素晴らしき秋の一面・動 その二十四
源十郎が来た後、闘技場ではペアの部の決勝トーナメントが行われていた。こちらもレベルによる階級があるので、出場している邯那と羅雅亜の出番は随分と先だ。
ただし、レベルが低いからと言って見応えがない訳ではない。ペアの連係や二対二による駆け引きは手に汗握るものがある。時に互いの力を活かし合い、時に互いを庇い合う。むしろレベルが低い者達ほど、連係が優れているように感じた。正直、参考になる。
「ねーねー、源十郎さんよー。賞品の刀を見せてくれよー」
「…」
ただ、仲間が出場していない試合には興味を持たない者もいる。その筆頭であるしいたけは、源十郎の後ろに回って肩を揉みながら、優勝賞品の刀を見せてくれとねだっていた。外骨格があるから無意味であるのに…媚びるなら別の方法にした方が良いのではなかろうか?
源十郎は四本の腕を組んだまま、今行われている試合に集中している。それはレベル60台の決勝戦だった。片方はエイジのような重戦士と私のような魔術師のペアで、もう片方は片手斧と盾を持った戦士と斧槍を持った戦士のペアである。
重戦士は常に魔術師を庇い続け、二人の戦士による猛攻を凌いでいる。背後で守られている魔術師は戦士に向かって魔術を放ち、そのせいで重戦士に大きなダメージを与えられずにいる。ならばとばかりに重戦士を無視して魔術師を襲おうとすれば、その背後から重戦士が鉄球を投げていた。
重戦士と魔術師の連係も素晴らしいが、戦士達の連係もまた然りだ。何か声を掛け合うこともなく左右に揺さぶることで、重戦士は全く反撃出来ていない。そうして拮抗した勝負が繰り広げられていた。
防御をすり抜けた刃によって重戦士の体力がジリジリと削られ、二人の戦士も魔術によって少しずつダメージを負っている。魔術師は唯一無傷であったが、魔力には限りがあるので何時かガス欠を起こして攻撃すら出来なくなるだろう。
まだどうなるかわからないが、このままだと戦士二人の体力を削りきる前に重戦士が倒れてしまう気がする。私の予想を裏付けるように、魔術師は焦っているらしい。強力な魔術を連発し、急いで片方を倒そうと躍起になっている。それでも足りないと判断したのか、彼は秘術を発動しようとし始めた。
「どうやら、終わりじゃな」
源十郎がそう呟くと、戦士達も動いた。盾持ちの方が盾を前に構えて突進し、逆に斧槍使いはひとっ飛びで後退する。そして大きくジャンプすると、バチバチと紫電を放つ斧槍を魔術師目掛けて投擲した。
重戦士は慌てて斧槍と魔術師の間に入る。その時に戦士の斧を受けていたが、仲間を庇う方を優先したのだ。その判断は私も誤ってはいないと思う。だが、結果的には間違っていた。
「「「おお!?」」」
投擲した斧槍は、空中で軌道を変えてググッと曲がると重戦士を避けて魔術師を貫いた。それも当たったのは魔術師の胸の真ん中だ。刺さった瞬間に魔術師の全身に電撃が走り…光の粒子になって消えてしまった。
斧槍使いは素手になっているが、彼が手を翳すと投げた斧槍が彼の手に戻っていく。投げても戻ってくれる武器とは、何とも便利なことだ。
何はともあれ、戦いの趨勢は決したと言える。攻撃力よりも防御力を重視しているであろう重戦士では、戦士を相手に二対一で勝てる道理がないからだ。
だが、二人に攻め立てられた重戦士は最後の最後まで奮戦した。奥義を使って青いオーラを纏った重戦士は、ボロボロになりながらも斧槍使いを盾で殴って仕留めてみせたのである。
しかし、抵抗はそこまでだった。盾で殴ったと言うことは、防御の要が外れたと言うこと。もう一人の戦士が振り下ろした斧が重戦士の肩口に深くめり込み、重戦士は崩れ落ちてそのまま消えて行った。
「前衛の重戦士がもう少し粘っておれば、反撃に転じることも出来たであろうに。ほんの少しだけ仲間を信じる気持ちが足りなかったようじゃな。それで…賞品が見たいんじゃろ?ほい」
戦いの感想を述べた源十郎は、一区切りついたところでインベントリから一振りの刀を取り出した。それは彼が決勝の賞品として受け取った刀である。それを受け取ったしいたけが即座に【鑑定】すると、「へぇ~」とか「ほぉ~」とかを連発してから源十郎に返却した。
それから源十郎はまだ何も言っていないアイリスにも刀を手渡した。どうやら調べたい気持ちは見抜かれていたらしい。彼女は申し訳なさそうに、しかしどこか高揚した様子で刀を受け取って【鑑定】する。その後、ありがとうございましたと言って返却した。
「ほれ。お主も知りたかろう?」
「バレバレだったか。では、遠慮なく」
そして私も刀を受け取った。調べてみたい気持ちをやはり見抜かれていたのだ。私は遠慮せずに受け取ると【鑑定】を用いる。そこには以下のように記されていた。
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栄光の煌金宝刀 品質:神 レア度:G
闘技大会の優勝者に贈られる特別な武器。破壊不可。所有者固定。
黄金に輝く刃から立ち上るオーラはそれ自体が力を持ち、資格なき弱者を威圧する。
使用時に一人だけの場合、性能が大きく上昇する。
装備効果:【器用増大】 Lv5
【敏捷増大】 Lv5
【武技威力増強】 Lv3
【煌金覇気】
【孤独なる刃】
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大きな大会の賞品と言うこともあって、思っていた通りの高い性能を誇る武器であるらしい。『蒼月の試練』の報酬に匹敵するレベルだ。私も出場するべきだったか?いや、そうしたらヒュリンギアと出会えなかっただろう。欲張りすぎては罰が当たると言うもの。自制しなければ。
それはともかく、装備効果も強力そうだ。ステータスを上昇させる効果と武技の威力を上げる効果は分かりやすく強いし、【孤独なる刃】は源十郎が一人で行動するときがあれば活躍することだろう。ただ【煌金覇気】だけはよくわからない。どんな力なのだろうか?
