素晴らしき秋の一面・動 その二
マック達と少し世間話をしてから別れた私は、早速競技に出場することにした。ロビーの奥には白い靄が掛かった門が四つかあって、あそこに足を踏み入れると競技を選択する画面になるそうだ。
ちなみに四つある門の内、二つは闘技大会専用の門だった。それだけ出場者の数が多く、割合も高いと女神達も予見していたらしい。実際、今も闘技大会専用の門にはゾロゾロと沢山の人が出入りしていた。
「私には関係ないか。さあ、行こう!」
私がその他の競技のための門を潜り、真っ白な靄が立ち込める中を歩き続ける。十歩ほど歩いた時、目の前にどの競技に参加するかを決める仮想ディスプレイが現れた。最初から決めていた競技の名前をタップすると、仮想ディスプレイはガラスが割れるようにして消滅した。
これで出場手続きは終わったんだよな?きっとそうだろうと思いながら私は前に進み続ける。すると靄の向こう側に光が見えて来た。光の方を目指して進むと、急に目の前がピカッと強い光を浴びて…気が付くと大きな建物の前に立っていた。
「神秘的な演出だったなぁ。ここが『競龍』…龍に乗って走る競技の会場か」
私が選んだのは『競龍』という一風変わった競技だった。競技説明によると『戦いに向かないが走るのは得意な疾駆封龍に乗って障害物だらけの道を駆け抜けろ!』と書いてある。要は龍に乗って障害物競争をする競技なのだ。
イベントの三日目まではプレイヤーは用意されたコースを一人で何度でも走ることが出来る。そうやって走ったタイムで上位三十位以内に入った者達が本選に決勝戦に出場する、という流れだ。
ちなみに、このレースでは敵への攻撃は認められている。プレイヤーが落龍するか、プレイヤー又は疾駆封龍の体力が尽きた時点で失格となるらしい。ただ走っていれば良いという訳ではなさそうだ。
龍に乗って、とあるが疾駆封龍はカルのような本物の龍ではないと思う。恐らくは蛇龍や毒炎亀龍のように『龍の因子』を持つ魔物だろう。それにしたって何故『封』という文字が当ててあるのかは謎であるが。
『競龍』の他にもレース系の競技は幾つかある。邯那が出場する気満々だった『競馬』や大型の鳥に乗って空を飛ぶ『競鳥』、アン達がぶっちぎりで優勝出来そうな『競魚』などだ。プレイヤー本人が走る競技よりも、騎乗する競技の方が多いのは少し面白い。
騎乗する馬や龍は持ち込み不可である。なので邯那が羅雅亜に乗ったり私がカルに乗ったりは出来ない。それだと有利過ぎて競技にならないから当然か。文句を言わずにに乗るとしよう。
「ここは厩舎…いや、龍舎と言ったところか」
どうやら私の前にある建物は疾駆封龍がいる施設らしい。扉のない大きな入り口から中が見えるのだが、柵で区切られた馬房…いや、龍房と言うべきか?とにかく、その中には一対の角が生えた蜥蜴が一頭ずつ入っている。彼らが疾駆封龍だと考えて間違いないだろう。
疾駆封龍は鱗に包まれた胴体を太くて長い四本の足が支え、長い首と尻尾が伸びている。この形状は誤差程度の差はあるが、大まかに言って同じであった。
ただ、個体ごとに肌の色のベースや模様が異なっている。性格も個体によって随分と差があるらしく、近付くプレイヤーに人懐っこい犬めいて寄っていく個体や怯えて離れる個体、中には牙を剥いて露骨に威嚇する個体までいた。
私よりも前に龍舎に訪れている者達は結構沢山いるようで、それぞれが自分の相棒となる疾駆封龍を選んでいるようだった。ある者は甘えられ、ある者は噛み付かれそうになりながらふれ合っている。よし、私も競技の相棒となる疾駆封龍を厳選するか!
「出来れば天才みたいな子が良いよなぁ」
「それは高望みってものっぽいよ、お兄さん」
私が呟いた独り言を聞いていたのか、すぐ近くで青い疾駆封龍と戯れていたプレイヤーがそう言った。ウルフカットにした群青色の髪に急所のみを守る軽装鎧を装備したスレンダーな美女アバターの女性で、髪の隙間から延びる長い耳からして森人のようだ。
彼女は髪の色と同じ青い肌の疾駆封龍の首を抱きながら優しく撫でている。疾駆封龍も気持ち良さそうに目を閉じてリラックスしているようだった。どうやら彼女は既に相棒を見付けているようだ。良好な関係を築けて良かったな。
「私はアマハ。よろしく」
「イザームだ。それで高望みとは?」
「周りを見ていればわかると思うけど、疾駆封龍って個体によって性格が違うでしょう?それだけじゃなくて得意なことも違うっぽいのよ」
アマハが言うにはまず疾駆封龍に触れるとその個体が自分の相棒となってくれるかどうかが自分の視界に表示される。その後、プレイヤーがその個体を相棒にするかどうかを決めるらしい。最初に選ぶのはプレイヤーではなく、あくまでも龍の側なのだ。
それを了承すると二度と変更が出来なくなり、出場登録が完了する。完了してからメニューを開くと、良くある六角形のレーダーチャートが表示されていて相棒の特徴がわかるのだとか。
頂点の部分に記されている項目は『最高速』、『加速力』、『持久力』、『跳躍力』、『登坂力』、そして『悪路走破力』らしい。『最高速』はその個体が出せるスピードの最高値。『加速力』は速度を上げる力。『持久力』は走り続けられる時間。『跳躍力』はジャンプ出来る高さや距離。『登坂力』は坂を登る力。そして『悪路走破力』は沼地などの足場が悪い場所でも普段通り走る力だった。
