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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第一章 不遇なる魔物達
2/688

降り立ったのは、地下でした

 私が目を醒ますと、そこは薄暗い通路だった。って言うか…


「臭ッ!?」


 思わず叫んでしまうほど、臭い!ここはそれなりに狭い通路だったらしく、私の叫び声が反響していた。


 それはともかく、此処はどこだ?もしかしてここは下水道なのか!?…マップで確認しました。ここはファースの街(下水道)となっております。嫌がらせ?嫌がらせですよね!?


「失礼なことはしていなかったハズなんだがなぁ…」


 自分の気付かない所で無礼を働いていたのだろうか。その結果がこれだ、と言うのなら甘んじて受け入れる他あるまい。


 疑似異世界型のVRゲームでは、NPCの機嫌次第で驚くほどに理不尽な目に会うのはゲームに疎い私でも知っている常識だ。ただ、好みにドストライクなNPCに嫌われたのは結構ショックだったりする。


「…ここでウジウジしても意味はない。先に進む…か?」


 いや、待て。別れ際にイーファ様は何と仰った?アレは何かの呪文ないし合言葉だったのでは?気になるな。


「ええと、『足も…ッ!?」


 うおおッ!?背中に何かぶつかったぞ!?


「お前か…!」


 私が背後を振り返ると、そこにはネズミが…そう、二足歩行で立つネズミがいたのだ。ただし、夢の国のネズミのように可愛らしくデフォルメされている訳ではない。ガリガリの小男の頭部を巨大なドブネズミのソレとすげ替えたような醜悪な容姿だ。その頭部には魔物を表す黒いアイコンと体力バー、そしていくらかの情報が書かれていた。


――――――――――


種族(レイス)小鼠男(レッサーラットマン) Lv5

職業(ジョブ):なし

能力(スキル):【???】

   【???】


――――――――――



 ほほぅ?小鼠男(レッサーラットマン)とな?それに【???】というのは…なるほど、【鑑定】のレベル不足か。


 種族(レイス)では負けてるけど、能力(スキル)の数では圧倒してるし職業(ジョブ)に至っては無いのか。総合力では互角、だと思いたいな。


「ヂューー!」


 どうやら相手は悠長に戦力差を確認させてくれないみたいだ。小鼠男(レッサーラットマン)は獣みたいに飛び掛かって鋭い前歯でもって噛みついてくる。思っていたよりも素早いな!


「うおおっ!」

「ヂュヂュ!?」


 躱すのは不可能だと諦めた私は、一か八か、手に握っていた初期装備の杖を振って迎撃する。小鼠男(レッサーラットマン)は反撃を想定していなかったのか、私のバットの素振りのような大振りの一撃を顔面に喰らってくれた。


 すると黒いアイコンの上に二つの小さな星が回って円を描くエフェクトがついている。何事かと思ってエフェクトを【鑑定】すると、『状態異常:気絶(8)』と表示され…ん?数字が減った?とするとこれは気絶の残り時間か。急げ!


「ふん!せい!おりゃあ!」

「ヂュッ、ヂュ、ヂィ…」



――――――――――


戦闘に勝利しました。

種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

【杖】レベルが上昇しました。

【鑑定】レベルが上昇しました。


――――――――――



「勝った、けどなぁ…」


 流れる戦闘ログを聞き流しながら、私は項垂れる。格上相手に勝利したのに、レベルも上がって新しい能力(スキル)を取るためのSPも手に入れたのに喜んでいないのは何故かって?それはログを見れば解るんじゃないかな?


 そうだよ!魔術、使ってないんだよ!気絶した小鼠男(レッサーラットマン)の頭を杖でひたすら殴って気絶状態を維持して倒したのだ。うう、魔術を使えない魔術師なんて味噌のない味噌汁みたいなもんじゃないか…。


「文句を言っても仕方がないか。よし、剥ぎ取ろう」


 半分諦めの境地に至った私は初期装備の一つである剥ぎ取りナイフを小鼠男(レッサーラットマン)の死体に突き立てる。すると小鼠男(レッサーラットマン)の死体は白い粒子となり、私のストレージに二つのアイテムが追加されていた。


――――――――――


鼠の皮 品質:劣 レア度:C

鼠の前歯 品質:劣 レア度:C


――――――――――


 これだけではどの程度アイテムなのか解らないだろう。ここで公式情報を調べてみよう。それによると品質は『神>優>良>可>劣>屑』の、レア度は『G(神級)L(伝説級)T(秘宝級)S(特別級)R(希少級)C(普通級)』の六段階らしい。


 こ、これはひどい…!使途不明かつ二束三文にもならないゴミじゃないか!苦労に対して割に合わないぞ?