私は礼を言いつつ刀を源十郎に返却する。その後、源十郎は他にも見たいと言った者達全員に惜しみなく見せてくれた。
「ねぇ、お祖父ちゃん。結局、【煌金覇気】って何なの?ボク、見てみたいなぁ」
「そうか、そうか。どれ、見せてやろう」
ルビーが普段は使わないような猫なで声で源十郎に甘えることで、気を良くした源十郎は早速刀を抜き放つ。白銀の鞘から現れた黄金の刃は美しく、しかし華美ではなく荘厳な印象を受ける。また常に黄金のオーラがユラユラと揺れていた。
源十郎が軽く刀を振ると、黄金のオーラはその周囲に撒き散らされる。どうやら撒き散らされたオーラにも攻撃判定があるようで、ただ振っただけの攻撃が範囲攻撃になる優れものらしい。散らばる範囲は狭いのでヤバすぎる性能ではなさそうだが……源十郎なら悪用出来そうなのが恐ろしいところだ。
賞品の披露会とも言うべきものが終わった後、再び我々は観戦に集中し始める。レベル順にペアの部も熱い戦いが繰り広げられ、ついに最高レベル帯の戦いになった。
「さてと。ネナーシ、我らが最強夫婦の初戦の相手は?」
「ふむ…戦士二人という特徴のないペアですな、上様。ですが、もしかしたら決勝は面白くなるやもしれません」
「ほう?」
端末を持っているネナーシは蔓を左右に振りながら、どこか期待するようにそう言った。トーナメント形式で決勝でしか当たらないということは、別のブロックいる者達ということ。どんな者なのだろうか?
ネナーシは端末を操作して、机の上に二人分のプレイヤーの3Dモデルが現れた。一人は女性アバターで、武器は長大で刀身に燃え盛る炎をまとった鳥の模様が彫り込まれた幅が広い大剣である。
ただ武器は立派なのだが、防具と言えるものは装備していない。流石に初期装備ではないが、布のシャツとホットパンツという動きやすさだけを重視したスタイルだった。
もう一人は、女性…用の鎧だった。そう、鎧なのだ。中身が空で鎧が本体という、我々と同じ恐らくは魔物プレイヤーなのである。種族は明言されていないので正体は不明だが、重厚な鎧は一目で一級品であることが伝わって来た。
その鎧には腕が四本あるのだが、不思議なことに前側にある腕には武器を持っていない。その代わりに後側の腕にはエストックとメイスが握られている。ちなみにエストックとは簡単に言うと長めの刺突剣のことらしい。今、アイリスから教わった。
「変わったペアだけど、どうして面白くなるの?」
「あー、わかったー。これってー、合体するんでしょー?」
「正解でござるぞ、ウール殿。この映像をご覧あれ!」
そう言ってネナーシが端末を操作すると、予選の映像が流れ始める。そこでは女性がその鎧を着て戦う様子が映っていた。空いていた前側の両手には例の大剣を持ち、三種類の武器を駆使して戦っているのだ。
源十郎を思わせる戦い方であるが、彼と違うのは二人で戦っていることにより二つの武技を同時に使えることだ。映像では溜めが必要な大剣の武技を使っている最中に、エストックから飛ぶ刺突やメイスから飛ぶ打撃の武技を連射して敵を牽制している様子が映っている。何とも器用なことだ。
「人馬一体と二人羽織の対決、ね。確かに盛り上がりそうではあるわ。ペアの部なのに一対一っぽく見えるし」
「決勝までお互いに勝ち残ればだけどね。あっ、始まりますよ!」
我々がそんな話をしている間に、ペアの部の決勝トーナメントが始まった。初戦は邯那と羅雅亜の二人であり、開戦と同時に二人の戦士へと突撃する。鎧を纏った馬が走ってくる威圧感は非常に強く、二人のプレイヤーの顔は引き攣っていた。
だが、彼らも決勝トーナメント残るプレイヤーだ。二人とも武器を構えてじっと機を伺っている。きっと恐怖を押し殺してギリギリまで引き付け、左右に飛び退いて挟撃するつもりだろう。しかし、残念ながらそれは悪手だぞ?
二人の突撃だけを警戒していたようだが、羅雅亜は騎獣として邯那をサポートするべく、魔術を使うことが可能なのだ。しかも【雷撃魔術】は種族の補正によって威力が高い。眉間から生えている角が青白く輝いたかと思えば、放たれた強力な電撃がプレイヤーの片方を貫いた。
思わぬ先制攻撃によって回避のタイミングを逸したプレイヤー達は、二人の突撃をまともに食らってしまう。魔術を受けなかった方は邯那の方天戟に斬り裂かれ、魔術を受けた方は羅雅亜の馬蹄に踏み潰されていた。
邯那は踏みつけられているプレイヤーの背中を容赦なく貫いた。開幕で二対一となった時点で、二人の勝利は揺るぎない。もう一人はそれなり粘ったものの、二人の力の前に踏み潰されるのだった。
次回は8月4日に投稿予定です。




