お祭り騒ぎ その一
遂に品評会の日がやって来た。広場には多くの住民達が集まっており、普段はカルが寝ている場所には大掛かりな舞台が設置されている。
「皆様、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。只今より、我が主達が生み出した作物の品評会を開催致します」
その上に立っているのは司会と進行を任されたトワだった。彼女が品評会の開催を宣言すると、広場は集まった住民達の歓声に包まれる。街に住むようになって初めての祭りに彼らも興奮しているようだ。
トワは歓声が収まるまで壇上でじっと待ち続け、ある程度落ち着いてから再び話し始めた。主催者である私達も浮わついた気分である今、彼女が最も冷静なのは間違いない。
「それではイザーム様より開会の挨拶をしていただきます」
トワに促された私は壇上に上がった。住民達はどこか神妙な表情で私を見上げている。そんなに見られたら緊張してしまうが、ここでみっともない姿を見せてはならない。私の踏ん張りどころだ。
「住民の皆、よく集まってくれた。今日はこの街に人々が住むようになって初めての祭りだ。それを開催出来たのは、偏に皆が協力してくれたからに他ならない。先ずはそのことを感謝させて欲しい」
この広場は前から十分なスペースがあったのだが、品評会を開く余裕を持てるようになったのは住民達が協力的だったからだ。一日中プレイしていられない我々だけでは、街の再建はここまで進んでいなかったと思う。自分達の住居のためだと彼らは言うだろうが、感謝の気持ちを忘れてはならないのだ。
心の底からの感謝の気持ちが伝わったのか、住民達はどこか誇らしげな表情になっている。誰だろうとそうだが、自分の行動が認められれば嬉しいものだ。それはプレイヤーだろうとNPCだろうと同じらしい。
「そして祭りをより華やかなものにしてくれた我々の友人、『コントラ商会』と『青鱗海賊団』にも感謝を。ありがとう」
私が名指しで礼を述べると、舞台の下にいるコンラートはニコニコと笑みを浮かべ、アンはヒラヒラと手を振って応えた。今日の朝にやって来たコンラートとその商会のメンバーは、祭りなら必要だろうと言って十を超える屋台を用意していたのだ。それらは広場を囲むように配置され、今も芳しい香りを放っている。
七甲が「旨いやん!」と叫んでいたので、高級な食材を使っているようだ。その食材の中にはアン達が取ってきた魚介類もあって、住民達は珍しい料理に舌鼓を打っていた。
「さあ堅苦しい話はここまでだ。今日は皆でこの祭りを存分に楽しもうじゃないか!」
「「「ワアアアアアアアアッ!」」」
私が両手を広げて大袈裟に開催を宣言すると、広場に集まった住民達は歓声を上げた。私は壇上から降りていく。そして入れ替わるように壇上に上がったトワが再び司会として品評会の開催とそのルール説明などを始めている。分かりやすく説明するのは我々よりも彼女の方が得意なのだ。
「フフフ、思っていたよりも様になっているようですね」
「…まさかお前達まで来るとは思っていなかったぞ、ウスバ」
壇上から降りた私を出迎えたのは最強クラスのPKとして名高い『仮面戦団』のリーダー、ウスバだった。彼らはコンラートの船に乗ってこの街までやって来たのである。住民の組織と殺し合いをしていると聞いていたが、既に決着がついていたらしい。
当日まで知らされていなかったせいでビックリする我々を見て、コンラートとウスバは満足そうだった。あの二人驚かせるためにわざと教えずに隠していたのである。性格が悪い奴等だ。
彼らの目的はもちろん、品評会などではない。ジゴロウと源十郎の二人と戦うことである。それを知っている二人はニヤリと笑うとウスバを除いた『仮面戦団』のメンバーを連れてフィールドに出ていった。きっと時代劇の果たし合いよろしく平原の真ん中で殺し合うのだろう。二人の勝利を祈るばかりである。
「お前は行かないのか?二人と手合わせすることを楽しみにしていただろうに」
「ああ、それですか。残念なことに戦う順番を決めるゲームに負けてしまいましてね。私の順番は最後なんです」
「へぇ?ちなみにそのゲームとは何だ?」
「少し前まで住民のとある組織と揉めていたことはご存知でしょう?その支部を襲撃したのですが、その時に討ち取った首級の数ですね」
一番強い人に手間取りましたよ、とウスバは朗らかに笑いながら締め括った。…しれっと凄い話を聞いてしまった。『オースティン一味』を裏で操っていた連中のような住民の非合法組織は複数あるらしい。その一つと揉めて?殺し合いになって?支部を襲撃して?挙げ句の果てに殺した人数で競っただって?控え目に言って頭がおかしいよ、この人達…。
