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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
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お祭り騒ぎ その三

 あれから二時間ほどで品評会は終了した。いやぁ、皆が思い思いの植物を育てていて驚かされたよ。ガムのような食感のクルミや、胸焼けするほど甘いが一個だけで満腹度が最大まで回復するサツマイモ、食べると口の中で種がパチパチ弾けるキウイ、味はしないが満腹度が急上昇する小麦…この辺りは好評だった。


 しかし、酷評されたモノある。審査員が悶絶するほど苦いアスパラガス、皮を剥いた瞬間に広場にいる我々まで被害が及ぶ悪臭を撒き散らしたタマネギ、人の頭ほどの大きさがあるのに食べられるのは中央の一部だけなスイカ、鉱人(メタリカ)しか食べられない上にあまり美味しくないと言われてしまった金属で出来た小粒のブドウ…何をやったらこんなモノが出来上がるんだと叫びたい気分だった。


 欲しくなるようなモノから審査員にならなくて良かったと思えるモノまで様々な作物を見せられた二時間だったが、最初から最後まで見ていて全く飽きることがなかったのは間違いない。後でどうやって育てたのかを互いにネタバレするのも良いかもな。後でクランチャットにメッセージを送ってみよう。


 私の作り出した木の実などまだ常識の範疇でしかなかったことを思い知ったよ。イベントに便乗して勝手に開いた祭りではあるが、思っていた以上の手応えがあった。コンラートは幾つかの食べ物に金の臭いを嗅ぎ取ったのか、誰が何を作ったのかを表にまとめてくれとせがまれたのには参った。グイグイ押してくるので断れなかった…あのくらい押しが強いからこそ、彼は敏腕商人として名を馳せることが出来たのかも知れないなぁ。


 何はともあれ、全ての審査が終わったならば次に行うのは結果発表である。厳正なる審査員達が付けた点数を集計して最も高い得点を取って栄えある優勝に輝いたのは、意外な人物だった。


「それでは見事優勝を勝ち取ったセイ様、今のお気持ちはいかがですか?」


 いや、意外と言っては失礼かもしれないが、まさかセイが優勝するとは思っていなかた。優勝候補はアイリスかしいたけ、後は自分も植物系ということからネナーシだと思っていたから彼はノーマークだったのだ。


 セイが作り出した植物は『幻桃』というモモだった。このモモが審査員の前に出された時、我々は怪訝に思った。何故なら皿の上には何もないように見えたからだ。そう、このモモは無色透明だったのである。


 確かに存在しているのだが透明なので、我々は審査員が何かを食べるパントマイムを見せられている気分だった。だが味は最高で、体力が回復しつつ一定時間だが状態異常への耐性を得られるというスーパーフードである。優勝するのも頷ける出来だった。ちなみに鉱人(メタリカ)の評価は「香りが良い」である。


「いやぁ、俺はほとんど何もしていないんだ。テスとモモのお陰だから、正直ここにいるのが申し訳ないんだけど…優勝出来て嬉しいよ」


 セイ本人まで困惑しているように、自分でも優勝するとは思っていなかったようだ。テスとモモは両方とも彼の従魔である。ああ、ひょっとしてログアウトしている間に従魔が世話をしていたのか。それなら誰よりも手間をかけることが出来たに違いない。


 しかもモモは植物系の魔物。更にモモの尾の先端には桃の実が成っていることからもわかるように、桃の種から生まれた魔物だ。何をすれば良いのかは誰よりも理解しているからこそ、最高の果実を作り出すことが出来たのだろう。


 それをズルだとは思わない。何故ならログアウトしているセイのためにせっせと鉢植えの世話をするほど従魔が懐いていなければこの結果はなかったからだ。月並みで陳腐な言い方になるが、彼らの絆の勝利と言ったところか。敗者として惜しみない称賛を贈ろう。


 私が拍手を始めると最初は疎らに、しかしすぐに会場は拍手の嵐に包まれた。セイは照れ臭そうに、だが同時に嬉しそうに頭を掻いている。うんうん、若者らしい初々しい反応だ。


「あの『幻桃』って果物、安定供給出来そうかい?それが出来れば大儲けだよ、マジで」

「ふむ、難しいだろうが、努力はしてみよう」


 『幻桃』の価値は誰の目にも明らかである。イベント終了後にはその種子が残るので、上手く育てることが出来れば手間はかかるものの数を増やすことは可能だろう。むしろそれを推奨するイベントだと思われる。


 しかし、強力な効果を持つ何かを作るのに苦労するのはゲームに限らずリアルでも『お約束』と言うもの。我々には植物を活かすも殺すも自由自在な闇森人(ダークエルフ)という強い味方がいるものの、コンラートが求めるように商品として供給出来るようにするのには時間がかかると思われる。


 むしろ『幻桃』ほどのアイテムを容易に量産出来たらゲームのバランスが壊れてしまうのではないか?女神(管理AI)達がそれを看過するとは思えない。私はゲームに詳しい訳ではないが、この予想が外れることはないだろう。


「ああ、量は要らないよ。数が増え過ぎたら希少価値が落ちて高く売れないじゃん」

「…なるほど?あまり増やし過ぎても困るのか」


 どうやらコンラートの望みは『幻桃』の希少性を保ちつつ、定期的に高級品として高値で売ることのようだ。きっと金持ちを相手にぼったくるんだろうなぁ…おお、怖い怖い。


「ま、数が増えればその時は別の売り方を考えれば良いよね。果物だから色んな加工方法があるし」

「果物の使い道、か。ドライフルーツ、ジャム、缶詰め…後は酒くらいか?」

「お酒!いいねぇ~。幻の桃をふんだんに使って作ったお酒!なぁんて煽ればアホみたいな値段でも買う人はいるだろうさ。美味しくて回復効果もそのままなら価値はもっと上がるよ」

