地獄穴の戦い 援軍
「だああああっ!まだ来るのか!?」
倒したと思ったら再び降ってくる象の獄獣。もう数えるのも億劫になるほど繰り返された敵の追加に、私は思わず声を荒げてしまう。それは誰でも同じらしく、エイジと兎路も戦い方が荒くなっているような気がした。
私は叫びながら鎌を振り回す。そして尻尾を伸ばして獄獣の背後から柔らかい胴体に突き刺し、捻ってから大きく振り抜く。防御力の低い胴体は、私の弱々しい物理攻撃でも有効打を与えることが出来た。
今、私は指揮を執りながら前線で戦っている。それは偏に手数が足りないからだ。倒した象の獄獣は、我々のいる丘の上だけでも二十近い。その間、徐々にではあるがこちらの戦力は削られている。にもかかわらず、象の獄獣が投下されるペースは落ちる兆しが見えない。その結果、魔術師である私が一匹を引き付けながら指揮しなければならない状況に陥っていたのだ。
「巴魔陣起動、石壁!今まで戦っていた不死部隊は一度後退!控えの部隊が前に出ろ!」
当たれば恐らく即死するであろう象の鼻を魔術で防御しつつ魔導人形と不死を指揮するのは骨が折れるが、他の仲間達も精一杯戦っている。ウールはずっと全体を強化する歌を歌い続けているし、エイジと兎路に至っては二人で四匹相手に奮戦していた。
特に二人は一度目の増援があってからこれまでの間、ずっと戦い続けている。それも速度のみを追及した、損耗を無視した強引な方法で。つまり、炎を纏った剣で胴体を斬って爆発させているのだ。
確かにその方が早いのだが、爆発する度にエイジはギャグ漫画ばりに空を飛んでいるし、幾度か兎路も煽りを食らってダメージを受けている。二人とも傷だらけで煤まみれと満身創痍だ。潤沢に用意したポーション類がなかったらどうなっていたことか…想像もしたくない。
「ええい、鬱陶しい!短距離転移!」
飛行しながら鎌を振るう私に向かって、象の獄獣は体液を噴射する。水圧だけでも死にそうな私は【時空魔術】によって背後に回り込むと、炎槍の札を三枚使って胴体に火を着けてから今度は短距離転移の札によって上空へ離脱した。
私の眼下では象の獄獣が爆発していた。炎を上手に使えばこのように倒せるのだが、爆発に巻き込まれると大惨事になるので考えなしに火を漬かって倒すことは憚られる。今回は爆発範囲に味方がいないとわかっていたからこそ使ったのだ。
「これで一匹…ちっ!まだ投げているのか!デカイのを倒さない限り、無尽蔵だとでも言うのか?」
巨大な象の獄獣は、未だに全方位へ追加の敵を投げ続けている。もしもあれを倒さないとダメだと言うのなら、ジゴロウ達に増援を送らなければならない。だが、こちらも手一杯だ。余剰戦力などどこにもない。
このままではジリジリと追い込まれ、敗北してしまうのは必至である。ここまで来て敗北など、認められるものか!何か対応策を考えなければ…
「どうすれば…ん?アイリスからのメッセージ…ふふふ…ははははははは!」
「…どーしたのー?」
急に笑い始めた私を、ウールは不審者を見る目を向ける。だが、その視線が気にならないほどに私は歓喜していたのだ。ここまで戦った苦労が無駄にならなかったのだと知ったからである。
「喜べ、ウール!援軍が間に合ったぞ!」
「「「「「うおおおおおおおおっ!」」」」」
私が興奮気味に叫んだ時、海の方から鬨の声が上がった。そこには縦穴の近くにある海岸から続々と飛び出して来る、数十人のプレイヤーの姿があった。
彼らは何者なのか、そしてプレイヤーであるとどうして知っているのか。その答えは以前にコンラートから受け取ったメッセージにある。彼はその財力によって大陸間航行が可能な大型船を造り上げた後、私が渡したマップ情報を利用してこのティンブリカ大陸へと出航したと聞いていたのだ。
ついさっきアイリスから届いたメッセージは、海上に船舶らしき影をシラツキが捉えたという報告だったのだ。コンラート達はまるで狙っていたかのようなタイミングで来てくれたらしい。こちらとしてはありがたい限りだ。
海岸から現れた者達は武装が統一されているようで、全員が片手剣を持っているのが見える。そして巨大な象の獄獣に向かって全員で突撃していく。おいおい、そんな無策で突っ込んで良い相手じゃ…
「「「「ぎゃあああああああ!?」」」」
思った通り、愚直に突撃した彼らは目の前にある何本もの象の鼻に殴り飛ばされてしまう。至近距離で爆風を受けたエイジのように空中を弧を描いて飛んでいき、海面に叩き落とされて水飛沫を上げていた。援軍が一瞬で海に戻されたが、大丈夫なのか!?
