探検準備
ついに五人で動き始めます。
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【錬金術】レベルが上昇しました。
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あのあと水分補給のために一度ログアウトしてからすぐに再ログイン。【錬金術】はレベルが上がったのだが、中々【光属性脆弱】の緩和が遠いな。【深淵の住人】によってダメージが減るのは嬉しいのだが、ダメージによる耐性への経験値も減っているのがネックだ。ランプに入れる魔石の量をもう少し増やさねば。
「おや、誰もいないのか」
どうやら私がログアウトしている間に皆外に行ってしまったようだな。では、何をしようか。【錬金術】を色々と試していたせいで魔力は半分強しかない。全回復するまでしばらく掛かるだろう。
うん、なら公式掲示板を巡回してみるか。ちょうどいい時間潰しになるしな。
まずは雑談スレから…うわぁ、ジゴロウと私の事ばっかり書かれてるじゃないか。何かのイベントのフラグ説が主流になってるな。ごめんなさい、私、プレイヤーなんです。
つ、次!見なかった事にしよう!うん、私は雑談スレ何ぞ見ていない。見ていないんだ。
お、これは攻略スレか。ボスの情報も載っているな。攻略組はオープンな者が多いのか。まあ、自分達が倒した後の情報だから別に構わないということなんだろう。何でも『初攻略者ボーナス』はどのボス戦にもあるようだからな。それを手にした後は公開してもいいのだろうな。
しかし、ボスは確実に良質なアイテムを得られる場所でもある。乱獲したい者がきっと出てくるし、隠しボスなんかがいた場合は情報を秘匿する者も現れるだろう。いつまでも参考になるとは思えんな。
因みに、現在攻略中と思われるファースから二つ離れたフィールドのボス情報は無い。普通の魔物の情報はあるんだがな。ええと何々?北は山を越えると湖が広がり、東は小さな村があるが平原は同じ、南も同じく草原で魔物が違うだけ。西は…洞窟?
どうやら、西は森が続いているようだな。その中に小さな岩山があって、その隙間が下に降りて行けそうな洞窟となっているらしい。
おや、これってチャンスでは?確か明日は初の公式イベント当日だ。闘技大会と生産物品評会が開催されるらしいが、その時に殆どのプレイヤーはファースに集まるはず。その間、二つ目のフィールドは空いているに違いない。
その中でも洞窟なら、【光属性脆弱】を持つ私も昼間も行動出来るハズ。皆が帰ってきたら提案してみるか。
次は…闘技大会優勝予想スレ、ね。一番人気は『勇者』ルーク?ああ、あの時の!あー、でも今は我々に負けたから評価が下がってるな。変なのも湧いてるし、掲示板全体が荒れてるな。
本当に申し訳ない。大会では本当の実力を見せつけてやって欲しい。ジゴロウは彼を褒めていたからな。彼が弱いのではなく、ジゴロウが強すぎるのが良く分かるだろうよ。
次に行こう。おお?人外スレだと?私とアイリスが接触したのとは違うのか。ふむふむ、なるほど。彼らは魔物ではなく、普通の動物なんだな。魔物という色モノ中の色モノは隔離されている、と。
FSWにおける魔物と獣あるいは動物の違いは、現実にいるかどうか、だ。そんな彼らは極一部の例外を除いて街中でのスタートになる。羨ましい限りだ。
あ、ジゴロウがプレイヤーだと見抜いている人がいるな。中々察しがいいようだ。しかし、何故魚を選んだんだ…?前スレをチェックして…ほほう、登龍門か!鯉になって滝を登ることで龍を目指すってことだな。私以上のチャレンジャーだぞ!
愉快な人はどこにでもいるものだ。次に行こう。お、『蒼月の試練』スレだな。善戦したが敗れたパーティーもいるが、勇者君のパーティーは攻略していたのか。危なかったな。初撃の奇襲で後衛全員と中衛のほとんどを始末していなければ、私はあっさり死んでいたかもしれん。
我々の実体験とここの情報を信じるなら、北はゴリゴリの武闘派である『月ノ猛虎』、東はトリッキーな『月ノ邪妖精』、南は武器を切り替えて戦う『月兎ノ影』、そして西は最終的に耐えるのがセオリーという邪道ボス『月ヘノ妄執』、ってとこか。
あ、種族レベルが15以外という条件があるのか!知らなかったぞ。あれ?なら、私達は進化してから挑戦すればもっと楽だったのでは…?や、止めよう!だれも幸せにならない思考だ。
それはともかく、私とジゴロウは一度攻略しているので試練を受ける事は出来ない。そうなるとまだ挑んでいない三人で行くことになるだろう。彼女らが挑むなら、どれがいいだろうか?
