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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
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素晴らしき秋の一面・動 その十

 ログインしました。『素晴らしき秋の一面・動』というイベントもこれで三日目。私が力を入れている『競龍』の予選は今日までだ。気合いを入れて走るとしよう!


 私は龍舎に向かい、相棒の疾駆封龍(スプリントドレイク)と共にコースへ向かう。すると初日にお世話になったアマハもちょうどコースへ向かうところであった。


「やあ、アマハ。そっちも今から走るのか?」

「ええ。そっちも、ってことは貴方もなのね」


 私が声をかけると、彼女は振り向いて朗らかに応えた。お互いの相棒は仲が良いらしく、喉を鳴らして会話をしているようだった。


「貴方は本戦に出られそう?三十位以内なら出られるのだけど…」

「一応、入っているよ。そっちは?」

「私は当然出られるわ。だって初日からここまでずっと一位だもの」


 おいおい、一位は顔見知りだったとは。ずっと私の前を走り続けている相手が、このイベントで最初に会話した相手だとは思わなかった。何と言う偶然だろうか。


 私はこのまま自分の順位をハッキリさせないつもりだったのだが、彼女が堂々と教えてくれたから気が変わった。これは戦いではなくスポーツなのだから、私も正々堂々ち自分の順位を告げておこう。


「そうか…この二日間、ずっと私の上にいたのはアマハだったのか」

「あら?じゃあ貴方が二位なのね…フフッ、まさか知り合いと首位争いをしていたなんて。世間は狭いわね」

「まったくだ。闘技大会に比べれば競技人口が少ないし、こういうこともあるんだろう」

「割りと人気なのは確かなのだけど、ね」

「それはどういうことだ?」

「えっとね…」


 闘技大会の出場人数はかなり多い。レベルによってボクシングの階級のように別けてあり、最近始めたばかりのプレイヤーでも参加し易いからだ。


 それに比べれば『競龍』の参加者は少ない。ただ、競技全体を見ると多い方ではある。疾駆封龍(スプリントドレイク)という(ドラゴン)の一種に乗れる貴重な体験を逃す手はないということだ。


 しかし、アマハの話によると私達のように優勝狙いで何度も走っている者はあまり多くないらしい。龍舎に来たは良いものの、気に入った疾駆封龍(スプリントドレイク)が必ず自分の相棒になってくれる訳ではないし、鞍に乗って走ると想像以上にスピードが出るからとても怖い。それ故に一度走ってから二度と来ない者の方が多いのだとか。


 二度と来ない相棒を待ち続ける疾駆封龍(スプリントドレイク)のことを考えると悲しくなってしまう。優勝狙いとかじゃなくても良いから、背中に乗って一緒に走ってあげて欲しい。私は純粋にそう思った。


「そんなことになっているのか…」

「やる気がない人達のことはどうでもいいわ。それより、勝っても負けても恨みっこなしでいきましょう」

「ああ」


 私とアマハはどちらともなく手を差し出し、ガッシリと握手を交わす。それから共にコースに入った。一緒に入ったからと言ってまだ予選なので一緒に走ることは出来ない。だが、私の闘争心には火が着いていた。


「今日はとことん走る。付き合ってくれるか?」

「クルル!」


 望むところだ、と言うように鳴いた疾駆封龍(スプリントドレイク)の首筋を撫でてから、私達は早速走り始めた。まずは昨日までと同じ流れで一本走り切り、その後は少しでもタイムを縮めるために試しながら走り続けた。


 ペース配分の見直しやつづら折りのカーブをより素早く曲がる方法と沼地でより速く走る方法の研究、吊り橋の穴を落ちずにかつよりスムーズに突破する方法の開発…予選の最終日ではあるが、こうしてみるとやるべきことが意外と多い。たった三日では細かい検証などが難しいと言うことがよくわかる。


「カーブはバッチリだが…問題は吊り橋か」


 体重移動の他にもカーブの工夫を見出だしたし、沼地に関しても補助する方法を発見した。これでタイムはより縮むと思う。


 しかし、吊り橋に関しては良いアイデアが浮かばなかった。そもそもギリギリでジャンプしないと渡れないので、工夫のしようがないのである。


 これらの新技術を導入した上で、私達はコースを何度も走る。最初は新技術に慣れていないせいで逆に遅くなってしまったが、何度か走る内にコツを掴んでいく。そしてミスなく完走した時、私は待望の文字を読むことになる。


「うおおおおおっ!念願の一位だぞ!」

「クルルルルルゥ!」


 結果を確認する不思議空間で私の前に現れたディスプレイには、私達のタイムと燦然と輝く一位の文字があった。やったぞ!ようやくアマハを抜いて一位になることが出来た!


 私は歓喜のあまり疾駆封龍(スプリントドレイク)の首にガッシリと抱き付いた。疾駆封龍(スプリントドレイク)もこの時ばかりは嬉しかったのか、嫌がる素振りを見せるどころか頭を私に擦り付けてくれる。努力が報われたのが嬉しいのは私だけではなかったのだ。


 満足した私達は龍舎に戻った。そしてカルをブラッシングするときに使っているのと同じ、スペアのブラシを使って全身を綺麗に磨いてやる。龍舎に戻った時に汚れは消えているが、労う気持ちの方が重要だ。すると相棒は気持ち良さそうに鳴き声を上げた。


「キュルルルルゥ」

「おお、気持ち良いか?最初は触らせてすらくれなかったけど、随分と打ち解けてくれたものだ」


 ここまで仲良くなってしまうと、イベントが終わった後に別れるのが辛くなりそうだ。それはわかっていても、私はブラシを掛ける手を止めない。そうしてやった方が喜ぶと知ってしまった以上、手を止める理由がないからだ。


