素晴らしき秋の一面・動 その二十三
闘技大会の個人の部において、源十郎は破竹の勢いで決勝にまで勝ち上がった。初戦こそ妙に迫力があったものの、それ以外は普段通りの源十郎であった。
決勝の相手は私でも見覚えがある双剣使いである。確か第一回の闘技大会でも決勝に上がったものの、惜しくも準優勝だったプレイヤーだったか。
「決勝だから当然だが、相手は強敵だな。まあ、源十郎には敵わないと思うが」
「いや、どうなるかは試合が始まるまでわかりませんよ?これまでだってヒヤッとすることはあったじゃないですか」
私は楽観的な予想をするが、それをエイジは否定する。確かに彼が言う通り、源十郎の腕前をもってしても危うい場面が二回ほどあったのだ。
金属製の全身鎧で身を固めるエイジと同じタイプの戦士は、盾で防御すると自動的に反撃として光線を放ってくる特殊なタワーシールドを使っていた。そのプレイヤーは盾の使い方が非常に上手く、源十郎の剣を何度も防いでいた。
逆に革の胸当てに短剣以外は何も装備していなかったプレイヤーは、マントを被ると同時にその姿を消してしまった。海賊と戦った時に拿捕した光学迷彩を使える船があったが、どうやらあれと同じことが出来るらしい。その上でそのプレイヤーは隠し持っていた吹き矢で攻撃してきたのである。
重装備のプレイヤーに対しては反撃による光のダメージはある程度許容しつつ、虚実織り交ぜた巧みな攻めによって防御を掻い潜って防具の隙間から急所を貫いた。光学迷彩の敵の時は初手の吹き矢を角で弾いた後、待ちに徹して相手が襲い掛かるように誘い、痺れを切らして飛び掛かったところを斬っている。
あと、どうやらノブツナと因縁があったムキムキのマッチョとも戦っていた。こちらは兎路が敗れた相手らしい。エイジによると『拳聖会』のラゴウというノブツナと同じ有名なPKだと言う。【格闘術】の使い手が集まったクランであり、名前と方針が似ていることから、しょっちゅう対立しているのだとか。
源十郎はその直接対決の機会をぶち壊したことになるが、源十郎を自分が倒せば自分の方が強いことが証明出来るとポジティブに捉えていた。一方の源十郎は他のプレイヤーとの戦いとは違って、あまり楽しそうではなかった。その理由はただ一つ。ラゴウはジゴロウの下位互換のような男だったからである。
ノブツナのように一太刀で仕留めるようなことはしなかったが、打撃や蹴りを完全に見切って回避する。それもラゴウは理解していたようで、彼は焦りと苛立ちで顔を歪めながらも攻め続けた。そして奥の手である奥義を易々と回避した後、複数の急所を正確に斬って勝利していた。
「ここまでの戦いを見る限り、悔しいけどアタシよりも双剣の使い方が上手ね。参考になるわ」
「決勝トーナメントだけあって、一対一だと勝てそうな人が一人もいないね!」
「そりゃーそーだよー。大体、対人戦って苦手でしょー?」
「まあね!」
兎路は源十郎の対戦相手を観察するようにじっと見詰め、紫舟とウールはこれまでの戦いを振り返りながら楽しそうに話している。私を含めた他の仲間達も、今まさに始まろうとしている決勝戦を楽しみにしていた。
決勝戦が始まると、源十郎は相変わらず丁寧に一礼する。それに倣ったのか、対戦相手も一礼していた。源十郎はどことなく嬉しそうに刀を構え、対戦相手も双剣を構える。何と言うか、どちらが勝つとしても名勝負になる予感がしていた。
最初に仕掛けたのは以外にも源十郎の方だった。これまでは基本的に後の先を取っていた彼が、自分から前に出るとは相手も思っていなかったらしい。驚愕するように目を見開いたものの、相手は双剣を掲げて刀を滑らせた。
初太刀を防いだ対戦相手は源十郎に近い方の左手の剣を振るう。頭部を狙った一撃だったが、源十郎はそれを角で弾いて防いでみせる。また、防ぐと同時に跳ね上げるように刀の軌道を変え、下から斬り上げた。
「おお?あれを防ぎますか」
「見てから防ぐ…のは無理でござろう。読み勝ったようですぞ」
しかし、源十郎の斬り上げを対戦相手は右手の剣で受け止めてみせた。どうやら武技を使ったらしい。それと同時に後ろへと跳び、源十郎の斬り上げの威力を上手に使って後方へと退避したのである。そう来るとわかっていなければ無理な動きであった。
それからも刀と双剣による攻防は続く。しかし、徐々にその技量の差が浮き彫りになっていった。お互いに武技を使えるルールであるが、源十郎はリアルチートと呼んで良い剣術の達人である。武技を使わない時の動きも洗練されており、決勝に進出したプレイヤーでもその差を埋めることはとても難しいようだった。
「決勝も余裕で勝っちゃいそうじゃん。凄いねぇ、源十郎って」
「まだわからないっすよ、しいたけさん」
「ボクもそう思う。お祖父ちゃんの相手、まだ諦めてないっぽいもん」
