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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十六章 海に咲く華
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青鱗海賊団

 しいたけの研究所から地上の工事に戻った私は、その日はカルと共に建物の解体に従事して一日を終えた。単純作業ではあったが、これはこれで悪くないものだった。


 翌日、何時ものようにログインすると珍しいことに誰もログインしていなかった。誰もいないのならカルと共に出かけるとしよう。目的地は、そうだな…彼処にするか。


 幸いにも昨日の時点で取り壊し予定の建物は全て適切な処置を終えている。久々にカルと二人で散策するのも良いものだ。私は早速、カルの定位置と化している都の広場に向かった。


「うーむ、どんどんカルにくっつく子供が増えている気がする。喜んで良いのだろうが…何だか寂しい」


 広場に行くと四脚人(ケンタウロス)だけではなく疵人(スカー)の子供達もカルと寄り添って昼寝をしていた。中にはカルの背中の上で横になって涎を垂らしている子までいる。いくらなんでも慣れ過ぎだろう。


 私としてはカルが良いなら構わないのだが、今日は離れて欲しい。私にもやりたいことがあるのだ。そこはこちらを優先してもらいたいのである。


「カル、起きてくれ。出掛けるぞ」

「グオォ…オォン」


 ぐっすりと眠っていたカルだが、私が呼ぶと目を開けて大きく欠伸をした。その後、翼を上手く使って背中にいる子供達を起こさないようにそっと地面に降ろしてやる。


 カルのいる場所は子供達が集まることを考慮してクッションを置いてあるから平気だ。これを提案したのは七甲であった。意外にもと言うと失礼かもしれないが、気の効く男である。


 子供達をクッションの上に置いたカルはその場で全身を反らせて伸びをすると、フワリと浮かんでこちらに降り立つ。そして四本の脚を曲げて屈むと私に背中を向けた。直ぐに乗れと言いたいのだろう。言われずとも乗らせてもらうさ!


「さぁ、カル!行こうか!」

「グオン!」


 カルは短く応えると、一気に大空へと上昇していく。みるみる内に都は小さくなり、気が付けば我々だけしかいない空に浮かんでいた。流石はカル。力強い飛翔である。


「グオォ?」

「慌てるな、カル。目的地はもう決めている。アン達がテントをたてている海岸へ向かうぞ」


 クランメンバーの誰もいなかった時に思い付いたのが、後にコンラートの陰謀へ共に関わることが決まっているアン達『青鱗海賊団』の様子を窺うことだった。近所に来た彼らが普段何をしているのか、単に興味があるのだ。


 ついさっき思い付いての行動なので、アポイントメントは全く取っていない状態だ。門前払いされたり迷惑がられたりするかも知れないが、その時は潔く帰って別のことをしよう。


「おお、見えてきたぞ。彼処だ」

「グオッ」


 カルの背中に乗って南下し始めてから約十分後、私達はアン達のキャンプを発見した。海岸沿いにある岩場に幾つものテントが張ってある場所は非常に目立つから見付けるのは簡単であった。


 地上にいたアンの仲間も私の接近に気が付いたようで、こちらを見ながら手を振っている。都に来たこともある彼らは当然カルのことを知っており、警戒する必要がないとわかっているのだ。


「イザームと…カルだったか。何しに来たんだい?」

「アンか」


 彼らのテントが集まる場所の近くに降り立った私達を出迎えたのは、青鱗海賊団団長のアンだった。トレードマークの三角帽はそのままに、昨日は着ていなかった深紅の軍服っぽいものを羽織っている。正に海賊のボスっぽい出で立ちだ。


 そんなアンは腕組みをしつつ、堂々と私達の目的を尋ねている。聞かれて困ることを考えていたわけでもないので、私は正直に語った。


「いや、何か用事があった訳ではないんだ。単純に君たちの様子を知りたかっただけでね」

「ふーん。意外と暇なんだね、王様?なら、あたし達の狩りに付き合うかい?」

「ほう、それは良い考えだ。是非とも同行させてくれ」

「…あんた、狩りって言っても海に出るんだよ?わかってんのかい?」


 海に出る。そう言われて私は言葉に詰まった。冷静に考えれば彼らは海賊だ。襲撃するのは商船だし、主に戦うのは海の魔物になる。それは海賊として当然と言えるだろう。


 ただ、私は水辺の魔物と戦った経験はあれど海の魔物と戦うのは初めてである。私は海を越えて他の大陸へ渡ったことが二回もある。しかし一度目は空間転移によるものだったし、二度目はシラツキを使っての空の旅だった。このゲームの海に浮かんだことは一度もないのだ。


 私は呼吸が必要ないので、海に潜ることは可能だ。しかし、カルは海でどういう動きを出来るのか不明である。だからついていくとしても海中に落ちないようにしなければならない。


「構わんよ。私は呼吸が必要ないし、カルは空を飛べる。油断さえしなければ問題はない」

「そうかい?じゃあ着いてきな。行くよ、野郎共!」

「「「へい、姐さん!」」」


 アンの掛け声一つでその場にいた海賊達は素早く行動を開始した。彼らは躊躇うことなく海中に飛び込み、海面には断続的に水飛沫が舞っていた。


 海に飛び込んだ海賊達だったが、彼らはすぐに浮かび上がってくる。ただし、彼らは一人ではない。全員が背中に鞍を装着した鯱に騎乗しているのだ。


 これが青鱗海賊団の真骨頂である。団長であるアンの職業(ジョブ)は意外なことにセイと同じ調教師系で、団員は彼女の力で従えた鯱の魔物に騎乗して移動するのだ。彼女達が船を持っていないのに海賊と名乗って活動出来るのは、偏にアンと彼女の従魔のお陰なのである。