それを聞いた私はまるで車だなと思った。例えば『最高速』と『加速力』が高ければスポーツカー、『悪路走破力』が高ければオフロードカー、全てが平均的なら乗用車のような感じだ。車はその場でジャンプ出来ないから正確には違うのだろうが。
閑話休題。表示されるレーダーチャートは中央が『0』、頂点が『10』となっていて、平均値は『5』となっているらしい。そして個体の数値は小数点第一位まで、即ち『7.2』や『2.5』という様に表示されている。それを見ることで得手不得手が視覚的にわかりやすくなっているのだ。
「このレーダーチャートにある数の合計って、どの子も一緒みたいなの」
「そうなのか?」
「さっき大声で数字を言い合ってる男の子達がいたのよ。その子達の言っていた数の合計は全員がピッタリ『30』。小数点まで書かれているのにね。そしてそれはこの子も同じ。これって偶然だと思う?」
「いや、思えないな。作為的過ぎる。間違いなく女神が合わせたんだろうよ」
小数点第一位まで記載されている六つの数字の合計が同じ、ということを偶然で済ませるのは難しい。得手不得手や個体差はあっても総合力ではどの個体も同じなのだろう。公平になるようにしているようだ。
ただし仮に『競龍』のコースが真っ直ぐな舗装路であれば、幾ら総合力が揃えてあっても『最高速』に特化した疾駆封龍を引き当てたプレイヤーの圧勝となるだろう。だがそこは心配していない。説明文にあったではないか。『障害物だらけの道』だと。
「どこで全力を出させるのか、どこで休憩するのか、どこで攻めるのか、どこで安牌を取るのか…このペース配分は重要だろう。そしてどうやって疾駆封龍に言うことを聞かせるか。勝敗は騎乗するプレイヤーがどれだけ上手く御せるのかに掛かっていそうだ」
「同意するわ。平地で速いからって無条件で優勝出来ると思わない方がいいわね」
わざわざ六つのパラメーターを表示させているということはそれぞれが役立つ場面があると考えた方が良さそうだ。険しい坂道や沼地などの悪路、ジャンプすることでショートカット可能な道…少し考えただけでもこのくらいは思い付く。
それに『持久力』のパラメーターがあるのだから、コースは長めである可能性が高い。そうなると最高速は『10』だとしても、その代わりに他のパラメーターが平均値を下回ってしまう。どれか一つに特化しているよりも、どれも平均値と大差ない個体が最も走らせ易い気がした。
「教えてくれてありがとう。慎重に選ぶとするよ」
「どういたしまして。まあ、貴方は鋭そうだし私に言われなくても気付いただろうけど」
「買い被りすぎだと思うぞ、それは。何はともあれ、レースで会った時はお手柔らかに頼むよ」
「それは難しいわ。私、優勝狙いだから」
「ははは、手強い相手がいたものだ」
ハッキリと物を言うアマハに私は苦笑しながら、彼女と別れて龍舎を歩いてみる。すると多くの疾駆封龍がこちらをじっと見詰める視線を感じる。中には龍舎の柵の隙間から頭を出して鼻先を近付けようとする個体までいた。
これほど多くの疾駆封龍が私に注目するのは、私が【龍の因子】を持っていることが原因だろうと思う。形は変わっているが同族に近い雰囲気を感じ取っているのかもしれない。
「うーん、顔付きに精悍さが足りない気がする。カルを見慣れているからか?」
ただ、寄ってくる疾駆封龍にあまり魅力を感じなかった。何となく物足りないのだ。短い時間とは言え『競龍』という競技を駆け抜ける相棒とするには頼りない気がしたのである。
そうして龍舎をゆっくりと見回っていると、一頭の疾駆封龍が目に入った。鼻先から尻尾の先まで包む鱗は白銀に輝くその個体は小部屋の床で丸くなって眠っている。他の個体のように寄ってくるどころか私を見ようともしなかった。
丸まっているから分かりにくいが、顔付きは優美でありながら怜悧な印象を受ける。獰猛さと力強さを感じるカルとは方向性が異なるが、私の勘が言うのだ。この疾駆封龍を相棒にするべきだ、と。
「そいつは止めとけよ」
私が柵の向こう側に行こうとしたのだが、それを背後からそれを止める声がした。振り返るとそこにいたのは二人組の男性プレイヤーだった。二人とも戦士らしく、片方は片手剣と盾を、もう片方は槍を装備している。
私に声を掛けたのは片手剣を下げた方で、どこか不機嫌な空気を醸し出している。槍使いの方は困ったようにアワアワしていた。
「止めた方がいいとは?」
「そのままの意味だよ。そいつ、この俺が声を掛けてやったのに無視しやがったんだぞ?お高く止まりやがって…蜥蜴の癖に生意気だよな」
「そうか…」
『この俺』が声を掛けて『やった』ね。どこの誰だか知らないが、随分と自分に自信があるようだ。そんな態度だと反応すらしてくれないらしい。それがわかっただけでも十分だ。
頭が良さそうな顔付きだし、こちらから誠意を見せることは大前提なのだろう。舐められてはならないが傲慢に見えるやり方もダメ、と。天真爛漫なカルと違って気難しいようだ。
「助言してくれてありがとう。でも誘ってみるよ。ダメで元々さ」
「あっ!おい!」
慌てたような声を出すプレイヤーの声を背に、私は柵を潜って龍房の中に足を踏み入れるのだった。
次回は5月8日に投稿予定です。
新作『WELCOME TO HELL!』もよろしくお願いします。




