品評会に備えて
――――――――――
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
――――――――――
剪定鋏を譲ってもらった後、私は植木鉢の剪定を行ってから街の再建に従事した。無駄な建物は全て崩し終わり、宮殿を中心とした道路を整備し、区画整理も終わりつつある。黒壁と呼ばれた城壁の内側はNPCの街にも負けない街並みになったと言っても良いだろう。
ハリボテだった家はどれも住民が住むのに十分な強度と広さ、そして部屋割りがされた誰に見られても恥ずかしくないものに仕上がっていた。これほど速く工事が進んだのは四脚人の馬力と鉱人の建築技術のお陰である。
家としての機能も十分だが、美しい街並みを演出してくれている疵人を忘れてはならない。彼らは力仕事にも従事しているが、それと同時に家の強度を高める紋様を全ての家の壁に彫っている。街の雰囲気を華やかなものにしているのだ。
また、住民の食糧を安定供給するのに闇森人が一役買っている。彼らが自分達の住む森で栽培した木の実や果物、更にフィールドで狩った魔物の肉を惜し気もなく振る舞っているのだ。
発展して行く街を見て感慨深い気持ちのままログアウトした私は次の日、すなわち今日ログインしてすぐにアイリスの下へ向かった。それが昨日の約束だったからだ。約束を守るのは人として当然のことだからな。
「それで…何だこの状態は?」
「う、動かないで下さいっ!」
そんな私は今、アイリスに言われるまま様々なポーズを取らされている。両手で何かを持って掲げるポーズや天に向かって手を伸ばすポーズ、地面の上で力なく横たわるなどその種類は多岐に渡る。しかも彼女からの要請で装備は全て外して全裸で。
いや、私は全然恥ずかしくないんだよ。リアルの裸体を曝せと言われるならともかく、ここはゲームで私の身体はアバターでしかない。それに改造しまくって原型をとどめていないけど、所詮はどこまで行っても骨だし。恥ずかしくなる要素はないはずなのだ。
しかし、自分で裸になるように言っておきながらアイリスは恥ずかしがっているから変な気持ちになってしまう。見られている側よりも見ている側の方が恥ずかしがるとは…まるで露出狂にでもなったような気分だ。
「あの…何のためのポーズか聞いていいか?」
「えっと、趣味です」
「…えぇ?」
「冗談ですよっ!噴水のデザインに使うんです…半分は趣味ですけど」
ほう?血の噴水に設置する石像のデザインに骸骨を使うのか。どんな仕上がりになるのか、今から楽しみである。最後に何か小さく呟いていた気もするが、良くわからなかったし勘違いだろう。
それから十分ほどポージングの時間は続き、全てが終わったとのことで私は装備を身に付ける。どことなくアイリスの触手が残念そうに蠢いたのを私は見てしまった。この骸骨ボディがそんなに好きなのかねぇ?
「良い作品に仕上がりそうか?」
「はい!構想はもう固まりました。後は作るだけです!」
「それは良かった」
アイリスはウキウキしながら何かを操作している。きっと石像のデザインをしているのだろう。彼女の集中を乱さないようにそろそろお暇しよう。そんなことを考えていると、アイリスがそう言えばと何かを思い出したのか触手の動きを止めた。
「街の再建もあともう少しで終わりじゃないですか。それでしいたけがそろそろ例の砂漠に…『蝕魂の錆砂海』に行きたいって言ってるんです」
「ふむ…確か、セメントに混ぜる砂を確保したいんだったよな?地獄のように少数で行くべきか、それとも予定を合わせて全員で行くべきか…後者だろうな」
『蝕魂の錆砂海』とは闇森人が暮らす『誘惑の闇森』の向こう側にあると聞く危険な砂漠である。危険で未知のフィールドと言う点では地獄と同じだが、地獄にはフェルフェニール様の近くという安全地帯がある。そんなものがない『蝕魂の錆砂海』の方が危険だと考えるべきだ。
ならばクランの戦力を総動員して向かうのが良い。予定を合わせる必要があるものの、そこを調整するのもリーダーの仕事の一つだ。これまで何度もやって来たことだから大丈夫だろう。
「わかった。じゃあメッセージを全員に送っておこう。ただ、探索行が長引く可能性は高いから、行くのは品評会の後にしたい。それでもいいか?」
「いいと思いますよ。今は植物の栽培に集中して欲しいですし」
「ああ。その方向で予定を組もう…そっちは順調か?」
「いい感じですよ。変異しやすくなっているからでしょうけど、興味深い結果になりそうです。イザームはどうですか?」
「こっちも経過は良好だ。きっと面白いものを見せられると思うぞ」
「ふふっ、私も負けてはいられませんね!」
もう少し雑談をしてから私はアイリスの工房を後にした。アイリスもきっと凄い作物を栽培してみせたに違いない。私も負けられないな!