人数は少ない『仮面戦団』だが、個人の武力は同じレベル帯のパーティーに匹敵するという。もしもクラン同士で殺し合いをした場合、彼らに勝てる集団がどれほどいるだろうか?私達だと恐らくは勝てないと思う。ジゴロウと源十郎が『仮面戦団』の誰かと一対一で戦っている間に他の者達にヤられそうだ。敵対しないように注意をしておこう。
ウスバと会話している間にも祭りは続いている。トワに呼ばれて壇上に上がった審査員達は緊張した様子で自分に用意された席に座る。そして彼らの前に出された最初の作物は山盛りになった真っ赤な豆だった。
トワは事前に生産者から聞かされた作物についての説明を淡々と話していく。どうやらこの豆には特別な効果はないものの、ピリ辛で肉のような味がするらしい。そんな不思議植物を誰が作ったのかをトワは言わなかった。
「おやおや、作物の生産者が誰なのかは公表しないのですか?」
「ああ。彼らの本音が聞きたいからな」
生産者が誰なのかを事前に言ってしまうと忖度されてしまう気がしたので、その発表は品評会の結果発表の時に行うことにしている。良くも悪くも、メンバーの多くは特定の種族と仲が良い者が多いのだ。
具体例を挙げるとしよう。まず戦闘訓練をつけているジゴロウと源十郎は武人気質の四脚人と若い疵人、民族皆兵と言っても良い闇森人のウケが良い。しいたけは【錬金術】に用いる薬品や鉱物の知識を得るために闇森人と鉱人と頻繁に交流している。ルビー、シオ、紫舟そしてウールは全ての種族の子供に人気だ。
騎兵として戦う邯那と羅雅亜は四脚人と固い絆で結ばれ、同じく騎兵になれるセイは従魔であるモモのことで世話になった闇森人と積極的に交流している。我がクランで最も美しい兎路は種族を問わず若い男に人気だし、逆に見た目は厳ついのに優しいエイジは一部の子供達と年配の方々に頼られている。
他のメンバーもそれぞれに交流を深めているが、均等という訳には行かないのが現実だ。クランのリーダーとして全ての種族と話し合う機会が多い私や、生産関連で疵人や鉱人と交流しつつ、四脚人や闇森人に作品である武具を提供しているアイリスは特殊なのである。
今は壇上で豆をポリポリ食べながら、審査員達が素直な感想を述べている。若い男女と一部の老人には好評だったが、子供達は辛すぎると顔を顰めた。また、ほとんどの老人は固くて歯が割れそうだと言ったものの、調理法によっては食べられそうとのことだ。そして土石と金属しか食べられない鉱人達からは「色がキレイ」とのありがたい感想をいただいた。
全員が五点満点で評価をつけ、それが終わったところで豆の乗った皿が片付けられる。次に運び込まれたのはキュウリだった。何の変哲もない普通のキュウリであったが、この大陸にはない植物である。トゲのある野菜は珍しいようで、審査員達は興味津々だ。
トワによるとこのキュウリには食べると一時的に敏捷を上げる効果があるという。特殊効果付きということでより興味をそそられた審査員はそのままかぶり付く。すると意外にも反応は悪かった。それは何故か。審査員達が口を揃えて言うことには、かなり青臭いらしいのだ。
闇森人だけは平気な顔でこのくらいなら平気だと言ったが、その他は一口しか食べられなかった。鉱人は「形が面白い」とのこと。楽しそうで何より。
「敏捷アップのキュウリですか。欲しいですね。多少青臭くても買いますよ」
「量産するとしてもイベント後だ。楽しみにしておけ」
三番目に運ばれた皿に乗っているのは…おっと!私の作った木の実ではないか!皿の上には危険な『怨臓灰実』を除いた三種類の実が乗っている。しげしげとそれらを眺めている審査員にトワがその性質を説明していく。その後、彼らは用意されていた木槌で殻を砕いてから中身を口に放り込む。さあ、反応や如何に!?
「ムグムグ…仄かに甘いな。いくらでも食べられそうだ」
「苦っ!?この黒いの、苦過ぎるぞぉっ!?」
「酸っぱい!固い奴の中身、メチャクチャ酸っぱい!でも、身体がポカポカする!」
三種類は全て味わいが異なるようだ。『賢樹の紅実』は美味しく、『賢樹の黒実』は非常に苦く、そして『龍血実』はとても酸っぱいようだ。最初に『賢樹の紅実』を食べた審査員以外は悶絶して苦しんでいた。
あ、やっべ。私が食べられないから味見してなかった。『賢樹の紅実』の説明に美味しいと書かれていたので、他の食べられる二つもそうだと勝手に思い込んでいたのだ。すまない、審査員の諸君…。
ただ、芸人に勝るとも劣らない審査員のオーバーリアクションを見て会場は笑いの渦に包まれた。品評会で優勝することは出来なさそうだが、イベントを盛り上げるのには成功している。ある意味、主催者としては成功なのかもしれない。
そんなことを考えている間に審査員は点数を決めて私の番は終わりとなった。ちなみに鉱人は『龍血実』だけは殻ごと食べられたようで、「刺激的で楽しい」との言葉をいただいた。美味しくはないんですね…とほほ。
次回は4月6日に投稿予定です。




