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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十六章 海に咲く華
312/688

『泥鼠』のディオス

――――――――――


従魔の種族(レイス)レベルが上昇しました。

従魔の職業(ジョブ)レベルが上昇しました。

【指揮】レベルが上昇しました。


――――――――――


 ログインしました。アイリス達による『槍岩の福鉱山』の調査は順調に進んだらしい。カルもレベルが上がるまで戦えたようでどことなく満足げだ。今は上機嫌で私と共に土木作業を手伝っている。


「…おい兄弟。何だァ、その兜はよォ?」

「うん?ああ、これか。良いだろう?これを着けていると建築に携わっている雰囲気が味わえる」


 久々に会ったジゴロウは困惑しつつ私の頭を見ている。私はいつも着けている仮面を外し、緑色で『安全第一』と書かれた黄色い兜を被っているからだ。これは昨日、しいたけが土木作業に従事する全員に配ったものである。


 防御力は単なる鉄の兜と同じで、雰囲気は出るが鉄の兜としての防御力以外の装備効果は全くない。その雰囲気と言うものもプレイヤーである我々にしかわからない感覚だ。ただ疵人(スカー)達は先入観がないのでそう言うものかと納得し、素直に被って作業をしている。


 この黄色い兜の配布に思わぬ効果があった。同時に作業している者達の間に一種の連帯感が生まれ、作業の効率が少しだけ上昇したのである。これには驚いたし、その結果を見て昨日はいなかったアイリスとカルもこれを装着している。


 土木作業をやりたがらなかったジゴロウだが、都のために何もしていない訳ではない。大量の魔物を、特に食糧になる肉をドロップする魔物を狙って狩り続けていたのだ。彼の成果は都に集った多くの人々の腹を満たすのに一役買っている。


「それで進化した身体の性能はどうだ?確か金色羅刹(コンジキラセツ)だったか」

「バッチリだぜ、兄弟ィ。今ならあのデケェ獄獣(ゴクジュウ)も楽にぶっ殺せるだろうなァ」


 ジゴロウは進化によって金色羅刹(コンジキラセツ)という種族(レイス)になった。外見の変化は全くないのだが、身体の性能が段違いに上昇したようで制御が難しいようだ。フィールドでの狩りは()()()には丁度良かったに違いない。これからも頼りにさせてもらうぞ、兄弟。


「おっとォ、妙なヘルメットのせいで忘れるところだったぜェ。闇森人(ダークエルフ)が兄弟を呼んでるみてェだ。木を植える場所を相談してェんだと」

「おお、そうだったのか。助かる!」


 闇森人(ダークエルフ)の一部が移住するにあたって、彼らの居住地としての森を作る約束をしていた。都の北側に広げてもらう予定なのだが、詳しい場所の指定は私とアイリス、しいたけとトワにしか出来ないのだ。


 どうしてこれだけしか知らないのかと言うと、単に他の仲間達に教えていなかったからである。都の北側に森が出来てその大まかな範囲を知っていればこと足りる。詳細なことは現場で指揮するだろう者だけ把握しておけば良いのだ。


 アイリスは建築で忙しいし、しいたけはアイリス達が持ち帰ったセメントを最大限に活かすべく研究をしている。トワは浮遊戦艦シラツキの整備を任せているので、ここは私が行くしかないだろう。


「助かった。じゃあ…ほれ」

「あァ?」


 私はカルの背中から飛び降りると、頭に被っていた兜を外してジゴロウへと放り投げる。反射的に受け取ったジゴロウは、眉を顰めて困惑したようにこちらを見ていた。


「私は闇森人(ダークエルフ)と話に行くから、その間はお前に任せる」

「おォ、いいぜェ。やるかァ、カル坊ォ」

「グオオン」


 おや、意外と素直に応じてくれたな。建物を崩すだけだし、話し合いが終わるまでは任せたい。では、陽気な闇森人(ダークエルフ)達と森作りに勤しむか!