 いや、落ち着け、私。先ずはイーファ様のお告げを試してみるのが先決だ。これで何か有用なものがあれば気に入られた証拠、何もなければ私は弄ばれただけ、そしてヤバい何かがいたなら嫌われたと思うべきだ。よし!


「『足元注意』!」


 私は祈るような気持ちで女神から託されたキーワードを唱える。さあ鬼が出るか蛇が出るか…!


ゴゴゴ…


 お?おおお!凄いぞ!石同士が擦れるような音がしたかと思えば、下水道の壁が動いて隠し扉が現れたではないか!秘密基地っぽい仕掛けに年甲斐もなく興奮を抑えられない!


 この向こうに何があるのかは全く解らない。現実でこんなあからさまに怪しい扉があったら見なかったフリをして逃げただろう。だが、ここはゲームの世界。冒険しなければ損だ。


「いざ行かん!虎穴に入らずんば虎児を得ずよ!」


 私は己を鼓舞しつつ扉のノブを握る。すると、頭の中にポーンと音がするではないか。これはレベルアップなどのインフォメーションが届いた合図だったな。



――――――――――


イザームは隠しエリア『異端魔導師の研究室』を発見した。

発見報酬として100SPが授与されます。

【考古学】レベルが上昇しました。


――――――――――


 隠しエリア、それも『異端魔導師の研究室』と来たか。そして【考古学】のレベルも上昇、と。しかも100SPだと?現在取得可能な能力(スキル)を全て取っても有り余るじゃないか。都合がいい。実に都合がいい。


 だが、都合が良すぎるのではないだろうか。これ程のお膳立てをされて、多少ひねくれている私は純粋な好意だと受けとる事は出来ない。それにこのSPにも意味がありそうだ。どう考えてもイーファ様には何か目的があったとしか思えないぞ。


「…乗って差し上げようじゃないか」


 何を考えているのかは解らないが、私の目指すロールプレイに役立つのならそれでいい。掌で踊るのも悪くない。むしろイーファ様が困惑するくらい派手に踊ってやろう。


 私は意を決して扉を開ける。するとそこは正しく怪しい魔術師の研究室と言うべき場所であった。剥き出しの土壁をくり貫いて設置された本棚には研究レポートらしきものがぎっしりと詰まっており、部屋の隅には錬金術や実験に使うのだろう大釜やフラスコなどが理路整然と並んでいる。


 実験器具や本棚に積もった埃から、ここに人の手が入らなくなって相当時間が経っていると思われる。正確な年月などは全く解らないが。


 それよりも気になるのは、下水道に続くのとは別の扉があることだ。あの奥には一体何があるのだろうか。行ってみるしかあるまい。


コンコンコン


 私は念のために扉をノックしてみる。それなら研究室に入る前にやれと自分でも思ったが、先程は失念していたのだ。


 ノックしてから一分経過したが、反応は無い。ならば恐らくは無人なのだろう。私は奥の扉を開いた。


「ここは…私室か」


 どうやらこちらは前の持ち主のプライベートスペースであったらしい。埃の積もり具合から見て、実験室と同じ位の年月放置されたと思われる。ここにいたのは一体どんな御仁だったのか。


 そんな事を考えながら、私は私室の机や椅子に触れる。うん、十分使えそうだな。出来れば此処を拠点にしたいものだ。このベッドも固いがこの骨しかない身体ならば関係な…


――――――――――


隠しエリア『異端魔導師の研究室』をリスポーン地点に設定しますか?

