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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十六章 海に咲く華
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海賊の襲撃

 アン達との狩りは順調に進んだ。彼女の指揮は慣れたもので、特に敵を包囲してあらゆる方向から押し潰すのが得意なようである。その指揮のお陰で手痛いダメージを負う者をほとんど出さずに倒していた。


 唯一海中にいない私とカルの役割と言えば、彼女らの包囲から逃げ出した個体を追い掛け回していた。海面に近ければカルの爪牙で、深く潜ろうとするなら私の魔術で仕留めている。何と言うか、おこぼれに与っているだけにのようで少し情けない気分になった。


 その翌日、私がログインするとアンから一通のメッセージが届いていた。彼女曰く、コンラートによる計画の第一段階が終了したらしい。それに伴って『青鱗海賊団』も出発することになったのだ。


 アンも気を使ってくれたらしく、海賊の一人を都に送って出発することを伝えに来てくれたらしい。だが、私のログインが遅かったのでメッセージを残したのである。このことは先にログインしていたセイに教えてもらった。


 昨日の戦いは海賊としてのそれとは言い辛いものだった。鯱に乗る彼らは既に例の海域に到着しているだろうから、そこでは海賊としての戦いを行っている最中かもしれない。もうすぐ見られるとは思うが、その時を楽しみにして待っておこう。さて、労働に精を出すとするか!



◆◇◆◇◆◇



 イザームがログインして土木作業に従事しているのと時、アン達は彼の想像通りにルクスレシア大陸とフラーマ火山島の間の海域にたどり着いていた。何もない洋上で胸から上だけを海面から出し、遠眼鏡を使って標的を探している。そして不幸な標的はすぐに見付かった。


「姐さん、南西方向に商船を発見しやした!」

「数は?」

「三隻いやすぜ!コンラートさんの情報通りでさぁ!」


 現在のアン達は自分の船を持っておらず、構成員の数も決して多くはない少数の海賊団だ。クランの規模で言えば少数と言える彼女達だが、武装商船が三隻程度なら襲撃を成功させられる自信があった。


 もう少し近付かなければ全容はわからないだろうが、十中八九勝てる相手である。アンは口角を吊り上げて猛獣のような迫力のある笑みを浮かべながら潜水のポーションを呷った。そして海中に潜ると仲間達を連れて商船団へと密かに、しかし素早く接近していく。


 しかし、仲間の一人がアンの真横に並ぶと彼女に警戒のハンドサインを送る。その団員はルビーと同じく斥候系の能力(スキル)職業(ジョブ)を持っていて、その力によって船内が慌ただしいことを察知したのだ。


 どうやら商船側に敵意を持つ何かが近付いていると発覚しつつあると勘づいたらしい。相手に手練れの斥候がいることはわかったが、だからと言って襲撃を止める訳にはいかない。この襲撃を成功させることはコンラートの計画における第一歩となるのだから。


 アンは速度を緩めることなく直進しつつ、仲間達にハンドサインで襲撃の戦法を指示した。彼らはあらかじめ複数の状況を想定し、その状況に即した作戦を頭に叩き込んでいる。その指示に従って『青鱗海賊団』は行動を開始した。


(最初に反応したのは先頭の船だったかい?じゃあそこに手練れがいるわけだ…狙うならそこだね。行くよ、野郎共!)


 ハンドサインによって自分と共に行動している者達に意思を伝えると、アンは跨がっている鯱に命じて一気に海上へと飛び上がった。そして背中から跳ぶと、甲板へと華麗な着地をしてみせる。海賊団の面々も同じように海中から一気に甲板へ登っていた。


「一度しか言わないからよく聞きな!この船の積み荷を引き渡せば命まではとらない!残りの二隻も見逃してやるよ!生きて積み荷を渡すか、この船と一緒に魚の餌になるか!さっさと選ぶんだね!」

「かっ、海賊だ!」


 既に武器を抜いているアン達を見て、水夫達は慌てふためいている。彼らは屈強な海の男ではあるが、ただの水夫であって海兵ではない。この船は武装商船であるが、搭載されている武装は海賊船を近付けないようにするための兵器だ。斬り込まれた場合はほとんど何も出来ないのである。


