素晴らしき秋の一面・動 その八
ログインしました。いやぁ、昨日は楽しかったよ。あの後、四人で色々なゲームで遊びまくった。制限時間内にとったポイントを競うシューティングや輪投げ、共用のメダルを増やして総数で競うメダルゲームやスロット、ステータスに関係なく楽しめるエアホッケーやボウリング……時間を忘れて遊んでいたよ。
あれだけ遊んだものの、まだまだ遊べるゲームはたくさんあった。今度は全員で回ってみたい。実際、十人以上の団体で移動する者は結構いた。特にボウリングなどはそのくらいの人数でやっているグループが幾つかあった。
「さてと、今日は色々な検証を行おうと思う。付き合わせて悪いな」
「クルル?」
水やりを終えてから『競龍』のコースに向かった私がそう言うと、相棒の疾駆封龍は不思議そうに喉を鳴らした。こいつは急に何を言い出すのだ、とでも言いたげだ。
だが、これから行う検証は個人的には重要だと思う。試すべきことは大別して二つある。一つは武技と魔術の性能実験。もう一つはこのレースにおける細かい仕様のチェックである。
本戦ではライバルを妨害出来るとルールに書いてあったが、小さい文字で一部の武技や魔術は使えず、また使えるものも性能を調整していると書かれているのに気がついた。
何が使えず、どの武技と魔術がどんな調整をされているのか。これを知っておかなければ、本戦に勝ち上がっても大失敗しそうだ。そのための性能実験を行うのである。
そして仕様の確認とは、これはコースの様々な判定をチェックすることである。どうなったら落龍してしまうのか。柵を越えたらどうなるのか。コース自体を攻撃などで影響を与えられるのか。それを調べるのだ。
これは邯那と羅雅亜に必ずやっておけと言われたからやることにした。思わぬ仕様のお陰で助かることもあれば、逆に失格になるかもしれない。やっておいて損はないだろう。
ちなみに、私のタイムは未だに二位のままだったのでタイムを詰めるために必死になる必要はない。むしろ調べる余裕がなければこんな悠長に調べる前に走っているよ。
最初に使える武技や魔術について調べることにした。これはステータス画面を見るだけでわかるから簡単だ。私の予想では競技を壊すタイプの術は禁止にされると思っている魔術は二つ。せっかく揃えた疾駆封龍のステータスを上昇させる【付与術】と、プレイヤーを問答無用で即死させる【邪術】だ。
この二つは競技を完全に破壊してしまうから許されないだろう。まあ、後者は私の切り札なので仲間の前以外では最初から使うつもりはなかったが。
「ええと、使えるのは…げっ!?これだけか!?」
何はともあれステータス画面を見てみると、使えない能力は文字が灰色になっていた。ただ、その数が余りにも多かった。残っているのは基本的な属性魔術と武器だけで、【雷撃魔術】や【呪術】などは一切使えないようだ。
しかも武技も魔術も使えるのは十レベルまでに覚えられるものに限られる。確かに初心者も出場可能な競技で、高いレベルにならないと使えない武技や魔術を使えたらつまらないか。
これはあくまでもレースであり、戦いたいのなら闘技大会に出ろ言うことだろう。最初に戦闘で競争相手を倒しておき、悠々とコースの散歩して優勝などは出来ないのだ。多少の妨害にしかならないようにしてあるのだろう。
「先ずは乗って、と。少し進んでから降りると…?」
疾駆封龍の背中に跨がってスタート地点から少し進み、すぐに地面へ降りてみる。すると当然のように落龍したと言う判定になり、一瞬でスタート地点に戻された。おお、落龍するとこうなるのか。
私はもう一度背中に跨がると、今度は鐙から足をわざと外して身体をずらして地面に当てても落龍判定。しっかり乗ったまま尻尾を伸ばして地面に当てても落馬判定だった。
どうやら落龍したと判定が出るのは身体の一部が地面に触れた瞬間であるらしい。しっかり脚に力を入れておけば落ちることはないが、妨害するなら落とすように立ち回るのが正解だろう。
「クルル?」
「こらこら、私の尻尾を噛むのは止めてくれ。じゃあ次は武器が地面に着いたらどうなるのかだ」
初めて見せた私の尻尾に興味津々な疾駆封龍を宥めてから、私は騎乗したまま杖を地面に当てる。それだけでは落龍判定にはならなかったが、これは驚くほどのことではない。むしろ武器が地面に着いただけで落龍と見なされたら満足に武器を振れないからだ。
試しに杖の先端を深く突き刺してみたが、こちらも大丈夫。今度は杖を刺した状態で体重を預けてみると、それでも落龍にはならない。最後に思いきって地面に突き刺した杖を支えにして疾駆封龍の背中から降りてみると…地面に足が着くまでの間は落龍にならなかったのだ。
バランスを崩して落ちかけても、身体を武器で支えてやれば脱落せずにすむということになる。これは持ち込む武器は長ければ長いほど良さそうだ。私が持っている杖は長くて丈夫なのでちょうど良い。本戦に出たらこれを使おう。
