深夜の海戦 その一
明けましておめでとうございます。今年も拙作をよろしくお願い致します。
今日も今日とて建築だ、とログインするとコンラートからメッセージが届いていた。その文章を読んだ私はすぐさま立ち上がると、急いで仲間のログイン状況を確かめる。全員とはいかないが、今回は海での戦いだ。その場合に絶対にいて欲しい者達はほぼ全員いるので問題はないだろう。
私は即座にメッセージを送り、今ログインしている仲間達の中で何らかの絶対に外せない用事がある者以外を集めた。数分後、集まってくれたのはジゴロウ、源十郎、ルビー、シオ、七甲、エイジ、兎路、モッさん、ネナーシ、そしてミケロである。
これに加えて私とカル、シラツキでいざというときに対応するためにアイリスが加わる。彼女は建築の指揮を執っていたので、今日は同行するために建築作業そのものを中断した。しいたけでも良いのだが、彼女はセメントの調合などで忙しい。来てもらいたかったが、今回は居残り組となった。
「よォ兄弟。強ェ奴ァいるんだろォなァ?」
「いるはずだ。コンラートの話が盛りすぎでなければ、な」
我々の役割はアンに引っ掻き回された挙げ句、雇い主に抹殺されようとしている海賊を助けることだ。三つのクランによって追い詰められつつある商人は、手を組んでいる組織を使って海賊を抹殺しようとしている。これを阻止するのだ。
この抹殺に向かっている組織というのがかなり大物らしく、人類の住む地域で影響力を持たない場所を探す方が難しいほどの規模であると言う。そんな組織が抱える戦力ならば、まず間違いなく強者がいる。そんな相手との戦いをジゴロウは期待しているのだ。
「うーん、やっぱり行こうかなぁ?」
「落ちたらー、大変だよー?」
この度は船上での戦いになる可能性が高いと言うことで、海に落ちたら自力で上がるのが困難な者達は行くかどうかを迷っていた。重装備のエイジは絶対に沈むだろうし、羊のウールと蜘蛛の紫舟は浮くかもしれないがどうなるかわからない。
その結果、エイジは同行するが、ウールと紫舟は止めておくことになった。ただし、エイジは海上での戦いになったら甲板に設置した兵器を使うことになっている。沈んだ場合に助けられる者がいないのだから仕方がない。エイジも納得済みであった。
「それでは出発しよう。アイリス、目的地までの距離から到達するまでの時間はわかるか?」
「わかりますよ。えっと、最大船速で空を飛べばゲーム内の数時間で到着しますね」
「…帆船と浮遊戦艦だとこれほど違うとはな」
大陸間の移動における一般的な方法はやはり海路だ。しかしかなり近いとされるルクスレシア・フラーマ間の航路でも片道で一週間ほどかかる。ゲーム内時間はリアルの四倍で進むことを加味しても二日、嵐に遭遇するなどのアクシデントに見舞われれば三日は必要なのだ。
WSSによって作られた電子の異世界を舞台にしたゲームにある、最大の問題点とされるのがこの移動の難しさだ。現実世界よりも遥かに広いこともあるので、都市の間を移動するのに時間と労力を必要とするのである。FSWではこの問題点を一度たどり着いた街にはお金を払うことで転移可能という方法で対処していた。
しかし一度も行ったことのない場所へ転移は出来ない。それ故に高速で移動する方法を持っていることは何よりのアドバンテージと言っても過言ではない。それほどの価値がシラツキにはあるのだ。
ちなみに、ゲーム内の帆船はリアルのものよりも遥かに速く、速度も安定している。その理由は船の水夫は【風魔術】を必ず習得しているからだ。魔術師に比べれば能力のレベルは低いものの、無風状態であっても彼らは自前で風を起こせるので何時でも航行可能なのである。
その上旅の神官を乗せていれば怪我や病気も治してもらえるので、航海の安全性ではゲーム内の方が圧倒的に勝っている。魔物に襲われても戦える護衛を雇っておけば、大航海時代や私掠船などが横行していた時代の船乗りよりも命の危険は少ないのだ。
「速くて困ることもないだろう。よし、皆乗船してくれ。すぐに出発する」
こうしてシラツキを発艦させた私達は、大空を真っ直ぐに飛んで目的地へと向かう。ゲーム内時間は深夜なので海は真っ黒に見えてどこかそら恐ろしさを感じさせる。しかし空を見上げればそんなことは吹き飛んでしまうほどに美しい満天の星空が広がっていた。
私は星座に詳しくないのだが、この世界にもそう言うものがあるのだろうか?『ドラゴン座』とか『ゴブリン座』とか、そんな星座があるのかもしれない。星座に関する逸話もあるのかな?少しだけ興味が湧いてきた。
「わぁ~…綺麗です…」
「ああ、本当にな」
私よりもアイリスの方が夜空の美しさに心を打たれているらしい。触手をくねらせることすら忘れて見惚れる様子から、この夜空は彼女の感性を大いに刺激しているのだろう。無邪気に夜空を楽しむ彼女を見て、私の方は癒されていた。
ただし、夜空は美しいだけではなかった。シラツキのモニターには遠くで戦っている魔物の群れが映っている。距離があるのでどんな魔物なのか正確なことはわからないが、シルエットからすると片方は四本脚でもう片方は長細いようだ。
