表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十六章 海に咲く華
321/688

海に棲む者達 その一

 海賊達への支援を終えた我々は透明になる船を走らせて海上に出ていた。いやぁ、空に浮かぶシラツキを見た海賊達の反応は面白かった!それにインパクトのある演出になったからか、彼らは私の交渉に唯々諾々と従った。どうやら戦ったら踏み潰される相手の機嫌を損ねるよりも、優れた装備を受け取って戦う方がマシだと考えたらしい。賢明な選択と言えるだろう。


 その帰り際、私は刺客の使っていた船を有無を言わせず自分のものとしている。彼らも新しい船が欲しかったようだが、私達に逆らおうとはしなかった。それが少しだけ可哀想だったので、海上にもう一隻、これよりも大きな船が浮かんでいると教えてやった。透明にこそならないが、大きい船の方が彼らも嬉しかったに違いない。ジェームズは即座にリチャードと配下を船の回収に向かわせた。


「どうだ、シオ?操船は難しいか?」

「楽勝っすよ!本当なら帆の操作とかで忙しいんすけど、風向きが安定してるとそれも必要ないっすから。魔術のお陰っすね」


 船の舵輪を握っているのはシオだった。何でも彼女は別のゲームで船を操ったことがあるらしいのだが、魔術で常に追い風を吹かせることが出来るので煩雑な操作や指示は必要ないのだと言う。


 その分、魔術で風を起こしている私と七甲は大変なのだが。呪文調整によって威力を弱めつつ範囲を広げた風を送り続けなければならないのだ。思っていたよりも集中力が必要になる。それでも素人に帆の操作は出来ないので我々が頑張るのだ!


「船っつったら面舵一杯ィ!って言いたくなるよなァ」

「ああ、わかります!ヨーソロー、とか!」

「夜の海って真っ黒だね…ちょっと怖いかも」

「そう?アタシは静かで好きだけど」

「揺れが少ないのぅ。もっと揺れるものと思うとったが」

「それだけ良い船っちゅうことちゃいます?船の良し悪しの知識なんて知りまへんけど」

「三本の縦帆のマストを持つ船…スクーナーにござるな!」

「ははは。楽しそうで何よりですね」


 船に乗った仲間達は初めて乗る船の感想を口々に言い合っている。好奇心の赴くままに動いている時にこそ、ゲームを楽しんでいるという実感を得るものだ。


 どうして我々が浮遊戦艦であるシラツキにあらゆる面で劣る帆船を海上で走らせているのか。その理由は夜の航海を楽しむだけではない。もっと大切な事情があるのだ。


「イザーム!作業が終わりましたよ!」


 そう言って甲板のハッチを開けて上がってきたのはアイリスだった。彼女は無数の触手で大事そうに一つの魔道具を抱えている。それは勿論、この船に搭載されていた透明化の魔道具だ。


 この透明化する魔道具は非常に魅力的であり、これを持ち帰ることに異論はなかった。しかし、ここで一つの問題が生じた。海賊を助けにいくのは計画の内だが、鹵獲した敵の帆船を持って帰ることは想定しておらず、その手段がなかったのである。


 最初は船をシラツキで吊るして帰れば良いかと思ったのだが、これにはシラツキのAIが損傷なく帰還可能な確率は一割以下だと進言した。ここに来るまでの景色でも見たが、空は強大な魔物の巣窟である。そこへ余計な荷物を引き下げて突入するなど危険極まりない。透明化する魔道具は確かに魅力的だが、クランにおける最大の資産とも言えるシラツキを危険にさらすリスクを負うほどの価値はない。故に私はこの方法を諦めた。


 そこで代替案としてアイリスに魔道具を船から切り離してもらうことにしたのだ。彼女は初めて触る装置を外す作業に緊張していたようだが、結局は手際よく取り外してみせたらしい。魔道具そのものにも十本以上も延びるコードにも損傷はなさそうだ。流石はプレイヤーでも屈指の職人、器用なものだ。


「シラツキに転用出来そうか?」

「うーん…何とも今のままでは難しいです。コードの長さが全然足りていませんから」

「そうか…なら素材を何とかして入手せねばなるまい」


 透明になる爬虫類の、恐らくはカメレオンに似た魔物。掲示板を軽く眺めても情報はなかったので、レアな魔物か誰かが秘匿しているのか。もしかしたらまだ生息圏にまでプレイヤーが到達していないのかもしれない。ただ一つわかっているのは透明化の魔道具に使える魔物がいるという事実だけである。


 それならば見付かるまで探すまでのこと。自分の足でも良いが、コンラートを仲介して誰かから買い取っても良いだろう。何にせよ、今日明日のことにならないのだけは確かだ。


「これでもう船に用はない。さっさと沈めてしまうぞ」

「もったいないですけど、仕方がないですよね」


 透明化の魔道具さえ回収してしまえば、今の我々に普通の船は必要ない。船にあったアイテムは全て回収しているし、コンラートの武装商船でもなければ船旅でティンブリカ大陸へ向かうのは危険だ。そして持ち帰られないのならば放棄して他者の手に渡らないようにすべきである。


 アイリスの言う通り、もったいないと思う気持ちはある。しかし、欲をかいて大損したくないのだ。代わりにと言っては何だが我々全員で船の内側を徹底的にスクリーンショットで画像として残してある。これを資料にすればアイリスが造船にも手を伸ばした時に役立つだろう。


 一応、破壊以外の選択肢としてアンへの船の譲渡を提案している。だが彼女はそんな中途半端な大きさの船はいらないし、初めての船が中古なのは嫌だと言われて断られてしまった。海賊なんて鹵獲した船を自分のものとして使うのが当然だと思っていたが…まあ、ゲームだしな。新品が良い気持ちもわかる。


