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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十六章 海に咲く華
325/688

トゥエンティノ沖の海戦 前夜

――――――――――


従魔の種族(レイス)レベルが上昇しました。

従魔の職業(ジョブ)レベルが上昇しました。


――――――――――


 無事に帰還した翌日、残業を終えてからログインした私が最初に聞いたのはカルがレベルアップしたアナウンスだった。どうやら海賊の救援から帰った後、私がログアウトしている間に四脚人(ケンタウロス)疵人(スカー)と共に狩りに出て経験値を得たらしい。次の進化も近そうだ。より格好良く、より強くなってくれると私は確信している。


 帰りの海で唯一倒した鋸鰭太刀魔魚(ソーフィンヘアテイル)だが、アイリスは既に剥ぎ取りを終えている。そこから獲られたのは二種類のアイテムであった。それらを【鑑定】した結果は以下の通り。


――――――――――


鋸鰭太刀魔魚の特大背鰭 品質:優 レア度:S(特別級)

 背鰭と尾鰭が一体化した、鋸鰭太刀魔魚の大きな背鰭。

 尖った先端の棘の間に張る膜は柔軟であり頑丈である。

 魔力を通すと金属の板のように固くなる特性がある。

 武具の素材としては上質だが、特性を上手く活かすのは難しい。


鋸鰭太刀魔魚の鋭刃牙 品質:優 R(希少級)

 鋸鰭太刀魔魚の口に生えた、長く鋭い銀色に輝く牙。

 毒や特定の属性はないが、固さと鋭さに優れている。

 装飾品や鏃になるだろう。


――――――――――


 背鰭と尾鰭が一体化した特大背鰭が一枚と、鋭いギザギザの牙が十本ほどドロップした。結構強い魔物だったのにレア度が低い気がするけど、群れで泳いでいた魔物だし流通数も多くなるのだろう。少し釈然としないし、何故か損した気分だ。


 ちなみに、どちらもアイリスが加工して武器にする予定である。彼女は背鰭を見て作ってみたい武器があると言っていたので、もう何を作るか決めているらしい。特性を活かすのは難しいと書かれているが、一体どんな武具が完成するのか。私が使う訳ではないが、完成品を見るのが楽しみだ。


 昨日の戦果はこんなものか。次に私は掲示板を開いてみる。そこで今、ここ一週間の閲覧数が多い順で検索を掛けた。すると予想通り、一番上にはトゥエンティノの事件がある。我々が仕掛けた陰謀だ。ウキウキしながら記事を開くと、そこに書かれていたことは私は驚きを隠せなかった。


「閲覧注意な所業を行った上に海軍を撃退、新興の商会の陰謀を暴露して街では大捕物、件の会長は獄中で変死、討伐のためにプレイヤーを募集…ね。いい感じに盛り上がって来たじゃないか!」


 我々が仕掛けた陰謀によってプレイヤーは大騒ぎしているようだ。掲示板でも様々な憶測が飛び交っている。運営が告知なしに始めたイベントだとか、誰かが大規模なイベントのトリガーを引いたとか、ただ単にトゥエンティノが抱えていた問題が爆発しただけとか。プレイヤーによる陰謀論という真実を言い当てた説もあったが、それを仕掛けた側の名前には知らない名前ばっかり並んでいる。うひひひひ!バレてないぞ!


 ただ、名前が上がっているプレイヤーが関連を匂わせるようなことを言っているらしい。図々しいにも程がある。一応、そのプレイヤーはレベル90を超える数少ない者の一人として有名人ではあるようだ。人物評は賛否両論で掲示板の情報だけで判断することは出来ない。しかし、確実に言えることは目立ちたがりであるということだ。


 どうせ何処かでボロが出るから気にする必要もないが、海賊を襲った刺客に襲われる可能性とか考えていないのだろうか?海賊に追い払えるくらいなら自分でも大丈夫だとか思っていそうだ。しかし、相手は光学迷彩を搭載した船を使うような連中。きっと高いレベルのプレイヤーを倒せる戦力も抱えている。彼がこれからどうなるかは見ものだ…わざわざ調べることはしないけれども。


 有名人と言えば『光と秩序の女神』に認められた勇者ルークとそのパーティーもこの戦いに加わっている。ルクスレシア大陸だけではなく、他の大陸でも突発的なクエストをクリアして名を上げているらしい。物語の主人公のような男である。


「一つ誤算だったのは海賊の側から証拠を叩き付けたことか。まさか海賊側にマメに帳簿をつけている奴がいるとは…やったのは頭が良さそうな次男の優男か?余計なことをしてくれたものだ」


 概ね計画通りに行っている陰謀であるが、海賊の行動だけが誤算だった。プレイヤーと海賊の裏にいた組織を激突させ、戦場となったトゥエンティノの復興事業に金を出すことで街でのコンラートの影響力を更に高めるのが最上の結果だったのだが、それはもう叶わないだろう。私が組織なら証拠を全て消して夜逃げするからだ。


 プレイヤーが裏の組織に気付かない可能性も高かったし、運が良ければ得られる利益だったので気に病む必要はない。当選確率がそれなり宝くじが当たらなかっただけのようなものなのだ。それにあまりにもコンラートが得をし過ぎると、真実に気が付く者が現れるかもしれない。探られて困る事情を抱えているのだから、欲張り過ぎない方が良いのだ。


「何にせよ、これ以上この件で私に出来ることはない。ここからはプレイヤー達と海賊、そしてアンの見せ場だ。仕込みを終えたのだから後は高みの見物と洒落こもう」


 陰謀における私の役割はもうない。ならば今日も拠点をより良い状態にするべく建設事業に参加しようか!