「勝手に突っ込みやがって!この馬鹿野郎共!根性を見せな!このくらいでへばってたんじゃあ、青鱗海賊団の名折れってモンだよ!」
「「「へい!姐さん!」」」
私が不安に思っていると、ハスキーな女性の怒鳴り声が木霊する。声の主は三角帽をずらして被った大柄な女性で、彼女も他の者達と同じ片手剣を両手に一本ずつ持っている。
くすんだ赤髪を潮風に揺らし、健康的に日焼けした褐色の肌が印象的だ。シルエットから鑑みるに人間だと思われるが、何分遠いので詳しくはわからない。何れにせよ、後で感謝の意を示さねばなるまい。
姐さんと呼ばれる彼女が叱咤すると、海に落ちたプレイヤー達は再び地上に上がって勇敢に戦い始めた。彼女が指揮を執り始めると、つい一分ほど前までは統率がとれていなかったのが嘘のように連携した戦いぶりを見せ始めた。
「一番隊は鉤縄を投げな!二番隊、突撃!」
「「へい!姐さん!」」
片手に剣を持つプレイヤー達だが、もう片方の手には爪がついている鉤縄を握っている。彼らの半数が鉤縄によって象の頭部を雁字搦めにすると、残りの半数が剣を振りかざして再度突撃した。縛られたことで自慢の鼻も上手く動かせないのか、象の頭部は鈍く輝く白刃によって滅多斬りにされている。
剣と鉤縄が彼らの標準装備なのか。先ほど海賊団と名乗っていたし、海賊には鉤縄で敵船に乗り込むイメージは私にもある。ただ、それは乗り込むための道具であって武器ではないと思うのだが…彼らは武器として使いこなしているのだから問題ないか。
魔術師の巨人の獄獣は巨大な象の獄獣に向かって吼え、背後にいる援軍の彼らにも象の獄獣を放り投げるように命令する。すると従順な獄獣は命令通りに行動するが、これが致命的な隙となった。
「ウハハハハァ!何処向いてンだァ!?」
「援護するぞ、ジゴロウよ」
背後に気を取られた一瞬の隙をジゴロウと源十郎は見逃さない。ジゴロウは象の頭部を足蹴にして凄まじい勢いで駆け登り、源十郎はその邪魔をしそうな頭部目掛けて斬撃を飛ばした。
ジゴロウが一気に頭頂まで登りきると、魔術師の巨人の獄獣に殴りかかった。すぐさま反応して杖でジゴロウの拳を迎え撃ったようだが、懐に飛び込まれた時点で魔術師としては致命的である。防御系の魔術に手一杯になっていた。
そうなると燃える体液を撒き散らしたところで着火する者がいなくなったことを意味する。体液が燃え尽きて火が弱まり、源十郎も接近することが可能となった。
すると源十郎はこれまで散々焦らされた鬱憤を晴らさんとばかりに鬼気迫る勢いで斬りかかる。何本もの象の長い鼻が斬り飛ばされ、無数の頭部が両断されて宙を舞った。
ジゴロウと源十郎、増援の海賊団とシラツキ達空中部隊の射撃。これに曝された獄獣達は先ほどまでの我々のように追い詰められていく。それがわかったのかジゴロウとの間に魔力盾と思しき障壁を作ると、魔術師の巨人の獄獣は忌々しげに顔を歪めながらこれまでで最も大きな咆哮を上げた。
「ゴルオオオオオオオオオオッ!!!」
「バボオオオオオオオオオオッ!!!」
それに応えて象の獄獣も大声で鳴くと、巨人の獄獣の下半身が溶けるようにして象の獄獣に吸い込まれていくではないか。同時に象の獄獣の表面がバキバキと音を鳴らしながら硬質な鱗に包まれていく。
変化はこれだけに止まらない。胴体にあった小さな象の頭部も鱗に包まれ、ブヨブヨとしていた胴体が人型になって立ち上がったのだ。その結果、巨人の獄獣の上半身が生えている鱗に包まれた象の頭部をもつブヨブヨとした人型の身体をもつ怪物へと変貌したのである。
これに似た状態を私は見たことがある。それはセイが彼の従魔と融合して強力な一個の戦士となる奥義だ。巨人の獄獣が象の獄獣を使役していることからも、セイと同じ奥義を使えてもおかしくないだろう。
「「ガブゴボォォォォォォ!!!」」
巨人と象の獄獣の鳴き声が混ざり合った不協和音が戦場全体に木霊する。セイの例から考えて、二種類の獄獣が使えた技術を両方とも使えると考えて遜色ないだろう。
敵が強くなったのは確かだが、奥の手を切ったということはこれをどうにかすれば我々は勝利するだろう。増援によって落ちかけた全体の士気も上がっているし、ここが踏ん張り所だ!
海賊と言われて真っ先に思い浮かべるイメージで一番メジャーなのはカリブ海の海賊だと個人的には思っています。エドワード・ティーチとかヘンリー・エイヴリーとか。
今回登場した彼らもそっちをリスペクトした姿ですが、筆者はヴァイキングの方が好きだったりします。皆さんはどうでしょうか?
次回は11月9日に投稿予定です。




