表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十七章 育てよう、駆け回ろう
334/688

帰還後のあれこれ

 新しいレビューをいただきました。ありがとうございます!

 唾液でベタベタになりながらも地上に戻った我々は、拠点転移(ベーステレポート)によって一息に都へと帰還した。地獄へ行ったメンバーは広場で別れて、各々で植木鉢を育てることにする。誰がどんな植物を育て上げるのかは品評会のお楽しみだ。


 私も自室で作業に入るとしよう。カルは今では特等席となりつつある広場の中央にうつ伏せになってうたた寝を始めたし、気にすることは何もない。思うがままに植物を育てるのだ。


「…では、始めるか。まずは植物を選択する。ブナの木は…よしよし、ちゃんと候補にあるな」


 イベントメニュー画面からブナの木を選択すると、私の前にポンとコミカルな音と共に赤茶色の鉢植えと一個のドングリが現れた。これはブナのドングリと考えて良いだろう。鉢植えの中には園芸用の土が入っている麻袋があるので、これにアイテムを加えていく形でいいだろう。


 植木鉢の中に麻袋の中身を入れる前に、私は最初に着水した河原で拾った石を敷き詰める。ガーデニングの知識は乏しいしどうしてそうするのかは知らないが、こんな風に底に石を並べておくことは覚えている。子供の頃にやった記憶があるし、やった方がいいだろう。


 その上に死瘴灰と龍糞、そして始めから用意されていた土を入れて均一になるように混ぜていく。数分ほど混ぜてやると三つの原料が馴染んで斑だった色も落ち着いていった。うん、これで良いだろう。


 土の真ん中に指を差し入れて穴を掘り、その中にブナのドングリを入れてから優しく土を被せる。そして仕上げとばかりに取り出したのは、ついさっき入手した『怨嗟の灼獄血』だ。これをケチらずにたっぷり流し掛ける。するとジュウジュウと肉でも焼いているかのような音と共に何とも形容し難い刺激臭を漂わせる赤い煙が私の部屋に充満した。


「ゲホッ、ゲホッ!酷い臭いだが…一応は成功したようだ」


 あまりの臭いに噎せてしまった私だったが、小さな双葉がひょっこりと出ている鉢植えを見てほくそ笑んだ。二枚の葉っぱは灰色で真っ赤な葉脈が走っている。明らかに与えた肥料と水が影響を及ぼしているぞ。


 その葉っぱが乗っているまだ細い茎の部分は白いものの、黒い筋が何本もある。これからどう変化していくかが楽しみだ。私は今の状態をスクリーンショットで撮影して保存すると、部屋の窓際に置いてティンブリカ大陸のほとんどないに等しい陽光を浴びせた。


「さて、これでイベントの準備は整った。あとは収穫まで毎日世話をしてやるだけだな。じゃあ予定通りアイリスと合流しよう」


 私はメッセージをアイリスに送る。すると即座に返信があった。我々は宮殿の中にある空き地で待ち合わせる。この空き地とは宮殿の崩れていた部分の瓦礫を退けたことで生まれた空間だ。その中で宮殿のほぼ中央に位置する空き地を待ち合わせ場所に指定している。私が着いた十数秒後に彼女もやって来た。


「お待たせしました!」

「待っていないよ。それで、帰りに話した件は出来そうかい?」

「もちろんです!早速組み立てますね」


 そう言ってアイリスがインベントリから取り出したのは、何かのパーツと思われる様々な石材であった。石材の原料は魔導人形(ゴーレム)にも使った頑丈で重い瘴黒石である。もうすぐ完成しそうな城壁にも用いられている、ティンブリカ大陸ならいくらでも手に入る優れた石材だ。


 そのパーツをセメントで繋いでいくと、徐々にその形がハッキリしたものになる。それは中央にギリシャ風の彫刻を施された大きい台座が置かれた、豪華な円形の噴水だった。そう、我々は宮殿の内部に地獄にあったような血の泉を作り出そうとしているのである。


 元々、宮殿に中庭を作りたいと常々考えていたらしい。この場所は最も広い上に宮殿のほぼ中央にあることから第一候補地とされていた。そこに噴水を設置したいとアイリスは常々考えていたらしい。