「落龍についてはこんなもので良いだろう。次はコースを弄れるかどうかだ」
私は最初の直線を走りながら、地面に向かって適当な魔術を放ってみる。すると地面の上で魔術は弾けたものの、着弾地点には凹みすら生じなかった。
このことから攻撃によって地形を変化させるのは無理だと思われる。石壁を使ってみたところ、一瞬だけ現れてすぐに消えてしまった。地面をデコボコにして悪路に変えるのは不可能なのかもしれない。
私は下見に走った時の速度くらいでコースを走りつつ、つづら折りのエリアにたどり着いた。ここを曲がりながら上へ登る訳だが、ここでふと疑問に思った。疾駆封龍はジャンプすることが出来る。
ならば曲がり角の手前でジャンプして上の段へショートカット出来るのではないか、と。柵を越えてコースアウト判定になるかもしれないが、思い付いてしまったからには試さずにはいられない。そもそも今は色々と試すために走っているのだ。やってみる価値はあるだろう。
「最初は低い所で試すべきだろう。よし、今だ!」
「クルル!」
つづら折りになっているコースの柵を飛び越えて上の段へ飛び乗ろう…としたのだが、気がつけばスタート地点に戻されていた。ズルは許されないようだ。
ここはあくまでも『登坂力』に優れた疾駆封龍にとって有利な地形であり、『跳躍力』を活かす場所は別にある。それまで我慢しろと言うことか。
この辺の自由度の低さは人によって評価が分かれそうだが、ルールなのだから守るしかない。私はもう一度走って坂道エリアまで戻ってきた。つづら折りを登りながら、ここで私が何か出来ないものかと考えを巡らす。ショートカットが無理なのはわかったが、ならば少しでも負担を減らすために何かしてやれないものか、と。
「坂道…山登り…杖…杖?杖ならあるじゃないか!」
その時、私の頭に一つの考えが天啓の如く舞い降りた。疾駆封龍が走るのに合わせて地面を杖で突き、私の身体を少しだけ浮かせたのだ。
背負う荷物が一瞬だけ軽くなるからか、疾駆封龍の足取りも軽くなった気がする。名案だと思ったのだが、気休め程度にしかならなさそうだ。登山で杖を使うと楽になるので同じ効果が期待出来るかと思ったのだが、そう上手くは行かないらしい。残念だ。
坂道が終わった後、沼地エリアにやって来た。浅い場所を進みながら、私は魔術を沼に向かって放ってみる。すると沼を満たす泥が弾け、辺りに飛び散った。疾駆封龍の顔にも少し付着したらしく、とても嫌そうに頭を振っている。
私は手で泥を拭いながら、これは嫌がらせに使えると思った。個体によっては拭き取るまで止まってしまうかもしれない。まあ、多少汚れても気にしない疾駆封龍が相手だと通用しないかもしれないが…一定の効果は見込めると思う。覚えておこう。
使える魔術を試してみると、最も泥が跳ねたのは【水魔術】を使った時だった。どうも魔術の水と一緒に飛び散るらしい。ここで嫌がらせをするなら水属性。よし、頭に叩き込んだぞ!
沼地を抜けて広い坂道を越えてやって来たのは橋エリアだ。ここで試すべきことはもう決まっている。吊り橋の仕様を調べ尽くすのだ。
「橋板に魔術…は効かない。それは縄も同じ。だが、無意味ではなさそうだ」
私は魔術で吊り橋を攻撃してみる。しかし、それを破壊することは出来なかった。燃やそうとしても斬ろうとしても砕こうとしてもダメ。吊り橋を完全に使えなくする方法はないようだ…ボロボロの吊り橋に攻撃が通用しないのは違和感があったが、そう言うものだと思うことにした。
しかし、橋への攻撃は無意味という訳でもない。橋に攻撃すると、その影響で大きく揺れてしまうのだ。それは普通の吊り橋もボロボロの吊り橋も同じこと。揺れる吊り橋を走るとバランスを崩してしまうだろうし、特に橋板が抜けている方は足を踏み外してしまうだろう。
対して石橋は小揺るぎもしない。抜群の安定感である。タイムアタックでは見向きもされない石橋だが、本戦だとこちらを選ぶことも十分あり得るだろう。自分はこっちを走りながら吊り橋に向かって魔術を乱射すれば、十分な妨害になるからだ。時と場合によるが、その作戦も考慮しておくべきだ。
最後の坂道はどうすることも出来ない。出来る工夫と言えばなるべく道の内側を走ることを心掛けるくらいか?タイムアタックでは一応、ここも杖で突いて助けるくらいはしておこう。
「山頂に到着、と。我慢させて悪かったな。これじゃ足りないだろうから、今から本気で走るぞ」
「クルルッ!」
検証に付き合うために速度が出せずに疾駆封龍は不服そうだったが、本気で走ろうと言うと途端に機嫌が良くなった。そんなに走るのが好きなのだろうか。だったら満足するまで一緒に走ってやろうじゃないか!
次回は6月1日に投稿予定です。




