トゥエンティノ沖の海戦 急襲
プレイヤー達の活躍によって、商船を襲っていた海賊は討伐された。船の船長をはじめとして商船には人的被害も出たものの、七割以上の人を救出することに成功している。生き残った者達は彼らに深く感謝し、プレイヤーと船乗り達に惜しみない称賛を送った。純粋な感謝されることと誉められることが嫌いな者は少なく、彼らもまんざらではない様子だった。
海賊が奪った商船の物資は全て商船へと返還され、プレイヤー達は海賊のアイテムを回収する。しかし流れの海賊が強力な武器や貴重な宝物を持っている訳がなく、しかも彼らの数は海賊よりも多い。一人当たりの稼ぎは雀の涙のようなものだった。
「意外と楽勝だったな。もっと苦戦するかと思ってたよ」
「おう。けどコイツらが弱かっただけだぜ。アクアリア諸島の海賊狩りとか、80レベル越えてないと受けられないらしい。あそこの海は修羅の海だって話だ」
「修羅の海…稼ぎよりも損の方が多くなりそうだ」
ルークとアカツキは雑談しながら海賊の船から物資を運び出していた。彼らも乗り込んでから海賊と切り結んだのだが、余りにも弱く手応えがなかった。自分達を呼び出すほどのことではなかったのではないか、とプレイヤーの誰もが思うほどに。
楽勝ムードによって弛緩した空気が全員の間に流れていた。この調子で『オースティン一味』も簡単に倒せるに違いない。楽に大金が稼げると、ほとんどの者達が込み上げてくる笑いを堪えるのに必死なくらいだった。
「油断はダメ。調子に乗ったら足元をすくわれる」
「そうよ、アカツキ。貴方はいつも詰めが甘いんだから」
そんな中で油断をしていない数少ない者達は警戒を怠っていなかった。遠距離射撃を決めて見せたメグとアカツキのパーティーメンバーで魔術師のルージュは自分のリーダーに釘を差す。男二人は顔を見合わせてからばつが悪そうに苦笑いをした。
「悪かったよ、メグ」
「けどさ、今の連中と大差ないんだろ?そりゃ数はもうちっと多いんだろうけど…」
「事前の情報にあったでしょ?ちょっと強い奴が二人、頭一つ抜けて強い奴が一人いるって。それに全員が妙に良い武器を使ってるから太守の軍が負けたってことも。他にも…」
「うん。ごめんなさい。もう油断しません」
滔々と油断してはならない理由を並べるルージュに、アカツキは真顔で頭を下げて謝った。口喧嘩で勝てないことはよくわかっている。まるで小五月蝿い母親のようだと思わないでもないが、それを指摘すると烈火の如く怒り狂うので余計なことは言わなかった。
ルークとアカツキは意識を切り替えたものの、他のプレイヤー全員にわざわざ油断するなと言って回りはしない。本命との戦いで誰が一番手柄を上げるのか競うという話になっているのだ。そんなことをしてもいい気分に水を差す者として鬱陶しがられるだけで、集中してくれるとは思えないからだ。
「わかったらいいのよ」
「それより、船長がそろそろ巡回に戻るって」
「わかった」
アイテムの運び出し作業を終えた討伐隊一行は、魔術や武技を使って海賊船を沈めてしまう。持って帰った方がいいのではとプレイヤー達は思ったが、そうするのが一般的なのだ。
アクアリア諸島という例外を除いて、ほぼ全ての海賊船は鹵獲された商船や軍船だ。そこに乗っていた者達が皆殺しにされた惨劇の舞台であり、迷信深い者が多い船乗りは乗りたがらない。数少ない例外も脱走した軍船か食糧不足や船員の反乱によって全滅した船くらいのものだ。縁起が良くない船に変わりはなかった。
なら自分が買いたいと思うプレイヤーもいたのだが、船乗り達に説得されて諦めた。そんな船に乗りたがる住民はいないし、場合によっては海賊に間違われるかもしれないがそれでも良いのかと言われたからだ。それでも船のパーツを交換すれば良いのではと食い下がった者もいたが、それなら新造艦を買った方が頑丈で安いと断言されて項垂れることになった。
実はアンが中古の船を嫌がったのは、この改修費用の方が高くつくのも理由の一つだった。イザームにメールで教えたように新品が良いという気持ちもあったが、費用の問題が真の理由だ。もう一つ理由があるのだが、彼女にとっても不確定な情報なのでまだ『青鱗海賊団』以外には教えていない。
「抜錨。隣にぶつけるな、下手くそだってどやされるぞ。我々は逆風を起こして後退し…」
「船長!後ろから新手だ!数は四…ありゃあ本命だぞ!」
「『オースティン一味』か!?こんな時に…急げ!モタモタしてたら殺られる!」
これから巡回に戻ろうかと言うときに、彼らの背後から『オースティン一味』の艦隊が水平線の向こう側から最大船速で現れたのだ。船乗り達は慌てて移動を開始しようとするが、二隻の海賊船に四隻の船が取り付いていたせいでお互いの距離が近すぎる。混乱を避けるべくゆっくりと移動しようとしていたのに、そんなことを言っている場合ではなくなった。
「うわああああああ!?」
「オイオイオイオイ!?」
討伐隊を任された四隻の船を操るのは歴戦の船乗りだ。急に背後から接近されて驚きはしたが慌ててはいない。船長達の指示通り、急ぎながらも秩序を保って移動しようとしていた。