 しかし、噴水を作るためには水源と水を汲み上げるポンプが必要となる。ポンプを作るのは流石に難しく、代わりとなるアイテムに目処が立つまでは保留する予定だった。そんなときに発見したのがこの『怨嗟宿りし大心臓』である。


 無限に血液を流し続けるこの心臓は正しくポンプそのもの。これを使えば水源の問題もポンプの問題も片付いてしまう。よって噴水作りの計画を前倒しにすることにしたのだ。


「台座の上に心臓を置けばいいのか?」

「今はそうです」

「今は?」

「はい。この心臓に相応しい石像を設置する予定です。まだ完成していませんけど、楽しみにしておいて下さい!」


 ああ、なるほど。確かに噴水と言えばマーライオン然り小便小僧然り、大小問わず石像がセットになっているイメージはある。なるほど、あの台座はこれから作る石像が乗るようだ。


 心臓に相応しい石像というものがどんなデザインになるのかは全く予想がつかないが、アイリスならば立派な石像を仕上げてくれると確信させてくれる実績がある。モノ作りに関しては門外漢の私は口出しするべきではないだろう。


「じゃあ心臓を台座に乗せようか」


 私は『怨嗟宿りし大心臓』を取り出して台座に乗せると、ドクンドクンと力強く拍動して新鮮な血液を流し始める。噴水のサイズはそれなりに大きいので満たすには時間がかかるだろう。


 だが、私の水やりには十分な量を確保出来ると思う。他のメンバーはこの血液を使うつもりはないと言っているので、彼らは自分の使う液体を確保するためにこれからしばらくの間は地獄へと通うことになる。私は都の改修を優先するつもりだが、助っ人を頼まれれば付き合うつもりだ。


「それにしても、宮殿の中庭に真っ赤な血の噴水があるのは凄いインパクトだ。周囲に生やす植物も奇抜なものでないと噴水の存在感に負けそうだ」

「ふふっ。面白そうですね。ただ、全体のバランスも考えないといけません。ですから奇抜であれば良いってことにはなりませんよ?」

「むぅ、そんなものか」


 私の馬鹿な発言をアイリスが窘める。庭園の知識など私にはないから彼女の言い分の方が正しいのだろう。ううむ、こう言うときに私には美的センスというものが乏しいと思い知らされる。


 残念だが中庭に何を何処に植えるかはアイリスやその他のセンスがある仲間達に任せよう。その代わりに、必要な植物があれば私も採取しに行きたい。そっちなら少しくらいは手伝えるだろうから。


「アイリスはこれからどうする?」

「ログアウトする時間まで疵人(スカー)達にも手伝ってもらいながら石像を作ります。イザームは?」

「それが何も考えていないんだ。どうしようか?」


 実は地獄の探索行が順調過ぎたせいでログアウトするには少し早く、かといってこれから別の場所へと探索に向かうには時間が短い時間帯になっているのだ。本当にどうしたらいいんだろう?


「だったら都を散歩してみるのはどうでしょうか?新しい発見があるかもしれませんよ…ってまるで住民(NPC)みたいなことを言ってますね、私」

「いや、参考にさせてもらうよ」


 都の改修作業で訪れたのは、城壁の破損した部分や崩れて瓦礫となった家屋ばかりだった。たまには居住区を歩いて住民達と交流するのも良いかもしれない。私はアイリスの提案通り、宮殿の外へ向かった。


 街に出て住民達に挨拶をすると、皆がフレンドリーに返事をしてくれる。彼らは私のことを王様と慕ってくれるが、だからこそ私が彼らに負担を強いる暴君となれば反応は変わるに違いない。彼らにとって良きリーダーであり続ける努力はするつもりだ…リアルの生活に影響を及ぼさない範囲でだが。


 そうしてフラフラと歩いていると、どこかでガヤガヤと騒ぐ声が聞こえてくる。気になったので声のする方向へ歩いていくと、そこではジゴロウが数人の疵人(スカー)闇森人(ダークエルフ)の戦士達と素手で戦っていた。


「ぐはっ!?」

「さっさと立てェ!敵は待っちゃァくれねェんだァ!」

「はあぁっ!」

「ハッハァ!良い蹴りだけどなァ、まだ甘ェ!ぶっ壊すつもりで蹴りやがれェ!」


 最初は喧嘩をしているのかと思ったが、どうやらジゴロウは彼らに格闘術を叩き込んでいるらしい。生徒である住民達はボコボコにされながらも果敢に立ち向かっている。うわぁ、私ならとっくに尻尾を巻いて逃げているぞ。


 私が戦慄していると、私が来たことに気付いたジゴロウがニヤリと笑って手招きし始めた。おい、私を巻き込むな。そして住民達よ、道を開けるんじゃない!そして期待の眼差しを向けるんじゃない!完全に私も行く流れになっているじゃないか!ひょっとして私、実は嫌われているんじゃないか?