 しかし、そう言う事態を考慮した備えがない訳ではない。彼らには金銭で雇った護衛がいるのだ。


「頼むぜ、護衛の風来者さん達!」

「任せてくれ!」


 水夫達と海賊達の間に割り込んだのは統一感のない武装に身を包んだ五人の男女であった。水夫の一人が言ったように彼らは風来者、すなわちプレイヤーのパーティーである。


 彼らはこの商船の護衛として雇われていた。大陸を移動するためには船が必要だが、客として船に乗るとかなりの金額が要求される。しかし、護衛として雇われれば金を払うどころか金を貰って別の大陸へ行くことが出来るのだ。


 これまでルクスレシア大陸から旅立った者達の実に九割が利用した方法で、プレイヤーの間では常識となりつつある。そのほとんどは何事もなく終わる船旅なのだが、彼らのように不運な者達が一定数いるのも事実だった。


「タツミ、気を付けろよ!こいつら、掲示板で見たプレイヤーの海賊団だ!」

「へぇ?ちったぁ名前が売れてきたってことかねぇ。で、知ってたらどうするんだい?」

「戦うに決まってるだろ!」


 先に動き出したのはプレイヤーの五人だった。大きな盾を持った戦士が前衛として突出し、剣士と格闘家がその左右から襲い掛かれるように待機し、後衛の弓使いと魔術師が何時でも援護出来るように備えている。その様子は手慣れたもので、彼らにとっては必勝の連携なのだとアンは理解した。


 理解しているにもかかわらず、アンも他の海賊達も動じることはない。それどころかリラックスした状態で余裕を持って待ち構えている。まるで既に勝利は決まっているかのような態度なのだ。


 護衛のプレイヤー達は海賊達の様子を不気味に思っていた。自分達と大してレベルの差はなさそうな彼らの自信の源が何なのかわからなかったからだ。


 しかし、護衛として雇われている以上、商船の側が降伏する前に退くことは出来ない。彼らは漠然とした不安を雑念だと振り切って、戦いに集中しようとしていた。


「交渉は決裂、と。ならしょうがないねぇ!やっちまいな!」


 アン右手の剣を掲げると、船が急に傾き始めたではないか。甲板上にいた人々はバランスを崩してある者はたたらを踏み、またある者は必死に踏ん張り、そしてある者は転んでしまった。


 空模様は変わっていないし、波が大きくなった気配もない。なのに何故、船が大きくなった揺れたのか。その理由はすぐに判明した。


「ロープだ!野郎、鉤縄で引っ張ってやがる!」

「何だって!?」


 海賊達が船を傾けた方法。それは彼ら全員が装備している鉤付きのロープを使ったのである。海中に残った団員がロープを船の柵に引っ掛け、それを持ったまま海中に潜ることで船を傾けているのだ。


 無論、これがプレイヤーの力だけだったなら彼らの全員が力を合わせても一隻すら傾けられなかっただろう。だが、彼らには鯱という心強い仲間がいる。鉤縄の端を鞍に結び付け、鯱の力によって引っ張っているのだ。


 三隻の船はどんどん傾いていき、よく磨かれた甲板は滑らかな壁のようになってしまった。どうにか踏ん張っていた者達も次々と転んでしまい、運良くマストを始めとする持ち手になる出っ張りを掴めた者以外は海に落ちてしまった。


「くっ!で、でもこれだけ傾いていたら連中だって…!?」

「かかれぇ!」


 傾いてしまった船の上は、戦うには難しい足場である。だが、海賊達には全く問題がなかった。海賊達は片方の手に持った鉤縄を使って身体を固定しており、鉤縄を持っていないアンは仲間の一人に抱えられている。彼女らの自信の源は、この状況で戦えることだったのだ。


 アンの号令に従って海賊達は鉤縄を片手に壁を走ってまだ落下していない者達に襲い掛かる。アン以外の海賊達は片手が使えないが、両足を壁に当てて踏ん張ることが出来る彼らとどうにか落ちないように耐えているだけの護衛のプレイヤーとでは発揮出来る実力に天と地ほどに開きがあった。


「この卑怯者!真面目に戦え!」

「真面目にだって?あたし達は真面目も真面目、大真面目だよ」


 プレイヤーの中で唯一横になったマストの上に立つことの出来た森人(エルフ)で斥候職の男が怒鳴りながら矢を放つが、その矢は空中で斬り払われてしまう。仲間に投げられたアンが叩き斬ったのだ。