四本脚の方はどことなく狼に似ているが、その背中には一対の翼が生えている。長細い方には翼はないが、二本の前足のような部分があったから蛇とは言い難い。両方ともサイズは最低でも五メートルはありそうで、そんな魔物が群れを成して争うのが空という場所のようだ。
そんな夜の空を斬り裂くように高速で飛んだ我々は、安全な船内で寛ぎながら移動している。それもこれも離れた場所にいる魔物を事前に把握してくれるシラツキのセンサーのお陰である。後は避けるように操作すれば航路を調節出来るので楽なものだ。センサーをすり抜ける隠密技術を持つ相手には無力なので過信は禁物だが。
「イザーム、海上に船影を捉えました。映像を表示します!」
アイリスは言うが早いか自分の前にあるパネルを素早く操作する。するとモニターにライブ映像が映し出された。そこにあったのはマストも帆も船体も全て真っ黒に塗られた船が漂泊している場面である。明らかに夜闇に乗じるための色であり、これが標的であるのは間違いないだろう。
しかし、海賊がアジトとして使っている島から離れた位置で錨を下ろしているのは些か奇妙ではないか?小型のボートを下ろして接近しているのかもしれないが、それにしたってかなり離れている。島まで漕いでいる間に体力が尽きるのでは?考えすぎかもしれないが、調べる価値はあるだろう。
「シラツキ、光学カメラだけじゃなくて魔力の探知を使って索敵してくれ」
「了解シマシタ」
「…!センサーに反応あり!とっ、透明な小型船がいます!」
やっぱり別の部隊がいたようだな。しかし、まさか透明になれる船があるとは思わなかった。昼間ならば不自然な波の動きでバレるだろうが、今のような夜中だと探知する手段がなければ絶対に気付けない。敵に回したら恐ろしい相手だ。
それに小型船ではあるが最低でも四十人は戦闘員を乗せていると思われる。それだけの数の手練れに奇襲されたとなれば、海賊程度では手も足も出ないだろう。急いで向かわなければならない。
「透明な方が上陸部隊だとして、なら黒い方は何だ?私が相手の立場ならどうする?ああ、そうか。万が一逃げ出した船がいたら沈めるためか」
「イザームの予想が正しいなら両方とも攻撃する必要がありますね。どうしますか?」
アイリスの質問に対して私は即答しかねた。相手の戦力がわからない以上、こちらの戦力を分けるのは愚策である。しかし、透明な船は今にも島に到着してしまいそうだ。ここで黒い船を優先させると海賊に少なくない被害が出てしまう。それでは目的が果たせないではないか!
今は悩む時間すら惜しいのですぐに決断しなければならない。よし、決めた!ここは仲間達の力を信じ、両方ともを攻撃することにしよう!作戦を決めた私は艦内放送によってそれを全員に伝えた。
「皆、聞いてくれ。敵を発見したが、船は二隻あった。両方ともを制圧するぞ。自力で飛べるシオ、モッさん、七甲、ミケロと身体が軽い兎路に黒い船を任せる。残りは私とカルで現地まで運ぶ。黒い船を制圧し次第、アイリスが五人を収容して島に急行する。雑な作戦だが、皆の力を見せ付けてやれ!」
作戦を伝えてから一分と経たずに我々は黒い船の上空数千メートルの地点に到着した。シラツキの船底には子供の頃にロボットアニメで見た格納庫とも言うべき場所があり、開閉するハッチから出撃することが出来る。今、アイリスを除いた全員がそこに集まっていた。
「最終確認だ。黒い船の制圧は出来るだけ素早い方がいいが、無理はしなくていい。可能なら船を拿捕したいが、出来ないなら沈めても構わん。そこの判断はモッさんに任せる」
「ええ、上手くやりましょう」
黒い船と透明な船の乗組員の強さを比べるならば十中八九後者の方が強いだろう。こちらの戦力も最強をぶつけないと危ういかもしれない。故にジゴロウと源十郎は透明な船に回すべきだと判断したのだ。
モッさんの力強い返事と同時に船底にあるハッチが開いた。そこへ我々は順番に降下していく。まずは飛行可能なシオ、七甲、モッさん、そしてミケロに乗った兎路が飛び降りる。そこへジゴロウを前足で抱え、背中に源十郎とルビーを乗せたカルが続く。
「行くぞ、ネナーシ」
「ははっ!お供させてもらいますぞ、上様!」
最後に飛び降りたのは私とネナーシだった。筋力に乏しい私が乗せることが出来るのはルビーとネナーシくらいなのだが、ルビーは辞退したのでネナーシを運ぶことになった。
ネナーシは私に蔓を巻き付けたのだが、その時に思い付いたのかお得意の擬態を使っている。今のネナーシは毒々しさを覚えるピンク色の手の姿をしていた。それを私の翼であるかのように演出しているのだ。…自力では飛べないから背負っているのに、まるで私が運んでもらっているような絵面なのは何故だろう?不思議としか言いようがない。
海賊が襲われている島に向かいながらも、私は背後の戦いを遠目で見てみる。そこでは早速戦闘が発生しているようで、怒号が飛び交っていた。離れながらも見えているのは上空から一方的に矢を射掛けるシオと七甲の召喚した無数のカラスが船を覆い尽くす光景だった。
お、思っていたよりも黒い船の上は凄惨なことになっていそうだ。姿が見えないモッさんと兎路、ミケロはあの中で戦っていることになる。これはきっと我々が戦っている間に彼らも間に合うことだろう。そんなことを考えながら海賊の待って…はいない島に向かって飛び続けるのだった。
次回は1月12日に投稿予定です。