アイリスは動きこそ鈍重だが、硬い防御と変幻自在な触手で翻弄出来る。他の二人の戦い方はどんなものなのか。
源十郎は吐き出す糸で動きを止め、意外なほど強い顎で噛み付いたり体当たするのが主な戦い方だ。ルビーは能力によって徹底的に強化したスピードで一気に近付き、敵を取り込んで食い殺す恐ろしい捕食者である。
これが二人を連れてくる道中で私とジゴロウが見た二人である。二人とも、なんだか戦い慣れている感じがする。十分に戦力となるだろう。
しかし壁役兼中距離攻撃、中距離攻撃も可能な妨害役、そして遊撃役の三人か。バランスが取れている、とはお世辞にも言えないな。拘束に特化し過ぎていて、攻撃力に難がありそうだ。
そこを腕前でカバーするべきか、はたまた一度進化を挟むべきか…。まあ、なんとかなるさ。きっと挑戦する事にはなると思うし頑張ってもらおう。
後面白そうなのは…従魔スレ?ああ、【召喚術】じゃなくて【調教】で手懐けた魔物を自慢しあってるのか。ペット感覚、という感じかね?私はペットを飼ったことも飼いたいと思った事もないので共感は出来ないな。
あ、中には召喚獣を愛でてる人もいるのか。うーん、私の場合は不死ばかりだし特に愛着があるわけでもないから素で下僕扱いしかする気が起きないんだよな。従魔と違って代わりはいくらでもいるしな。
大体、私の切り札の一つは【死霊魔術】を利用した特攻である。この人達、私の戦い方を見たら怒り狂いそうだな。
こんなものかね。未だにこの下水道が見つかっていないのはラッキーだ。その間は我々は狩場を独占出来る訳だしな。
しかし、ずっとここにいる訳にも行かないだろう。いつかはここを発って新天地に居を構える事になるはず。出来れば立派な拠点を手に入れたいものだ。
「シュシュルル(ただいま戻りました)」
「プルプルー(ただいま)!」
お、帰ってきたみたいだな。声からしてアイリスとルビーの二人だな。楽しそうで何よりだ。
「おかえり。狩りはどうだった?」
「シュルシュー(順調です)!」
「プルルン(バッチリさ)!」
二人の話をまとめると、このコンビは相性がいいらしい。アイリスが触手で動きを止め、無防備な相手の顔面にルビーがくっついて窒息死させるのが鉄板だそうだ。これで劣鼠男なら余裕で、更に一匹でうろついていた鼠男も仕留めたのだとか。素晴らしい手際である。
こんな戦い方なので、【隠密】、【忍び足】、【奇襲】の不意討ち三点セットのレベルが幾つも上がったらしい。しかもアイリスは『捕獲名人』、ルビーは『暗殺者』という称号を得たそうだ。
本当に順調そうだな。もし私が加わるならどうすればいいだろうな。二人に【付与術】を掛けて強化しつつ敵に【呪術】を掛けて弱体化というのもいいし、普通に魔術で援護射撃をするのもいいだろう。ただ、ガンガン攻撃し過ぎると敵がこっちに集中するようなので、私が自重するのも重要か。
「グギャギャ(戻ったぞ)」
「カチカチ(ただいま)」
男達も帰ってきたようだ。雰囲気は悪くない。むしろジゴロウはどこかウキウキしているようにも感じる。一体、何があったのだろうか?
こちらも話を聞いてみると予想以上に源十郎が強かったようだ。彼は糸と顎しか攻撃手段が無いのに、糸を上手く利用して敵を梱包し、首を咬みきるというエグい方法で劣鼠男をどんどん処理していったそうな。さらに鼠男の単独撃破にも成功しており、私も持っている『下剋上』とジゴロウが持っている『残虐無道』を獲得したらしい。
ひょっとしてこの爺さん、ジゴロウと同じリアルチート勢なのでは…?いや、考えないようにしよう。
「ちょうどいい。皆で揃った事だし、提案したいことがある。パーティーチャットを開いてくれ」
◆◇◆◇◆◇
イザーム:というわけで、リアル時間での今日の夜にファースの西のボスを討伐し、明日の午前中に先にある洞窟に潜るという計画を提案したい。何か質問や反対意見があったら自由に言ってくれ。
ジゴロウ:あー迷うなぁ。
源十郎:そうじゃのぅ。
アイリス:え、どうしてですか?
ルビー:千載一遇のチャンスじゃないの?
イザーム:二人とも、私が見過ごしている点があったのなら教えて欲しい。
ジゴロウ:いや、イザームの案に文句がある訳じゃ無ぇんだ。そうじゃ無くてな…
源十郎:儂らは闘技大会を観戦したいのじゃよ。強者の戦いは観るだけでも参考になるからのぅ。
イザーム:なるほど。我々は会場に行けないから、せめてゲーム内でのライブ中継を見たいという訳ですか。
ジゴロウ:そういうことだな。
イザーム:うーん、私としては仲間の意思を尊重したい。じゃあ止めておきますか。無理強いしたって楽しくないですし。
ジゴロウ:悪ぃな。我が儘言っちまってよ。
源十郎:済まんな、イザーム君。
ルビー:あ、ちょっと待って!それって、録画じゃダメなの?
ジゴロウ:録画?
源十郎:出来るのか?