「夢を広げるのは楽しいが、今の状態だと何を言っても皮算用に過ぎん。期待し過ぎるなよ」


 二人でまだ育つかどうかすら不明の植物で想像を膨らませていると、セイが壇上から降りていくところだった。名残惜しいがこれで祭りも終わりかと思ったところで、二十人ほどの疵人(スカー)がぞろぞろと壇上へ上がっていく。男は四人しかおらず、全員が太鼓のようなモノを持っており、残りは全て女でヒラヒラした民族衣装で着飾っていた。


 え?何が始まるんだ?品評会の他に催し物があるなんて聞いていないぞ!?私は周囲を見回して仲間達の様子を伺うが、エイジや七甲などこの場にいるほとんどの者達は私と同じで困惑しているようだった。


 しかし、女性陣は異なる。いつの間にか集合していた彼女達はどことなく誇らしげであった。ああ、君たちが仕掛人なのね。サプライズってことらしい。何時から準備をしていたのだろうか?全く予兆に気付けなかったよ。


「続きまして、疵人(スカー)の方々による舞踊でございます。祝いと喜びを表現した舞いをお楽しみ下さい」


 司会のトワが舞台から降りると、疵人(スカー)の男達が手で太鼓を叩き始めた。床に置いた樽のような大きな太鼓と小脇に抱える小さい太鼓がリズミカルな音色を奏で、それに合わせて女達が躍動感に溢れる躍りを披露する。ダイナミックな躍りに、私を含めて観客を魅了した。


 おお!火球(ファイアボール)を掌に浮かべながら踊り始めたぞ!手の動きに合わせて炎も躍り、美しい軌跡を描いている。誰かがミスをすれば他の誰かが怪我をしそうな躍りであるが、その危うさもあって観客はより一層引き込まれていった。


「あれ?」

「おい、マジか」


 そして躍りもクライマックスに差し掛かったのか太鼓のリズムが加速した時、舞台の上に降り立った者がいた。それは【付与術】によって炎を纏わせた二本の曲剣を携えた兎路である。彼女は躍りの輪に加わると、更に激しくなる躍りに加わったのだ。


 兎路は疵人(スカー)の躍り手と遜色のない、いや、それ以上にキレのある動きで躍って魅せた。剣舞を得意とする彼女であるが、その動きはシステムの恩恵に頼っているとは到底思えない。リアルでもダンスをやっているのかもしれないな。


 曲調がもっと激しくなると、驚いたことに躍り手達は掌に浮かべた火球(ファイアボール)を兎路へと放ったではないか!兎路は次々に襲い来る火球(ファイアボール)を曲剣で斬り裂いていく。斬られた火球(ファイアボール)の残滓は花吹雪のように舞い散り、見事に躍りの最後を飾る演出へと昇華してみせた。


 一瞬の静寂の後、会場を万雷の拍手が包み込む。素晴らしいものを見せてもらった。私は感動にうち震えつつ、皆と共に拍手して舞台に上った全員に惜しみない称賛を送った。


「ありがとうございました。続きまして、闇森人(ダークエルフ)の皆様による演奏会です。彼らが用いる伝統的な楽器と鉱人(メタリカ)の方々が作り出した新たな楽器が奏でるハーモニーをお楽しみ下さい」


 闇森人(ダークエルフ)達が持つ楽器はそのほとんどが木製だったが、その中にちらほらと金属製のモノが交ざっている。あれが鉱人(メタリカ)の作った楽器であるようだ。


 演奏が始まると穏やかな、それでいて楽しい音楽が広場に流れる。ああ、こうやって音楽をゆっくり聞くのも久しぶりだ。とても癒される。隣のコンラートは楽器も売れそうとか言ってるけど無視しておこう。


 私が音楽に聞き惚れていると、女子の集まりから抜け出したアイリスがこちらに来る。彼女は得意げに触手をくねらせながら言った。サプライズは成功ですね、と。


「ああ、全く驚かされたよ。何時から企画していたんだ?」

「品評会を開くって決まった時です。せっかくなら住民の方々にも参加してもらおうと思って」


 住民達に参加してもらったことで祭りの催し物が増えたし、それ以上に住民全体の一体感が増したのは大きい。今も異なる種族(レイス)同士が隣に並んで笑い合っている。これまでの生活でも随分と馴染みつつあったが、祭りを通じてより仲間意識が強くなったようだ。


 ただ、一つ気になることがある。住民達が何時練習していたのかはわかる。我々がログアウトしている間に幾らでも隠れて練習出来るからだ。気になるのは舞台に上ったり下りたりするのが妙にスムーズだったこと。誰か教えてもらわないと難しくないだろうか?


「イザームにポーズを取って貰ったことがあったでしょう?あれは当日の流れを確認しているところを間違っても見せないための足止めだったんですよ。石像のデザインのためって言うのも本当なんですけどね」


 ああ、あの時か!足止めされている感覚は全くなかったぞ。何にせよ、私を含めた男達はしてやられたらしい。女性陣の結束力と手腕は私よりもずっと優れているようだ。


 闇森人(ダークエルフ)の演奏の次は四脚人(ケンタウロス)の歌がありますよ、とアイリスは次の演目を教えてくれる。今は余計なことを考えずに祭りを全力で楽しむとするか!

 次回は4月14日に投稿予定です。

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