素晴らしき秋の一面・動 その六
「おお、何とも賑やかな場所じゃないか」
エイジがいたのは『アミューズメントパーク』という名前で、一言で表現するのならばゲームセンターのような場所である。様々なゲームの効果音やプレイヤー達の声が入り乱れる、中々にカオスな空間になっていた。外の世界観とは大違いだが、プレイヤーしかいないイベントエリアだから許されるのだろう。
私はその中を歩いてエイジを探す。彼は大柄なのですぐに見付けることが出来た。彼はあの巨体でありながら、何とダンスゲームで遊んでいる。周囲は多くのプレイヤーに囲まれていて、中には七甲とウールも混ざっていた。
「おっ、ボスやんけ。お疲れさん」
「ああ、お疲れ様。それで、どんな状況だこれは…?」
「エイジがねー、ダンス上手いんだー。初見なのにー、フルコンボしてるよー」
私はエイジが踊っている機械に表示されているディスプレイを見る。そこでは凄い勢いで矢印が上から下へ降りて来ており、それに合わせて床のパネルを踏んでいる。彼が踏む度にディスプレイには虹色のエフェクトと共に『PERFECT!』と表示されていた。
巨体のエイジはドタドタと、しかし異常なほどの正確さでスコアを重ねていき…最終的に画面には『ALL PERFECT!』と表示された。完全クリアしたようだ。
「うおおおおっ!すげぇ!」
「初日に最大難易度でパーフェクトって化物かよ…」
彼のプレイを見物していたプレイヤー達は称賛したり感心したり畏怖したりと、反応の仕方に差はあれど好意的なものばかりだった。エイジがあんなにダンスゲームが上手だとは知らなかったよ。
エイジは額の汗を拭う素振りをしながらゲームの台から降りる。実際には汗はかいていないものの、そんな気分だったのだろう。すると私が合流していることに気付いたようで、笑顔を浮かべつつこちらにやって来た。
「来てくれたんですね!」
「ああ、ちょうど良かったからな。それよりも驚いたぞ。あんなにダンスゲームが上手いとは」
「ははは。昔とった杵柄…であってるのかな?とにかく、そんなところですよ」
エイジは照れたように頭を掻く。以前に熱中していた時期があったのかな?まあいいや。詮索するよりも一緒に遊んで回った方が楽しいのだから。
「私はここに来たばかりで何もわからないから、案内してくれると嬉しい」
「それなら任せてや。ワイ、最初にプラプラ歩いてどこに何があるんか調べといたんや」
「おー。用意周到だー」
錫杖を鳴らして胸を張る七甲をウールが称える。事前の情報収集は重要だ。彼の案内に従って『アミューズメントパーク』を巡ることにした。
まず我々が向かったのは『UFOキャッチャー』だった。確かにゲームセンターを象徴するゲームではあるが、中身は現実とはまるで異なる。ぬいぐるみやお菓子の代わりに入っているのは、ポーションや素材アイテム、あるいは武器などだった。
筐体は沢山あるが、中身の系統は揃えられているらしい。ポーションの筐体や金属素材の筐体などである。特に武器の筐体は種類が豊富で、筐体の大きさにバラつきがある。何せ短剣から槍まであるのだから。
様々な『UFOキャッチャー』で遊べるのは楽しそうだ。ただ気になるのはこれをどんなルールの競技として落とし込んだのかだ。取りあえず確認してから遊ぶとしよう。
「ええと…一日に十回限定、プレイに金は不要。取れたアイテムは持ち帰っても良い。ノーコストでアイテムが貰えるならお得だな。レア度と取りにくさと大きさによってアイテムにはポイントが定められていて、五日間で総合ポイントで競う…なるほど、そうなるのか」
プレイ回数に制限が設けられているものの、お金を使わずにアイテムを得られるのは素直に嬉しい。競技としては五日間で得たポイントの高さで競う形になるようだ。
優勝を狙うのなら、どの筐体のどのアイテムを狙うのかを厳選しなければならないだろう。基本的には小さい方が取りやすいが、ポイントは控え目になってしまう。最もポイントの高い小瓶のポーションを五日間で十個ずつ得たとしても、下から四番目にポイントが低い剣の方が得られるポイントは多いからだ。
簡単に取れるアイテムを大量に入手するか、ワンチャンスに賭けて高いポイントのアイテムを狙うか。優勝を狙うのなら自分の腕前と相談しつつ戦略を練る必要があるだろう。私は競技のことなど考えず、私は欲しいアイテムに挑戦するかな。
「よっしゃ!漢は度胸や!ワイは一発、デカいのを狙うで!」
「ぼくは堅実に行きますか。ポーションの消費も多いですし」
「どーしよーかなー。あー、あれにしよー」
七甲は勇敢にも剣が入った筐体へと突撃していった。それもレア度が最も高いものに挑戦するらしい。勇気があるな…ノーリスクハイリターンだとわかっていても、私はどうしても確実にアイテムを得たいと思ってしまう。参考にはしないが、応援はしておこう。グッドラック!
エイジは迷わずポーションの筐体に向かった。彼が狙うのはポーションの小瓶ではなく、栄養ドリンクのように箱詰めされたセットだった。前衛を張る彼は戦闘では最優先に回復されるものの、間に合わない時には自分でポーションを使っている。
その結果、ポーションの消費量は最も多くなってしまう。ポーションを作った余剰分はなるべくエイジに譲渡しているのだが、ここでも補給しておこうと考えたのだろう。あ、もう持ち上げた。これも上手なのかよ!