◆◇◆◇◆◇



「海賊に襲われた、だと?」


 執務室で部下から報告を受けたのは、『フェニキス商会』の会長レオン・フェニキスだった。かつてレオナルド・メディスと呼ばれた彼は、父と甥が経営する『メディス商会』をこの世から消し去るために心血を注いできた。


 計画の一つとして海賊と契約を結び、海上で略奪を行わせている。標的は『メディス商会』だけではないが、航路の一つを独占することが出来れば憎き父と甥に大きな損害を与えつつ自分の財は増していく。これほど痛快なこともないだろう。


 ただし、自分一人が被害を受けていなければ確実に疑われてしまう。そのことを考慮していたレオンは自分の船も契約している海賊に指示していた。自分も被害者だと主張しつつ、トゥエンティノの太守と衛兵の隊長に賄賂を送ることで捜査の手から逃れているのだ。


「被害はどの程度だ?」


 あくまでも自分も被害を受けているポーズを見せるだけなので、自分の船からは海賊もやりたい放題に奪いはしない。『フェニキス商会』の旗印を見れば略奪は最小限に抑える決まりなのだ。


 いつも通り軽微な損害だと報告があるのだろう。そう思い込んでいたからこそ、続く部下の言葉は青天の霹靂かのように彼を激しく動揺させた。


「そ、それが…三隻の船団は全て沈没しました」

「何だと!?」


 損害は軽微どころか『フェニキス商会』の船が三隻も沈められるという前代未聞の被害であった。しかも襲われた船の積み荷は希少な鉱石であり、損害額は商会の運営に響くほど大きい。普段は感情を表に出さないレオンだが、平静を装うことが不可能なほどの衝撃を受けていた。


「何故だ…どうして…よもや裏切ったのか…?いや、彼奴にそんな度胸はないはず…」

「か、会長?」


 椅子の上で顔を真っ青にして震えるレオンの様子に、秘書の男は顔色を窺うように声を掛けるがその耳には届いていないようだった。彼はしばらくブツブツと独り言を呟いていたが、ハッとすたしたように顔をあげた。


「護衛は!護衛は何をしていたのだ!?」

「海賊に敗れ、海に沈んだようです」

「クソッ!あの風来者共に一体幾ら支払ったと思っているんだっ!」


 レオンは怒りのままにしばらく喚き散らしたが、大きく深呼吸をして精神を落ち着かせる。今は癇癪を起こしている場合ではない。原因への対策を練り、損害を補填する方策を打ち出さなければならないからだ。


 そうしなければ再び無一文になってしまう。『メディス商会』から放逐された経験は、レオンに足りなかった慎重さを身に付けさせたのである。金銭への執着は以前にも増してしまったが。


「ふぅ…所詮は陸者か。海の上では真価を発揮出来なかったと見える」

「女神のお力で復活したようですが…その風来者への対応はどういたしましょうか?」

「残り半額を払う必要はない。ただでさえ大損害を被ったのだ。依頼を果たせなんだ負け犬に払う金などビタ一文ありはせんし、むしろ前金を返せと言わんだけ優しかろう」

「かしこまりました」


 プレイヤーへの対処は決まった。その時、ふとレオンの頭に一つの疑問が浮かび上がった。慣れない船の上だったからと言って、果たして風来者とはそこまで実力を出せない者なのか、と。


 女神の力によって異界から招かれた彼らは死んだとしても容易く復活する。それ故に危険な戦いにも嬉々として向かい、経験値を得て強化されていく。レオンが雇ったのはそんな風来者の中でも上位にあたる実力者だと聞いていた。そんな強者が少し環境が変わった程度で海賊に手も足も出ないことなどあり得ないのではないか、と。


「待て。襲撃した海賊の情報が聞きたい。水夫の生き残りはいるか?」

「はい。むしろ水夫はほとんど全員が生還しております。どうやら遭難時に使うボートは無傷だったようです」

「その者達から海賊の情報を聞き取って来させろ」

「かしこまりました。すぐに手配致します」


 秘書に情報収集を命じた数時間後、手元に上がってきた報告書を読んだレオンは知った。襲撃は『青鱗海賊団』と名乗る風来者の海賊によるものであり、ルクスレシア・フラーマ間の航路に出没するレオンと契約した海賊とは別の勢力であることを。


 裏切りではなく新参者の介入による被害だと解ったレオンだったが、だからと言って安心出来る訳ではない。今回のようにこの新参者は自分の船だろうが他の商会の船だろうが、区別することなく略奪していくことは明白であるからだ。