「任せな、兄弟。俺がぶっ壊してやらァ」


 指をボキボキと鳴らしながら名乗りをあげたのはジゴロウであった。どうやら思ったよりも敵が弱かったフラストレーションを船にぶつけようとしているらしい。そんなことで機嫌が良くなるのならば是非ともやってくれて構わない。私は無言で頷いた。


 するとジゴロウは殺意に溢れる凶悪な笑みを浮かべると、爪で虚空を引っ掻いて飛ぶ斬撃を飛ばし、索具に結ばれるロープを全て切断する。そして目で追うこともままならないほど鋭い回し蹴りをマストの一本に叩き込んだ。相変わらず兄弟の蹴りは出鱈目な威力らしく、一撃でマストをへし折ってしまった。


 けたたましい音を立てながら折れたマストは水飛沫を撒き散らしながら海へと沈んでいく。跳ねた海水が顔にかかった兎路が嫌そうにジゴロウを睨んでいるが、兄弟は全く気付いていない。もう一本のマストへと踏み込むと、甲板の板を踏み砕きながら繰り出した正拳突きは二本目を貫通してみせた。


「オオッ…ラアッ!」

「げぇっ!?嘘やろ!?」


 ジゴロウが腕を強引に振り抜くとマストは支えを失って倒れ始める。それは一本目と同じ光景ではあるのだが、倒れる方向が問題だった。海側ではなく我々側、すなわち船体側に倒れたのである。おいおい、船を破壊するとは言ったが転覆させろと誰が言った!?


 慌てふためく我々と違ってジゴロウは冷静であった。自分の方に倒れてくるマストを受け止めながら甲板から跳躍し、先端を海面に向けて銛のように投げたのである。銛にしては大きすぎる上に歪な形状だが、ジゴロウの腕力で投擲されたことでマストは特大の波を起こしながら海中深くへと銛のように落ちていった。


「ハッハァ!暴れたらスッキリしたぜェ!」

「やりすぎだ!」

「揺れ、揺れるぅぅぅ!?」


 爽やかな笑顔を浮かべるジゴロウだったが、奴が遠慮せずに暴れたせいでまるで嵐の中にいるかのように海面は激しくうねっている。空を飛べる者達は別だが、そうでない者達は海に落ちないように必死で船の縁に掴まっている。特にエイジは立っていられないようで斧を甲板にめり込ませて無理矢理に身体を固定していた。


 揺れは大きかったものの、自然風は弱くてほとんど波がなかったのでしばらくすれば静かな海に元通りだ。転覆せず、誰も海に落ちなかったから一安心である。私は安心してホッと胸を撫で下ろした。


「…っ!?みんな、海の中から何か来るよ!しかも結構強い!レベルは多分、ボク達とおなじくらいだ!」

「何だと!?」


 安心したのも束の間、ルビーが悲鳴を上げるようにして敵の接近を告げる。もう戦いは終わったと思って気を抜いていた我々にとって彼女の悲鳴は寝耳に水であった。マストを海に投げ入れたのが海に棲む魔物を刺激したに違いない。もしそうなら完全にジゴロウのせいじゃないか!


 当の本人は予期せぬ強敵との遭遇に笑みを浮かべている。こ、こいつ反省するどころか都合がいいとか思っているぞ!?きっとこの何よりも戦いを優先する性格は一生変えられないんだろうなぁ…。


「シャアアアアアアアッ!」

「ふぅん!」


 私が嘆いていると海面が盛り上がってそこから巨大な魚が飛び出した。頭部はワニを思わせる形状で、全身を光沢のある鱗で覆われている。鰭はどれも大きく、胸鰭はまるで翼のようだ。特に頭部の付け根から生える背鰭は尾鰭と一体化しており、鰭の縁にある棘も相まって一枚のノコギリのようだった。


 襲い掛かってきた魚に反応したのはエイジだった。甲板から斧を引っこ抜いた彼はいつもの大盾で魚の突撃を受け止める。魚なのだから勢いを止めてしまえば後は落ちるだけ…と思いきや空中で胸鰭を羽ばたかせて加速したではないか。翼のようだとは思ったが、本当に翼として使うとは思わなかった。


「フッ!」

「シィッ!」


 滞空する巨大魚に素早く駆け寄った兎路と源十郎がそれぞれの持つ刃で斬り捨てようとする。しかし兎路の双剣は鱗に弾かれ、源十郎の刀は腹鰭を少し斬っただけで切断することは敵わなかった。鱗も鰭も金属並みの硬度を誇るらしい。思っていた以上に厄介な相手だ!


 ただ、空中で羽ばたいただけではエイジを押し倒すほどの力は得られなかったらしい。このままエイジにこだわっていても源十郎と兎路に斬られるだけだと思ったからか、魚は身を翻して海に戻ろうとしていた。


「逃がさ…何と!?」


 海に逃すまいとネナーシは雁字搦めにしようと蔓を伸ばしたのだが、縛られる直前に巨大魚は回転してそれを切り裂いた。そして我々を嘲笑うかのように戦闘機めいた空中軌道を見せてから巨大魚は海へと潜ってしまう。まんまと逃げられたか!


 私がルビーに目配せすると、彼女は警戒を解くことなく身体の表面をプルプルと震わせた。どうやら巨大魚は逃げたのではなく再び攻撃するタイミングを窺っているらしい。この状況ではシラツキに全員で逃げるのも難しいか。仕方がない、戦って切り抜けるぞ!

 次回は1月28日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一気読みさせて頂きました(〃゜д゜〃) 面白い集団になっていくのが笑えます٩ (ºㅁº)۶
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