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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
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素晴らしき秋の一面・動 その十五

「よう、待たせたな」

「クルルゥ」


 アマハとわかれた後、私は龍舎にいる我が相棒の疾駆封龍(スプリントドレイク)の元へと向かう。丸くなって眠っていた彼女は私が接近していることに気付いていたらしい。即座に立ち上がって柵の前に待機する。直ぐにでも走りたいと言いたげであった。


 私以上にやる気に溢れている相棒に苦笑しつつ、柵を上げて外に出す。相変わらずの凛とした佇まいは、幾度となく背中に乗っているはずなのに惚れ惚れする美しさだ。


 私達は真っ直ぐにコースへの入り口に向かう。スタート地点には二十人ほどのプレイヤーがいる。本戦出場者なのだろう。残りはまだ来ていないらしい。ギリギリに入場するつもりなのかもしれない。


 疾駆封龍(スプリントドレイク)の鞍の上から視線だけを動かして辺りを観察してみる。こう言うときには仮面をつけていると、キョロキョロと動いている視線が隠れてとても便利だ。


 出場者のプレイヤーはほとんどが前衛職であるらしい。私のようにローブを着ていたり杖を持っていたりするプレイヤーは今のところ私を含めて三人しかいなかった。魔術をメインに妨害するプレイヤーは少なそうだな。


 同様に弓矢の装備している者は一人しかいない。その一人とは他でもないアマハだった。まさか弓騎兵スタイルとは恐れ入った。


 ほとんどは剣や槍などのオーソドックスな近接武器を装備していて、妨害するなら直接斬りかかるか飛斬系の遠距離攻撃が主流になりそうだ。鞍の上にいる状態で攻撃をちゃんと防げるだろうか?上手く立ち回らなければなるまいよ。


 出場者の乗る疾駆封龍(スプリントドレイク)は個体ごとに見た目が大きく異なっていた。しかし、それは大体二つのタイプに分かれている。私の相棒やアマハの相棒のような細身の個体と、もっとガッシリとした筋肉質な個体である。


 細身ならば『最高速』か『跳躍力』などに優れていそうだから最初の直線か吊り橋エリアが得意だろうし、筋肉質な個体ならば坂道をグングン進む『登坂力』や悪路を関係なく進む『悪路踏破力』がありそうだ。見た目通りとは限らないが、それでも疾駆封龍(スプリントドレイク)の体格はコースのどのエリアが得意なのかの指標になり得るだろう。


 本戦に出場している疾駆封龍(スプリントドレイク)は二つのタイプが大体半数ずつに分かれている。そう言う面ではバランスが取れているらしい。後からスタート地点に来た者達もやはり細身と筋肉質が半数ずつに分かれていた。


 それから時間になるまで待機していると、配信者だという女性アバターのプレイヤーが入場したことで本戦出場者の三十人が全て揃った。全員が揃ったことでプレイヤーの視界にスタート地点における立ち位置が表示される。立ち位置は前列と後列の二列になっていて、それによると私は前列の右端であった。


 前列の左端にはアマハがいる。左右にプレイヤーがいない方が有利なのは間違いなく、私達が両端にいることから予選の順位が反映されるようだ。恐らくは前列は予選の一位から十五位、後列は十六位から三十位なのだろう。


 配信者は前列の中央にいて、私をずっと睨んでいる例の彼とその友人は後列の左側にいる。レースが開始したら真っ先に襲って来そうだ。注意しておこう。


 全員が配置につくと、スタート地点の上空に仮想ディスプレイのようなものが現れる。そこには大きな文字でスタートまでの時間が表示されており、それまでの時間は残り二十秒だった。


 秒数は一秒ごとに減っていく。減るごとに周囲の緊張感が高まっていく。かく言う私もかなり緊張している。それを少しでも落ち着けるため、疾駆封龍(スプリントドレイク)の首を優しく撫でていた。


3、2、1、Start!!


 ディスプレイの文字が切り替わった瞬間に、全員が勢い良く駆け出した。最初の直線はスピードタイプである私達にとってはとても大事な場所である。しかしながら、私達よりも直線が速い個体がいることも理解している。故に目標としては上位集団に入ったままこの直線を駆け抜けることだった。


 予選通りの速度で走っていると、やはり後方から迫ってくる音がする。私は右端という立ち位置だったので、邪魔をするように中央へ寄ることはなく抜かされるままにしようとした。


「死にやがれぇぇぇぇ!」

「ぐっ!?もう仕掛けてくるとはな…!」


 追い掛けてきたのは私をずっと敵視していた例のプレイヤーだった。奴は腰から抜いた剣で斬りかかってくる。それを私は斜めに構えた杖で受け流す。ギャリギャリという音と共に火花が散り、衝撃が私と疾駆封龍(スプリントドレイク)を揺らした。


 何度も何度も斬りかかってくるが、私はそれをどうにか凌いでいる。両手を手綱から放して杖を持ち、必死にこれを防いでいた。手綱から手を放していても相棒は真っ直ぐにコースを走ってくれるからこそ行える防御であった。


 幸いにも片手剣の男は騎乗戦闘に慣れている訳ではないらしい。剣の軌道は単調で、同じ振り方ばかりしている。私の目も慣れてきて、防ぐのにも大分余裕が生まれて来た。もしも邯那並みに騎乗戦闘が可能であったなら、とっくに落龍していたことだろう。


「防いでんじゃねぇよ、クソが!やれっ!」

「グルルルルッ!」

「うおおおお!?」


 私がしぶとく粘ることに業を煮やした奴は、苛立ちを隠そうともせずに暴言を吐きながら乗っている疾駆封龍(スプリントドレイク)に命令する。奴の疾駆封龍(スプリントドレイク)は私の相棒に体当たりをしてきたではないか!