YES/NO


――――――――――


 ほほう、このベッドに触れる事がリスポーン地点として登録出来る条件だったようだな。これは迷わずYESだ。


 さて、拠点も出来た事だし、これからどうするかだが…前の持ち主の研究をまるっと吸収する以外に選択肢はあるまい。私の目標である恐ろしい骸骨魔術師が使いそうな魔術がきっとあるだろう。


 そうと決まれば早速家捜しの時間だ。旧時代のRPGの勇者よろしく、家中のあらゆるものを調べて見せようじゃないか!



◆◇◆◇◆◇



――――――――――


【鑑定】レベルが上昇しました。

【言語学】レベルが上昇しました。

【考古学】レベルが上昇しました。


――――――――――


 結論から言おう!現状でこの叡智の結晶を我が物とするのは無理だ。いや、元々私の趣味は読書だから苦痛ではないんだ。むしろ割りと初期の実験結果なんかは失敗だらけで悪戦苦闘しているのが面白い。


 ただ、基礎の本が一切無いっぽいのだ。本棚にあるのは全て怪しげな研究レポートか専門書で、今の私のレベルでは失敗する所か実験に着手することすら不可能だろう。さらに思った以上に量があって、【言語学】と【考古学】のレベルが爆上がりするくらいに難解かつ古めかしい言い回しだらけという鬼畜仕様。しかも、一部の本に至っては【言語学】があるのに題名すら読めないものがある。どうにもならんわ!


「気分を変える、か」


 私は実験室から私室に移る。そしてベッドに横たわった。固いベッドの上でゴロゴロしていると、私室の机の引き出しをまだ調べていない事に気がついた。


 思い立ったら吉日、という感じで早速引き出しをオープン。するとそこには現金が入った巾着と一冊の本があった。金は今のところ使う機会が無いので放置するが、問題は本の方である。これもレポートなのだろうか?


「これは、日記か」


 私の予想とは異なり、これは前の持ち主の日記帳だったらしい。私だったら日記を他人に読まれるなど死んでもゴメンだが、慈悲は無い。読ませて頂こう。


「……ん?これは…」


 日記の内容は研究についての事ばかりであった。恥ずかしいポエムや妄想などは書かれておらず、その日の実験は上手く行っただとか失敗の原因が解らないだとか明日はこうしようとか言った感じだ。その中に気になる箇所を発見したのだ。


――――――――――


◯月×日

 今日は買い出しのため、久々に地上へ出た。その帰りに普段とは違うルートを通った所、面白い事に気がついた。どうやら私の研究室から南に二ブロック、西に三ブロック進んだ位置にある梯子を上ると図書館に繋がっているようなのだ。試しに行ってみると警備はザルな上に夜中だったので、簡単に侵入出来た。まあ、こんな辺境の図書館に私を満足させる書物があるとは思えない。もう二度と使う事はないだろう。


――――――――――


 著者からすれば他愛ない情報なのだろう。しかし、私にとっては何よりの朗報である。これは侵入せざるをえまい。


「ええと、今は…夕方の六時か。なら、一度ログアウトして戻ってくれば丁度休憩にもなるか」


 昨今のVR機器では思考加速機能が普通に搭載されている。このゲームでは現実の四倍で時間が進んでいるのだ。即ち、現実での一時間はここでの四時間なのである。


 一時間半の休憩で水分補給とトイレを済ませてから戻ってこよう。何、明日は休日だ。じっくり楽しめば良い。

――――――――――


名前(ネーム):イザーム

種族(レイス)動く骸骨(スケルトン) Lv1 up!

職業(ジョブ):見習い魔術師 Lv1 up!

能力(スキル):残りSP 102

   【杖】Lv1 up!

   【闇魔術】 Lv0

   【考古学】 Lv5 up!

   【言語学】 Lv3 up!

   【錬金術】 Lv0

   【鑑定】 Lv3 up!

   【暗視】 Lv-

   【状態異常無効】 Lv-

   【光属性脆弱】 Lv10

   【打撃脆弱】 Lv10


――――――――――

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【誤字報告】  私が目を醒ますと、そこは薄暗い通路だった。って言うか… ⇩  私が目を醒ますと、そこは薄暗い通路だった。っていうか… 「いざ行かん!虎穴に入らずんば虎児を得ずよ!」 ⇩ 「いざ行かん…
[気になる点] スケルトンの嗅覚…
[気になる点] スケルトンに嗅覚はあるの?臭っ!て叫んでるけど
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