だが、ここにはまだ商船が残っている。それも海賊に襲われたばかりの、しかも船長というまとめ役を失った商船だ。彼らは新たな海賊の襲来によってパニックになり、周囲を見ることもせずに船を動かそうとした。そのせいで船同士が激しくぶつかってしまったのである。
舷側同士が擦れて塗装が剥がれる程度ならまだマシで、商船の船首が討伐隊の船の船尾に激突したせいで船首が折れてしまっている。最悪なことに割れた部分から浸水しているようで、商船は大騒ぎしていた。
「ぐああああっ!?」
「嘘だろ!?彼処から届くのかよ!」
こうして移動出来ずにいると『オースティン一味』は矢を放って来た。四脚人の弓は射程が長く、斜めに構えて放てばかなりの距離を飛ぶ。海賊達の火矢が商船と討伐隊の船に区別なく降り注いだ。
しかしプレイヤーもさるもの、即座に【水氷魔術】や【暴風魔術】によって鎮火していく。追撃の火矢も武技によって弾かれてしまい、不意打ちだった初撃以外は有効打を与えられていなかった。むしろそろそろプレイヤーの射手が直接狙いを定められる距離に入る。手痛い反撃を食らわせてやる。彼らは海賊達が慌てふためくことを疑ってすらいなかった。
「…ん?何だあれ?」
最初に違和感を覚えたのは見張りの一人だった。双眼鏡の魔道具を持つ彼は火矢をどうにかやり過ごしながら、ずっとマストの上から海賊船を監視していた。一般的な海賊ならば火矢が効果的でないと知った時、それでも火矢を放ちながら接近して切り込むか逆に踵を返して逃げるかのどちらかである。
しかし、海賊達は矢を放つのを中止した。そして甲板の上にあった積み荷に被せてある布を剥がす。そこには何かの装置が幾つもあって、海賊達はそれらを船縁に設置し始めた。
「船長!海賊が何かしてる!見たことのねぇ道具を船縁に取り付けてるんだ!」
「見たことのない道具だと?」
「何だかわからん四角い箱がくっついたデカい筒です!」
船長は海賊が取り出したという謎の道具があると聞いて不審に思った船長は、すぐに防御力の高い者達を海賊船がいる左舷側に集めようとした。しかし、海賊の振りかぶった死神の鎌は既に振り下ろされていた。
ズドドン!
二つの重々しい音が重なって聞こえたかと思えば、海賊船から高速で飛来した何かが討伐隊の船と商船に一つに直撃した。甲板や舷側が破壊され、その破片が撒き散らされて船員やプレイヤーがダメージを負う。何が起きたのかわからずに呆然とする船長達とは違って、その正体を推測したプレイヤー達は愕然としていた。
「たっ、大砲だって!?」
「そんなのアリかよ!?」
爆発音と筒型の装置と聞いたプレイヤーが真っ先に連想したのが艦載砲による砲撃だった。【錬金術】によって作られる火薬の存在はプレイヤーの間でも知られているが、銃があると言うことは一般的には知られていない。イザーム達のように古代の銃を偶然に入手している者はいるが、秘密にしているのである。
砲撃を食らったという事実はプレイヤーにとってダメージよりも精神的な衝撃の方が強かった。大砲があることにも驚きだが、そんな武器を海賊が持っていることがショックなのである。しかも砲門は二つどころか一隻につき六つもあった。
「どうなってんだよ!?何で大砲が!?」
「知るか!盾で受け止め…ギャアアアアアア!?」
「おい!盾職が吹っ飛んだぞ!?」
「誰か!誰か反撃しろよ!」
「出来たらやってる!まだ射程の外だよ、クソッタレ!」
「ガチンコで戦えば勝てるってのに!」
「アルマダ海戦かよぉぉぉ!」
計二十四もある砲門が一斉に火を吹き、高速で飛ばす物体の威力は絶大だった。と言うのも着弾した瞬間に爆発を起こして広い範囲に被害を及ぼすからだ。直撃したプレイヤーは防御力が高かったので死んではいないものの、甲板の上を転がることになっている。
雷鳴のような轟音と共に放たれているモノは、実際のところ砲弾ではなかった。海賊達が使っている兵器。それは鉱人、疵人、アイリスそしてしいたけの技術と発想を結集した新型弩砲の試作機なのだ。
鉱人がよく使う弩砲を原型として、疵人の刻む紋様で強化し、アイリスとしいたけが船縁に設置出来る形状に整えたのである。弾倉に差し込める長細い物体なら何でも射出出来て、何かに接触したら爆発する榴弾弩砲とでも言うべき強力な兵器だ。しかも射手を守る防盾まで付いているので簡単には壊せない。更なる改良と量産体制が整えば、拠点の防衛兵器として正式に採用されることだろう。
「射程内だ!」
「調子に乗りやがって!」
「反撃するぞ!」
海賊は一方的に弩砲を撃ちながら接近し続けていたが、そのせいでプレイヤー達の射程距離に入ってしまった。彼らは怒りに任せて全力で矢を放つ。中には武技ではなく奥義まで使う者達までおり、それを正面から受けた先頭の船は大破してしまった。
海賊は一隻を沈められたことでそれ以上に近付くのは危険だと判断して、その場で回頭して離れながら砲撃を再開する。そして討伐隊の船を二隻沈めた後、悠々と去っていくのだった。
作者の体調不良のため、一度お休みをいただいて次回は2月25日に投稿予定です。