楽観的な意見を述べるしいたけに対して、シオとルビーはまだ何か隠し球があるのではないかと警戒している。私としては源十郎を相手にここまで粘っているだけでも称賛に値すると思うのだが、まだ勝つために策を巡らせるとは…本当に凄いと思う。
結論から言うとルビーの予想は正しかった。対戦相手は武技によって強引に源十郎を押すと、双剣がキラキラと金色に輝き始める。その直後、彼の双剣を半透明の大きな光の刃が包み込んでいた。まるで光で出来た大剣である。あれが彼の秘策なのか。
光の刃に実体はなく、また重さもないらしい。剣の間合いは急激に広くなったのに、彼の動きは全く変わらない。光の刃はそれを弾こうとした源十郎の刀をすり抜け、彼の胸に傷を付けた。
我々のいる観覧席に緊張が走る。このまま押しきられてしまうのではないか、と思ったからだ。しかし、ただ兎路一人だけが大丈夫でしょ、と楽観視していた。
「あれは【双剣術】の奥義よ。確か『光刃招来』とかって名前ね。効果は見ての通り強力だけど…効果時間が相当短かったはず。それまで粘らればこっちの勝ちね」
「粘る、ねぇ…なあ、皆は源十郎が粘り勝ちなんて選ぶと思うか?」
「「「あっ」」」
兎路の言う対処法は最適解なのだと私も思う。しかし、戦っているのは源十郎だ。私の知っている彼が、ここでそんな消極的な戦い方をするだろうか?いや、絶対にそれはない。正面から打ち砕こうとするはずだ。
案の定、源十郎は光の刃に向かって一歩も退かなかった。それどころか光の刃ではなく、それの芯となっている双剣に刀を当てて弾いてしまう。もう対応出来るようになったらしい。対戦相手は驚愕で目を見開いた。
そこで源十郎は肩で体当たりをして対戦相手を突き飛ばす。間合いが開いたら相手に有利だと思ったのだが、源十郎は構わず一旦刀を鞘に納める。そして背中の前翅を開いて後翅を展開すると、高速で踏み込むと同時に後翅を羽ばたかせて一気に距離を詰めた。
そして目にも止まらぬ速度で刀を振り抜きながらすれ違う。対戦相手は無傷のように見えたし、対戦相手本人も同じだと思ったらしい。すぐに振り向いて源十郎に背後から斬りかかる。しかし、源十郎はゆっくりと翅を閉じつつ刀を鞘にカチンと納めた。
その直後、対戦相手の胴体に六本の線が走る。その全てが首筋や脇の下などの防具の効果が薄い場所を斬り裂いているのは偶然ではあるまい。彼はその場で膝から崩れ落ち…光の粒子となって消えていった。
「ふぅ~…観戦してるだけのこっちの方が緊張しちゃいましたよ」
「確かに…あんな風に手放しに喜べるあの子らって大物ね」
私を含めた数人は、いつの間にか緊張していたのか一気に力が抜けてソファーに寄りかかった。一方でルビーやシオ達は歓声を上げている。我々も仲間が優勝したことを祝いたいのだが、最後の攻防があまりにも息が詰まるものだったので祝うよりも先に疲れが出てしまったのだ。
観客も何が何やらわからなかったのか、闘技場はしんとしている。しかし、その疲れから脱したのとほぼ同じタイミングで観客は割れんばかりの拍手が闘技場を満たしていた。
立ち直った我々は大画面の窓の向こう側でインタビューを受けている源十郎を見る。インタビューしているのは『戦争と勝利の女神』グルナレに仕える天使らしい。
戦乙女、とでも言うべきだろうか?凛々しい顔付きで華美な鎧を装備している。我々は会話をちゃんと聞いていなかったのだが、天使は最後に頷くと源十郎に何の変哲もない剣を差し出す。とても地味だが、あれが優勝賞品なのだろう。
その剣を源十郎が受け取った途端、それがピカッと光ると…剣はいつの間にか一振りの刀に変わっていた。白銀の鞘と赤い紐が巻き付けられた柄、そして黄金の鍔。美しい刀だな、と私は思った。
その後、天使は闘技場の中央で片手を振る。すると源十郎の対戦相手、すなわち準優勝したプレイヤーが現れる。天使は彼にも剣を渡し、同じように、しかし源十郎の時よりは弱く光ってから一対の剣に変わった。きっと準優勝の景品なのだろう。
再び闘技場で相対した二人はどちらともなく歩み寄ると、天使の前でガッシリと握手する。より強くなった拍手に包まれながら、二人が手を離した瞬間に二人の姿を消した。
「…むむっ?何じゃ、ここは?」
源十郎が消えた直後、源十郎は我々のいる観覧席に現れる。どうやら試合が終わったらここに来ることになっていたらしい。源十郎はしばらく呆けたように部屋を見回している。ここに来た時の私達と同じ反応に、私は思わず笑ってしまった。
「お祖父ちゃん、優勝おめでとう!」
「カッコ良かったっすよ!」
そんな源十郎に飛び付いたのはルビーだった。ピョンと跳ねて肩に乗ると、その後頭の上に乗って喜んでいる。シオに続いて我々も次々と賛辞を贈ると、彼は堂々とありがとうと言った。
源十郎はルビーを乗せたままソファーに座る。今からは源十郎も加えて観戦することになる。解説者として色々と話してくれるだろう、と私は秘かに期待するのだった。
次回は7月31日に投稿予定です。