 鯱に乗った海賊達はアンの指示を待っていた。既に全員が何時でも戦えるように片手で武器を持ち、もう片方の手で鯱の手綱を握っている。彼らの様子を見た私はまるで暴走族のようだと失礼なことを考えたが、口には出さなかった。


 アン達は理路整然とした隊列を組んで海上を移動し始める。先頭は勿論アンであり、彼女が駆る鯱は他の個体よりも一回り大きかった。しかも全身が金属のような光沢を放っており、眉間から鼻先にかけての部分が特に大きく発達している。


 アン曰く他の団員が乗っているのは大鯱(ラージオルカ)という普通の動物らしい。彼女の言う通り、そのアイコンの色も動物のそれだ。しかし、彼女の乗騎だけはそれが進化した衝角鯱(ラムオルカ)という魔物である。


 この衝角鯱(ラムオルカ)は全ての面で大鯱(ラージオルカ)よりも優れているが、特に遊泳速度と防御力が飛び抜けて強化されているらしい。そして最大の特徴である頭部は見た目通りとても頑丈で、全力で突撃すれば普通の船ならば船底に穴を開けられる。正しく『衝角(ラム)』という名前に相応しい魔物だ。


 団長であり鯱達の主人でもある彼女が最も強い鯱に乗るのは当然だろう。それにアンは戦士としての力量も一流なので、敵船に開けた穴から内部に侵入して白兵戦に持ち込むこともあるそうだ。実際に何隻もの軍艦を突撃によって沈没させたと自慢していた。彼女達の武具はその時に軍船から略奪したものだ。妙に良い装備とアンの軍服の出所はNPCの軍艦だったのだ。


 現時点では魔物となった鯱は一頭だけだが、海賊団と共に戦っていれば魔物化する個体も増えていくと予想される。しかもこれだけ数がいれば様々な魔物へと進化する気がする。時間が経てば経つほど『青鱗海賊団』は強力になっていくことだろう。


「よーし、沖に出たね!あたし達から逃げる雑魚しかいないヌルい海はここまでだ!気ぃ抜くんじゃないよ!」

「「「へい、姐さん!」」」


 どこの海も陸地に近い場所には強化な魔物はほとんど出現しない。その理由は単純で、魔物は強くなれば強くなるほど身体が大きくなってしまうからだ。


 浅い場所で大きな身体は動かしにくく、捕食する獲物も小さなものばかりで狩り場として旨味が少ない。よって結局は強い個体であればあるほど沖の深い場所を好むのである。


 ただ、海の魔物はレベル以上の強さを誇る。それは通常のプレイヤーにとっては非常に不利な海中での戦いを強いられるからだ。まあ、海中でも戦えるアン達にとってはレベル相応の強さでしかないようだが。


「今更だが、空にいる我々を狙う魔物はいるのか?」

「いるよ。鳥を狙う奴は結構多いのさ。ほら、あれを見な」


 私はカルに低空を飛んでもらってアンに近付き、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。アンは切っ先を右前方に向けると、そこにいたのは海上を飛ぶ鳥の群れ()襲われている光景であった。


 どうやらトビウオっぽい形状の魚が矢のような速度で海中から飛び出して噛み付いているのである。しかもどうやら刃を思わせる鰭によって海鳥の翼を傷付け、逃げられないように撃墜しているようだ。普通、海鳥が魚を食べるものなのだが…ここでは魚の方が食物連鎖の上位にいるというだけのことである。


「あんな感じでそっちのカルくらい大きい相手を狙う奴もいないことはないね。そう言うのはもっと大物だけど」

「いないこともないのか…」

「わかったらある程度の高度は保っておくんだね。海面に近いと不意打ちを受けやすいよ」

「ああ。そうさせてもらおう」


 海とは思っていた以上に危険な場所だったらしい。私はアンの助言に従ってもう少し高い位置まで高度を上げた。海の魔物が真っ先に襲うのはカルなのだから慎重になるのも当然だろう。


 しばらく海面を眺めつつ飛んでいると、海中にいる何か大きな影がアン達に向かって行くのが目に入った。影はかなり大きく、そして数も多い。正体はわからないが、何かの群れが迫っているようだ。


「アン!」

「ああ、何かいるね!野郎共、敵襲だよ!」

「「「おおおおおっ!」」」


 アンを含めた海賊達は、懐から一本のポーションを取り出して一気に呷った。これは水中呼吸が可能になるポーションで、どこの海にでも生えている海藻を加工すれば簡単に作製できるものだ。


 海に関わる者達にとってこのポーションは必需品である。海賊団にもこのポーションのために【錬金術】を使える者はそれなりにいて、潤沢に用意してあった。それを飲んだ彼らは海中に潜ると、前方の群れへと突撃していく。


 海の透明度はそれなりに高いが、上空から彼らの戦いぶりをハッキリと見ることが出来るほどではないのが歯痒い!ただ、海賊団が魔物の群れを囲んでいるのはわかる。間違いなく彼らの方が優勢…おや?


「うおおっ!?こっちに来た!?」

「グオオオオオッ!」


 油断していた私を罰するかの如く、アン達が包囲殲滅しつつある魚の内の一尾が水中から飛び出してきた!私は驚いて反応出来なかったが、カルは動じずにその尻尾を思い切り叩き付ける。すると巨大な魚は一撃で真っ二つになっていた。


 両断されて落下した魚が海面に着水したのとほぼ同時に、海賊達が歓声を上げながら浮上してきた。どうやらもう片付けたらしい。私は自分が全く役に立っていなかったことに落胆ていたが、それをおくびにも出さずに同行し続けるのだった。

 次回は12月3日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ポンコツイザームww 咄嗟のアドリブに弱いんだよなぁ。
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