 アンはその勢いのままマストの上に着地した。その顔には後ろめたさなど微塵もなく、むしろ堂々と胸を張っている。


 男に言ったように、この戦法はアンが自分達の人数と実力を考慮した上で確実に勝利するために編み出したものだ。それが上手く行ったのだから喜びこそすれ、卑怯だと言われても的外れだとしか思えなかった。


 マストという逃げ場のない真っ直ぐな場所で二人は睨み合っていたが、最初に動いたのは斥候職の方だった。彼は再び弓を構えると、武技を使って矢を連射した。アンはそれを二本の剣で弾きつつマストを前身する。足場が限られているが故に回避することは難しいのだ。


 斥候職の男はそこに勝機を見出だした。回避が難しく防ぐことしか出来ないのなら、遠距離から一方的に攻撃出来る自分の方が有利なのだから。


「ちっ!あんたの方がよっぽど小狡いじゃないか!」

「頭脳派なんだよ、俺は!」


 斥候職の男は頭部を狙ったり脚を狙ったりと狙う場所を上下に散らすようにした。ここが広い地面なら左右に避けることも容易だが、ここはマストという一本道の上である。動ける範囲が狭まっているお陰で狙うべき範囲も狭まり、上下に揺さぶる余裕が生まれていたのだ。


 こうなると魔術などの遠距離攻撃の手段を持たないアンの取れる方法は限られてしまう。矢玉が尽きるまで耐えるか、飛来する矢を防ぎながら愚直に前進するか、あるいは矢を受ける覚悟で距離を詰めて自分の間合いに持っていくか。そして彼女が選んだのは三つ目の選択肢だった。


「破れかぶれが通用するか!三光閃射!」

「うがっ…!」


 駆け出したアンに向かって光に包まれた三本の矢が放たれる。彼女は剣でそれを受け止めたものの、その威力に押されて脚を踏み外してしまった。


 落下していくアンに向かって追撃しようとした斥候職の男だったが、彼が下を覗きこんだ時、海面が爆発したかのような水飛沫を上げてその中から巨大な鯱、アンの相棒である衝角鯱(ラムオルカ)が飛び出したのである。


「キュオッ!」

「大丈夫だってのに、心配性な子だよ。でも、ありがとうね」


 アンは衝角鯱(ラムオルカ)を愛しむように声を掛けながらその鼻先に着地する。そして衝角鯱(ラムオルカ)は鼻先を振って彼女を投げ上げた。


 斥候職の男は弾丸のように上昇する彼女を慌てて射落とそうとしたが、もう間に合わない。彼女の持つ二本の剣は、彼の身体を深々と切り裂いた。


 アンと男の間には武具の面でもレベルの面でも互角と言っていい。よって首を刎ねるなどの即死させる攻撃を当てない限り一撃で倒すことは出来ない。だが、彼はマストという細い足場の上に立っている。斬られた衝撃によって、彼は足場から放り出されてしまった。


「クソ…でも、あいつも落ちて…ない!?」


 アンの衝角鯱(ラムオルカ)は力一杯投げ上げたので、アンがマストに着地出来る軌道ではなかった。にもかかわらず、アンは普通に立っていた…傾いた甲板の上に。


 実はアンの履いている靴は魔道具で、壁や天井に張り付くことが出来る。魔道具としては希少とは言えず、またステータスを向上させないのであまり人気はなかった。だが『青鱗海賊団』の戦い方を考慮すれば非常に便利である。隠し球としてアンはこれを装備していたのだ。


「良く言うだろ?切り札は最後まで取っておけ、ってね。陳腐な言い回しだけどそう言う言葉ほど真理に近いのさ。じゃ、バイバーイ」


 勝ち誇った表情でヒラヒラと手を振るアンを悔しげに睨みながら落ちていった斥候職の男は、海に落下する前にアンの衝角鯱(ラムオルカ)に食べられてしまった。その頃にはもう抵抗する者は残っておらず、アン達は全ての船を沈没させつつ積み荷を回収して撤退するのだった。

 次回は12月7日に投稿予定です。

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