アイリス:あの、録画は最近のゲームだとデフォルトで可能なんです。FSWにもVR実況者も多いですし。
ルビー:だから全試合を後で観戦出来ると思うよ。
イザーム:知らなかった…。
ジゴロウ:そんな機能あったんだな。
源十郎:実況者、か。一時廃れたと思ったが、また流行っておるのか?
ルビー:男連中は情弱だね!
アイリス:る、ルビーちゃん…。
ジゴロウ:ぐっ、言い返せねぇ!
源十郎:ルビーよ、もう少し爺ちゃんを労ってくれんか?
イザーム:と、とにかく!録画でもいいならボス討伐と洞窟探検という方向でいいか、二人とも?
ジゴロウ:おう、いいぜ。
源十郎:まだ誰も踏破しておらん洞窟、か。心が踊るわい!
イザーム:じゃあ、全員賛成ということで話を進めよう。今はリアル時間で昼過ぎだから、時間的な余裕はある。私は出来る限り多く回復薬と毒薬を作ろう。そしてアイリス?
アイリス:はい、何ですか?
イザーム:君には全員の装備と野営用のテントの作成を頼みたい。私は日光を浴びると死んでしまうからね。一応の保険だ。
アイリス:わかりました!
イザーム:他の三人は西の森や下水道でアイテムを集めて来て欲しい。アイテム作成には材料が不可欠だからな。
ジゴロウ:任せろ。
源十郎:うむ。
ルビー:いっぱい取ってくるよ!
イザーム:ありがとう。では、解散!
◆◇◆◇◆◇
という訳で、私は手持ちの素材を使いきる勢いで【錬金術】の作業を開始する。今でも十分な量の回復薬はあると思われるが、備えあれば憂いなし。特に我々には回復系の術を使える者がいないからだ。
回復系の術は、神官系の職業に就かないと取得出来ない。我々は魔術師一名に、戦士が二名、斥候が一名に生産が一名と一人も神官がいない。
なので回復薬以外では自然治癒しか回復方法がないのである。故に回復薬の不足だけは決してあってはならないのだ。必死になって作るのもわかるだろう?
そして毒薬だが、これはアイリスと源十郎という捕縛が得意な者が二名いることとルビーという暗殺者の存在によって私の中での価値を大きく引き上げられた。アイリスならば捕獲しつつ別の触手によって毒薬を使えるだろうし、ルビーも顔面に張り付いた相手に飲ませたり出来るはず。状態異常が効かない相手には無意味だが、あって損はないだろう。
そう思いつつ、私はせっせと回復薬と毒薬を量産していく。しばらく無心で作業していたのだが、不意に肩を叩かれた。
「どうした、アイリス?」
「あ、あの!防具を作るので、サイズを測らせて下さい!」
おお、やっと防具製作にこぎ着けたようだな。武具を作れる能力があったとしても、最初は下準備となる金属の精製や皮の加工しか出来ないらしい。取り敢えず製作が出来るまでレベルを上げるのが当面の目標と言っていたが、もう可能になっていたようだ。
「わかった。ならローブは脱いだ方がいいね?」
「は、はい!お願いします!」
「装備を外して…っと、これでいいかい?」
「あわわわわ!」
アイリスはボロを纏っただけのほぼ裸である私を見て慌てている。あの、ちょっと黒いけど、私はただの骸骨だぞ?普通は照れるどころか怖がるか気味悪く思う所だろうに。やはり、少し変わっているのだな。
「じゃ、じゃあ測りますね!動かないで下さい!」
「ああ、頼むよ」
アイリスはメジャー、ではなく自前の触手で私のサイズを測っていく。触手にそんな使い方があったとは…創意工夫は大事だとつくづく思わされるな。
「ふぅ、終わりました。それで、イザームはどんな防具がいいですか?」
「うーん、そうだなぁ…」
私は基本的に後衛だ。だったら攻撃を食らうことの方が稀、と言うか食らう状況に陥った時点で敗北は免れないだろう。だったら防御力よりは少しでも動きを妨げない事と出来れば光属性からの耐性や魔術の効果に補正が掛かる装備の方がいいな。
私が要望を伝えると、少し考えた後でアイリスは頷いた。
「光属性の耐性は現状無理ですけど、魔術の効果に関してはほんの少しなら効果を持たせる事が可能だと思います。やってみますね」
「ありがとう。楽しみにしているよ」
身近に生産を一手に引き受けてくれる仲間がいるのは有難い。これでようやっとローブの下にマトモな装備を着る事が出来るようになるというものだ。彼女は恩を返すと言っていたが、むしろこれからはこっちが世話になりっぱなしになりそうだ。何らかのお礼を考えておかねばなるまいよ。
最初の探検は洞窟。主人公が光に弱いのが元凶ですね。
あと、感想でアドバイスを受けて主人公のステータスは章の終わりにのみ載せることにします。後書きをとても圧迫していましたからね。
手記の同時投稿は小鬼です!あと、手記の連続投稿は今回までとさせていただきます。