 バランスを崩した私は右側から落龍しそうになる。そこで練習した通り、咄嗟に杖を地面に叩き付けて支柱のようにするとそれを支えに起き上がった。その勢いのまま、私は杖で反撃をする。起き上がることも私が反撃することも想定外だったのか、杖の端による刺突は奴の胸の真ん中に直撃した。


「クルルルルッ!」

「グオオオッ!?」


 私が反撃するのと同時に、相棒もまた反撃していた。怒りを滲ませる鳴き声と共に首を鞭のようにしならせて、下から上に掬い上げるように角を敵の疾駆封龍(スプリントドレイク)の顎に叩き付けたのである。


 アッパーカットを食らった形になった疾駆封龍(スプリントドレイク)はバランスを崩し、左側にいる別のプレイヤー達に突っ込んでしまった。ぶつかったプレイヤーは転倒し、落龍してしまったのでここで退場である。巻き込んだ形になって申し訳ない。


「この野郎!」

「チッ!」


 転倒したプレイヤーと戦っていたプレイヤーは、片手剣の男が漁夫の利を狙った新手だと勘違いしたらしい。彼は鞍の上で槍をブンブンと振り回して襲い掛かり、無視する訳にもいかないからか片手剣の男も対処せざるを得ないようだった。


 少しだけ余裕を取り戻したところで、前方を確認する。私の前を走っているのは八組いて、そこでもバチバチにやり合っていた。あれが先頭集団と言うことになるだろう。


「慌てるな。いつも通りに、いや、それよりも少しだけゆっくり走るぞ」

「クルルゥ」


 疾駆封龍(スプリントドレイク)が加速しようとしたことを私は鞍越しに感じ取った。先行されていることに不安を覚えたのかもしれない。しかし、レースはまだ始まったばかりであるし、何よりも先程の戦闘で余計な体力を消耗している。無理をさせたくはなかった。


 私が頭に顔を寄せて囁くと、相棒は小さく鳴いてから速度をほんの少し遅くした。先頭集団から少しずつ離れていくのを感じるが、今はこれで良い。焦りは禁物、あまりにも引き離されない状態をキープするだけ良いのだ。


 前方は良いとして、後ろはどうだろうか?私が振り返って様子を窺うと、そちらの方が途轍もなく激しい戦いになっていた。速度が遅い疾駆封龍(スプリントドレイク)にはパワータイプが多いようで、いざ戦いになるとその激しさスピードタイプの比ではなかったのである。


 特に下位層の中には疾駆封龍(スプリントドレイク)同士の争いについていけず、落龍するプレイヤーまでいた。手綱をちゃんと持っていなかった自分の不注意を呪うんだな。


「うおぉ、凄いな…!」


 そんな中で突出した技量を見せていたのがアマハだった。彼女の相棒はそれなりに速い方らしく、上位集団には追い付けずとも中位集団のトップを走っている。そうしながら彼女は自分に接近する者達に向かって矢を放っていたのだ。


 揺れる鞍の上だと言うのに、その精度は中々のものだ。彼女を狙った者は即座に射抜かれている。今では彼女には触れず、他の中位集団同士で戦っていた。触らぬ神に祟りなしと言ったところか。


「ぐぇっ!?」

「なっ!?」


 中位集団が自分を避けるようになったことを確認したアマハは、今度は上位集団の最後尾に位置する者達に矢を射掛ける。横にいたプレイヤーとの争いに集中していたせいで後ろに注意を払っていなかったプレイヤーが二人、射抜かれてしまった。


 後ろから何かが来ると理解した彼らは、疾駆封龍(スプリントドレイク)に命じて速度を上げさせる。少しでも距離を取りたいとの判断なのだろうが、ここで無理をして『持久力』が保つのだろうか?


 いや、それがアマハの狙いなのかもしれない。ペースを崩させて疲労を誘い、最終的にレースから脱落させるのだ。嫌らしいが有効的な戦術である。


「っと!手心を加えてはくれないか!」


 上位集団の最後尾にいた数人がペースを上げたせいで、速度を上げていない私が上位集団の最後尾になってしまった。すると、知り合いだろうがお構いなく放たれた矢が私目掛けて飛んでくる。ちゃんと彼女の方を見ていたので、私は杖を大きく振って矢を防いだ。


 そしてお返しとばかりに火球(ファイアボール)の魔術を放ったが、巧みな手綱捌きで回避してみせる。あ、その後ろにいたプレイヤーに当たって…落龍させてしまった。何だか再び申し訳ない気持ちになった。


 アマハは好戦的な笑みを浮かべながら、二の矢を番えて私を狙う。私とやり合う気マンマンじゃないか!こうしてレースは最初の直線で何人もの脱落者が出る波乱の幕開けとなるのだった。

 次回は6月29日に投稿予定です。

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