素晴らしき秋の一面・動 その二十一
ログインしました。おっと、クランチャットに書き込みがあるな。アイリスからか。ええっと、今日はイベントの最終日で闘技大会の本戦があるから皆で一緒に観戦しようというお誘いだった。
私は闘技大会にノータッチだったが、実は出場した者達は本戦に進出している。パーティーの部で進出したのは二つのパーティーだ。一つはジゴロウである。たった一人でパーティー部門に殴り込んで本戦にまで上がったのだ。正直、意味がわからない強さだった。
もう一つは七甲とモッさんとセイと彼の従魔のパーティーである。モッさんをリーダーとした一団は優れたチームワークで勝ち残ったようだ。ジゴロウとは正反対である。
ペアの部では優勝経験者である邯那と羅雅亜の最強夫婦コンビだ。二人とも当時よりも遥かに強くなっている上に、邯那は人類を辞めているのでプレイヤーに与えた衝撃は大きかったらしい。以前のイベントで一部のプレイヤーは知っていたようだが、大勢の前で姿を表したことで話題になったようだ。
個人部門では源十郎が圧倒的な実力で勝ち上がっている。これについては何も言うことはない。一対一の戦いで、源十郎が敗北するビジョンが見えないからだ。そのまま優勝してくれ。
アイリスの誘いを私は当然受ける。昨日は皆で私の『競龍』の試合を見に来てくれたのだ。今日は私が応援するべきだろう。待ち合わせ場所は…カルの前か。水やりをしてから向かうとしよう。
ベッドから私が起き上がると、それまで床で丸まっていたらしいヒュリンギア起き上がって私の足元に寄ってきた。そして尻尾でペシペシと脛を叩く。どうやら早く部屋の外に出たいようだ。
私が苦笑しながら扉を開けてやると、待ってましたとばかりに外へ飛び出した。私も廊下に出たのだが、ヒュリンギアは冷静になったのか翼を広げて飛んで私の頭に乗った。そう、飛び出したは良いが外に向かうための道がわからないのである。
「昨日までは私が乗っていたのだがな。しばらくは立場が逆転しそうだ」
「キュウウ」
頼んだぞ、とでも言いたげにヒュリンギアは私の頭をペチペチと叩く。幼い頃のカルを思い出すなぁ…可愛らしいものだ。
宮殿の外に出る前に、私は水やりをするべく賢樹の元に向かう。中庭の血の池と風もないのに枝をワサワサ揺らす賢樹を見て、頭の上のヒュリンギアは硬直している。驚くのも無理はないか。
私はヒュリンギアが落ちないように手で軽く押さえながら血を汲んで、賢樹の根本にゆっくりと掛けていく。賢樹は嬉しそうに枝を揺らしていた。
「キュルルルル…」
「そう警戒するな。敵ではないのだから」
賢樹を威嚇するヒュリンギアを宥めつつ、十分な量の血を与える。賢樹はヒュリンギアに威嚇されたのが悲しいのか、枝をしんなりと垂らしていた。感情の表現が意外と豊かなんだよなぁ。
最後まで賢樹のことを威嚇し続けたヒュリンギアを連れて中庭を後にした我々は、街の中央にいるカルの元へ向かう。そこには既にアイリス、ルビー、エイジとミケロの四人が集まっていた。おっと、私は五人目だったようだ。
「あっ、イザームと…その子が例の賞品の幼龍ですね?とっても可愛いです!」
「おぉ~!二匹目の龍だね。名前は?」
「ヒュリンギアと言う。フェルフェニール様に名付けてもらったんだ。ヒュリンギア、私の仲間達だぞ」
「キュウゥゥ」
ヒュリンギアは警戒心が強いからか、私の頭の上から離れようとしない。まあ、触手がウネウネしているアイリスに厳めしい顔付きと長い牙が恐ろしげなエイジ、浮遊する巨大な目玉であるミケロ…初対面ですぐに懐くには難易度が高すぎる見た目である。少しずつ慣れて行けば良い。
他の仲間達を待っている間に、我々は談笑に花を咲かせていた。アイリスは『モグラ叩き』で大記録を出してから、ルビーやシオなどの女性陣と共に色々なゲームに挑戦していたようだ。記録を出したり何かの本戦に出たりはしなかったようだが、イベントを十分に楽しんだようだ。
エイジは腕試しとして源十郎と同じ個人の部で闘技大会に出場したらしい。それは兎路も同じだと言う。しかしながら、二人とも予選で敗退している。どうやら界隈では有名なPKクランのリーダーと当たってしまったようだ。
二人を倒したのは別のクランのプレイヤーらしく、その仲は険悪で個人の部で決着をつけようと息巻いているのだとか。二人とも源十郎に斬られてしまえば良いのに。
ミケロは相方とも言えるネナーシと共に、二人で挑戦可能なスポーツを片っ端からやってみたそうな。二人の競技は全て挑戦し、その後は一定以上の人数が必要な競技へその時にフリーの仲間に声をかけて頭数を揃えて挑戦したのだとか。
しかし、複数人の競技は余りにも多くて全てを網羅することは出来なかったと言う。それに個人競技には一つも手を出していないようだ。確かに『競龍』に挑戦したと言う話は聞かなかった。試しにやればよかったのに。