「よォ、兄弟!いっちょ手合わせと行こうや」

「…素手は無理だ。せめて鎌を使わせろ」

「おう、構わねェぜ」


 ファイティングポーズをとっているジゴロウを前にして、私は観念して杖と大鎌を取り出す。その瞬間、住民達がどよめいた。ああ、そう言えば彼らに私の腕が四本ある姿を見せたことはほとんどなかったか。ただの黒い骸骨かと思えば腕が四本もあるのだから驚くのも当然だ。


 対するジゴロウは籠手を取り出して装着している。私の大鎌など容易に避けられるだろうが、礼儀として武器を抜いてくれているのだ。無様な戦いは見せられんな。


「ルールは?」

「魔術、武技なし。それ意外ならなんでもアリでどうだァ?」

「いいだろう。こうして稽古をつけてもらうのも久々だな…胸を貸してくれ、兄弟!」


 私は飛翔して一気に大鎌の間合いにまで接近し、首を刈るように振るう。ジゴロウはほんの少し身を引くだけでこれを回避する。完全に見切られているが、そんなことは折り込み済みだ。こんな見え見えの攻撃が通用するわけがないのだから。


 回避されると知っていた私は動揺せず右手で握った杖で突く。鳩尾を狙ったのだが、ジゴロウは半身になってそれを躱した。これが当たったらわざとだと思った方が良い。だからこれも想定内である。


「ふん!」


 そのタイミングでジゴロウの脚を狙って尻尾を伸ばした。万が一にも怪我はさせないように先端の棘は出さず、脛を刈り取るようにして振り回した。だが、ジゴロウはそれも知っていたとばかりに口角を上げながら尻尾を踏みつけて押さえ付ける。ちっ、奥の手も通用しなかったか。


「知って…ぐえぇ!?」


 不敵に笑っていたジゴロウだったが、その顔が驚愕に変わった。それは私の()()の奥の手である【浮遊する頭骨】だった。普段はローブに隠しているこれを最初の突撃時に出しておき、周囲を取り囲む住民達の足元を縫うように移動して背後からジゴロウの首に噛み付いたのである。


 【浮遊する頭骨】は戦闘でも使えるが、決して強力とは言えないので普段は残機扱いしている。それ故にジゴロウも失念していると思い、そこを利用させてもらったのだ。最も付き合いが長い仲間の一人の裏を書こうと思えばこれくらいしなければならないのだ。


 ジゴロウに一発入れたことに住民達は驚いていた。源十郎がジゴロウは攻め気が強すぎるように見えるが、それは敵の攻撃を見切る技術があればこそ成り立つものだと語ったことがある。まさか私が一撃入れるとは誰も予想していなかったことだろう。


「例え魔術を使っていてもほとんどダメージを与えられなかっただろうが…不意打ちとしては上出来だろう?」

「ハッハァ!いいねェ、それでこそ兄弟だァ!」


 それからログアウトするまでの間、私とジゴロウは模擬戦を繰り返した。隠し球を既に失った私は二度と一撃を入れることも出来なかったが、敵に接近されたとしても簡単にはやられないようにする戦い方に磨きはかかったと思う。


 ただ、メチャクチャ疲れた。そのせいもあってその日はログアウト後に熟睡してしまったのは言うまでもない。やっぱり私に前衛の戦いは向かないようだ。

 次回は3月21日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最も付き合いが長い仲間の一人の裏を"書"こうと思えばこれくらいしなければならないのだ。 書→か、掻
[気になる点] 「魔術、武技なし。それ"意外"ならなんでもアリでどうだァ?」 意外→以外
[気になる点] >>【浮遊する頭骨】は戦闘でも使えるが、決して強力とは言えないので普段は残機扱いしている。それ故にジゴロウも失念していると思い、そこを利用させてもらったのだ。最も付き合いが長い仲間の一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