◆◇◆◇◆◇
――――――――――
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【尾撃】レベルが上昇しました。
【尾撃】の武技、乱尾撃を修得しました。
【杖】レベルが上昇しました。
【考古学】レベルが上昇しました。
【言語学】レベルが上昇しました。
【死と混沌の魔眼】レベルが上昇しました。
――――――――――
あれから三日が経過した。私を含めて全員の鉢植えは順調に成長しており、何時でも収穫出来る状態だ。つまり、品評会を何時でも開けるのである。そのことをコンラートに伝えると、彼の武装商船は明日にはティンブリカ大陸に到着するとのこと。よって品評会は明日行うことに決まった。
品評会の審査員は四つの種族の老人を二名、成人を四名、子供を二名ずつの三十二名が参加する。また、アン達の『青鱗海賊団』も当日は街に来るようだ。イベントに便乗した祭りなのだから一緒に楽しめる相手がいればいるほど良いものだ。明日は盛り上がりそうな予感がするぞ!
「うーん、それにしても興味深いドングリが成ったものだ。なあおい?」
『怨嗟の灼獄血』を垂らしながら話し掛けると、二メートルほどに成長した若木は不思議そうに枝を傾ける。若木には数百個の木の実が成っているのだが、その形状は私にとって奇妙奇天烈なものだった。しかし、こいつにとっては当然のことでしかなく、何を疑問に思っているのかわからないのだ。
ドングリの実らせるまで、この若木の名称は不明だった。【鑑定】しても結果は『成長中』としか表示されなかったのである。これはイベント中の仕様らしく、どんな植物になるのかが決まるのは完全に成長した時になのだ。
それはつまり、成長中の間に行った世話は全て結果に影響するということ。私に限らずジゴロウまでもそれなりに水やりや追肥を行っていた。そしてドングリが実った時、ようやくどんな木になったのかが判明したのである。これがその時に【鑑定】した結果だ。
――――――――――
紅珠龍鱗賢樹 品質:優 レア度:T
真紅の宝珠と龍の鱗のような樹皮が特徴的な樹木。
植物には珍しく言語を理解する知性を有するが魔物ではない。
幹の所々にある宝珠は宝石の類いではなく、樹液の塊である。
本来ならばもっと成長してから結実するが、鉢植えの効果によって若木のまま結実している。
――――――――――
紅珠龍鱗賢樹というのがこの木の名前である。大層な名前にも思えるが、見た目がそのまま名前になっただけなので驚きや意外性はない。初めて結実したのは昨日のことで、それと今日のを合わせて既に数百個のドングリを得ている。
ただ、名前よりも驚かされたのはそのドングリである。一本の木から収穫したドングリであるのに、何故か種類が四つもあったのだ。数が多かった順にドングリの特徴を見ていこう。
最も多かったのは鮮血のように真っ赤な殻を持つドングリである。【鑑定】によれば『賢樹の紅実』という名前で、これは殻の色こそ毒々しいが殻の内側は普通のドングリと同じクリーム色だった。栄養価が高く、それでいて渋味も少ないようで食用にもってこいだ。美味しいようなので街の住民の食糧に使えそうである。
二番目に多かったのは殻も果肉も真っ黒なドングリである。これは『賢樹の黒実』と言い、ある特定の種族以外には何の意味もないドングリだった。その種族とは不死である。死瘴灰を使ったからか、この実は不死専用の回復薬の原料になるらしい。私にとって最高の実と言っても良いだろう。
先述の二種類が実に九割以上を占めている。つまり、残った二種類はレアなドングリと言えるだろう。さらにこの希少なドングリの九割を占めるのが『龍血実』というドングリだ。
金属並みに固くてゴツゴツした殻の中にドロリとした液体が詰まっていて、この液体を飲み込むと一定時間だけ龍並みの攻撃力と防御力を得られる。素晴らしい効果なのだが…カルの糞から抽出された成分だと思うと嫌がる者もいそうだ。
そして最も希少なのが、灰色で心臓にそっくりな形状のドングリだ。成人男性の心臓ほどの大きさがあり、殻はなく、ドクンドクンと脈打っている。これは『怨臓灰実』と言い、摂取した者が必ず呪われる劇物なのだ。
天然物の呪物であり、間違いなく『怨嗟の灼獄血』の『怨嗟』の部分が凝縮したものである。しかも食べた結果、どんなことが起きるのかわからない。品評会でも説明はするが、決して誰かの口に入らないようにしなければなるまい。
「優勝出来るかはわからんが…お前の良さを皆が理解してくれると良いな」
総じて個人的には大満足な結果となった。後は審査の時を待つばかりである。血を浴びて喜ぶ紅珠龍鱗賢樹を眺めつつ、私は明日の品評会に思いを馳せるのだった。
次回は4月2日に投稿予定です。