「ふおおおおおっ!ちっちゃい龍ちゃん!」
「キュウウッ!?」
「グルルルルル!」
「はい、落ち着きましょうね?」
ミケロの話を聞いている時、奇声と共にこちらへ駆けてくる者がいた。こんなことをするのは一人しかいない。しいたけである。
ヒュリンギアは怯えから私の頭にしがみつく力を強め、それまで寝ていたカルは頭を上げてから牙を剥き出しにして威嚇し、アイリスは熟練の触手捌きでしいたけを拘束する。触手で簀巻きにされて逆さ吊りにされても、彼女は必死に短い手足を動かそうとしていた。
「落ち着いていられるかってんでぃ!本当はあの後すぐに見に行きたかったのに、我慢したんだよ!?」
「昨日はイザームが疲れているだろうから会いに行くのは止めようって話になったじゃないですか。それに、昨日お預けを食らったからと言って今日暴走して良い理由にはなりません」
「そんな!殺生な!」
やはり昨日は皆に気を使わせたらしい。実際に私はかなり疲れていて、フェルフェニール様に名付けをしてもらった後はすぐにログアウトしてしまった。今更ながら、リーダーの癖にかなり自分勝手に動いている。申し訳ないという思いとありがたいという思いで一杯だった。
ただし、だからと言って暴走しているしいたけにヒュリンギアを触らせたくはない。ヒュリンギアも露骨に嫌がっている。むしろしいたけから守ったことで彼女はアイリスに興味を持ったらしい。私の頭からフワリと飛ぶと、アイリスの上に着地した。
「あら?ふふふ、可愛いですね」
「キュウゥゥ」
「何でだよおおおおおおっ!」
アイリスは触手で優しくヒュリンギアの頭を撫でる。すると彼女は甘える鳴き声と共に顎をアイリスの硬い身体に擦り付けた。アイリスの細胞壁とヒュリンギアの鱗が擦れてゴリゴリと音が鳴る。それを見たしいたけが渾身の叫びを上げたのは言うまでもない。
それからウールと紫舟がやって来た。ヒュリンギアは紫舟を少し警戒していたようだが、ウールの柔らかそうな羊毛には興味津々でアイリスの上から降りて飛び乗った。そしてそのままグッスリと眠ってしまったのである。
「以外とー、重いねー」
「鱗や甲殻があるからな。どうしても見た目よりも重量があるんだ」
「ちょっと!女の子なんでしょ?だったら重いとか言っちゃダメ!」
「「すいませんでした」」
鼻をフスフスと鳴らしながらそう言ったウールに私は同意したが、紫舟にデリカシーがないと怒られてしまった。確かにヒュリンギアも女の子なのだから体重の話をするのは失礼…なのか?龍なのだから基準が違うのでは…いや、そんなことを考えているとバレたらまた怒られそうだ。言い返すのは止めておこう。
その後はシオと兎路がやって来て、最後にネナーシが謝りながら集合した。これで本戦に出場する者達以外は全員が揃ったことになる。ヒュリンギアをカルに預け、我々はイベントエリアへと向かった。
闘技場のロビーに到着した我々だったが、もうすぐ本戦が始まると言うことで寄り道をせずに観戦エリアと書かれた門を潜る。すると、全員の視界にこんな文字が現れた。
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本戦出場者のクランメンバーは観覧席を使用可能です。
観覧席で観戦しますか? YES/NO
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ほほう?観覧席とな?本戦出場者のクランメンバーだけが利用出来る、と。特等席から誰にも邪魔されずの観戦可能だと言うのなら、そこに行かない理由はない。私は迷わず『YES』の部分をタッチした。
次の瞬間、私達はとても豪華な部屋にいた。絢爛豪華な装飾が施された机や大きくて柔らかそうなソファー、床にはペルシャ絨毯を彷彿とさせる幾何学的模様が美しい絨毯が敷き詰められている。他にも一つ一つの調度品が明らかに高級品であった。
ただ、どの調度品よりも特徴的なのは入り口の向かい側にある巨大すぎる窓だった。壁一面が窓になっていて、そのすぐ外は闘技場になっている。ここから見る戦いは、さぞ迫力のあるものとなるだろう。
「何て言うか、凄いですね」
「おおー、豪華だねー」
「これって冷蔵庫?中には…良さそうなのがあるじゃない」
「皆、立ってないで座りましょうよ。せっかくの観覧席ですし」
私と同じく多くの仲間達は部屋の雰囲気に圧倒されていたものの、兎路とエイジは特段気にすることもなかった。兎路は机の近くにあった木箱のようなものを開いて中から緑色の瓶が取り出し、エイジはソファーにどっかりと座ってくつろいでいる。妙に慣れてるな、二人とも。
しかし、確かにエイジの言う通りだ。ここでボーッと立っていても意味がない。私は闘技大会を楽しませてもらうべく、ソファーの上に腰を下ろすのだった。
次回は7月23日に投稿予定です。