 しばらくそうしてブラシを掛けてやると、心なしか鱗がより輝いているような気がする。きっと気分の問題だろうが…相棒が嬉しそうだからこれで良いのだ。


「明日はこの調子で優勝を狙うぞ。よろしくな」

「クルルッ!」


 疾駆封龍(スプリントドレイク)は力強く鳴いて私に応えてくれる。それからひとしきり撫でたところで、私は一度ロビーへと戻った。今日もまた『謎キャッチャー』で遊ぶためである。


 『競龍』は大事だが、せっかくたくさんの遊びが用意されているのに一つしかやらないのはもったいない。こっちはこっちで楽しむのだ。


「とは言ったものの、一人で行くのは味気ない。今日はまだ元気だし、誰か誘うかな」


 私はロビーにある適当な椅子に座ると、クランチャットで一緒に『アミューズメントパーク』に行く仲間を募る。返事が来るまではここでディスプレイを眺めておこうかな。


 ロビーのディスプレイは六つあって、その全てがライブ中継である。半分は闘技大会の様子を、残りの半分は他の競技を映していた。まず闘技大会の映像を見たのだが、昨日のようにクランメンバーや数少ない知り合いが映っている訳ではなかった。


 だったらその他の競技を見物させてもらおう。ディスプレイの一つに映っているのは、テニスの試合だった。ただし、普通のテニスではない。その名も『バトルテニス』。ペアで行う武技と魔術アリの変則スポーツだった。


 この競技限定だが、テニスラケットはあらゆる武器の代わりになる装備らしい。つまりあらゆる武技が使えるのである。その武技を活かして『不壊のテニスボール』なるアイテムを打ち合うのだ。


 得点などのルールはテニスと同じだが、魔術による対戦相手への妨害が認められているから試合はかなり激しかった。サーブと共に魔術が放たれ、一人がサーブを返すと同時にもう一人が魔術を迎撃しつつ反撃する…そんな攻防が繰り広げられていたのだ。


「昔、超人的な学生がテニスをする漫画があったと聞くが…あんな感じだったのか?」


 そんなわけないか、と自分の思い付きを否定した私は別のディスプレイに目を向ける。そこには『ゴルフ』の映像が映っていた。うん、本当に普通のゴルフである。武技や魔術など一切使えない、純粋なゴルフだったのだ。


 ただプレイヤーがゴルフウェアを着ておらず、甲冑姿の男女であるのがシュール過ぎた。ゴルフクラブとゴルフボールは支給されても、ゴルフウェアはないらしい。プレイヤー達はいつも通りの装備で参加していた。


 今も映っているのは和風の大鎧を装着した老将っぽいプレイヤーだ。それが槍や刀の代わりにゴルフクラブを持って、無駄に美しい動きで打っている。おお、結構飛んでいるじゃないか。


 飛んでいったゴルフボールの軌道は風の影響を受けて少し曲がっている。しかし、それも想定済みだったようでゴルフボールはグリーンの上に落下した。器用なものだ。さてはリアルでもやっているな?


 そして最後のディスプレイに映っているのは『大泥棒』という競技だった。これは個人で行う競技で、複雑に入り込んだ罠だらけの広い城に隠された幾つものアイテムを盗み出してから脱出するというものだ。


 プレイヤーのアバターは全て中肉中背の黒い影…某国民的探偵漫画の犯人に酷似した姿になってしまう。武技も魔術も使えない状態になり、城を巡回している警備を掻い潜りながらアイテムを盗む…まさに大泥棒だ。


 盗めるアイテムにはポイント定められており、その合計と見付かった回数の少なさ、そして開始から脱出までの時間の短さによるボーナス得点で競う。ただし、警備に捕まったらそこでゲームオーバー。ポイントは全てなくなるようだ。


 盗めば盗むほどポイントは増えるが、盗み過ぎると警備が盗んだことに気付いてしまって城が厳戒体制に入って逃げ難くなる。逆に少ししか盗まなければポイントは少ないが逃げやすい。競技で上位に入賞するにはなるべく多くを盗む必要があるが、そうすると捕まるリスクが増す…その塩梅が難しいのだろう。


 何度も試行回数を重ねれば良いとも思えるが、毎回城の構造と盗めるアイテムの位置が変わってしまうらしい。挑戦開始と同時に地図が支給されるので、それを読みながら臨機応変に対応しろと言うことのようだ。プレイヤーの判断力や胆力が試される競技なのである。


 警備の目を掻い潜るノウハウを蓄積出来るので、回数を重ねることも無意味ではない。しかし、勝つために必要なのは冷静な判断力とルート構築、そして引き際を見極めることだろう。


 特に引き際を見定めるのは非常に重要だ。今まさにディスプレイに映っている彼は引き際を誤ったようで、城の中を何十人もの警備に追いかけ回されている。何とか逃げているが、警備は警笛を鳴らしながら追いかけるので常に先回りされていた。


 徐々に追い詰められ、最終的には袋小路に追い立てられて御用となった。挑戦失敗である。プレイヤーネームは明かされていなかったので誰かはわからないが、次の挑戦では是非とも失敗しないように頑張ってくれ。


「お?返信が来たか」


 そうやって暇潰しをしていると、クランチャットに返信が来た。私は少しウキウキしながらチャット画面を開くのだった。

 次回は6月9日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
せめて相棒ぎめの前にチュートリアルするべきだったな
[一言] 自分が気に入った個体に乗れないってのはやる気削がれるだろうしね 気に入った個体を選べた人か純粋にレースを楽しみって考えの人じゃないと続かない仕組みになってんのよな
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