には指輪のような与えた。


 次は準優勝の二人の番になった。二人は少し話し合ってから決めたらしい。大剣使いの女性は鎧の下でも着ることが可能な下着を、鎧を操っていた粘体(スライム)は新しい鎧を求めたのだ。


 天使はやはり鷹揚に頷いてから、二人の望んだアイテムを手渡した。あっ、決勝に残った誰も武器を求めなかったのって初めてじゃないか?最後に天使が二組の健闘を讃えたところで、四人の姿は闘技場から消えていった。


「あら?」

「おや?」


 その直後、二人は観覧席に現れていた。二人とも呆然としたように周囲を見回している。うん、気持ちはよくわかるぞ。我々の多くも同じ反応になったのだから。


 現れた二人へと私達は惜しみない称賛を贈った。まだ少し混乱している様子の二人だったが、状況が飲み込めないながらも少し照れながらありがとうと言っている。そんな二人に源十郎にもした、この場所についての説明をしておいた。


「凄い場所ねぇ…大迫力で戦いが見られるわ」

「皆に倒れるところを見られてたんだね?うわぁ、急に恥ずかしくなってきたよ」


 邯那はウキウキしながらソファーに座り、羅雅亜はその場で伏せて顔を隠した。恥ずかしいと言ったが、決してそんなことはない。()()の突撃を敢行することなど私には出来ないからだ。


「恥ずかしく思う必要などあるまい。あれは勝つための戦術だったのじゃろう?」

「その通り。無理させてごめんね、貴方?」


 やっぱりそうだったのか。エイジから聞いたあの奥義は非常に強力だが、発動する猶予があまりにも短過ぎる。そうなることがわかっていないと、慌てて機を逸してしまいかねない。


 だからきっと、二人は羅雅亜が死亡する前提で最後の突撃をしたと思ったのだ。仮に死ななかったとしても、どこかで羅雅亜が正面から攻撃を受けて死亡して発動させようとしただろう。そしてその予想は的中していたようだな。


「平気さ。二人で決めたことだろう?謝る必要なんてないよ」

「あれって作戦だったの!?」

「一か八かだねー」

「ああしなければ勝つのが難しかった、と言うことでしょう」

「何にせよ…天晴れにござるぞ、お二方!」


 私達は口々に祝福したり戦いの感想を言ったりして盛り上がる。しばらく騒いだ後、落ち着いた所でしいたけがピッと手を挙げた。


「ヘイヘイヘ~イ!お二人さん!賞品を見せておくれよぉ~!」

「しいたけさん……もうちょっと、こう……」


 好奇心に忠実なしいたけに、アイリスは触手を萎えさせて呆れている。源十郎の時と同じく優勝賞品を見せてくれと言い出したからだ。確かに我々も気にならないと言ったら嘘になるが…遠慮とか、そんな類いのものがないと言いたいのだろう?アイリス、気持ちはわかるぞ。


 ただ、邯那と羅雅亜は笑いながらそれぞれに与えられたアイテムを出して机に置いた。邯那の賞品である鎧は彼女が今使っているものと同じく中華風のもので、小さい金属の板を鱗のように縫い付けられている。全体は黒を基調とした色合いで随所に金色の装飾が施されており、胸の辺りには片翼しかない鳥の紋様が描かれていた。


 羅雅亜の宝は黄金の輪であり、表面には幾つか緑色の宝石がはまっている。さらに宝石を囲むようにして繊細な植物の模様が彫り込まれていた。効果も素晴らしいのだろうが、美術品として見ても十分に美しい。流石は優勝賞品だ。


 しいたけは喜んで二つのアイテムを手に取ると、すぐさま【鑑定】している。そして全体を舐め回すようにして見てから、再び机の上に戻すのだった。

 次回は8月12日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロマン技過ぎない!?………大好きw 比翼の鎧と連理の装具かな?粋なw
[一言] リビングアーマーかと思ったら、スライムが鎧を動かしてる形なのか? このふたり、夜行衆に入らないかなぁ。流石にどっかのクランに入ってるか。
[一言] 羅雅亜···君···キ○ンみたいなことになってるんじゃないかい···?
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