 このままでは海上の覇権を握るどころか、自分も海賊の被害に怯えなければならなくなる。それを避けるためには新参者を懐柔して味方に抱き込むか、排除するかのどちらかを選ばなければならなかった。


「ディオスを呼べ」

「ディオス様でございますか?あの方はこの時間ですと酒場におられると思われますが…」

「酔っていても構わん。すぐに連れてこい」

「かしこまりました」


 レオンが呼び出したディオスという男が彼のもとにやって来たのは、日が沈んで夜の帳が降りてからだった。使いを出してから何時間も経過していたが、レオンは怒るでもなく淡々とディオスを執務室へ迎え入れた。


 執務室に入って来たのは、小汚ない猫背の小男だった。継ぎ接ぎだらけのハンチング帽がトレードマークのこの男は『泥鼠』と言う徒名で呼ばれる酔っ払いだ。着た切りらしき裾が解れたコートを羽織り、片手には安酒の酒瓶を握り締めている。フラフラした千鳥足で執務室のソファーに身体を沈めると、頼りなく震える腕を上げて安酒を呷った。


「ぐびぐび…ういぃ~。呼んだかい、レオンの旦那ぁ」

「まずは受け取れ」


 ディオスという男は酒焼けした嗄れ声で馴れ馴れしくレオンに尋ねた。レオンは腰掛けていた椅子から立ち上がると、ディオスの対面に座って一つの巾着を彼の前に置いた。


 ディオスはこれを黙って受け取ると、中身を覗きこんで確かめる。ずっしりと重い巾着の中身は全て大きな宝石の原石であり、換金するのは難しいものの高い価値があることは明白だった。


「へっへ、こりゃあ豪勢な依頼料だぁ。んで、俺達に何をして欲しいんだぁ?」


 ディオスはそんな宝石の詰まった巾着を酒瓶を持っていない方の手でポンポンと投げ上げて遊んでいる。まるでこんなものは端金にしかならないものだと言わんばかりの態度であった。


 レオンはやはりディオスの態度を咎めたりはしない。彼は真剣そのものの表情で口を開いた。


「組織に依頼したいのは二つ。一つは我が商会の船を襲った『青鱗海賊団』を名乗る風来者達の居所を掴むことだ」

「ぐびぐび…ぷはぁ。ほぉん。で、もう一つは?」

「その海賊団の壊滅。奪われた積み荷の安否は考えていない。残っているなら其方の懐に入れても構わない」


 ディオスはルクスレシア大陸のみならず、人類の国が存在しないティンブリカ大陸以外の全ての大陸に根を張る巨大な組織の一員である。構成員の正確な人数やアジトの場所どころか組織の名前すら幹部クラスの者しか知らない謎めいた集団だ。その組織にアン達の抹殺を依頼したのである。


 新参者への対処としてレオンが選択したのは排除であった。レオンはアン達が派手な襲撃をしてみせたのは、自分の力を見せ付けたいという宣伝を兼ねた行為だと分析していた。そういう類いの連中は悪名を売り出すのが目的であって、自分の陰謀に乗っては来ないと判断したのである。


 それにアン達はプレイヤーだ。死の概念を持たない彼らは自由奔放になりがちで、そんな者達と共に陰謀を進められると思うほど彼は楽天家ではない。もしもアン側から売り込みがあったとしても、レオンは同じ結論を下していただろう。


「風来者の海賊かぁ。あいつらぁ、死なねぇからよぉ…追っ払ってもきっと戻ってくるぜぇ?」

「しばらくの間、海賊として活動出来ないようにしてくれるだけでいい。頼む」

「おぉ、そういうことならいいぜぇ。依頼料も十分だぁ。ちょっくら手配してくらぁ…ぐびぐび…」


 レオンからの依頼を受諾したディオスは酒を飲みながら執務室を後にした。レオンはこれで『青鱗海賊団』も終わりだろう、と安心して商会の地下にある自室に向かってぐっすりと眠るのだった。

 次回は12月19日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
どうやって本体岩の塊なアイリスは安全第一ヘルメット被ってるんだろう...岩の上に乗ってるだけかな
[一言] 実際NPCからしたら復活してくる犯罪者プレイヤーは恐怖だよな。
[気になる点] そういえば、このゲームってネカマできるのかな?
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