ウールがトコトコと歩いて向かったのは素材アイテム、その中でも宝石系の筐体だった。羊型のアバターであるウールは基本的に装備は全て専用のものにしなければならない。だが、素材さえあればアイリスが作ってくれる。そのため、彼にとっては素材の方が価値があるのだ。
羊の姿をしているウールは後ろ足で立ち上がると前足で身体を支えながら鼻先を使ってボタンを押している。彼の種族が悪魔だと言うことを忘れそうな可愛らしさだ。スクショを撮っから後で紫舟にでも送ってあげよう。
皆が思い思いの筐体を見付けた中で、私はまだ迷っていた。特に欲しいモノがある訳でもないし、飛び付きたくなるほど魅力的なアイテムもない。ううむ、どれがいいのだろう?
「おお?これは…謎キャッチャーだと?」
私が見付けたのは『?』のマークが書かれた黒い球体…有り体に言えばガチャポンのカプセルが詰まった筐体だった。説明文によると黒いカプセルの中身は完全にランダムで、取り出した瞬間にアイテムへと変換されるらしい。変換するアイテムの対象は、なんとこの『UFOキャッチャー』の景品全てなんだとか。
得られるポイントは変換されたアイテムに対応するので、運が良ければ楽に高ポイントの貴重なアイテムを入手出来る。逆に運が悪ければ私が作った方がましなポーションが出るかもしれない。ギャンブル要素が強すぎる闇鍋と言うわけだ。
「よし、これに決めた!」
欲しいアイテムも特にないし、私はこの謎キャッチャーで遊ぶことに決めた。ハズレばかりになる可能性はあるが、それも含めて楽しめば良いのだ。お金を使っていないからこそ出来る選択だな。
この謎キャッチャーは最初にスタートボタンを押すと動き始め、四つの爪があるアームを制限時間内にレバーで前後左右に動かす。そして決めたところでボタンを押すとアームを下げてカプセルを掴む。中身がランダムな分、取りやすい形にしてあるようだ。
私が筐体に触れるとクレジットの部分に『残り十回』と表示される。スタートボタンを押すと軽妙な音楽が鳴り始め、レバーを自由に動かせるようになった。どれも一緒であるし、サクサク取っていこう。
「ここでいいか…おっ!やっぱり簡単だな!」
思っていた通り、黒いカプセルはとても簡単に取ることが出来た。初心者でしかない私が十回中八回も取れたのである。慣れたから次は全部取れると思う。中身は開けてみないとわからないが、取れるだけでも十分に楽しかった。
まだ私は八個ある黒いカプセルを開けていない。せっかくなら皆と一緒にまとめて開封しようと思っていたからだ。戦利品を抱えつつ、私は三人を探す。すると肩を落とす七甲とそれを慰めるエイジ、そして鼻先に紫色の宝石を乗せて遊ぶウールがいた。もうこれだけで三人の成果がどんなものだったのか察しはつくだろう…残念だったな、七甲よ。
「あ、イザームさん…何ですか、それ?」
「後で話すよ。それよりも、七甲は大丈夫か?」
「あとちょっと…ほんまにちょっとやったんや…あと一回やれたら絶対取れたのに…」
「惜しーところでー、落としちゃったんだってー。かわいそーだねー」
「ウールは取れたようだな?」
「うんー。紫妖結晶って言うんだってー。きれーでしょー?」
七甲はうつ向いたままブツブツと何かを呟いており、逆にウールは上機嫌で何時もより口数が多くなっている。これが勝者と敗者の差…ではないか。
「それでこっちの話だが、面白い筐体を見付けたから試してみたんだ。一緒に開封しよう」
私は『謎キャッチャー』について三人に説明してから、八つの黒いカプセルを一つ一つ開けていく。開けた瞬間にカプセルからピカッと白い光が放たれる凝った演出が発生してから景品のアイテムが現れた。
一つ目は私が初めて作ったものと大差ないポーション。二つ目は鉄の鉱石。三つ目は銅の鉱石。四つ目は一キログラムの塩。五つ目は鉄の短剣。六つ目は一反の木綿の布。七つ目は木製のコップ一個。最初に明らかにカプセルよりも大きかったアイテムが出てきた時は驚いたものの、どれもこれも微妙なアイテムばかりで盛り上がることはなかった。
「えっと、うーん」
「ハズレ?」
「何や、イザームはん。元気出しなはれ」
「うぐぐ、ここまで全敗か…」
エイジは困ったように苦笑いし、ウールは直球で心に刺さる事実を述べる。七甲に至っては私の肩に手を置きつつ、とても優しく語りかけて来た。同類を見付けたとばかりの態度である。ハズレ仲間とでも言いたいのか?
いや、まだだ!まだ後一個だけ残っている。大当たりでなくても良いから、使わないアイテムでも良いから、とにかく何か出てくれ!神仏に祈りを捧げつつ、私は最後のカプセルを開いた。
「お?おおお!?」
「あれ?光の色が…」
「金色だー」
「う、裏切ったなぁ!?」
するとこれまでとは違う金色が溢れ出す。来たのか?ようやく当たりが出たのか!?期待に胸を踊らせる私にとって、光が止んでアイテムが現れるまでの時間すらじれったかった。
光が収まった後、景品であるアイテムは私の掌にヒラヒラと舞い降りる。何かのチケットのようで、そこには『変形武器引換券R』と書かれているのだった。
レバー式のUFOキャッチャーは筆者の実体験でもあります。簡単には取れませんでしたし、景品はカプセルではなくちょっと良いアイスクリームでした。カッチカチに凍っていたせいで家に帰ってから食べたことを覚えています。
次回は5月24日に投稿予定です。