◆◇◆◇◆◇



 イザームが物資を支援してからと言うもの『オースティン一味』は略奪を繰り返していた。ほぼ毎日、彼らは無差別に商船を襲撃している。レオンに頼まれて軍を動かさなかった太守も慌てて海軍を向かわせたのだが、出動した軍は返り討ちにされてしまった。


 衛兵は当てにならないと見かねた商人達はプレイヤーを集めての討伐隊を組織すべく奔走していた。トマスやコンラートもその内の一人であり、彼らの呼び掛けによって多くのプレイヤーが集まった。中にはレベルが90を超えているトッププレイヤーの姿もある。過剰とも思える戦力がトゥエンティノに集まっていた。


「兄ちゃん、漁師からの情報だ。トゥエンティノには手練れが集まってる」

「そろそろ潮時だな。別の海域に向かうぞ」


 無論、『オースティン一味』もトゥエンティノに自分達を倒すべく戦力が集結していることを知っていた。事態が大きくなったのは彼らが派手に暴れたのが原因なのだから。小銭欲しさに街の情報を売る漁師から街の様子は確認しており、商人が集めたプレイヤーの中には自分達を一人で皆殺しに出来そうな者までいることも把握している。


 彼らは自分達がルクスレシア・フラーマ間の海域からいなくなるまで捜索することだろう。ならばこちらから去ってしまうまでのこと。今までの襲撃は別の海域へ逃げるのに必要な物資を貯めるための略奪だったのだ。


「けど、ただ逃げるだけってのは性に合わねぇ。連中に一発カマしてからずらかる。いいな?」

「わかってるよ、兄ちゃん」


 既に逃走を決めている彼らだったが、こっそりと逃げるつもりはなかった。討伐隊に大きな打撃を与えた上で逃げることで、自分達の強さを誇示しつつ堂々と略奪を終えたと知らしめる。恐れられなければ意味がない海賊のやり方であった。


 それでもレベルが90という自分達よりも遥かに強い相手と戦うのは無謀過ぎる。しかし、陸での戦いしか知らないプレイヤーとは違って彼らは海上の戦いの専門家である。彼らには勝算があった。


「ククク!あの薄気味悪ぃ魔物が来た時ゃもう終わりかと思ったが、あれのお陰で生き延びられる!俺達にとっちゃあ救いの主ってもんだ!」

「しばらくは適当な無人島で身を隠すとして…次はどこで稼ごうか。前みたいにテラストールの沿岸を襲うかい?」

「いや、()()()がありゃ俺達は海上で無敵だ。もっとデカく稼ぐぞ」

「デカくって…まさかフラーマとアクアリアの海域かい!?それは無謀だよ!あそこは海軍も海賊も化物揃いじゃないか!」


 ジェームズの自信の根拠は甲板に設置されて布を被せてあるイザームがもたらした装置であった。まだ実戦に投入はしていないものの、試射した時に見た性能は彼の気を大きくするのに十分な威力だったのだ。


 しかし、リチャードはそれでも兄の考えは無謀だと諌める。それはジェームズの言うフラーマ・アクアリア間の航路は海賊にとって富も得られるがそれ以上に危険極まりない場所であるからだ。その理由は二つある。それはアクアリア諸島の精強な海軍とそれに匹敵する地元の海賊の存在だった。


 大陸とは言えない小さな島が集まった、しかし陸地の総面積は決して狭くないアクアリア諸島は海上貿易の中心地である。それ故に他の大陸の国々に比べて海軍力に優れている。そして強い海軍を相手に渡り合い、商船から略奪を行う海賊も他の海域とは比べ物にならないほど強いのだ。


「そんなこたぁ…いや、そうだな。お前が正しい。ちぃとばかし舞い上がってたみてぇだな俺は。悪かった」

「謝る必要なんてないよ、兄ちゃん。それに何もアクアリア諸島を諦めろって言うつもりじゃないんだ。弱っちい海軍しかいない海域で力を付けてから挑戦すればいいんだよ。どこかの大きな海賊団の傘下に入るなら今でもいいんだろうけど…それだと死ぬまで使いっ走りにされそうだ」

「はん!そんなもんじゃねぇだろ。コイツをぶん取られてから殺されて終いだ。俺ならそうする」

「兄ちゃんは怖いねぇ~」


 説得に成功したリチャードはホッと胸を撫で下ろした。ジェームズはその恐ろしい見た目と残忍さに見合う腕っ節、そして荒くれ者を従わせるカリスマを持っている。だが、諫言をよく聞くのが彼の最も優れたリーダーとしての素質と言えよう。ただし、リチャードの言葉にしか耳を貸さないので彼がいなくなれば抑えられる者はいなくなるのだが。


「とにかく、今日も略奪に出るぞ。いつも通り不要なモンは島に残して全艦出撃!間抜け面を曝した風来者が来たら目にモノ見せてやる!いいか、野郎共!」

「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 暴力と略奪の興奮に酔っている海賊達の士気は最高だった。例え自分達よりも強いプレイヤーが相手だったとしても戦えるだろう。単純な男達だからこそ調子の良い時は勢いがあるのだ。


 彼らは今日も略奪に出掛ける。そしてその日はようやく揃ったプレイヤーが出撃した日だった。海上で二つの勢力が激突するのはその日の昼間のことであった。

 次回は2月13日に投稿予定です。

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